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32話

1ヶ月後にある、次の学年に上がる前のイベント、学年ダンスパーティー。ちなみに全員参加である。

本来ならヒロインと攻略キャラたちの会話を通して、彼らがとのくらい進展しているかの途中経過を知るような役割のイベントだが、ここは現実。前世の私ならこのようなリア充イベントなんて全く縁のないものだったけれど、今世ではこの学園の生徒である私も例外ではない。

ドレスの準備とかし始めてる生徒もいるらしいし、私もした方がいいのかな。


「サミュエル様からお誘いがくるんじゃない?」


ミアがうきうきした様子で話す。彼女は以前サミュエルと私がお付き合いしたことを知って、自分の事のように祝ってくれたのだ。いい友達を持って私は幸せ者だなあ……。


「ダンスのお誘い、か……」


原作である『チュプリ』では確か、ダンスパーティーの当日に、好感度のいちばん高いキャラがダンスのお誘いにくるシステムだった。

この世界のミアは恐らくレオがダンスに誘うのだろう。推し同士のダンスが見れるとかやばいな。課金させてくれ。


……若干話は逸れたが、この学園行事では婚約者や恋人同士で踊る生徒も少なくない。

つまり、余程のことがない限りはサミュエルと踊れるというわけで。彼と一緒に踊れたら、きっと楽しいだろう。だけど……。


「ダンス、そんなに得意じゃないんだけど…大丈夫かな……」


「練習すれば大丈夫!私も得意じゃないし、一緒に勉強しましょ?」


「そうだね。ミアがいれば心強いや」


きっと、ダンスパーティーも何とかなるよね!

その時の私は、まだそんなふうに楽観的に考えていたのだった。


・・・


「少しの間ですが、このクラスに他学園の交換留学生としてクリソベリル公爵令嬢が滞在なさることになりました」


教卓の前で先生がそんなことを告げた。

その隣には、薔薇のように紅い瞳と長く豊かな黒髪で大人っぽい雰囲気の、もっというと色気の溢れる女子生徒が立っていた。スタイル抜群で、顔は可愛いというより綺麗系。妖艶なお姉さんという感じだ。


「シャーロット・クリソベリルと申します。皆様、短い間ですがどうぞよろしく」


彼女は上品な仕草で優雅にお辞儀をする。クラスメイトの内の何人かの男子生徒がその美しさに見惚れていた。

圧倒的にビジュがいいけど、こんな子原作にはいなかったような気がする。もしかしたら、私と同じモブだったのかな?こんな子がモブとかどうなってんだこの世界は。


そんなふうに現状を俯瞰していると、彼女が顔を上げた時に、少しの間一点だけを見つめて固まっていることに気づいた。一目惚れという言葉が相応しいような、淡い熱を帯びた瞳。その視線の先には、サミュエルの姿。

……なんだろう、すごく嫌な予感がする。


・・・


自由時間になって、サミュエルの元へ向かおうとすると、そこには先客がいた。


「初めまして、サミュエル・ノゼアン様。私のことはシャーロットと呼んで」


「そんな、恐れ多いです。クリソベリル様」


「恐れ多いだなんて、控えめな方なのね。でも、そんなところも素敵だわ」


好意が見え隠れする甘い声で、彼女はサミュエルに親しげに話しかけていた。

……そういえば、サミュエルは貴族なんだよね。

本来なら、彼は私みたいな庶民と付き合う立場の人ではない。そんなことは前から知っていたはずだったけど……こう、いざ目の前でそのことを突きつけられると、心がもやもやして、見たくないような気持ちになる。


…………話しかけるのは、また後にしようかな。

足元がぐらつくような気持ちのまま、私はその場を後にした。

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