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31話

泣き疲れていつの間にか2人とも寝落ちしてしまったらしく、日がだいぶ落ちてしまっていた。


「時間もあれだし、そろそろこの部屋を出た方が良……」


彼は何かを言いかけたが、私の方を見た瞬間メデューサの目でも見たみたいにピシリと固まってしまった。


「あー……悪い。これは…うん………」


目を泳がせながら、煮え切らないような様子で彼はそう言う。


「…?だから謝罪ならさっき聞いたって」


「いや、そうじゃなくて…その、元はと言えばオレのせいなんだが……肩とか色々、隠しといた方がいいぞ」


そう言われ、はだけたままの自身の胸元や肩あたりに視線を落とすと、それなりの数のキスマークと歯型がついていた。


「わ、すご……」


よれよれの白シャツで隠すには心もとないな…。

私がその数の多さに驚いていると、自身がしたことへの羞恥心に耐えられなくなったのか、サミュエルがソファにかけたままだった自分の上着を手に持って、身体を包み込むようにそっと私に着せた。


「これなら大体は隠れるし…とりあえずは、これでいいだろ」


「えぇと……立てるか?」


「え、ああ、ウン!」


恐らく彼が言いたいのは、歩いて寮の自室に戻れるかということだろう。

どうにか腕の中から逃げ出そうと暴れてたから、本当は体力なんてゼロに等しいけど…多分大丈夫だと思いたい。

自分の身体に鞭打って、サミュエルの手を借りながらのろのろとソファから立ち上がる。寝起きなこともあって身体ががちがちだ。固まってしまったのをほぐすためにぐっと伸びをした。

突然、そのまま彼に抱き抱えられる。


「ちょっ、なになにどういうこと?」


何で私は抱き抱えられてるんだ??

てかこれっていわゆるお姫様抱っこ……。


「いーから少し静かにしてろ。流石に女子寮には入れないし…寮の手前でも大丈夫か?」


「運んでくれるの!?」


ぎりぎり未遂だったし、てっきり「じゃあ達者でな」みたいなノリで現地解散するもんだと思ってたわ……。

思わず本音が出てしまい、サミュエルに「オレをなんだと思ってるんだ」と言いたげに、じとっと睨まれてしまった。アッ、はいすみません黙りまーす……。

ちょっと過保護気味な気はしなくもないが、この不器用な優しさは素直にありがたく受けとっておこう。


●○●○


彼女を腕で抱えたまま、廊下を歩く。コツコツと靴の鳴る音が廊下に響いていた。

二人の間には沈黙が流れていたが、不思議と気まずくはなかった。


横目でクレアの顔をチラリと見る。いつもよりも近い顔の距離。今日ほど鍛えておいて良かったと思った日はない。


彼女を立たせた時、まるで酔っ払いみたくふらふらとしていた。そんな様子では前みたいに転けることもあるかもしれないし、少しでも罪滅ぼしがしたいという思いから行動にでて今に至る。

……ただまあ、触れたいという下心がなかったかと言われたら否定はできない。


だんだん冷静になってきて、ちょっと気持ち悪いかもしれないと思いつつも、一応恋人?になった彼女が抵抗しないのをいいことにオレはそのまま女子寮の前まで足を運んだ。


●○●○


女子寮前に着いて、そっと地面に下ろされる。


「あ、上着……」


彼に上着を返そうとすると、手でそっと止められた。


「一応部屋に戻るまでは着ておいたほうがいいんじゃないか」


「そうかな…。じゃあ、いつ返せばいい?」


「あー……明日と明後日は休みだろ?」


「その、明後日もし暇だったら…屋敷に戻る予定があるから、遊びに来るか?ついでにその時に上着も返してくれたらいいし」


うーん、そこまで言うならそうしようかな。

その提案に頷くと、彼は嬉しそうに頬を綻ばせた。

今更だけど、なんかちょっとデートみたいで照れくさい。


「じゃあ、明後日の昼頃にこの場所に迎えにくるから」


「うん。じゃあねサミュエル」


「ああ。……また」


「あっ!そうだ。ちょっとまって」


「何だ、なんか言い忘れたことでも…」


ここまでされては割に合わないので、さっきの仕返しの意味も含めて、彼の頬にちゅっと触れるようなキスをした。


「っ……!?」


彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「ここまで運んでくれたお礼。じゃあね」


仕返しが成功して、私はルンルン気分で部屋に戻ったのだった。


●○●○


溶けるかと思った。

ただ、頬にキスされただけ。それ以上は何もされてないのに、あいつからされたってだけでこんなにも心臓が跳ねて、頭の中が今まで感じたことのない多幸感に包まれる。ずっと足りなかったものが満たされていく感覚。


溺れそうだ。でも、苦しくない。むしろもっと溺れていたい。もうあいつは自分の部屋に行ってしまったから、もっとしてもらうことはできなくなったけれど。

いつかまたしてくんないかな。酷いことをしたのに、こんなことを思ってしまうのは最低だろうか。


まだ頬は熱を持っていて、中々冷めそうにない。無意識にキスされたあたりを指で撫でて、その指で自身の口元にそっと触れた。

はぁ、と小さくため息をつく。……何してんだろ、オレ。


らしくない自分に戸惑いながら、オレは大人しく自室に帰った。


おまけ

「付き合ったのミアに報告してもいい?」


「いいけど……オレはそうやって無闇矢鱈に言いふらすなんてことは絶対しないからな」


「無闇矢鱈にって、そんな……。でもなんで?」


「だってバカップルみたいに見えるだろ」


「『バカップル』、ねえ……」


この数日後、彼はクレアの周りにいた男子に「こいつ、オレのだから」と牽制した。

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