第XXXX話
まるでメモ書きのように書いているその文章は、最早読む前にこの意味がはっきりと私に伝わった。
そしてこの日記を読み終えた私は、まるで日記の中の私のように、ぽろぽろと、涙を流していた。その理由は単純で、最後のメモ書きの意味が全てわかっているからだ。
私は、こんな青春など送っていなかった。貞西くんから告白されたことも、貞西くんに屋上でサンドイッチを振る舞って恋人らしいやり取りをしたのも、貞西くんがマリファナを吸っているところに出くわしたことさえ、存在しなかったもの。即ち、私の妄想にすぎないのだ。
私は高校入学と同時に、葉平くんの存在を知った。同学年である彼に話しかけようと、違うクラスの教室へと向かった。そして私は葉平くんと思われる男の子を発見したのだ。ここまでは良かった。彼は私のことをこれっぽっちも覚えていなかったのだ。ただ情熱的に突っかかる私に嫌悪感を示し、私に悪口を吐いたのだった。それが原因で葉平くんはいじめられるようになった。私は一年のあの時でさえ学年を超えて有名人になっていたらしく、私のことを好いているらしい上級生の男子に目を付けられた。私は葉平くんのことを助けたかったけど、葉平くんは私のことを嫌っていた。私がこれ以上近づくことは葉平くんの負担になってしまった。だから私は葉平くんに近づくことができなかった。そうして上級生からのいじめが増え、葉平くんはいよいよ……
そう、葉平くんは、屋上から飛び降り自殺をしたのだ。
これが真実、これが現実だった。私が日記帳に記していた貞西くんとの思い出は、彼が死んだ後に書いた私の妄想。こう出会っていれば葉平くんと上手く出会えたのにという欲望が生み出したフィクションなのだ。
大麻で忘れていた全てを思い出した私は、その現実に呆然としていた。そして虚しい記憶だけが取り残された私は、生きた人間というよりもただの抜け殻に近くなっていた。
私はこれから、どうすれば良いんだろう。葉平くんのいない現実を虚しく過ごしていくべきなのか、もう一度大麻を吸って、貞西くんと会うべきなのか。どちらにせよ、現実の葉平くんはいなかった。
きっと、葉平くんが死んだ時、同じ気持ちだったのだろう。私は彼が死んだ後の私を思い出す。あの時の私は何かをする為に、校舎の屋上へと足を運んでいた。それが何かは思い出せないが、実際に行ってみればわかるかもしれない。
校舎に忍び込むことは簡単だった。やる気の無い警備員は制服を着ていれば問題ないし、学校中に知れ渡っているこの顔も、授業中なら教師や生徒とばったり会うこともない。
屋上に着くと、冬の訪れを感じさせる冷たい風が髪をないだ。私が妄想をずっと見ていたのなら、彼のために温かいレモネードでも用意したのだろう。でももうその彼はいない。いいや、元々いなかった。葉平くんのことを思い出すと、彼といつも一緒に大麻を吸っていた給水塔の裏へと足が運ばれた。
弱い日差しにより暗く広い日陰となっているその場所は、彼の幻覚を私に見せようとした。私はその夢にもたれかかろうとしたものの、なんとか現実へと帰ってこれた。その過程で、私に関するある事実を思い出した。
そういえば、私が初めて大麻を手に取った場所もここだった。上級生二人がマリファナを吸っていたところを、葉平くんが死んだショックで立ち直れていない私が発見してしまったのだ。私はその時彼らを脅した。その大麻を渡さなければ、このことを教師や生徒に言いふらすと。そう、まるで夢の中で彼から大麻を脅し取った時のように。そう、確か葉平くんも大麻を吸っていたらしいのだ。そしてその大麻を彼ら二人に奪われて、逃げる宛がなく自殺したのだ。
そして私はその脅し取った大麻を口に咥え、現実から妄想の世界へと逃げたのだ。ああ、そういうことだった。
そしてそのことを思い出すと、私がなぜ屋上へと来たのかも思い出した。
私は屋上の安全用に取り付けられた柵をひょいと登った。そして柵の外の足場へと降り、校舎の下を見下ろした。
肌寒い風が私の身体を撫でた。それは私を急かしているのか、それとも私が急いている現れなのかはよくわからない。
ずっと会いたかった彼に、いよいよ会える時が来たのだ。思えば彼にはひどいことをしたと思う。私が現実世界でもっとはやく大麻中毒者の彼女になっていれば、葉平くんが自殺するのを止められたかもしれないのに。私はキミの言葉を信じて、妄想に逃げ込んでいた。でも、逃げ方を間違っていたんだね。随分長い事、待たせちゃったよね。ごめんね。
昼休みのチャイムが鳴る。ここからはキミとの時間だ。妄想では付き合うところまで迎えられたけど、そっちではどうなるんだろう。最初からだって、私は絶対、キミを助けてみせるからね。
重心を前に 身体が段々と傾斜して 私は
トリップする
〈おわり〉