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22話

時は変わって、授業が終わった昼休み。

今週末にアーロと下町でデートすることになってしまった……。ついでに今日昼食を一緒にする約束まで……。

うわああああどうしよう!!デートなんてゲームの中でくらいしか知らないし、どんな服を着てけばいいのか、何を持っていけばいいのかも分からない。しかもこの後すぐに面と向かって会わないと行けないんでしょ!?現実で恋愛免疫のないモブオタクにはとんでもなくハードルが高すぎる。


「おい、クレア」


「ヒョオッッッ」


うだうだ悩んでいると、いつの間にかサミュエルが隣まで来ていた。びっくりしすぎて思わず変な声が出てしまう。気配消すなよ、もっといつもみたく俺様ー!的な存在感を出してくれ。

…確かさっきまで別のご令嬢と話していたはずだが、切り上げてきたのだろうか。


「おお、そんなに驚くとは…なんかあったか?」


「い、いや?なんでもないよ」


何となくサミュエル相手にだと縁談相手とのデートの相談はしにくくて、咄嗟に誤魔化してしまった。

少し下手な誤魔化し方になったが、彼は特に気にした様子もなく話を続ける。


「まあいい。……次の休みはいつもと同じように暇してるんだろう。もしあれだったら…」


サミュエルが指定してきた日は、奇しくもアーロとのデートの日だった。先週だったら彼の言葉通りめちゃくちゃに暇だったのに、何ともタイミングの悪い……。

何の用だったのかは気になるが、先約があっては仕方ない。残念だけど断ろう。


「あー…ごめんけど、その日は予定あるんだよね」


「そう、か…」


あ、やばい。アーロとの約束の時間に間に合わなくなってしまう!

時計を確認して焦りを覚えた私は、サミュエルに「じゃあ」と告げて背を向ける。


「えっ、も、もう行くのか」


「うん、用があるから。じゃあね」


「待っ……」


「…?どうかした?」


「…………なんでも、ない」


そう言って、彼は笑顔でいてそれで諦念を感じるような、よくわからない曖昧な表情を浮かべる。

そのくすんだ淡い緑色の瞳は、ただ、静かに私を見つめていた。


それに違和感を感じなかったと言えば嘘になるが、アーロとの約束を破るわけにもいかず、後ろ髪引かれるような思いで私はその場を去った。


●○●○


去っていくクレアの背中を見つめたまま立ち尽くす。手の中にある宝物のように輝いて見えた観劇のチケットは、もはやただの紙切れ同然になってしまった。

このチケットは、父が観劇が好きでよく資金援助していたからそのお礼にと、観劇の関係者から頂いたものの、二人分だったから持て余していた代物だ。

前に見たいと言っていたから、嬉しがると思っていたんだが…用事があるのなら、仕方ないか……。


あいつの言う予定とは一体何なんだろう。毎回課題やら昼寝やらで休みを消化してしまうとぶつくさ言っていたクレアにしては珍しい。

…きっと、ラリマー嬢と遊ぶ約束でもしたのだろう。あの二人はそれなりに仲はいいから。それか、クレアは商家の娘だし家の用事とか。

さっきの用事だって、ちょっとタイミングが悪かっただけで、先生に呼ばれてたとかそういった些細なことのはずだ。多分。


そんなふうにつらつらと頭の中で考えるが、胸に何かがつっかえたような違和感がとれない。勿論、胸に手を当てたところでモヤッとしたそれは何も変わらなかった。……せめて何の予定か聞けばよかったか?


いやいや、何でオレがそんなこと気にしなきゃなんないんだ。あいつにどんな予定があろうが、別に関係ないじゃないか。

幼馴染みだからって、いつも隣に居れるわけじゃない。『居場所がある』ことと、『居場所に居れる』ことは、同じとは限らない。

手の中でくしゃりとチケットが擦れる音が聞こえるたび、苦虫を噛み潰したような気分になる。

手放そうかとも思ったが一応貰い物だしなと思い直して、シワがついてしまったそれをそのままポケットに突っ込んだ。


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