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15話

みんな私の方を向いていて、私以外まだ誰も気づいていない。

私が、動かなきゃ。


「___ッ『澄の神の名のもとに』!」


得意魔法である水属性の魔法の詠唱を急ぎ気味に終えて、水を矢のようにして放つ。私程度の魔力では矢というより水風船を投げつけたくらいの威力しか出なかったが、一応怯ませることはできたようだった。


「い、一体何が……」


「ここは危険です!離れてください!」


みんなを逃がそうとするが、退路を塞ぐようにツタが伸びてきた。しまった、別の退路を…!


「___『業火の神の名のもとに』」


道が塞がれて慌てていると、サミュエルがツタに向かって、冷静に炎属性の魔法を詠唱した。


「植物相手ならオレが適任だ。足止めしてやるから先に行け」


「でも……」と言い淀む私の背中をサミュエルが半ば強引に押す。


「このくらいならオレ1人で十分だ。…では、彼女をよろしく頼む」


「っはい!では、サミュエル様が抑えている間、僕たちはとにかく遠くへ行きましょう!」


生徒の1人に手を引かれながら、私は小さくなっていく彼の姿をずっと見ていた。


・・・


「ここまで来れば、大丈夫か…」


眼鏡をかけた生徒がそう呟く。一応先程よりも安心できる場所に着いたようだ。

だけど、安全地帯に来ても私の心は不安なままだった。仕方ないとは言え、置いていくような形になってしまったサミュエルが気がかりで、安心なんてとてもできない。


「…っやっぱり私、彼が無事か確認してきます!」


「クレアさん!?」


「私なら大丈夫です!皆さんもご無事で!」


周りの焦る声を聞こえないフリして、彼の元へ突っ走る。

わざわざ安全圏から飛び出すなんて馬鹿だと思われてもしょうがないかもしれない。行ったところで私ができることなんて限られてる。そんなことはわかってるけど。

でも、行動せずに後悔したくない。放っておけないよ。


走る。走る。風を切るように走る。

柄じゃないくせに、あんな囮みたいなことしちゃって。あんただけにカッコつけさせるわけないでしょ!

怒りを力に変えて、これまでの人生の中でいちばん必死に走った。


肺が痛くなって、息があがる。

見覚えのある景色が見えてくる。


___居たッ!!


目に飛び込んできたのは、おぞましいほど赤い花弁を持つ花のツタに追い詰められて苦戦している、サミュエルの姿だった。

彼がかけていたペンダントの石は輝きが鈍くなっていて、もう【起死回生の首飾り】としての効力を失ってしまったようだ。


私が、何とかしなきゃ。


焦りで頭が上手く働かない中、そんな漠然とした思いを抱いて、足元に転がっていた扇子くらいの長さの丈夫そうな木の枝を、油断しているそのツタに向かって思いっきり突き刺した。


動物の悲鳴のような、森のざわめきのような、形容しづらい音があたりに響き渡る。痛覚があるかどうかは賭けだったが、ちょっとでもダメージを与えられたみたいだ。


「『業火の神の名のもとに』ッ!」


その隙をついてサミュエルが魔法を唱える。燃え移るのを恐れて赤色の花を持つそれは、トカゲの尻尾のようにツタの一部を犠牲にして、切り離して逃げていった。

ツタは燃えながら苦しそうにびたんびたんとのたうち回り、次第に動かない燃え殻になっていく。残りのそれらはしゅるしゅると茂みの奥の方へ消えた。


「サミュエル……!」


「クレア!?なっ、なんでここに……」


私がいたことに今頃気づいたサミュエルが、肩で息をしながら駆け寄ってくる。少しボロボロだが、無事でよかった。


「だって1人で置いて行けるわけないじゃん!」


若干怒りながらそう言うと、「…悪い」とバツが悪そうにサミュエルは頬をかく。


「はあ…咄嗟にしちゃったけど、なんとかなってよかったあ〜…」


「あの隙は…あれは、お前がやったやつだったのか。お前にしては意外とやるな」


若干ディスられているような気がしなくもないけど、まあ褒めてくれているということにしておこう。


「そうでしょ!感謝してよね〜」


「ははっ、はいはいどうも。でも、ああいう危ないことはもうすんなよな」


サミュエルが目を細めて笑う。そこには先程までの気まずさはなかった。

いつもの調子が戻ってきて、安心してほっと胸を撫で下ろす。


「そっちこそ!まあ、2人とも無事だったんだし良かっ___」


良かった、という言葉は声になることなく、急に視界がぐるりと逆転した。


口を何かで塞がれて、身体もロープで縛られたみたいに思うように動かない。

あれ、息が、吸えない。なに、が…おこって……。


「クレアッ!!」


だんだんと暗くなっていく視界の端に映ったのは、必死に私の名前を呼ぶサミュエルだった。


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