23話
部屋に帰って、自身のベッドに腰を下ろす。
結論から言うと、あれだけ不安だったアーロとのデートはそれなりに楽しかった。
おでかけと言えどほぼデートみたいなものだからと、クローゼットから引っ張ってきたかろうじて女子力高めの服を着ていけば褒めてくれたし、気配りも上手で気まずくなることもなかった。
口喧嘩のひとつもない、平和な一日。
華やかだったり情熱的なものではない。乙女ゲー厶みたくドキドキすると言うよりかは、ちょっと物足りなさを感じてしまうほどのんびりとした穏やかな時間だった。
現実で恋愛経験ゼロの私にとっては、むしろそれがありがたかったり。
そういえばあのお店のタルト、サミュエルが好きそうな感じだったな。向かい側には、実技試験の時に彼が装備していたペンダントによく似た装飾品を売っていた店もあったし……って違う違う。
そう、楽しかったのだ。
ただのおでかけではなくデートであるという点を除けば。
「次のご予定はいつ空いていますか?」と聞かれ、断りきれず正直に予定を話してしまった自分に呆れてしまう。相手が自分に合うかどうか見極めたければ最低でも4回はデートをした方がいい、と世間では言うけれど私がこんな状態で本当にいいんだろうか。
アーロと比べて自分は随分と不誠実だなと、ため息を零す。
脳裏に、黒に近い濃い紫色の髪がチラつく。
何故か今は、無性に生意気な顔をした誰かさんに声をかけて欲しかった。
何の気なしに、窓の外を見つめる。だんだんと夕日が地平線の向こうに沈んでいく。
つい流れでアーロと次会う約束をしてしまったが、結局のところ私はどうしたいんだろう。彼が誠実でいてくれるから、私も誠実でありたいのに。このまま続けた方がいいのか、無理にでもやめた方がいいのか。自分がどうしたいのかが分からない。
このまま続けるとしたら、いずれはアーロと結婚することになるかもしれない。
相手は知らない人じゃない上に、私のことを心から好いてくれている。アーロと結婚すればきっと、それはそれは大切にしてくれるはずだ。
なのに……どうして、私は躊躇しているんだろう。どうして、こんなにも…減らず口ばかり叩くあの人の声が聞きたくなるんだろう。
現実では分からないことばかりで、なんだか頭が痛くなってくる。ゲームの攻略本みたいに、すぐ正解を見れたらいいのに。
酷くなってきた頭痛を抑えようと、ベッドに横になった私はそのままそっと瞼を閉じた。
●○●○
チケットがただの紙切れになってしまったあの日から1、2週間くらいたっただろうか。アシェルが唐突に、明日の天気でも話すかのようにこんなことを言い出した。
「そういえば、クレア嬢に縁談を申し込んだんだって?『貴族と商家の娘だなんて珍しい』ってご令嬢たちが噂してたよ」
「……え」
何だそれ。縁談なんてした覚えはないぞ。
オレが眉をひそめると、アシェルはやらかしたというような表情を見せる。
「あれ、てっきり君とのかと思ったんだけど…もしかして違った?」
「いや…オレには、そんな話……」
クレアとの縁談なんて、そんな話は父から何も聞かされていない。そもそもあいつにとって、オレはお得意様であるノゼアン家の息子であり幼馴染みだ。確かに家にはよく来るけれど、あくまでクレアは彼女の父親の仕事を手伝いについてきて、そのついでに遊んでいくだけで。
まあ、本当にそうなったとしてもやぶさかではな……いこともなくない。別にどうしてもって言うなら?仕方ないけど?
「あー……ごめん、早とちりだったかもな。今の話は忘れてくれ」
思考が明後日の方向に飛んでいきそうになるオレに気づかずに、気まずそうに頬をかいてアシェルは「生徒会に用があるから」と去っていった。
貴族と商家の娘が、ねえ……いや、商家の娘といったって、なにもクレアとは限らないはずだ。きっと名前も知らない他のやつのことに決まってる。
だって、あいつからは何も聞いてないし。……そもそも最近はタイミングが合わなくて話すことが少なくなったような気がしなくもないけど。
心なしか妙な胸騒ぎがするのを無視して、何となくオレはあの呑気そうな顔を探しに歩みを進めた。




