11話
ずんずんと先へと進むサミュエルについて歩く。このフィールド内に、実技試験をこなしやすくするための支給品がいくつか散らばっていると聞くし、彼はそれを探しているのだろう。サバイバルゲームみたいでちょっとうきうきするかも。
「おい、ちゃんとついてきてるかー?」
「はーい」
「おや、声はするが姿が見えないなあ?」
そう言ってサミュエルはニヤニヤしながら、下のほうを見ずにきょろきょろと辺りを探すフリをする。こいつ、さては私の身長をバカにしてるな……??
「すぐ近くにいるでしょ!もーからかわないで!」
「冗談、冗談。ほら、支給品見つけたぞ」
彼が指さす方向には小さめの宝箱のようなものがあった。
何が入ってるんだろうとワクワクしながら箱を開けてみる。
「救急セットと……ペンダント?」
そこには綺麗な石がはめ込まれたペンダントと、応急処置用のちょっとした道具が入っていた。
「どうやらそれは【起死回生の首飾り】といって、身につけたやつが魔力を強化できる代物っぽいな。1回きりらしいけど」
中に入っていた説明書を読んだサミュエルがそうつけ加える。なるほど、ゲームの装備品的なやつか。綺麗だけど使う羽目にならないといいな。
「私こっちなら使えるから、とりあえずペンダントはサミュエルが持ってなよ」
「おー。まあ、お前には荷が重いだろうし、このサミュエルさまに任せとけ」
ほんと一言余計なんだよなあこの人。せっかく綺麗な顔立ちなのに、残念なイケメンというか何というか。
「ワー、タヨリニナルナー」
「棒読みやめろ」
・・・
手持ちの懐中時計を眺めていたサミュエルが、「まだ3分の1くらいしか経ってないのか…」と呟く。勉強とかしてるときって時間が経つのが遅く感じるよな〜。
そういえば、今頃ミアちゃんは誰と一緒にいるんだろう。レオかな?ウィリアムかな?アシェルかな?くう、推しカプの絡みが見れないのがなんともつらい……。
そんなふうに脳内で想像を膨らませていると、ふと、遠くで重量のあるものが落ちるような音が聞こえた気がした。
「ねえ、サミュエル。なんか聞こえなかった?」
「いや?なんも聞こえないけど」
キョトンとした顔で彼はそう告げる。
うーん…私の気のせいだったのかな。
再び歩きはじめると、今度ははっきりと音がした。しかも、先程よりもだんだん音が近くなっている気がする。もしかして、重いものが落ちる音ではなく、巨大な生き物が歩く音なんじゃ……。
流石のサミュエルも聞き逃しはしなかったようで、2人して顔を見合わせた。
「サミュエルにも聞こえた?」
「ああ、確かに音がする。とりあえずここから離れ__」
サミュエルがそう言いかけた瞬間、辺りに耳をつんざくような獣の雄叫びがとどろいた。雄叫びに混じって、ジジジッと、ゲームが途中でバグったかのような耳障りな音がする。
後ろから、明らかな敵意を感じた。
「___っ逃げろ!!」
サミュエルの言葉に弾かれるようにして、私は走り出した。
●○●○
視界の端に映った魔獣はかなりの大型で、恐らくオレたち2人だけでは敵わないだろうと直感した。その姿は、まるでところどころ絵の具が剥がれた落ちた絵画のような、欠けて読めなくなった絵本のような、異質な雰囲気だった。
こんな姿の魔獣の対処の仕方なんて、授業で取り扱った覚えもないし、図書館の資料にも載っていた記憶はない。
試験だと言えど、あんなハイレベルそうな魔獣を出すだろうか?いや、これは今考えても仕方の無いことだ。とにかく逃げなければ。
しかし、まだ試験が終わるまで3分の2ほどの時間がある以上、ここで支給されたペンダントの力を使うのはまずい気がする。
【起死回生の首飾り】とやらの能力がどれほどのものかわかってない上に、あのサイズの魔獣にその力を使って100パーセント勝てるかと言われれば微妙なラインだ。
リタイア……いや、リタイアするくらいだったらペンダントを使うべきか?…だが、ペンダントと救急セット以外に道具もないし、これは出来れば最後の切り札として取っておきたい。
ならば、この状況を切り抜けるにはどうするべきか。
「クレア、隠れるぞ!」
どうにか隠れられそうな大きさの岩の裏に、何とかなれと念じながらオレたちは滑り込んだ。