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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第三章〜追憶の君へ〜
76/77

㉒「故郷スエーデ村」


 それにしても、今回の旅の8日間は散々な目に遭ったなぁ……。


 洞窟でダークエルフの変な魔法で飛ばされて、そこにいたバジリスクに喰い殺されかけるわ、オールド山脈の中腹でニンギヌスの使いという魔物に追いかけ回され、紆余曲折あってまた全身が血だらけになるわ。


 だが、そんな旅も、いまやっと折り返し地点にたった。ロアが届けている修理したバトルアックスの依頼主がいる村に、そうスエーデ村にたどり着いたのだ。


 村の存在のお陰で、辛く厳しかった旅路の折り目が実感でき、俺だけでなく黒き刃やレシアンやロアもどこか安堵した様子を見せていた。


しかし、よく見てみるとと村の様子に所々が違い違和感を抱いたのは不思議ではないのだろうか?


 俺の故郷でもあるが、なんか記憶とは少し違うな?昔は、村の周りには二、三メートル程の高さがある柵があっただけの筈だが?


(どうして軽い砦くらいの石垣があるんだ?)


(57年以上も経てば、何か知らない物も新しく建っているのは可笑しくはないが、流石に変わりすぎだろ!!)


 ま、まあ。そのことは今代の村長においおい聞いておけばいいか。


「や、やっとついた〜!!」


「ついたぁぁぁぁ!!」


大声を上げてはしゃぐロイドとエルザ。


 ここ数日はニンギヌスの使いでヘロヘロになっていたのに急に割って降ってきたかのように元気を取り戻している。


「お前ら〜落ち着け〜!帰えってくるまでが遠足だぞ。」


 ピョンピョンと厚く積もり始めてきた雪の上でテンションマックスに両手を絡ませながら笑顔ではしゃいでいる二人の一方、ダンは慣れたかのようにリーダーとしての役割をこなしている様子。


うんうん、初対面と比べるとちゃんとリーダーこなしいて見直してたよ。



………………ついさっきまでは。



「おいっ!!クソガキ。さっさとその武器をどけろ。村に入れないだろうが?」


「何度でも言おう。このスエーデ村は緊急事態で、外部の者は先生の赦しもなく受け入れていない。帰れ!!」


 どうして、ダン。お前は…初対面だと喧嘩腰になるんだ?


「おいおいクソガキ?てめぇさっきから年上に向かって、敬語も使えねぇのか?どういう思考回路してんだ。」


「歳でしか自分を誇れない者に俺が敬う理由が浮かばない。」


「ああっ!?てめぇコラ!喧嘩売ってるんのかぁ?表に来いやゴラァ!!」


「だから、俺はこの村の入り口の門番をしてるんだ!!喧嘩ならそこらの魔物とやり合え!!」


「じゃあ、さっさと通せよ!!クソガキ!!」


「クソガキじゃねえ、俺はシンシアだ!!」


さっきから会話が平行線だ。この褐色な年若い男も、イライラしてさっきまでの口調を崩してキレていた。


 見ろダン。お前のパーティーメンバーが全員後ろで、呆れかえっているぞ?


「ナ、なあ。ロイド殿?、何故、お前たちの指揮官は喧嘩をわざわざ起こしているんダ?というカ、止めなくても良いのだろうカ?」


 意外そうに、不思議そうに、レシアンは興味深そうに門の前でギャーギャーと騒ぐ二人を見つめる。それにロイドとシルフィはたじろいで口を噤んでしまい、代わりにエルザがその後を続けた。


「そ、それは…」


「それは、彼は普段から私達が舐められないように、相手に釘を刺すためなの…。彼は私が小さい頃からそうやって、私や仲間を守ってきたんだもの。」


「そ、そうなのか…。エルザ。指揮官もといダン殿はお前と同じ故郷の仲間だってことなんだナ?」


「そう。エルザとダンはここからエディソンを挟んで反対側の村出身。そして、二つの村長間公認の幼なじみドキドキ熱々カップル。」


「そう、彼とは小さい頃から熱々のカップル生活を………まだカップルちゃうわっ!!と、言うかこのやりとり何回目よっ!?」


「「まだ?」」


「…………コホンッ、そうよ。彼、成人してもう十年になるのに変わってないのよ。本当に困った人なのよねぇ。」


 ロイドとシルフィの追撃を華麗なスルースキルで交わして、やれやれとでも良いたげな愚痴を言っているエルザだが、呆れた表情の瞳には何処かしか誇らしげな、信頼している光があった。


 良いよな。小さい頃から自分を守ってくれる存在は………そういえば、俺は義妹を守れれていただろうか?記憶がない。


うん。多分、守っていたと思うわ。


 ちなみに彼は小さい頃は義妹によって守られていた側であるのは言うまでもない。


とりあえず、あのケンカは止めねえとな。


俺は、ダンの前でに進み出でて割って入ることにした。


「おいダン。一旦落ち着けって!この後は俺が交渉するから。な?」


「うるせぇ。オーガ野郎!!」


「その男の言う通りだ。お前なんか話にならない!」


「何だ何だ。朝から騒がしい。朝から騒ぐとは若気の至りにしてはちとやり過ぎだな。ここは老骨が裁きを与えんといかねぇな?」


 本来起こす側だったはずの俺が間に入り、喧嘩の仲裁に入ろうとしたとき、突然、門の裏からドスの効いた老人の声が聞こえてきたと同時に門が開かれた。


その殺気にこの場の全員に緊張が走る。


シンシアと名乗る青年とロア以外の全員がそれぞれの武器を構える中、老人はそんなことお構い無しにシンシアの方に向いてまるで普段通りのように話しかけた。


「どうしたシンシア。ま〜た、お前が騒ぎを起こしたのか?」


 そこにいたのは、シワシワの老人ではなく、少しシワが生えている程度の元気ハツラツで悪賢そうな老人だった。


 体格も良く、背丈は俺と大差はない。そして、山賊の格好をしていて、本人の独特な落ち着きがあるオーラが無ければ、山の中で遭遇したとき、うっかり野盗と、間違えて斬りかかってしまいそうな自信がある。


 精悍な顔つきで何処か悪巧みが大好きそうな悪戯爺さんって感じだ。手に持った酒瓶をグビグビしながら説教しているのには目を閉じるとして。


「先生!!」


シンシアと呼ばれた男は振り返って、その爺さんに近づき、片膝をついて頭を軽く下げる。


対して、先生と呼ばれた老人はシンシアの両肩に手を置いて、背を真っ直ぐ正させた。


「なあ?今さら言うのもなんだが、態度はもう少し崩してもいいんだぞ?俺は堅苦しいのは嫌いだ。もっとフランクに行こうぜ?」


「なんのことでしょうか?先生(キラキラキラキラ


「ハァ〜、で、お前らは?」


 明らかに尊敬の情を抱いており、良くも悪くも頑固な青年の達の悪さに、諦め半分呆れ半分にため息を吐きながら言いながらこちらを訝しげに見る老人。


(よく見ると、誰かに似ているような似ていないような?……………誰だっけな?)


 冷え切った空気が無くなったことに、唖然と全員が取り敢えず戦闘の構えを解いている間にも師弟同士の話は進んでいく。


「お久しぶりです。先生!!シンシアさんも大きく成りましたね。」


 一番最初に声をかけたのはロアだ。彼女は一歩前に出て、その老人に話しかる。どうやらロアとシンシアという青年はこの老人の門人のようだ。


 それに合わせるようにその老人は腰を下ろしてからロアと目線を同じにした後、懐かしそうに顔を和らげた。


「ロア姉さんは、いつまでも姿形が変わらないですね。いったいどうやって若作り(笑)を…―ガン―グフッ!?ッ〜〜〜〜〜!!!!!?!?!」


 シンシアが少し気恥ずかしそうにロアをからかうように、後ろ頭をかきながら女性全般に当てはまる地雷を踏み抜いていたが、


 案の定、彼はロアに弁慶の泣きどころを蹴られた。


「貴方はどうしてデリカシーがないんですか?私、貴方に子供の頃から教えていましたよね?『女性にたいしては年齢について探ってはいけません』と、何度言えばわかるんですか?だから貴方には彼女がいないんです。」


「でも……」


「『でも』じゃ、ありません。いいですか?

 貴方のビジュアルとその生真面目さなら、彼女の1人や2人ならすぐにできるはずです。その時、苦労するのは勿論、貴方自身ですよ?

 もう成人の儀式は受けたんですから、もう少し大人になってください。貴方が立派になれば、先生も私も鼻が高いんですから…………」


 それにしても、なんというか、幼さのある少女が弟弟子である青年に先輩風を吹かしている光景ははどこか和む風景画である。


そして、ロアにしては珍しくやけに饒舌だった。


 なんだか、冷たい雪の上で正座させられているシンシアを見るとどこかシンパシーを感じてしまい、同情しそうになるが、自業自得なので何も言えない。


(うっ、誰かによくこんなふうに説教されていた嫌な記憶が…………ふう〜。忘れよう。)


見るに見かねて悪賢そうな爺さんが説教が一段落した段階で割って間に入ってきた。


「まあまあ、こいつも反省してるんだ。それくらいにしてやってくれ。それにしても、相変わらず元気そうだな?宿題は終わったか?いつもの堅物ドワーフのジジイはどうした?」


「宿題はまだ途中です。師匠は、別の予定があって…今日は私が頼まれました。」


「へぇ、ロアが………?、それにしてもお前、いつもより何処か元気そうだな?何か大事なことでもあったんか?」


「はい、それは…」


 そう言って、ロアはゆっくりと振り向いて目線を俺に向ける。


(えぇ?、俺?)


 老人はロアに促されて俺に目線を送ると何故か固まってしまった。その表情には驚愕の他に安堵や悲哀、怒りや喜びなど、複雑そうな様子でこちらを魅入っていた。


ん?急に俺の顔見てどうしたんだこの爺さん?


「おい、爺さん?俺の顔に何か付いてたか?」


俺がそえ聞いてみると、正気に戻った爺さんは動揺を隠すために咳払いをして誤魔化した。


「ゴホンッ!!………いや。なんでもない。済まねえな。歳を取ると、ついボーと、しちまうんだ。気にせんでいい。」


「そんな事、ありませんよ。先生。"明晰"と言われた先生がボケるなんてあと千年は掛かると思われます。」


「俺はそんなに生きねえよ。あと、せいぜいもって、百年だろうよ。」


「それはもうドワーフの域です。先生。」


師弟漫才を繰り出すシンシアと爺さん。なんなんだ。その明晰とやらは?


「おい!ちょっと待て。さっきこのジジイのことをを、『明晰』って言ったか?」


「おい。先生は、英雄の送人の一人、『明晰』だぞ?ジジイとはなんだ。失礼だぞ!?」


淡々というシンシアの"明晰"という言葉をきいた瞬間、俺とロア以外の全員がおののき出した。


「「「ええええええええ〜〜〜!?」」」


「あの『明晰』が何でここにぃ〜!?」


「そ、そんなに凄いのか?」


「はあ?あの英雄の明晰だぞ?知らねぇのか?」


 ダンが、目を見開いて信じられないようなものを見たかのような顔で俺を見つめて詰め寄ってくる。


「痛ってぇな〜、肩を揺らすなコラッ………で、その明晰ってのはそんなにすげえのかよ。」


肩を揺さぶられていた俺の言葉に、エルザまでもが信じられないような顔をして、矢継ぎ早に聞いてきた。


「"英雄の送人"っていう集団知らないのかしら?」


「ん?聞き覚えがあるようなないような?」


「「はあ?」」


それには、老人もヒクヒクと顔を引き攣らせながら様子で驚いているようだ。


「お前…どんな田舎から来たんだよ。」


 俺の肩を揺らすのをダンは驚きを通り越して呆れ始めたようだ。人の俗世に最も縁が遠そうであるレシアンでさえ、俺を不思議の生き物を見る目で俺を見ていた。


「ふむぅ、この大陸では知らぬものはいない英雄達の集団なのだが………我々オーガでさえ、噂は聞いている。なるほど、これがロア嬢が持っていた斧の主か、納得ダ。」


「おっ?やりたそうな目をしてそうだな。丁度斧も返ってきたんだ。運動ごなしにやるか?」


「いいヤ、辞めておこウ。まだ俺には役不足だったようダ。」


「ちぇ、つまんねえ。」


「「師匠」「先生」。安静にしてください。」」


「ハイハイ」




(仕方ねえだろ。俺は田舎から来たんじゃなくて過去から来たんだ!!絶賛時代のなかで迷子なんだよ。悪かったな。知らなくて……あれ?確か、アーノルド爺さんがそんなこと言ってたような……)


『お主が立てた傭兵団の名前もそれをもとに付けられたのだぞ?』


(あっ、あぁ〜!?もしかして、この爺さんは俺と知り合いかもしれねえってことか?)


「と言うか。せ、先生の名どころか、あの"英雄の送人"を知らないだとぉ?あの100年戦争を終わらした伝説の傭兵団、平和の導き手と言われたゴニョゴニョ。」


「あ〜あ〜!!めんどくせぇ。せっかくの朝なのに、お前の師匠自慢のせいで日が暮れちまう。そのことは村に入ってから俺がいないときにゆっくりと話せよ。きっと喜ばれるから。」


「先生!?」


 俺に怒りと困惑の半分なシンシアを、グイグイと門の内側へと押していく老人は俺達を置いていって姿が見えなくなってしまった。


「あの?」


ロアが、困惑しているようだ。多分だか、いつもの老人とは違う雰囲気でも感じだのだろうか?


 ロアの声かけに気がついているのか気がついていないのか、明晰と呼ばれた老人は、シンシアの肩を押しながら門に内側に入っていってしまった。


 そのまま置いてきぼりにされた雰囲気のようだったが、門はあいたままだが入って良いのだろうか?


 そんな疑問が全員の心を一つのまとめていた所で、明晰と呼ばれていた老人の頑丈そうな手だけが出てきてこっちに手招きをしてきた。


「ちゃんと門は締めとけよ?」


どうやら入門の許可は下りたようだ。


 この雰囲気、元から知り慣れているような気がする。どうしてだろうか。さっきから旧友と巡り合えた喜びの感情が、身体?いや、魂が?俺の心に訴えている気がするんだ。この気持ちは…いったい…。


痛たっ!?また頭が痛くなってきた。


そんな漠然としたモヤモヤ感を残したまま、頭痛がする中、俺達はスエーデ村へと入っていった。





 スエーデ村の外見は明らかに外部の者を警戒している建物が多いせいか、一見何処か堅苦しい感じだったが、門を抜けるといつも通りの懐かしい村の風景が広がっていた。


 収穫は済んでいるのか、麦畑だったところは寂しげに雪が降り積もっているが、代わりに今は干し草が木の枝でできた棒状の柱に大量吊るされている。


小さい頃は、よく畑仕事手伝わされたな。


懐かしい。


急に目から一粒の涙がツウと頬を通り過ぎていった。


(どうしてだ?どうして今俺は涙を流して流しているんだ?)


 今は雪が降り積もり民家を白く塗り直しているが元の原型がどんな感じだったのかが涙のレンズを通して鮮明に映っている。


(分からない。どうして俺は………。

 そうか、やっと、やっと俺は帰ってきたんだな。俺の故郷のスエーデ村に……。)


俺は周りが気が付かないように少しだけ濡れた頬をゴシゴシとこすって皆に続く。


 でも、どうしてしばらくぶりに故郷に帰ってこれたのに、安堵感が体の奥から吹き出しているのに、どこか満たされていないんだろうか?


何か、たった一つの、何かが足りていない気がした。


それは、物だったか?それとも…人だったか?


分からなかった。


―おかえりなさい。お兄さん。―


「うん?」


 急に、誰かかは忘れたがどこからか聞き慣れた懐かしい女性の声が後ろから聞こえた気がしたと思ったが、振り返っても誰もいない。


空虚な白い雪が只々降り積もっているだけである。


(誰か、いたんだろうかか?………たくっ、久しぶりの故郷に帰ってこれたせいなのか、ホームシックで空耳でも聞こえたのか?)


「お〜い!早く来いよ!オーガ野郎。村の人達が総出で俺達を歓迎してくれるってよ!!」


少し離れた位置からダンの声が聞こえた。続けて、シルフィの声が聞こえる。


「早く来ないと、ご馳走食べ尽くしちゃうよ?いいの?」


「ああ、分かったよ。今行く。」


返事をしていると急にバードが震えだした。


「相棒!実は、ここに君の記憶を取り戻す手がかりがあるんだ。焦らずにゆっくりと思い出していこう。それが今の僕らの目的だろう?」


「…………だろうな。………何故かは分からんが、どこか懐かしい感じがする。それにしばらくはここに留まるんだ。急がなくてもそのうち手がかりが見つかるんだろう?」


「………きっと、そうだよ。神剣である僕が保証してあげるよ。」


 バードの自身満々の姿につい微笑みながら、俺は白い息を吐きながら口を開いた。


「ああ、そうだな。期待してるよ。」


俺は皆に追いつくように、止まっていた足を少しだけ早く動かして、皆の足跡を追っていった。




―――――                ―――――



俺達は村の中に唯一ある少し小さな酒場で歓迎を受けていた。


 総勢100人近くの村人やこの村に滞在していた行く数人の俺達以外の冒険者達が今この少し狭い酒場の中でごった返していて、冬の寒気に負けないくらいの熱量を発していた。


「へぇ〜、僧侶のお姉ちゃん。獣人なんだ〜!!」


「そう。私は猫の獣人。獣人族見たことないの?」


「うん!エルフとかドワーフの人はたまに来るけど。それ以外は見たことないんだ〜〜!!」


「私、耳触りた〜い!!」


「僕も!」「私も!」


「だ〜め、獣人の女性の耳は、将来の旦那さんにしか触らせちゃいけない。」


「そうなの?」


「そう。だからボクが大きくなって立派になって、そしてお金を稼げるようになってから言って。」


「分かった!!」「私は〜?」


「それは、献上して。教会に一度通してから主にその中身は私に。」


 シルフィは獣人の物珍しさに当てがれた子供たちに囲まれてジャレつかれていた。意外と子供に人気があるのはやはり、腐っても僧侶なんだろう。


 そしてシルフィ、お前のその教えは子供にはまだ早い。一応腐っても僧侶なんだから子供の純粋さに付け込んで変なことを教え込むな。


あと、何故中抜きをサラッと明言してるんだ?迷言だけに。


「へぇ〜、エルザって言うんだ?中々いい線行ってるじゃないか。何属性が得意なんだい?」


「氷属性よ。それ以外は苦手だけど。」


「へえ?じゃあ、このソルティア様が教えてやろうじゃないか。逆属性の火が得意だが。」


「それって、貴方が教える意味は……?」


「いや、実はあるのさ。魔術と魔法の違いは知っているんだろう?」


「え〜と……魔術は決まった術式で常識を捻じ曲げることで、空間の魔力から魔力を集中させてマナをに変換し生成することができる。

 そして、それを術式通りに決まった発動を行う行為を指す。魔法については、術式を使用せずに魔力を直接運用することで常識を曲げることを指す。ですよね?」


「ああ。そうさ。じゃあ、魔法使いとしてのその定義は?条件は?」


「上級魔法を習得した上で、無詠唱を習得したものでしたよね?

 私は魔術師の域を出ていないのであまり分からないけど……。」


「惜しい。少し惜しい。魔法使いとは、要は決まった想像通りに常識を押し曲げる者。

 彼らは術式にとらわれずに自分が思ったとおりに常識を歪ませて魔力を現象に変換させること。

 それは、魔力ひいてはマナと外界の関係を結ぶ架け橋になること。」


「?」


「簡単に言えば、マナとは人に体内にある、いや、これは語弊があるか………。

 そう。マナとは魂、私たちが言うならば魔力核を中心に身体に流れる内なるエネルギー。

 魔力とはこの世界にありふれた外なるエネルギー。 

人はマナを利用して魔術を使う。魔法使いは魔力をそのままマナに変えずに利用する。魔族や魔物はそれを吸収し、生きる為の糧の一部とする。

 なら、その属性とは?その属性の違いとは?

これが分かれば、魔法使いと魔術師の真なる違いがわかるはずだ。」


「なるほど………、確かに……その視点は考えてみたこともなかった。

 そのことについて、人魔術学院では魔術の術式やその歴史しか教えてもらえないから。

 魔力は根本的にエネルギー源として変わらないがマナに変換することで始めて属性や形質が変化する。

 ならば、魔力を直接運用すれば、その変換という無駄とも言える仕組みを取り除けば、属性は表裏いったいの変化をこなしている存在ということになる。

 ある意味言い換えれば、貴方がいう「イメージ通りに常識を捻じ曲げられる」けど、だとしたら何故私達は魔術を利用するの……?何故、マナに変換するの?今までの魔術の常識はまやかしだった……の?」


「ほう…気付いたか。ヒクッ。やっぱり君には()()程ではないが、かなり魔女となれる素質があるようだ。(グビグビ)ぷは〜!!この冬の間だけでもいいから、やっぱり私の弟子にならないかい?


この『紅の魔女』の2番弟子に!!!」


「魔女!?」


 シルフィが子供にたかられているその向こう側では、エルザがソルティアさんに魔術魔法談義を項目に師弟関係を結ぶために絡まれていた。


いや、ソルティアさん!??


 というか、姿が全く変わってないんだけど。


絶対にそのこと聞いたら、本人に聞いたら、また誰かさんみたいに『酒の功名』だとか言い出しそうだ。


「おいガキンチョ。俺の酒が飲めねえとは言わせねぇぞ?」


「それはアルハラだ。このご時世では、それはご法度だ。辞めておけ。あとダン。おれの名前ガキンチョじゃない。俺の名前はシンシアだ!!」


 険悪な雰囲気で酒を飲み交わす2人、お互い嫌いなら離れればいいのに難儀な奴らだ。

 だが、意外と仲は悪くなさそうに見えるのなぜだろうか?


 2人のあべこべな関係のせいで混乱した頭を正常に戻すために、俺は周りを見回してみることにした。


 それにしても村人1人1人がいい訓練を施されている。いくら、父への贖罪のために村人を鍛えたとしても、正直コーラスさん、やっぱりこれはやり過ぎだ。


 酒に酔っているくせに、さりげない動きにも体幹は崩しておらず、しっかりと予備動作が備わっていた。


全員がある程度身体の作りが出来ていて、王国の下手な正規兵よりも頑強な者ばかりだ。


クラスで言うならば、複数人の兵士に対して一人で大立ち回りできるDクラスくらいはありそうだ。


この村一つで立派な軍隊に近い。過剰な戦力にぶっちゃけドン引きである。


 その村人たちの中で、とくに血気盛んな若者達がロイドとレシアンを巻き込んで、雪が一瞬で蒸発しそうなくらいの熱気を発しながら取っ組み合いのケンカをしている光景を俺はロアと一緒に、端っこでそんな光景を眺めながら「レス・ロックバード」の丸焼きを頬張っていると、さっきまで村長と真剣な話し合いをしていた明晰と呼ばれた老人が沢山座っている酒を掻っ攫ってきた俺の隣に座ってきた。


「よっこらせっと。どうだ?この村の様子は?」


「元気な村だ。寧ろ騒がしいくらいだ。」


「久しぶりに来ましたが、変わらず活気のある良い村ですね。」


 ロアの言う通り、この村は若者からヨボヨボの年寄り、そして女、子供までも全員に活力があるっていうか、生き生きとしてるって感じだ。


 俺の記憶の中と殆ど変わっていない。一人一人が鍛え込まれていること以外、元気な村人の様子は昔から、この村は変わっていない。


 きっと世界の情勢がどうなろうとも、この村だけは昔から殆ど変わらないのだろう。全員が助け合いながら自給自足をしてるし、貨幣なんて使ってる姿なんて、殆どない。


本当にここの人たちは伸び伸びと生きているように見える。


「…………ああ、そうだな。ここは元気な村だ。ここにいるだけで、俺達のやってきた活動に意味があると信じられるからな………。」


そう言って、酒瓶を一度あおる老人にロアは控えめな視線を向けた。


「それは、「英雄の送人」としての活動ですか。」


「ああ。もう、いまでは皆バラバラになっちまったがな。アイツラや俺、ひいては()()()の努力や覚悟は報われたと俺は思うさ。だろう?」


「…………そうですね。」


 チラリと二人が俺を見てくるが残念ながら今の俺は記憶喪失だ。


 俺も当時の仲間だったらしいが、何か一言言ってほしい様子だったので言葉を選びながら慎重に言葉を繕った。


そういえば、ロアも英雄の送人の一員だったんだっけ?記憶にない。


「済まないが、俺は記憶喪失でな。あまり多くを語れないが、確かに()()()と比べたら比べ物にならないくらいに平和になったと思う。」


「!?…………ふっ、そうか………そう言ってくれると、あいつらも報われるよ。」


どうやらこう答えて正解だったらしい。そう言って、明晰は安心しきったかのように、ただ笑顔で軽快に笑った。


ロアは、俺と明晰のやりとりを見て見慣れない笑顔を零していた。



温かくも優しい喧騒が皆を冬から守ってくれる。そんな村人達に俺達は心のなかで感謝を述べた。


3人の間に暫くの間心地が良い沈黙が琴線の音と一緒に流れていく。





「そういえば、お前()()()()なのか?」


「ああ…そうなんたが、それについてなんだがな。」


俺が言いにくそうにしてるとロアが俺の言葉を付け加えてきた。


「アンセムさんは。実のところ仲間との思い出を中心に記憶喪失がおこっているんです。」


「はあ?限定的に?」


「ああ、困ったことに。今は記憶を取り戻しにあちこちを奔走する予定さ。

 ちなみにここに何かを思い出す為のヒントがあると聞いて、ここにきた次第だ。」


「なんというか…マジかよ……。」


 思わぬことに困惑している様子の明晰。俺だって困惑してる。


「そうだ。アーノルド爺さんに言われてこっちにきたんだが、何か知らないか?」


 俺の言葉に何かで勘付いた明晰は、目をパチクリとして暫しの思考をする姿勢になる。

 そして、少し時間が経つと、彼は歳の割には素早い身のこなしで様子で急に怒った様子で腰を上げる。


「それってつまり、アーノルドのジジイは知っててあえて俺に黙ってたってことか?」


 ロアから渡されたバトルアックスをチラリと目線に入れながら凄む明晰の圧は物凄く重い。


周りも急に英雄が起こり出したことに驚き、こちらをビクビクと伺っている。


ロアは何処か言葉を選ぶように丁寧に言葉を紡いだ。


「そ、それは………はい。師匠はアンセムさんが現れたときにはすぐには貴方に伝えませんでした。でも、貴方にでもアンセムさんが現れたのは、つい最近で………。」


「あの爺さんなら、いくらでもすぐにできる伝達手段は持ってるだろうが!?俺はこの時を、どれほど待ち望んで来たことか。」


「私もそれは言いましたが、本人曰く、『どうせなら驚かしたほうが愉快じゃろ?』と…」


「チッ!?プッは〜〜!!昔からあのドワーフはマイペースに生きてやがる。こっちの身にもなってみやがれってんだ。」


 ビクリと肩を震わせるロアに流石に怒る相手を間違えたと気がついたのか、明晰は舌打ちしながらドカッと腰を下ろして酒を思いっきり傾けた。


「どういうことだ?」


「こっちの話だ。いや…お前がその騒動の中心人物だったわ。」


 一瞬静かになっていた周囲がガヤガヤと周りの声が大きくなっていく。喧嘩で騒がしくなかったら、明快の声は全員に聞こえていただろう。


「なあ、明晰。」


「ジジイでいい。」


「なあ、ジジイ?」


「なんだ?」


「俺、お前と初対面じゃねえと思うんだけどなんか知らねえか?」


「ブホォーーーー!?ゲホッゲホッ。今それを聞くか?はぁ〜。そのことだが、詳しいことは明日の朝話す。色々込み入った話だ。それでいいか?」


「…………分かった。」


「済まねえな。俺は明日の仕事がある。もう寝なきゃな。医者に「酒は控えめにして、薬をちゃんと飲め」って言われてるからな。また明日の朝会おう。ゴホッゴホッ。」


 そう咳を切りながら、明晰は逃げるようにそそくさと真っ直ぐと酒場の扉を出ていった。


「なあ?ロア。」


「はい……。」


ロアは俺が何を質問するのか分かったのか辛そうな顔をする。


「あいつ、なんか体調が悪そうだが?」


「……病気です。不治の病だと診断されました。」


「もう、長くないのか?」


「はい。先生はもう90は超えていますし、良くて来年の冬まで持つかどうかと言われたようです。」


「そうか。」


暗い空気を変えるために咳払いをしてロアに再び声をかける。


「なあ?せっかくなんだ。あのデカい肉一緒に食べねえか?」


俺が指を向ける方には何かはわからないが野獣の丸焼きが運ばれて来ていた。


ロアもその方向を見てコクリと頷いた。


「ええ、食べましょう。」


 ロアと一緒に丸焼きへと歩いていると、途中でチラッと再び周りで冒険者達が見えた。


冒険者ギルドで街から外出するのは禁止されてなかったか?


俺たちもあんまり人のこと言えないけど。


 その中でも白髪頭の初老間近の男が俺とロアの気がついたのか、こちらを見て朗らかに微笑みながらに近づいてきた。


ここらの地域にはいない少し平たい顔付きをしている。


よそから来た冒険者か?


「やぁ、お前さん等はここらの地域の冒険者か?」


「あぁ〜そうだが?そちらさんは?」


「ああ?そうだったな。名乗るのを忘れていた。オレの名はゲンライ。まあ、グランオール帝国からきた冒険者達の取りまとめをしてる。よろしく。」


そう言ってから厳格な顔を崩して笑いかけるゲンライは俺に手を差し向けてきた。


「アンセムだ。こっちはオレの依頼人だ。名前は明かせない。こちらこそ、よろしく頼む。」


 俺はその手を握り返して、自己紹介を済ませるがどうして、グランオール帝国の冒険者がここにいるんだろうか?


 確かに、このオール山脈はマクロス王国とグランオール帝国の国境沿いにあるが、ここは辺境と言っても過言ではない。


 冒険者としての旨味はあっても、名声目当てなら、こんな小さな辺境の村よりももっと大きな街に行ったほうがいいだろうに。


「どうして、帝国出身の冒険者がここに?」


 冒険者同士の過度な詮索はマナー違反だが、怪しい連中には問いたださなければいけない。ここスエーデ村で暴れられては困る。


 ただでさえ、グランオール帝国はきな臭いのに、その国の出身の冒険者なんて信用できない。


 俺のそんな考えとは裏腹にいつの間にか取り分けられた丸焼き肉を頬張っていたゲンライはキョトンとした後、盛大に笑った。


「何がおかしいんだ?」


「アハハハッ!!、いや〜な、そんなに身構えなくていい。俺達は別にグランオール帝国お雇いの間者でもないさ。

 こっちだって最近のグランオール帝国の情勢が怪しくなったもんで、逃げてきたってだけだ。

 ほれ、丸焼き肉だ。おまえらもこれがお目当てなんだろう?それを聞きながら世間話でもしようや。」


 ロアと一緒にゲンライから貰った丸焼き肉をパクつきながら話を聞いてみると、どうやらグランオール帝国では皇室派と軍閥復興派の争いが激化していて、それが国民を巻き込見始めているらしく、国全体が怪しい雰囲気になっているので、面倒事がふりかかってくる前に、逃げ出してきたとのこと。


 自分達以外にも周辺国に出ていった冒険者もかなり多いらしく。これからもっと続出するだろうとゲンライは言っていた。


(なんというか、随分きな臭くなってないか?なんだよ。国民の多くが軍事拡大を要求してるって。戦争はもうごめんだぞ?)


「疑って済まなかった。いい情報ありがとな。」


「良いさ。情報共有。それが危険が付き物の冒険者の生きていく上の基本の心得だからな。

 それに、これは確定事項だが、俺のパーティーや他のパーティーも冬が明けるまではこの村で、過ごすことになるからな。隣人さんと仲良くするのは冒険者の心得だろ?」


そう言って、ウィンクをするゲンライ。


 おい?聞いたか?エディソンの今の冒険者の諸君?彼はちゃんと挨拶をしてきたぞ?喧嘩式ではなく。

 彼を見本にして、だらけきった下品な魂を洗ってほしいものだ。


 俺達との情報交換を兼ねて少し雑談を挟んだゲンライは、仲間達に呼ばれて俺に「何か困ったら声をかけろ」と言って仲間のパーティーメンバーのいるところに戻っていった。


 その時チラリと首にかけていた冒険組合のプレート(帝国の冒険者をまとめている組織は冒険組合と言われており、ここマクロス王国の冒険者ギルドとは犬猿の仲だ。ギルドは冒険者に証明書としてカードを発行しているが、組合は薄いプレートを発行しているため、直ぐに帝国の冒険者だと分かったのだ。)が揺れるのを見た。


そのランクはなんとBランクだった。


 おいおいまじかよ。俺の一つ下ではあるが、Bランクの冒険者パーティーだと?


 その時、俺の身体がゾクリと震えた気がした。ここマクロス王国では、ただでさえ、冒険者は純粋に強者である者は少ない。Cランクなんて一つの街に1、2グループくらいしかいない。Bランクなんて尚更だ。いても、おそらく国の首都やダンジョンを中心に発展した都市くらいだろう。


 あいつ強いのか?戦ったらどんな技を見せてくれるのか?ああ、戦いたい。戦いたい。戦いたい。戦いたい。戦いたい。


「アンセムさん…アンセムさん?」


「ん?」


「その…怖い顔をしてました。」


 見ると、ロアの顔が青ざめて小動物のように震えていた。その時、俺は不気味な笑顔をしていることに気がついた。


何とか自分の中の狂気をしまい込みながら、俺はロアの前で両手を揃えて頭をさげる。


「す、すまねぇ!?ロア。怖がらせちまって。」


「大丈夫です。昔からアンセムさんは強い人と出会うと、そうなっていましたから……。ただ、久しぶりに見て、驚いてしまっただけです。」


「本当に済まなかった。怖がらせた埋め合わせはするから。」


 恐縮していたロアだったが、控えめな様子で、ロアは急に顔を赤らめて、こちらから顔を背けながら俺に頼み込んできた。


「じゃあ、そのうち一緒に『でぇと』しましょう…。」


でぇと?そんなことでいいのか?


「良いけどよ…、それで良いのか?」


「良いです。それだけでも十分です。」


「お〜いオーガ野郎!?」


「なんだ?」「なんダ?」


「アッハッハッハッ!!いい加減もうやめてそのクダリ、腹筋が割れちゃう!?」


「ププッ、相棒とレシアンの顔が全く同時にこっちを向く姿は滑稽だね。」


(う、うるせぇー武器勢ども!)


「こっち来いよ。エクストリームチェス大会を開くんだってよ!!お前達も来い!!」


「楽しそうだな。」

(エクストリームチェスってなんだ?)


村人たちの歓声が狭い酒場に響き渡る。


「私もやる。エルザは?逃げる?」


「カッチーン。何?ここで決着つけようっての?」


「懐かしい。遊びだ。アンセム殿。対戦しないカ?」


「良いぞ?」

(エクストリームチェスってなに?)


「最近巷で流行っているのエクストリームチェスです。私、アンセムさんに全部お金かけます。勝ってくださいね?」


「わ、分かった!」


「いよぉ〜し!!僕の真の力を見せる時が来たようだな…。」


凄むロイド。その近くでは物珍しそうに見ているゲンライ。


「何だ何だ?異国の文化か?楽しそうだな?」


 その後、夜が更けるまで大いにエクストリームチェスは盛り上がったという。


エクストリームチェスって結局なんだったんだ?


1月3日の0:00です。お楽しみに!!

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