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番外編 あなたを纏う

「前から思ってたけど、サミュエルっていい匂いするよね」


「は、はあ…?」とサミュエルは困惑気味に首を傾げる。

なーんか、移動とかするときにたまに、清涼感もありながら甘酸っぱくて軽い感じでふわっと香るというか…まあ、一言で言うといい匂いってことなんだけど。下手するとこの人、私より女子力高いんじゃ……?

もしかしたら香水でもつけているのかもしれない。…私もやってみようかな。

断じて、幼馴染みに女子力で負けているのが悔しいとかではない。ええ、断じて。


「サミュエルって香水つけてる?」


「まあ、つけてるけど」


「香水貸して〜!ホント、ワンプッシュだけでいいから!」


「え…?」と若干渋るような素振りを見せるサミュエルに「今度うちの商会でなんか買う時、特別にオマケつけるからさ!ね?」とダメもとでたたみかける。


「んだよそれ……寮の部屋から取ってくるから待ってろ」


よっしゃ、交渉成立だ。サミュエルがどんなの使ってるか見てやろーっと。そしてそれをマネして、私の女子力アップの糧にしてやる……!


「ここまで戻ってくるの手間じゃない?なんだったら部屋まで一緒に行くよ」


そう言うと、一瞬サミュエルがピシリと固まってしまった。


「なッ…お前わかってんのか?()()()なんだけど?」


それがどうかしたんだろうか。

ゲームでもヒロインのミアちゃんが攻略キャラの部屋に遊びに行けるシステムとかあったし、大丈夫だと思ったんだが…。別に今は門限の時間でもないから、部屋までついていったほうが行ったり来たりしなくて楽だろうに。


「俺たちは今、何歳だ」


「……?17歳」


「…部屋に使用人とかいないんだぞ?」


「そりゃあ寮だからね」


急に何当たり前なことを言い出すんだ。頭にはてなマークを浮かべていると、サミュエルは大きくため息をついた。


「ああもう……部屋までホイホイついてくるやつがどこにいんだよ、このバカ!」


「はあ?なーんでそのくらいでバカ判定されなきゃなんないの…!?」


「いーや、おまえはバカだっ!いいからそこで待ってろ!」


「それから他のやつに部屋に誘われても行くなよ!絶ッッッ対に!!」


彼はそう一方的にまくし立てて、さっさと行ってしまった。

……はは〜ん、分かったぞ。さては部屋が散らかってるから人に見せたくないんだな。なるほど納得。そういうことなら素直に言えばいいのに、このカッコつけめ〜。

まあ、部屋が散らかってる時に人を上げたくない気持ちはよく分かる。ここは大人しく引き下がっておこう。


「だからバカじゃないってば…わかりましたー、ここで大人しく待ってますよっと……」


そうぼやくように返事をする。

もう行ってしまったから多分聞こえてはいないだろうが、一応だ一応。


しばらく待っていると、少し駆け足でサミュエルが戻ってくる。

彼が「手、出せ」と言うので言う通りにすると、彼は私の手のひらに収まるサイズの小瓶をひょいと置いた。見たところ、まだ使っていないもののようだ。


「ほら、それお前にやるからこれでいいだろ」


どうやらこの香水を私にくれるらしい。そこは流石貴族といったところか。そうだよ、たまに忘れそうになるけどこの人貴族だわ。


「1回試させてもらうだけでよかったのに……こんな新品、本当に貰っちゃっていいの?」


「予備のやつだし、別に構わない」と彼は素っ気ない物言いをした。

香水とか貴族がつけるレベルになるとだいぶ高いのでは……?幼馴染みの金銭感覚が少々心配になるが、まあせっかくだからここは有難く頂戴しよう。


「やったあ、大切に使わせていただきまーす」


「ふん……言っとくけど特別だからな」


「あはは、ありがと。この借りは必ず…」


「それ絶対忘れるやつだろ」


「わーすーれーまーせーんー!」


・・・


「……香水、使ったのか」


翌日のこと。

ぽつりと、誰に言うでもない様子でサミュエルがそう呟いた。気づくとは思ってなかったので少し驚いてしまう。


「あ、うん!……でも、なんかちょっと違うんだよね…まあ、この香りも好きだから最後まで使うつもりではあるけど」


「香水はつけるやつによって少々香りが変わってくるからな」


「そうなの?…あ、そっか。じゃあ私が好きなの、サミュエル自身の匂いだ」


心の中で言ったつもりが、つい独り言が口から零れる。

前世でよく売られていた推しの匂いのする香水が頭をよぎった。たしかチュプリでも売られてたけど香水ってお高いから中々買えなかったんだよなあ……。オタクは常日頃から金欠だからしょうがないんだ、ウン。


「は。な、なんだよ、それ……」


やばい。思い出に浸っている間になんか、お前の匂い最高だぜぐへへみたいな方向に受け取られてる気がする。全然そういう意図はなかったのに!普通に褒めたつもりだったんです警察は呼ばないでください本当に。


「ちょ、引くな引くな他意はないから。ただいい匂いだねって言ってるだけだってホントだよ。お願いだから変態に仕立てあげないでえ……」


「おまえ、そういうこと他のやつに言わない方がいいぞ…」


「わかってるよ、昔からつるんでるサミュエルぐらいにしか言わないって」


必死の弁解で、なんとか誤解は解けたようだ。いや、本当に解け……うん、もう気にしないことにしよう。


「でもそっか、つける人によって違うのか……あーあ、残念。私もそういう匂いがよかったのに…って、ぎゃッ!?」


急に視界が何かで覆われたのに驚いて、思わず乙女らしからぬ声を上げる。


「もー、なにす……あれ、これ……サミュエルの上着?」


文句を言おうとして視界を覆ったものを退かしてみると、それは彼がいつも着ている上着だった。どうりで触った感触が布っぽかったわけだ。


「そんなに匂いが気に入ったんなら、それでも被っとけ。ばーか」


「ばかって言わなくてもいいでしょ…」


ふわりと、いつもよりも近くで彼の香りが鼻をかすめる。


「……ふふっ。うん、やっぱり落ち着く」


なんだかほっとして、頬が緩む。幼い頃から傍にあったからかな。なんか、安心感のある匂いだ。アニマルセラピーならぬサミュエルセラピー的な。


「ッ〜〜!!」


のほほんとしていると、何故か突然サミュエルが上着を勢いよく回収してしまった。


「わっ!ちょっ…な、なに、貸してくれるんじゃなかったの?」


「とにかく駄目!貸すのはもう終わりだ!!」


そう言い放って、彼はふいっとそっぽを向いた。

貸すって言ったり返せって言ったり、なんて横暴な……。情緒不安定か??


「ケチ〜」


「うっせ、まな板」


「どこのことを言ってるのかな??ねえ??」


─────


「なんかサミュエルとクレア嬢、同じような香りな気がするんだけど…もしかして、もうそういう関係……」


「違っ…本当に違うからな!!」


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