17話
目を覚ましてからは、そりゃもう目まぐるしい日々だった。
気がついたら保健室だし、それから数日後には成績発表と後期からのクラス分けの発表もあったから忙しいのなんの…!ま、ピークは乗り越えた私にはもはや怖いものはなしなんだがな!!ふはははは!
「まさか今回も同じクラスになるなんて、すごい偶然だよね〜!」
面倒だったいろんなことが済んで上機嫌なテンションのまま、隣のサミュエルに語りかける。
サミュエルは魔法の使いすぎで少々手のひらに火傷を負ってしまったと聞いたが、もうだいぶ良くなったらしい。
この世界は、魔法を使えるとこはいいところだけど、使いすぎると反動でデバフを背負うからなあ…。ちなみに水属性の場合は皮膚が鱗になって、自然属性の場合は身体から植物が生えてくるそうだ。使いすぎた状態のまま継続して使用するとどうなるかって?確か…うーん……忘れちゃった。
「はいはい、スゴイ偶然デスネー」
酔っぱらいのダル絡みみたいなテンションで絡んでしまったからか、サミュエルはしんだ魚のような目をして、はぁ…とため息を吐いた。
完全に呆れられてるのは一旦置いといて。
そう、何を隠そう私とサミュエルは2回連続で同じクラスなのだ。世の中にはこんなこともあるんだね。
しかも、しかも……!まさかのミアちゃんとも同じクラスである。ついこの間女子会みたいな会話しちゃったんだよねー。まじで何歳か若返った気分。まあ、実際身体は若返るどころか生まれ変わってるんだけども。
相変わらずミアちゃんからはお花みたいないい香りがしました。変態かよって?やかましい我らが祖国はHENTAI国家だろ(熱い風評被害)
ミアちゃんは、ゲームと同じように無事に生徒会である通称『プリズム』に入れたらしく、この前の会話の話題にも上がっていた。
……そういえば。
ゲームだったら、この辺りから悪役であるサミュエルの嫌がらせがはじまってたな。
ゲームのシナリオと同じように、この世界のサミュエルは生徒会『プリズム』に入ることは出来なかった。
だというのに、サミュエルは残念がる素振りもなく「ほら、次移動教室だろ。行くぞ」と普段と変わらない様子で過ごしている。
ゲームでの彼が『プリズム』のメンバーを目の敵にして、陰惨な嫌がらせを繰り返していたのが嘘みたいだ。それとも、私が気づいてないだけで本当は悔しい思いをしているのかも……。
「何かあったか?」
唐突に、サミュエルが私の顔を覗き込みながらそう問いかけてくる。
「えっ、なんで?」
「や、別に……。おまえが、難しそうな顔してたから」
マジか、そんなに顔に出てたのか。そこまで表情に出る方だとは思ってなかったんだけど…。というか、流石に「嫌がらせしないの?」なんて聞けるわけがないし聞きたくもない。
咄嗟に「そ、ソウカナー?」と苦し紛れに誤魔化す。
「何でカタコトなんだよ。ほら、言えって」
「言うような事じゃないんだけど……」
「はあ?気になるだろ、さっさと言えよ」
「えー……」
追求するなよ…!なんでこういうときに限ってこの人は食い下がってくるんだ。もっと別の話題のときにしてくれよ頼むから。
「言わないと今度家に来てもルビーに触るの禁止にするぞ」
「分かったわかりました言います」
ルビーに触るの禁止だなんてとんでもない最強カードを出されたので、思わず即答してしまった。人類は猫に屈する運命なのだ。南無三。
仁王立ちするサミュエルの様子を伺いながら、私はおずおずと話を切り出した。
「……さ、サミュエルって負けず嫌いだからさ、『プリズム』に入れなかったのを悔しいなーって思ったりしてるのかなって……」
サミュエルは「はあ……?」と何言ってんだこいつみたいな声色で聞き返す。お前が聞いてきたんじゃねーか!!
「ね、だから言ったでしょ!言うような事じゃないって」
慌てて話題を変えようとした私に、サミュエルはまた告げる。
「何でそんなことが気になるんだ」
「え、えっとー、そのぉ……」
え、めっちゃ深掘りしてくるじゃん…。
てかこの状況はやばいぞ。何も理由なんて考えてないのに〜!!必死に脳をフル回転させて、必死に言い訳を考える。とりあえず、こうなったからには何か言うしかない。
「…もし、気にしてたら慰めたり、とか……?」
なんだ「慰めたり」って!!傷心状態(推定)の人に対して上から目線か!?ふざけてるのか私!?
ああ、やらかしてしまった…と私は思わず頭を抱える。
「あ、そ……例えば?」
「はい?」
思わず聞き返す。
え?……聞き間違いかな?なんか「例えば?」って聞こえた気がするんだけど。
「だから…例えば何するんだって聞いたんだ」
若干そっぽを向きながら、サミュエルはさっきよりも少し大きめな声で改めてそう言う。
ちくしょう。全然聞き間違いじゃなかった。
だから考えてないんだって〜!深堀するなとあれほど……まあ、心の中でしか言ってないので分からないのも当然である。
とはいえ、何をするのかと聞かれても、自分では全くと言っていいほど思いつかない。
「えぇ…うーん……逆に何して欲しい?何でもするよ」
「は…はァ!?『何でも』っておまえ……っ」
「え、なになに変なことでも想像した?やらしー」
この思春期め〜まだまだ若いなあとニヤついていると、勢いよく肩をしばかれた。そこまですることないじゃんテメェこのやろう。勿論すぐにしばきかえしたが。私もやられっぱなしじゃないのだよ。
「誰が想像するかよバカ!!」
「というか第一、オレは『プリズム』に入りたいなんて一言も言ってないし、悔しいとも思ってない。……そんな事気にしてるほど、余裕ないし」
え、余裕って何?それってどういう……。
サミュエルに聞き返そうと口を開く前に、鐘の音が耳に届いた。
「っくそ、予鈴だ。急ぐぞ」
サミュエルぐいぐいと手を引かれて、私は頭にはてなマークを浮かべたまま教室へと向かったのだった。