13話
「………行った、か…?」
気が抜けたような声が上から降ってきて、回されていた腕の力が緩む。
彼の腕の中から辺りを見回すと、どうやら本当に魔獣はどこかへ行ってしまったみたいだった。
「た、助かったあ……」
ふう、とひと息つく。危機が去って落ち着いてきたことで、傍から見たら恋人みたいになってしまっているこの状況のことを思い出してしまった。
「サミュエル、そろそろ腕、を……」
だーっもう!何恥ずかしくなってんだ私!お前はヒロイン枠じゃないただのモブじゃ目を覚ませ!!
というかこれはそもそも仕方ないことだったんだし!サミュエルはサミュエルでパーソナルスペースが狭い方ではないし、いい加減お互いこの状況も辛いだろうからさっさと離れないと!
サミュエルもこのただのイチャイチャカップルにしか見えない状態に気づいたようで、急いで手を離した。
「いっ、いちいち言わなくたってわかってる!」
「ッ〜とにかく!またさっきのやつが戻ってくるとも限らないし、移動するぞ!」
・・・
2人でフィールドの中を歩く。ざくざくと土と草を踏む音だけが耳に入ってくる。
き、気まずい……。今までにこんなに静かだったことがあっただろうか。何か話題でも探そうときょろきょろ見回していた時だった。
微かに誰かの話し声が聞こえてくる。
「……がは大丈………当を…」
「で…薬草…んて…」
話している内容は少々聞き取りにくいが、同じ生徒のようだ。ちょっと揉めてるような気がしなくもない。
「サミュエル!あっちに人がいるみたいだし合流してみない?」
「……確かに、人が多い方がさっきみたいな魔獣に出くわした時の対処はしやすいかもしれないが…」
「いーから!行こう!」
2人だけだから気まずいんだ!合流して人が増えたらこの気まずさも紛れるはず!
そう思って、サミュエルをぐいぐい引っ張りながら人の声がする方向へ足を運んだ。
・・・
「っ誰だ!?」
近づいてみると、男子生徒2人と女子生徒2人の4人組がそこにいた。地面に座っている1人の男子生徒を囲むように3人がしゃがみこんでいる。
「驚かせてすみません!1年のクレアと言います」
そう名乗ると、同じ生徒だと分かり警戒は解いてくれたが、4人は暗い表情をしたままだった。
「話し声が聞こえてきたので来てみたんですが、何かあったんですか?」
「……彼が怪我をしてしまって」
「傷口に悪いものが入ってしまったらいけませんし、笛を使うのを勧めているのですが、本人はリタイアするほどじゃないと言っている状態でして……」
「せめて手当できたらいいのですが、ご覧の通り私たちは何も持っておりませんから……」
そう言って、心配そうに3人はその怪我をした男子生徒を見る。眼鏡をかけた赤毛の優しそうな雰囲気の男子生徒。確かに、膝あたりに血が滲んでいる。
「そんなに心配しなくたって僕は全然平気だよ。ちょっと休憩したらすぐに再開しよう」
私たちに「騒がせてしまってごめんね」とその怪我をした男子生徒は告げる。
目の前の困っている人を見過ごすなんて、私には出来なかった。
「あの!私救急セット持ってるので、応急処置で良かったら手当しますよ」