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2話

再びノゼアン伯爵の元へ訪れることになり、ついにきちんとご子息に対面する機会がやってきた。あの時は結局会えなかったし、どんな子かちょっと楽しみではある。


初めてまともに会ったノゼアン伯爵は、よく言えば優しそう、悪く言えば気弱そうな人物だった。学校の先生でいうとよく陽キャにナメられるタイプ。


「紹介が遅れてすまないね。クレア嬢はもう知っているかもしれないが、この子が私の息子のサミュエル・ノゼアンだ」


彼が紹介した子供に目をやると、そこにいたのは___この前捨て台詞を吐いて去ったあの子供だった。

おっとぉ……??まさかのまさかですか……??流石に気まずすぎるってこれは。

サミュエルと呼ばれたその子供は、私を一瞥すると不機嫌そうに顔をしかめてふいっと目をそらした。態度悪いなおい。

……ん?サミュエル・ノゼアン、だって?

その名前には聞き覚えしかない。


だって、その名前は___チュプリに出てくる、ヒロインと攻略対象の仲を邪魔する悪役の名前そのものだったからだ。


サミュエル・ノゼアン。

ゲームでの彼は、入学するまでは自身の能力に大層自信をもっており、生徒の中でもごくわずかな優秀な生徒が所属する生徒会『プリズム』に入れるような力をもっていた。しかし、それを上回るヒロインや攻略対象たちの実力にはかなわず、結局『プリズム』に入れなかったことでプライドをズタズタにされる。そして生徒会に入れなかった逆恨みで、ヒロインたちに嫌がらせをするようになり……というのがおおよその経緯だ。

性格はThe・俺様気質でずる賢く執念深い。現実にいたら絶対に関わりたくないタイプである。苗字の時点でここが彼の家だと予想することも出来ただろうに、何で気がつかなかったんだ私ィ……。


「クレア嬢とは同い年と聞くし、仲良くしてくれたら嬉しいな」


そう言ってへにょりと柔らかく笑うノゼアン伯爵。う、そんなふうに言われると断りずらいな……。息子さんとは似ても似つかないあたり、もしかしたらサミュエル自身は母親似なのかもしれない。


「大人がいると緊張して話しにくいだろうし、またお庭でふたりで遊びにいっておいで」


気を利かせたつもりだろうか、にこーっと満面の笑みで父はそう言った。その気遣い、今は要らなかったよお父さん……。


・・・


そんなこんなで仕方なく彼と一緒に行動することになったものの…ずっとムスッとしてるし、目を合わせもしない。寝て起きたら忘れるような性格ならば楽なものを、ほんと執念深いというか一度されたことは忘れないというか……。まあ、あれからそんなに時間も経ってないし、しょうがないといえばしょうがないか。


「オマエがちちうえのジュウヨウなトリヒキサキ?のこどもじゃなかったら、いまごろイタイめにあってるんだからな!ふん」


庭園を歩きながら、暴君のような偉そうな態度で彼はそう告げる。このくらいの歳だからまだ許せるものの、この子がゲームのように成長した姿でもこんなことを言っていると思うと、思わず腹パンしてしまいそうだ。


「はあ、そうですか」と適当な相槌をうちながら歩いていると、突然彼は足を止めた。

彼の視線の先には、この前の猫がいた。余程触りたいのだろうか、彼はその猫を物欲しそうな目でじっと静かに見つめている。


……しょうがない。ここはひとつ、前世でそれなりにネコちゃんの相手をしてきた私がお手本を見せてやろうじゃないか。

猫にそっと近づいて、下から手の匂いを嗅がせる。その後に、背中あたりを手の甲でやさしくゆっくり撫でると、気を許してくれたようで足元にすりすりと寄ってきた。よかった、近づいたら逃げるタイプの子じゃなくて。


その光景をサミュエルが羨ましそうに見ていたので、手招きすると私の真似をして静かに近づいてきた。

彼はおそるおそる私と同じ動作をしようとするが、どこかおぼつかない。


「こういう時は、こうしたらいいよ」


「っわ……」


彼の手を取って、先程したように動かしてみる。その猫は拒絶することなく、それを受け入れていた。優しいお猫様だ……。


ふと彼を横目で見てみると、ぱあっと花が咲いたように笑顔になって、分かりやすく嬉しそうに瞳を輝かせていた。

……あれ、意外とかわいいかも?

つい先程はゲーム内のサミュエルのイメージに引っ張られていたが、今ここにいる彼はどうみたって普通の子供だった。

こんな笑顔を見てしまった後では、将来彼の笑顔が曇ってああなることを思うと心が痛む。

ゲームの中のサミュエルは、果たして今目の前にいる彼のように幸せな気持ちになることはあったんだろうか。


………もし彼が、今後ゲーム内での彼のように道を外れそうになったら、ほんのちょっとくらいはいい方向に戻してあげようかな。それくらいなら別にいいよね…多分。


猫を満足するまで撫でた後、彼はバツが悪そうに視線を落として、消え入りそうな声で呟いた。


「………あり、がと」


なんだか世話のやける弟ができたみたいだ。

可愛いとこあるじゃんと思わずにやけていると馬鹿にされていると思ったのか、彼が「っ…そのヘンなカオやめろ!ちょうしにのるなバカ!ばーか!」と言い放つ。


「そこまで言わなくてもいいでしょ!?もう!」


前言撤回、やっぱ可愛くない!

こうして、私と彼の顔合わせは幕を閉じたのだった。

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