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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第三章〜追憶の君へ〜
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⑲「ニンギヌスの使い①」


「ピィー!!」


背後から幾つもの恐ろしい鷲の声が聞こえてくる。


「どうする?どうしますかー!?どうするんだよ〜!!黒板消しを教室に入って来た時に落とされた先生並みに怒ってらしゃいますが〜!?」


「ハイ!ロイド先生ぃ〜!!」


「ハイ。シルフィ君。そこのキミィ〜!!」


「ここは、比較的に美味しそうに見えるエルザが適任だと思います。あと元からこの鷹は白い色をしておるかと。」


「ハイ。却下だぁ〜!!エルザは鳥の餌じゃあ、ありません。もう一度小学生からやり直そうねぇ〜!!」


「おいコラ!!エルザを、勝手にエサ扱いするな。もっと高級そうな、そうグリフォンの生贄のほうが似合うだろう?」


「確かに…。」「完璧な答えだ。」「ま、負けた…。」


「ちょっと、うるさい!!3人とも。黙ってて!!後で覚えときなさいよ!!」


 時々飛んでくる岩を魔法で弾き返しているエルザがキッと三人を睨めつけた。

 鷹ならぬエルザの恐ろしい目で睨みつけられた三人は綺麗に敬礼を揃え、息を合わせて叫んだ。


「「「アイアイマム!!!」」」


「い、いつもこんな感じなのカ…?」


レシアンが困惑したような声で俺に聞いてきた。

俺はため息を吐きながらその質問に答えた。


「まあ…なんだかんだこいつらもやるときはヤルからな…多目に見てやってくれ。俺も慣れたのは最近だ。」


「そ、そうなのか…?あ、危ないゾ!?」


 レシアンが俺に警告すると同時に、ニンギヌスの使いの一匹が俺めがけて突っ込んできた。

物凄いスピードだ。音速の速さと言ってもおかしくない。

 俺はすぐさま反応して鉤爪を身体を右に仰け反ることで間一髪で避ける事が出来た。


 その時、一瞬だけ通り向けざまに突っ込んできたニンギヌスの使いのそれぞれの鋭い目と合う。片方の目は古傷のせいで閉じている。


俺のことを見定めるような、狩人の目をしていた。


それは、ほんの一瞬だったが、俺は確信した。


アイツがこの群れのボスだ。間違いない。


 そのまま猛スピードで通りかかるニンギヌスの使いのボスに反撃をしようと聖剣を振るが、ロアが張り付いているせいで上手く振れない。


 そのせいもあるが、こいつ滅茶苦茶素早かった。


 俺の一撃は軽々しくニンギヌスの使いボスに避けられてしまった。


ボスはそのまま俺達の前方で上昇して、元の群れの先頭の位置に戻っていった。


ムカつくやつだ。ボス自ら堂々と敵情視察してきやがった。


 それほど、俺達は馬鹿にされているとおうわけたが、納得だ。相手らの素早さは一級品。

 この素早さに翻弄されるだけの俺達人間なんて、普段から襲う狩りの対象でしかないというわけだ。


「クソッ!あの巨大でなんて素早さだ!?」


 ボスの突貫を期に次々と他のニンギヌスの使いの群れが俺達目掛けて突っ込んでくる。


 それぞれが応戦し、反撃を仕掛けようとするがどれもいまひとつ当たっていない。


「魔法も当たらないわ!!」


「こいつら、俺の槍をスレスレで避けやがる。」


皆、かなり苦戦しているようだ。


 その時、群れの一体を魔法防壁を展開しているシルフィが俺に向き直る。


「ま、魔剣の魔法は?」


シルフィの言葉で全員が俺を見つめる。


「バード。行けるか?」


俺が念を送ると、バスターソードの刀身が背中で揺れる。


「うん。無理。あの素早さじゃ、全部僕の魔法が届く前に避けられる。」


こりゃあどうも解説ご苦労さん。


「無理だな。」


 俺の胸元で俺の邪魔をしないようにじっとしているロアの魔法瓶もあの素早さでは容易く避けられてしまうだろう。


これで打つ手無しとい訳だ。


と、とにかく逃げるしか無い。このままコイツラが逃がしてくれるならだが………


俺はチラリとアイツの姿を確認する。


 他のニンギヌスの使いの個体より一回り大きい。全身4メートルはある巨体に、それを支えるように羽ばたいている白銀の翼、そして、二本の首に頭。


 二本のくちばしは黄金輝いており、俺達を狙っているのが見て取れる。鉤爪に関しては言うまでもなく。


 片目に傷がついている鋭い目は俺達を完全にロックオンしていた。


 うん。無理だ。あの目は俺達を取り逃がす気なんてサラサラ無い目だ。


俺は、黙って前に向きなおした。


 これ…下手したらワイバーンの群れよりも危険度が高いのでは?


 そんなことをチラリと気づいてしまった俺は後に後悔することになる。


「ねえ?、何であの鳥の周りに魔力が集まってるのかしら?」


そんな時、急に聖剣ちゃんもとい、セレーヌが疑問符を浮かべる。


俺はそのセレーヌの声に急いで振り返った。


 俺の目に映ったのはニンギヌスの使いの群れボスの鳴き声を合図に、一斉に風魔法を発動しようとしている姿だった。


「まずい!バード。魔力障壁の準備を!!」


「簡単に言ってくれるよ!!中級以上の魔術の使用は中々めんどくさいんだからね!!」


 俺は一度立ち止まり、愚痴の声が響くバスターソードを勢い良く抜いた。


刀身の周りでは、魔力が練られているのがよくわかる。


 そして、刀身の平たい部分で飛んでくる沢山の風の刃を全力で防いだ。


「ウォーーー!!!」


「我が内なる魔力よ、その大なる力を練り固め、大地より強固なる壁を顕現させよ。魔力障壁(マジックバリア)!!」


詠唱!?


珍しい。普段バードは魔法を使った時に、詠唱は唱えない。それに、この詠唱はあまり聞いたことがない。


まさか…オリジナルの詠唱か!?


 神秘的な光が放たれるのと同時に、俺の目の前で、5メートル程はある半透明な灰色の壁が展開し、俺達を守るように曲がりくねる。


それと同時に物凄い衝撃が俺の全身に来る。俺はその衝撃を踏ん張ることで抑え込んだ。


足裏が半分凍った地面に埋まっていくのが分かる。


「凄い…、魔法障壁は、面の形のはずなのに、どういう原理なの?」


エルザの感嘆とした声が後ろから聞こえてくる。


 暫く、強風が俺の周りを駆け巡るがついに全ての俺自身には届かなかった。


 ニンギヌスの使いの群れが放った風の斬撃は全て弾かれて、白が所々混じり始めた地面にくっきりと刻まれた。


「ハァハァ。」


何とか止められたようだ。


「見て、また次の魔法が来るよ!?」


 バードの警告にニンギヌスの使いがいる上空を見上げると、再び先程と同じ魔法を発動し始めた。


てっ、おいちょっと待てコラ。魔物がそう何度も何度も魔法使ったらずるいだろうが!!?


 魔物は、時間を要するが魔力を自力で生産出来ると言われている。人間には出来ない。人間は自然に流れる魔力を利用してそれを体内に溜め込むことで、それをいつでも使う事ができるという訳だ。


 つまり、何が言いたいかというと、人間には保有できる魔力量は有限だが、魔物の魔力量はほぼ無限と言ってもいいということだ。


 バードは生物ではなさそうだが、周りの魔力を吸った魔力を溜め込み、使っている。バードの魔力吸収量はそんなに良くないのだ。


そして、中級魔法は初期魔法とは違い、魔力消費量が段違いだ。いくら魔力量が多いバードでも、そう何度も利用できる切り札ではない筈だ。


このままではこっちがジリ貧なのは確実だった。


「各自、止めるな。直前で走るなよ!!あの風の斬撃が襲ってけるぞ!?」


「やっぱこうなるのね!?」


「「「どわぁぁ〜〜!!!!?」」」


かくして、俺達の命がけの鬼ごっこは始まったのだった。




―――――                ―――――



「ハァハァ。洞窟なんて、もうこりごりなんだが?」


「仕方ないじゃない!!アイツラが来れないような場所は地面の下ぐらいしか無いんだから。ハァハァ。」


ダンのこぼれた文句にエルザが息を切らせながら答える。皆、かなり疲弊していた。


 あの後、俺たちはニンギヌスの使いの群れに険しいオーランド山脈の険しい山道を半日中追いかけ回されたのだ。


 唯一余裕がありそうなのは俺とレシアンだけのようだ。まあ、これくらいならコーラスさんの訓練の方が格段に危険で辛かったので、当たり前だが。


レシアンもハーフとは言え、さすがオーガの血を引いているだけある。まだまだ行けるといった様子だ。


ただ、これだけは言いたい。


ニンギヌスの使い、かなり厄介な魔物だ。


何なのだ。あの戦闘能力は?


 本気で滑空してきたときの速さは、残像が見えるくらいは速いし、その身の硬さや丈夫さも頭がおかしいくらい硬い。


 その上、頭が2個あるのも反則だ。あの者には死角というものが一つも無い。そのくせ、意識が二つあるのに連携に無駄が全くないという厄介さ。


さらに、広範囲に及ぶ幾つもの風の斬撃のサービス付きだ。


 幸い森が広がっていたので何とかなっていたが、もしも、岩しか無い崖上だったら間違いなくあの斬撃によって俺たちはミンチになって全滅していただろう。


まさに、『ニンギヌスの使い』と、神の名が付けられているのは納得である。


あの群れの1体が街を襲ったら、一瞬で瓦礫の街となるだろう。所謂災害だ。


 そんな奴らに幾つもの冬明けを待っていたであろう木々を犠牲に我武者羅に逃げ回った。


 たまたま今俺たちがいる洞窟を見かけられたから、まだまだ良かったが、あのままでは確実に追い詰められていた。 


 あの動く災害の群れから逃げられた(正確には逃げ切れていない)のは幸いと言っても過言ではない。


 あのバジリスクや墓を守っていた黒騎士と比べたらそうでもないと感じるが、それでも十分驚異的である。


― ピィー ―


 まだ、あの忌々しげな小さくニンギヌスの使いの群れの鳴き声が聞こえてくる。


 恐らく、あのボスが、縄張りの侵入者である俺達をしつこく探しているのだろう。


暫くはここから出られない。何の柵もなしに洞窟の外に出たら、一網打尽にさせるだろう。


くそったれめ!!


「チッ、どうしょうもねえな。食料は村からの補給で余分にあるが、この人数じゃ、無くなるのはあっという間だ。」


 ダンが近くの大きな岩?のような物体に腰を下ろして、背をもたれたまま胸のポケットから取りだした水筒の中身をぐいっと傾ける。


「いったい、どうするんだろうか?ここらの洞窟も、奥は行き止まりだろうし…。」


ロイドの困った顔がたいまつの火に照らされている。


 そんなロイドの傍らでは、シルフィの顔が真っ青に染まっていた。激しく呼吸を繰り返しながら、鼻をヒクヒクさせている。


こ、今度はなんだ?


「ねぇ…ロイド。色々後から説明させるのは悪いと思うんだけど、この山の主って誰?」


「それは…アイスドラゴンか、アイスクラッシャーかな?」


「い、いったいそれがどうしたって言うの。シルフィ?」


 エルザが気味が悪そうに恐る恐る聞く。


 だが…当のシルフィは黙って動けていない。かなり警戒しているようだ。


大剣の鞘を静かに抜く準備をしているレシアンが警戒マックスな声色で変わりに答えてくれた。


「黒槍の男が座ってる奴が、そのアイスクラッシャーの腕と、シルフィは言いたいのダ。さっきから物凄い気配がこの洞窟に満ちてイル。」


さっきまで、安堵感が漂っていた雰囲気が急に、外の気温よりも冷たくなるのを感じた。


全く、最近化け物に遭遇しすぎである。多分だが、俺が記憶を失う前はここまで化け物と出会わなかった気がするんだが…。


いや、俺の体の記憶から人間の皮を被った化け物がそこら辺に沢山いたな。


決して比喩ではなく。あの時代は猛者しかいないんじゃないのかというほど強者が蔓延っていた。

 それは今、平和な時世からくる雰囲気を味わったからこそ分かることなのかもしれない。


よく、生き延びられたな、記憶を無くす前の俺。


「オイ、ロイド。そのアイスクラッシャーって怪物はどんなヤツなんだ?」


俺がコソコソ声で語りかけるとロイドはコソコソ声で焦ったように答える。


「このオーランド山脈一帯で生息してる。バカでかい図体で金属よりも硬い岩で出来た熊の化け物だよ。

 彼らが本気で殴ると、一発で池の氷が半分に割れることからそう呼ばれてる。冬の間は洞窟の中で冬眠してるんだ。」


「そんなに知ってるなら、何で事前に言わないんだ?」


「ごめん。ニンギヌスの使いの群れとの戦闘で頭から完全に抜けてたんだ。」


大した、言い訳だ。シーフの名が呆れるぜ。


「これ以上の詳しい説明はもうやめましょう?、アイスクラッシャーの腕に座っている当のリーダーの顔が雪よりも白くなってるわよ?」


エルザがコソコソ声で俺達に話しかけてきたとき、

 さっきまで押し黙って考えていたロアが急に口を開きだした。


「いい案を思いつけました。それもニンギヌスの使いをどうするかも、まとめて解決できる案を。」


皆がロアの方を見る。


ロアはいつも通りのクールな顔からは何を思い浮かべているのか、あまり分からなかった。


―――


「まず、アイスクラッシャーを私の魔法瓶で起こします。」


「「!?」」


「自殺行為だ!!アイツの強さは村に住んでいた僕が一番知ってる。」


「最後まで話を聞いてください。私たちは、アイスクラッシャーの前に姿を見せません。外で私達を待ち構えているニンギヌスの使いに標的を切り替えるんです。」


「ふむ…いい案ダ。やるだけの価値はアルナ。」


顎を擦りながらニヤリとするオーガの青年。こうしてみると、意外とクールな奴だ。昨日の地団駄には目をつぶることにして。


「それで、両者が争っている内に俺達はとんずらするっていう算段だな?」


「そうです。」


「無理だ…見つかったら逃げ切れない。」


「私達は何をすればいいの?」


項垂れているロイドをスルーして、エルザが真剣な目つきでロアを見つめる。


「わ、私も。怖いけど。やらないよりはやるほうがマシだし…それに、獣人のプライドは捨ててない。」


震えていたシルフィがスッと震えを止める。


 きっと匂いで格上だと分かるのだろうが、それでも恐怖を押し殺しているようだ。


そして、シルフィはロイドに真正面から向き合う。


「腰抜けのロイドと私は違う。」


「誰が腰抜けだ!!」


ロイドがいきり立つが、寝相を打ったアイスクラッシャーのいびきの音に驚きたじろいだ。


「違う?たかが、山の主にビビって、何もしない貴方は腰抜けと何も変わらない。」


「くっ!!」


「けど、女神シルビアは恐怖に負けずに戦いに挑む者には祝福をくれる。貴方は立ち向かうだけで生き残れる。そう思わない?」


「わ、分かったよ。弱音を吐いて済まない。ロアには柄にもないことをさせてしまったよ。」


そう言って、2人は拍手を交わす。


これで、作戦実行に移せるというわけだ。


そういえば、何か忘れてないか?


「おい…、いい演説ご苦労だが、俺を引っ張り上げてくれないか?こいつ、俺のことを抱き枕が何かかと思っているらしい。」


皆がダンの声をする方を見ると、ダンが、アイスクラッシャーの大木よりも太い腕の下敷きになっていた。



次回は10月4日の土曜日0:00です。お楽しみに!!

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