20話
非日常というものは突然訪れるものだ。
私クレア・チャロアイトは、久々に実家に帰ってくるよう手紙で父に呼び出されて、休みの間にここまでやってきた。
なるべく早く帰ってこいと言われたから大切な話なのは間違いないんだけれど、何を言われるのか不安でしかたがない。何かやらかしたっけ……?全く心当たりがないんだが。
私は、珍しく真剣な表情のお父さんにおそるおそる尋ねた。
「それで、話っていうのは……?」
「それがだな…縁談が舞い込んでいるんだ」
「え、お父様に?」
私が記憶を思い出すより前に母が病気で亡くなってからはうちは父子家庭だし、全然ありえない話ではない。
「いいや…おまえだよ、クレア」
「へ」
え、私?なんで??
そう思ったのが声に出ていたのか、父はそれに付け加えて言う。
「男爵家の長男らしいんだが…まあ、恐らく家同士の強い結び付きをっていう話だろうな」
「うちの商会も大きくなってきて、加えてお前もいい歳になったし…男爵家あたりの貴族となら有り得ない話ではないとは思っていたが」と父はぶつぶつ呟いている。だが、あまりにも衝撃が大きくて話は半分も入ってこなかった。
え、まって、つまり……
「わ、私…その人と結婚しなきゃいけないってこと……?」
どうしよう、私には全然縁のない話だと思ってたのに。前世の価値観のままの私には、知らない人との結婚だなんて全く想像がつかない。
「まだ縁談の段階だから、絶対と言うわけでは無いが…まあゼロじゃないことだけは確かだ」
「父さんはおまえの意志を尊重したいと思ってる。ただ、向こうの外聞もあるから、せめて一度だけでも会ってはくれないか?」
父も父で商人としての立場があるから、断れなかったんだろうな……。相手が貴族だと尚更。知らない間に問答無用で縁談を進められないだけマシなのかもしれない。
「わかり、ました…」
呆然としながらも、なんとか声を絞り出すようにして告げる。
……まあ、きっと相手の方も同じような状況だろう。
むしろ知らない相手と不本意ながら縁談する羽目になっているのだから、まだ見ぬその相手も私と同じ仲間のはずだ。なんかこう…どうにか協力して縁談をナシにしよう!そうだ、それがいい。
私はそう決意を固めたのだった。
・・・
こうして取り決められた縁談の日。
お相手は、先日父が言っていたカルセドニー男爵家の長男で、アーロ・カルセドニーと言うらしい。
素朴な雰囲気の屋敷の前で馬車が止まる。王都からは遠いが、辺りはのどかでとても住みやすそうな場所だ。
父と共に屋敷の中に連れられる。
中にはいると、屋敷の当主様とその子息であり縁談相手の人が出迎えてくれた。
縁談相手は、眼鏡をかけた優しそうな雰囲気のある、同い年くらいの赤毛の男の子。カッコイイ系というよりカワイイ系の子だ。彼は目が合うと、こちらに対してにこっと人の良さそうな笑みを浮かべた。
あれ、どこかで見たことあるような……気のせいかな。
「ここは何にもないところだから、若い人には退屈でしょう。アーロ、お前はクレア嬢に庭でも案内してやりなさい」
「はい、お父様」
「今日はよろしくお願いしますね、クレアさん」
私にだけ見えるようにお茶目に微笑んだ彼は、私の手をそっと取りエスコートする。その身のこなしは上品で、あまり嫌悪感は感じない。
「あ、はい。よろしくお願いします……」
呆気にとられている間に、私は彼に誘われるようにして屋敷の庭に足を運んだ。




