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34話

とうとうダンスパーティーの日の前日になってしまった。

このまま当日までサミュエルと話せなかったらどうしよう。当日になって、『今回はシャーロット様と踊ることにした』とでも言われてしまったらと思うと、どんどん明日が憂鬱になってくる。


……いつまでもくよくよしてちゃいけない。

今日は、今日こそは、あの人が一緒にいてもめげずに話しかけるんだ!

自分を奮い立たせて、彼が居そうな場所に足を運んだ。


・・・


案の定と言うかなんというか、人混みの中、彼の近くに例の交換留学生のシャーロットさんがいて尻込みしてしまう。

ここから見ているだけで分かる。サミュエルのことが好きなのだと。

だけど、今日こそは私だってサミュエルと話すんだ。


なんとか勇気を振り絞って近づいた時、私は目撃してしまった。

シャーロットが、サミュエルに恋人のように腕を絡ませるその瞬間を。


それを見た私は……いつの間にか走り出していた。

彼の、サミュエルの元へ。


「クレア!?」


驚く彼の傍まで近づいて、なりふり構わず勢いよく彼の腕にしがみつく。

サミュエルを好きになるのは分かる。元々そんなに性格も容姿も悪くなかったが、付き合い始めてから余計に磨きをかけてカッコよくなったし。でも、どうしても譲りたくなかった。この人だけは譲れなかった。


「サミュエルの恋人は私だから!!だから、あなたには絶対に渡しませんっ!!」


つい気持ちが先走って、辺りに響くような大きな声でそう言い放つ。

やってしまったと気づいた時にはもう遅かった。


周りはしーんとしていて、羞恥心が後からじわじわと襲いかかってくる。何事だと私を見る周りの視線が痛い。いたたまれない。部屋に引きこもりたい。逃げ出したい。

考えずに行動してしまった自分が恥ずかしくて、思わず俯く。


「クレア……」


彼の声だけがやけにクリアに聞こえた。

彼は今、どんな顔をしてるんだろう。どうしよう、同情してるみたいな表情だったら。こんなのが恋人で恥ずかしいと思われてたら。そしたら余計に気まずい。


だが、もう言ってしまったことはどうにもできない。ええいままよと思いながら、私は恐る恐る顔を上げた。


彼は、私が予想していたような表情はしていなかった。

彼の頬は紅潮して、初めて流れ星を見た子供みたく瞳をきらきらさせている。驚いているような、照れくさいながらも喜んでいるような。そんな表情をしていた。


●○●○


「サミュエルの恋人は私だから!!だから、あなたには絶対に渡しませんっ!!」


交換留学生の彼女に縁談の話をもちかけられて困っていた時、オレの傍まで駆け寄ってきたクレアはそう高らかに宣言した。

彼女の家のことを考えれば、公爵家のご令嬢相手にそんな言い方をするのは反感を買ったりして被害を被るのもおかしくない。本来ならたしなめたり、交換留学生の彼女をフォローしないといけないのは分かってる。


だけど、ああ…どうしようもなく嬉しい。


ヤキモチを妬いてくれたのか?今までそんなのはオレばっかりで、クレアはめったにヤキモチなんて妬かなかったのに。

クレアがオレに執着してくれている。オレを求めてくれている。

胸が歓喜で震える。頬が緩んで締まりのない顔をしそうになるのを、なんとか必死にこらえた。

こう、面と向かって言われるとは思ってなかったから、嬉しさがキャパオーバーしてどうにかなってしまいそうだ。


「ええと……?」


「わっ…私!サミュエルの恋人のクレア・チャロアイトと申します!」


「え、あ…そ、そうですのね……?」


交換留学生のシャーロットは完全に面食らった様子で、この状況がのみこめなくて困惑していた。

そうだ、浸ってる場合じゃない。

できたら1人で解決しようと思っていたが、クレアが名乗りを上げた以上、巻き込ませて貰おう。もし彼女に被害があろうと、オレが全て跳ね返してしまえばいい。


「…ご覧の通り、私には愛おしい恋人がいるのです。申し訳ありませんが…こういうわけですので、例の話はなかったことにさせてください」


●○●○


「…ご覧の通り、私には愛おしい恋人がいるのです。申し訳ありませんが…こういうわけですので、例の話はなかったことにさせてください」


サミュエルは私の腰に手を回して、身体を優しく引き寄せた。


愛おしい、恋人。

そう紹介されて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが押し寄せてくる。

貴族じゃない私が、彼の恋人でいてもいいのだと言われた気がして、苦しかった心がすっと楽になっていく。


「婚約者ではなく、恋人……」


「そう………私の運命の人じゃ、なかったのね」


聞き逃してしまいそうな呟きが、私の耳に届いた。


「…それは失礼しましたわ。それではお二方、ごきげんよう」


彼女は恭しくドレスの裾を上げ別れの挨拶をして、ゆっくりな足取りでその場を去っていった。

…多分、悪い人ではなかったんだろう。

でも見る目はあるから、きっといつか彼女も出会えるはずだ。彼女だけの王子様(運命の人)に。

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