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1話

拝啓お父さん、お母さん。

どうやら私、いつの間にか転生しちゃったみたいです……。


前世の記憶を思い出したのは、春の陽気な日差しが窓から差し込む昼下がりだった。

足を滑らせ本棚に激突してしまい、さらに上に積まれていた一冊の本が頭に直撃したのが、記憶を思い出したおおよそのきっかけである。

ちなみに頭のたんこぶはしばらく腫れていた。流石にお転婆過ぎないか、記憶を思い出す前の私。まあ、それのおかげで思い出せたから良しとしよう。


前世の私は、主に乙女ゲームが生息場所のどこにでもいるオタク女子だった。

有名なメーカーが出しているゲーム機の乙女ゲームもスマホの乙女ゲームもあらかた攻略した私だったが、そんな私が大いにハマった乙女ゲームがある。

その名も『Choose Your Prince!』、略してチュプリである。選ばれた者だけが魔法を使える世界の学園で、悪役の邪魔や試練を乗り越えヒロインと攻略対象が愛を育むとかいう王道モノではあるが、これが中々面白い。バトル要素やミニゲーム要素もあるし、やり込んでいけば本編では聞けないような小話とかも聞けたりするのだ。

そんなこんなで空いた時間のおおよそをこのゲームにつぎ込んでいた私は、残りひとつで全エンド回収できるはずだったのだが、会社から帰宅途中に車にはねられ為す術なくお陀仏ってわけ。さては前世の私の運勢大凶か??


とまあ、前世の振り返りはこのくらいにしておいて。

今世の私はというと、なんと商家の一人娘である。しかも、選ばれた者だけが魔法を使える異世界の。

この世界には大きくわけて炎、水、自然の3種類の魔法があり、魔法を使える人間、所謂魔法使いにはそれぞれ得意魔法と苦手魔法がある。


ここまで再確認して私は思った。

あれ……既視感しかないな……??

魔法に関してはチュプリの世界観とほぼというか完全一致である。

いやいやまさかね……そんなまさか。


「クレア、父さんは今からノゼアン伯爵の所へ仕事のお話をしに行くんだが、おまえもくるかい?」


「あ、はい!行きます!」


自分の部屋でじっとしていても仕方ないし、ここはとりあえず外に出てもっと情報を集めてみよう。他人の空似ならぬ他世界の空似かもしれないし。


・・・


「ノゼアン伯爵にはクレアと同い年のご子息がいらっしゃるそうだよ」


「今は庭にいらっしゃるらしいからその子と一緒に遊んでおいで。父さんたちはあっちの部屋にいるから」


そう父親に言われ、その子がいるであろう庭園に向かう。子供の身体ではこの庭は随分と広いように感じる。


しばらく歩いていると、目を疑うような光景に出くわした。

小学校低学年くらいの、黒に近い濃い紫色の髪をした男の子が、猫に向かって拳を振り上げようとしていたのだ。

それを見た瞬間、何かを考えるより先に体が動いていた。


「__ちょっと待って!」


男の子が拳を振り下ろす前に、その手首をぐっと掴む。予想外の邪魔に驚いたその子はくるっと後ろを振り向き、灰色がかった淡い緑の瞳を大きく見開いた。


「っだれだオマエ!おれのじゃまをすんな!」


「私はクレア。何でこの子を殴ろうとしたの?」


そう聞くと、私よりも少し身長の低いその男の子はキツイ眼差しで言い放った。


「ふん。たださわろうとおもっただけなのに、ソイツ、かみついてきたんだ!だから、おれがなぐったってかまわないだろ!」


「噛みつかれて悲しいのはわかるけど、暴力で解決しようとするのは違うんじゃないかな…。きっと、二度と分かり合えなくなっちゃうよ」


「っ……うるさい!うるさいうるさい!」


少し口ごもった後、その子供はぎゃんぎゃんとイヤイヤ期の2歳児のように騒ぎながら地団駄を踏んだ。


「ここはおれのてりとりーだから、ここにあるものはゼンブのおれのだ!だからオマエもおれのいうことをきかないとダメなんだ!」


なんと言われようと、なにも怖くない。目の前にいるのが物語のどうしようもない悪役ならまだしも、自分以外の世界を知らない癇癪持ちのただの子供だ。

ひとりの人として、だめなことはだめだと、世界はあなただけではないのだと、ちゃんと向き合って言わないとわからないだろうから。


目の前のその子にも伝わるように、不機嫌そうに細めた瞳を真っ直ぐ見つめて丁寧な口調で言った。


「私は、あなたのものじゃない。あなたと同じようにいやだなって思う時もあるし、いたいなって感じたりする。この子だってそう」


「この子はきっと、急に何されるのか分からなくて、怖くて噛んじゃったんだよ」


「だからさ、そうやってすぐに殴ろうとするんじゃなくて、他の方法を試してみたらいいんじゃない?噛まれずに触れる方法はいくらでもあると思うし」


今まで真正面から何かものを言われたことがなかったのだろうか。その瞳は動揺を表すかのように揺れていて、あんなに騒いでいた口もぽかんと開いたまま言葉を成さないでいる。

しばらくすると、「……ちっ」と格好のつかない舌打ちの音が聞こえてきた。


「おれにクチゴタエして、タダですむとおもうなよ!きょうのところは、えーと…かん…カンベンしてやる!おっ、おぼえとけ!!」


その子供は主人公にコテンパンにされた悪役のような捨て台詞を吐くと、颯爽とどこかへ駆けて行ってしまった。残念、伝わらなかったか……。


でも、そもそもあの子誰だったんだろう。すっかり名前を聞くことを失念していた。どっかでみたことあるような……まあ、細かいことは気にしなくてもいいや。ノゼアン伯爵のご子息を探さないと。

そうして探してはみたもののそれらしい子供は一向に見つからず、最終的にお父さんが迎えに来るまで庭園で時間を潰したのだった。

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