24話
今日の授業も終わり、生徒が各々好きなように過ごす放課後。空には雲ひとつなく、心地よい風が肌を撫でる。
本日はそう、絶好の女子会日和である。
まあ、女子会と言っても私とヒロインのミアの2人だけなんですがね。
女子会を開いたのにはちょっとした理由がある。ひとつは気分転換。もうひとつは、我らがヒロイン、ミアちゃんはどのルートに行っているのかの確認である。
「プリズムには素敵な人が沢山いるよね。ミアは今、気になる人はいないの?」
そんな感じでそれとなく聞いてみた。
実は今までも何回か遠回しに聞いたことはあったが、いつも「みなさんとても良い人でね……」というふうに、完全に良いお友達状態だったのだ。このまま行くと、もしかしたら友情ENDかもなー。
そんなことをぼーっと考えながらミアちゃんの返答を待つが、何故か反応がない。
どうしたんだろうと顔を覗き込むと、彼女は熟れた林檎のように頬を赤くしていた。
えっ。
スゥーーー……ちょっと待って??
予想外の反応に思わず天を見上げてしまったが、この反応は間違いない。それなりの数乙女ゲームをこなしてきた私には分かる。絶対ラブイベント的な何かがあったやつじゃん……。
事故チューか?壁ドンか?密室か?いや、まずは誰とそのイベントが起きたか、話はそれからだ。
ワクワクしながら話し始めるのを待っていると、おもむろに彼女が口を開く。
「ええとね…実は、その……レオ様のことが、何だか気になって」
その言葉を聞いた瞬間、私の脳内で勝利のBGMが流れるのを実感した。推しカプ爆誕しちゃった……ありがとう世界……。公爵子息と平民だと色々大変だろうけど、是非ともヒロインパワーでHAPPYENDを迎えてくれ……。
「気になり始めたのはいつなの?」
ニヤけるのを抑えてそう質問すると、しどろもどろになりながらも彼女は答える。
「この前、たまたま振り返った瞬間に私の唇がレオ様の頬に当たっちゃって…それで……」
ああー!チュプリのあのシーンか!
生徒会室で2人きりで仕事してた時に起こるイベントのやつー!!ミアちゃんが謝って、レオが『気にしないで。ああでも、偶然だとしても君みたいな素敵な女の子にしてもらったから、色んな生徒から嫉妬されちゃうかも……』って若干天然混じりでお茶目に返すやつー!!
思わず萌えで悶え苦しむ。
この状況が恥ずかしくなってきたのか、ミアは急いで話題を変えた。
「そっ、そういうクレアは、カルセドニー家の方と縁談があったんでしょう?どうだった?」
「え。えーっと……良い人だとは思う、けど……」
まさか恋バナを自分に振られるとは思ってなくて反応が遅れてしまう。
私を好いてくれていること自体は嬉しいし、彼が良い人なのは間違いない。でも、いまいちピンとこないというか、実感が湧かないというか……。一緒に出かけた時もエスコートして貰ったくらいで、ミアのようにドキドキするような何かあったわけでもないし……。もしこのまま付き合ったらどうなるんだろう。う〜ん……全く想像がつかない。
上手く言葉に出来なくて言い淀んでいると、ミアは何かを思いついたような顔をして告げた。
「じゃあ、サミュエル様のことは?」
「えっ?」
サミュエル?…もしもサミュエルと付き合ったら、一般的な恋人がするように、手を繋いだりキスをしたりすることになるのだろうか。
実技試験のときに不可抗力で急接近してしまったあの出来事が、脳裏でフラッシュバックする。あれは抱きしめられてるみたいな状況だったけど、キスするとなるともっと顔を近づけないといけなくなるわけで。
そこまで想像して、ふと思った。
そんなに、嫌じゃないかも。むしろ……あれ?
顔がじわじわと熱くなってくる。ただの想像でしかないのに、トクトクと心臓が脈打つ。
まってまって。そんな、私、サミュエルのこと……。
うそ。うそだ。だって、サミュエルはただの幼馴染みで、普段は猫かぶってるくせに私の前では口が悪くて、腹の立つことばっか言うようなやつなのに。
いやでも、原作では悪役と言ったって親切なところもあるし、助けられたこともある。生意気で分かりにくいけど、悪いやつじゃない。
言い合いばっかしてるから不機嫌な顔してるのを見ることは多いが、素の笑った顔は作り笑顔以上に愛嬌があることを私は知っている。絆されてやってもいいかなって思えるくらいには。
「……好き、なのかな」
目の前でミアが息を飲む音が聞こえる。
気づきたくなかった。気づいてしまった。
私はただのモブだから、ヒロインではないから、この気持ちが実るのは難しいかもしれない。
でも、一度自覚してしまうと、もう無視なんてできっこなかった。
「ねえ、ミア」
「なあに、クレア」
「こんな私でも…好きな人の特別に、なれるかな」
震えそうになる声で、私はミアにそう問いかける。
「うん、なれるよ。きっと」
ミアはお日様みたいな優しい笑顔で、私を勇気づけるように、力強く答えた。そう言って貰えるだけで、なんだが力が湧いてくる。
「一緒に頑張ろうね!」
「うん!」
「日も落ちてきたし、今日はこれくらいにしておこっか」とミアが告げたのを境に、私たちは解散した。
まずは、ちゃんとアーロと向き合わないと。アーロは自分の気持ちを打ち明けてくれた。今度は私の番だ。
その後は、私の王子サマを夢中にさせることができるように努力するんだ。まあ、あいつは王子様なんて柄じゃないけどね!
両手で頬をパンッと叩いて気合を入れる。
明日から、頑張らないとな。
私は、澄んだ青から暖かな橙へと色が変わり始める空を見上げていた。




