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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第三章〜追憶の君へ〜
65/77

⑪「出発」


 俺とロア、黒き刃のパーティーは早朝で誰もいない「荒野の叫び」の一階ロッジを進んでいた。

 俺達がカウンターに着くと、カウンターの奥からしわがれているが、力強い声が聞こえてきた。


「誰だ?」


俺は、ロアと黒の刃のメンバーに遠くで待ってもらい。


バーのバーテンダーの前で座る。


「俺だ、マスター。冷たいウォッカと熱いお茶はどっちが美味しい?」


 俺とマスターしか分からない合言葉を見えない姿のマスターに投げかける。


 後ろ暗い世界を生きてきたマスターは警戒心は強い。だから、非業務時間のマスターと会うには合言葉が必要だ。


「そりゃあ、熱い夜はウォッカで冷えた朝はお茶だろ?」


「い〜や、違うね。」


「どうしてだ?」


「そりゃあ、朝は寝ぼけて頭が働かないから冷たいウォッカで頭を温めて、熱い夜には熱いお茶で頭を冷やすからだろう。」


「このやりとりも、久しぶりにやったなガキンチョ。」


「忘れているかと思ったよ。老いぼれて。」


「生意気なガキだ。」


「そっちこそ。」


 俺との軽口を叩き合いながら、カウンターの奥のドアから、マジックウェポンを持っているマスターが現れた。

 彼が持っているマジックウェポンは古代のダンジョンから発見されたものらしい。


 マスターはそれを護身用の道具として普段から扱っている。


 なんでも、少しの魔力を消費しながら引き金を引くと、金属が散弾のように飛んでいくらしい。

原理は未だに解明されていない古代の遺物だ。

ダンジョンでも滅多に発掘されない、かなり高価なものだった筈だ。


「全員揃っているな?話はオルガから聞いている。さっさと来い。俺はさっさと昼寝したいんだ。」


相変わらずのしかめっ面である。


 マスターとは、この街エディソンを取り決めしている裏のボスだ。

 普段、「荒野の叫び」で盗賊ギルドのマスターをしているが、それは表の顔で、裏では様々な情報網で情報をやり取りして、それを情報料として売っている情報屋を営んでもいる。

 さらに、ただの情報屋ではない。盗賊ギルドのギルドマスターなのだ。

 副ギルドマスターを変わりにギルドマスターとして置いて、裏で暗躍している。


 しかし、打って変わってカタギでの仕事しか許さない面があり、ギルドメンバーを完璧に統制してこの街に被害がでないようにしている人格者なのだ。


 マスターがいない時代、あんなに荒れていた盗賊ギルドだったが、今では完璧に統率された傭兵組織になっていた。


 俺がリリアと一緒に来ていた時にバカ騒ぎしていたギルドメンバーも実はあれで演技だったりする。


 俺達は、マスターに連れられて、静かにカウンターの奥へと進んでいった。

 ワインの樽が沢山ある部屋まで付いていくと、マスターが立ち止まり、マジックウェポンの持ち手の方で、ある一つの木製の箱の蓋をどかした。


そこを除いてみると、深い空間が下に広がっていた。


ダンが感嘆の口笛を吹く。


「こりゃあ、たまげたな。いくらかかるのやら。」


「モタモタせず、さっさと入れ。」


 そう言って、めんどくさそうに俺達に催促しているマスターに向かって、ロアがトコトコとした足取りで近づいていく。


ロアが近づいてくると、いつも通り機嫌が悪そうなマスターの表情は打って変わって優しそうな、何処にでもいるお爺さんの優しそうな表情になった。


確か最近、マスターにひ孫が出来たんだっけな?


そりゃあ、こんな顔になるか。


「マスター。これ、お礼です。」


ロアの小さな手から出されたのは、金貨が入った小さな賽銭袋と飴玉2つだった。


「ありがとな。お嬢ちゃん。身体に気をつけていくんだぞ?」


マスターがロアの頭を優しく撫でながら言った。


「ハイ。」


そのまま、俺達は静かにロープを伝って狭い空間を降りていく。


先頭をいくのは、剣士のロイド、次にダン、そしてその上をエルザ、シルフィが縄を伝っていく。


その後を俺とロアが殿を務めている。


 ちなみに、ロアは俺の身体に縛り付けられている。ロアの小さな身体では、ロープで降りる進みが遅くなってしまうからだ。


急に、突拍子なく下の方から、エルザの抗議の声が狭い空洞に響いた。


「ちょっと!?シルフィ?私の手を踏み台にしないでよ!?」


「エルザの腕は太くて大デブ。私は軽いから大丈夫。」


「私が太ってるってこと!?」


「そう。正解。よく分かったね。」


「下に着いたら覚えてなさい!」


「下につくまでは思えておく。」


「キィ〜〜!!」


「おい!?お前ら、暴れるな。下手したら落ちるだろうが!?後で二人とも肉奢ってやるから少しの間ぐらい落ち着け!!」


相変わらず、黒き刃は騒がしい。

思わず、クスッと笑っていた。

 初対面のイメージとは違って、コイツラはそんなに柄が悪いってわけではないようだ。


突然、上から、突然マスターの声が聞こえてきた。


「この先、お前に恨みがある組織が待ち構えてるかもしれん。お前はどうでもいいが、そのお嬢ちゃんだけは絶対に守り通せ。」


「ご忠告どうもありがとな。ひ孫のためにも、ロアに貰った飴に喉積もらせて死ぬなよ。マスター?」


「相変わらず、生意気なガキだ。俺はボケてねえぞ?まだまだ現役だバカモン。」


 そんなマスターと俺のツンツンしたやり取りしをしながら俺達は全員暗い空間の一番下までたどり着いた。


最後尾の俺が縄を三度揺らす動作を一息入れて繰り返す。


すると、縄が上に引き上げられていった。


「帰りは、ヒーメル村で待機していろ。検討を祈る。後、これは水路内の地図だ。迷ったらコレを使え。」


その声と共に、上から地図が入ったビンが落ちてきた。俺はそれをいち早く察知して、スッと片手でキャッチする。


「ああ、ここまでありがとな。マスター。帰ったら沢山酒を頼むからな。」


「自分の心配だけしとけ、若造が!!」


照れ隠しをするように、マスターが箱の蓋を閉じたことで、わずかな光が無くなり、暗闇からこの空間を支配した。


 暫く目を瞬きしていると、だんだん暗闇に目が慣れてきた。


 僅かに見えるようになってきたので、俺はすぐさまマジックバックの中を探して火打石を取り出す。

 そうして、用意してあった人数分のたいまつに火を灯して皆に渡していった。


 たいまつが皆に行き渡り、ある程度光が満ちた空間になって分かったが、どうやらここは地下水路らしかった。


 ほう…こんなもの昔はなかったが、平和になってこういうところまで、視野が伸びるようになったって訳だな。


 ロアを降ろしたあと、俺達はゆっくりとした足取りで、ロイドを先頭に、地下水路を渡っていく。


ロイドは剣士がメインの職業だが、シーカーも兼業していると昨日酔っ払いながらダンが教えてくれた。


 ふと、横で水が流れている水路をたいまつの光で、照らしてみてもそこが見えない。かなり深いようだ。


 シルフィとエルザがお互いに肘でつ付き合っている。そして、時々振り返ったダンが二人の頭に拳骨を食らわせるのまでがワンセットだった。


 よく飽きないものだ。きっと、仲がとても良いんだろう。多分。


 地図通りに、しばらく歩いていると2つの分かれ道に差し掛かった。地図を見ると、どちらからも行けるらしい。


「どうする?リーダー。」


ロイドが地図を見ているダンに、振り返り指示を仰いでいる。


「どちらからも行けるらしいが、どうしたものか…」


 対して、ダンは少々迷っているようだ。こういう人気が少ないくらい洞窟のような場所は、ゴブリンや魔物の巣窟と成りやすい。


 下手な道を選べば、魔物の襲撃を多く受けてしまうかもしれない。


皆の沈黙を破ったのはシルフィだった。


「ここは、エルザの出番。さあ、出番だ。雪女。」


「誰が雪女よ!? ハァ〜…各自警戒して。」


軽快なツッコミを食らわした後、エルザは杖を立てて、ブツブツと呪文を唱え始める。


「導きの精霊よ。運命を司る神々よ。我に道を示せ…」


詠唱を終わらして探知魔法を発動させたエルザの顔は険しい表情だった。凄い集中力だ。同時に魔力が蠢いているのが分かる。


しばらくしてから、エルサは顔を上げて、言った。


「右の通路はダメ。左の通路は魔物の気配はあまりいないし、罠とかも少ない。」


 やはり、魔術師がいると助かるな。魔術士がパーティーにいるといないでは大きく違う。


 魔術士がいるだけで、パーティーの待てる選択肢や手段は大きく増える。だから、数が少ない魔術士を仲間にできたパーティーはかなりのアドバンテージを得られるというわけだ。


俺達は、エルザの言葉通り、左の通路を進みだした。


 少し、進むと背後から僅かにゴブリンと思われる声が響いていた。


良かった。無駄な戦闘は避けたいので、この道を選んで正解だったようだ。


一安心した俺達はゆっくりと、しかし、着々と暗い洞窟を進んでいった。


 暗い空間に赤い光が照らされては消えていく。


思ったより、順調だった。


ふと、隣で歩いているロアを見るとふらふらしていた。


彼女は眠い目を擦っていたので、見かねた俺はおんぶしてやることにする。


「寝不足か?」


「ふぁ〜あ…、はい。少々やることがあって…」


「今後の旅路に影響するかもしれねぇ。幸い今は、安全だ。なんせ、一本道ばかりだからな。警戒もしやすい。何かあるまでは、とりあえず寝てていいぞ?」


「ありがとうございます。」


ロアは、申し訳なさそうにしてから目を閉じる。俺を信用しきっているような、安心した顔だった。


なんだか、既視感があるな。始めての出会いもこんな感じだったけな?


あんまり覚えてないが。


 しばらく進むが、ロイドがいくつかの罠を見つけた位しか、異変はなかった。


 数刻がたった頃だろうか、だんだん水路の分かれ道が多くなっていったが、幸いこちらには地図があるので迷うことはない。




 体感で、半日がたった頃だろうか、水路だった空間を抜けて、広がる景色は完全に岩石に包まれた洞窟の空間に変化していた。


その頃には、ロアも起きた。


彼女は起き始めた頃はトロンとした目でいつもと高さが違う景色を見渡していたが、今いる自分の状況を思い出して恥ずかしそうに顔を赤らめて俺の背中からいそいそと降りていった。


「す、すみません。アンセムさん。」


「いや、良いさ。アンは軽いからな。」


俺は、気にしていない旨をアンに伝えながら周りを見渡す。


ここは、随分と入り組んだ洞窟だ。さっきまでの空気とは違い、人間の手が殆ど施されていない。


共通点は、地下水が流れているくらいだろうか?


 ロアが起きてから少しすると、焚き火の跡がある少し古めの休憩スポットを見つけた。


「よし、ここらで休憩だ。焚き火の準備を始めるぞ。」


ダンがテキパキと仲間に指示を出していく。


流石、Cランク冒険者だ。こういう時の行動はテキパキしている。

 数分もたたないうちに皆が休まる空間が出来上がっていった。


「ああ〜疲れた〜。ねえねえ、ロイド。暇でしょ?私の足揉んでぇ?」


エルザが駄々っ子のように細い足をパタパタさせる。


対して、ロイドはこの光景に慣れてるのか、一度諦めのため息を吐くだけで、いそいそとマッサージの体勢にうつりはじめた。


「仕方ないな。どこだ?」


「ふくらはぎ。」


「私も揉んでぇ?」


シルフィはダンにせびり始める。

対して、ダンはしかめっ面だ。


「お前は、猫の獣人だろうが?必要ない。体力も有り余っているようだから今回の見張りはシルフィと俺だ。」


「ええ〜?」


「今日の夕食、俺の分の干し肉も少しわけてやるから我慢しろ。」


「頑張る。」


面倒くさそうにしていたシルフィが、打って変わって目をキラキラさせている。


 そんな微笑ましいパーティーの様子を見ながら、俺とシルフィは黙って干し肉とパンを焚き火の熱で、温めながら焚き火の前に座り込んでいた。


「そういえば、アンセムさん。」


「なんだ。ロア?」


「アンセムさんの記憶はどのくらい残っているんですか?」


「まあ、ぼちぼちだな…全体で言うと、だいたい五分の一くらいだ。」


「私の記憶はあるんですか?」


「済まないな。あまり無い。」


「そうですか…」


焚き火の温かい光を反射しているロアの目はとても悲しそうだった。

 彼女にとって俺は旧知の中だろうが、俺にとってはほとんど初対面時と言っても過言がない。


それが、彼女の心を痛めているならとてもいたたまれなくなった。


いったい俺と、ロアはどんな関係だったのだろうか?


と言うか、五七年前から姿形も変わって無くないか?


様々な疑問が押し寄せてくるが、今は口を出すべき時ではないだろう。


しばらく、お互いに沈黙しあっていたが、やがてロアが口を開いた。


「哀しいです。あの頃の記憶が消えていってしまったなんて…」


「また、新たな関係を築いていけばいいだろう?

 それに、いつかは全ての記憶が戻るかもしれない。それまでは、ゆっくりと新しい関係を築いていこう。」


「そうですね。」


その時のロアはどこか美しくも儚しげな笑顔だった。

その後、俺とロアら気まずい空気を残したまま食事を済ました後、寝床に入ることにした。


「今日はもう寝ましょう。」


「そうだな。おやすみ。ロア。」


「おやすみなさい。」


 ロアと寝る前の挨拶を交わした後、身体を横にして俺は黙って目を閉じた。


―――――                ―――――


 俺は、再び夢を見ていた。いつも寝るたびに出てくる夢だが、起きる頃には頭痛とともに、僅かな夢の内容しか覚えていないことが多い。


 今、俺はアークとある丘の上で並んで立っていた。

相変わらず、アークは真っ先に目立つプレートのついた光り輝く鎧を来ている。


 背後では、よく使っていた「英雄の送人」専用の大きなテントがある。


前方では、これから戦でもあるのか沢山の軍事用の仮設テントが立っていた。所々で、サーレン諸国連邦の旗が風になびかれて揺れている。


「アーク。俺に話があるって何のことだ?」


「アンセム殿。今回の戦は少々不利な点が多い。相手は、大国グランオール帝国ですよ?」


 確か、この時はサーレン諸国連邦が独立しようとした時に起きた戦争だった筈だ。


 その時に俺達が味方したのはサーレン諸国連邦だった。サーレン諸国連邦とはマクロス王国の東にあった、7つの小国が、グランオール帝国の支配から抜けて、独立しようとして起きた国だ。

 

「俺も、この戦は不利だってのは薄々承知だ。だからこそ、ここで俺達の活躍で勝てたらいい旗印になるだろう?」


「私としては、反対であるぞ。プルセナ様を危険な目に合わせることは、護衛を任命された一人の騎士として、あるまじき行為ですな。どうか、再考して欲しいのだが。」


「お前達、なんで俺の傭兵団に入ったんだ?」


「それは、一目見て貴方の実力が高いことがわかったからだ。あなた達なら、プルセナ様を守り抜くことができそうだからと。」


「よくわかってるじゃあねえか。じゃあ、平気だな。アークはプルセナを守りながら俺達についてくればいい。」


「アンセム殿!?」


「まあ、大丈夫だ。今回の戦にはマクロス王国の援軍もやってくる。そこまでこの戦は不利じゃねえ。」


「そうなのですか…。」


二人の間に、塩っ気のある強い風が吹き荒れて通り過ぎていった。


遠くでは、海が見えて、太陽の光を反射している。

2人は黙って、その風景を眺めている。


やがて、アークが再び口を開いた。


「アンセム殿。もう一つ申したいことがある。」


「なんだ?」


「貴方は、どうして大きな夢をお持ちに?」


「なんだ、そんなことか。俺はな、皆が笑顔でいられる国を作っていきたいだけだ。

 見ろ。今の世界を。笑顔になれるやつなんて、殆どいない。

 お前も俺たちと世界中を回ってきて経験していただろう?無力な人々の姿を?」


「…………。」


「まあ…そういうことだ。」


「果ての見えない茨の道を歩むつもりですな?」


「…そうだ。」


「なら、私からあるアドバイスをあげましょう。きっとこの先ずっと貴方に役立つことでしょうし。」


アークは、嵐の前の静かな空を眺めながら口を開く。


「『神々は、大きな野望を抱く者に、いくつもの試練を与える。決して恐れるなかれ。それがそなたの命取りとなるだろう。』」


「何かの言い伝えか?」


「ええ。そうです。私の国の古くから伝わることわざです。決して、忘れること無きように。」


―――――                ―――――


俺は、僅かな音で、目覚めた。


俺は、静かに起き上がり、バスターソードを手に取る。


火の番をしていたダンとシルフィそれぞれと目が合う。


ダンは静かに口を開いた。


「ゴブリンだ。オーガ野郎、シルフィ。寝ているメンバーを静かに起こせ。」



次回は再来週の土曜日0:00です。

次回もお楽しみに!!

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