14話
「クレア、それは……」
「そうです、だってそれは貴女がたの……」
と、サミュエルと怪我した男子生徒らが止めようとするが、私は話し続ける。
「怪我をしている人が目の前にいるんですもの、今使わないと意味がありません」
「…くくっ…それもそうだな。全く、ほんとお人好しなんだから……」
と、サミュエルは少し呆れたように笑いながらも了承してくれた。
サミュエルは納得してくれたみたいだし、これで心置きなく処置できるよね!
「これでも応急処置は慣れてるので、任せてください!」
「っありがとう……」
・・・
「これでよしっと」
「本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」
「いえいえ、お礼なんて大丈夫ですから」
治療し終わって和やかな空気が流れる。とりあえずは、こんなモブでも役に立ててよかった。
「困った時はお互い様ですし」
……ん?
気のせいだろうか。周りにあったツルの一部が、今一瞬動いたような…?それになんだか色もおかしかった気が……。
「どうかしたか?」
「え、いや……」
サミュエルが心配そうに顔を覗き込んでくる。他の生徒も特に違和感を抱いた様子はない。
私の勘違い?…いや、見間違いじゃないはずだ。さっきだって気のせいだと思ったことが気のせいではなかったのだ。今回は油断しないぞ、私は。
生徒たちの和から少し離れて、動いた原因を調べるために、警戒しながらそのツル付近に近づいてみる。害のない小動物のせいでしたとかならいいんだけど。
ツルが多く生えている茂みの中を覗いてみると、一輪の花がぽつんと咲いていた。
一応花の周りを観察してみるが、特に生き物がいる気配もない。なんだ、何もいなかったのか……。
何もいないのがわかると、その一輪の花に目が向くのは当然のことだった。
肘から指先くらいの大きさの、鮮やかな赤みを持った花。絵の具の赤のように不自然なほど毒々しい色のそれは、たった一輪だけしか咲いていないのに、いや一輪しか咲いていないからこそだろうか、人の目を奪うほどの美しさがあった。
あれ。この花、どこかで……。
___あ、これ、やばいかも。
チュプリのゲーム内の実技試験、どのルートでも共通してあるイベント。その時点でいちばん好感度の高いキャラと行動を共にしていたヒロインが、トラブルに巻き込まれるシーンが頭によぎった。
知能を持ったタチの悪い植物が紛れ込んでいて、ツタに身を絡めとられ身動きの取れなくなってしまったヒロインを攻略キャラが颯爽と助ける場面に、確かこんな感じの花が挿絵として描かれていなかっただろうか。ヒロインであるミアちゃんが襲われる前に、私がこの植物に出くわしたといった状況なのかもしれない。
でも、こんなに大きかった感じではなかったと思うけど……いや、それよりも早くこの場を離れよう。
「おい、クレア?何かあったのか?」
「どうかしましたかー?」
私の様子を確認しに、みんなが近づいてくる。まずい。近づいてこられたらこの植物の思うツボだ。
この花については、授業なんかでは取り扱っていない。当たり前だ、実技試験当初の予定ではいるはずのないモノなのだから。
この事を知っているのは、ゲームを攻略した私だけなんだ。
「みっ、みなさん!1箇所に留まるのも危ないので、移動しましょう!」
くるりと振り返ったとき、みんなのすぐ後ろで、まるで手を伸ばすかのようにツタが忍び寄っているのが目に映った。