⑧「紅い鳥の騎士団 訓練編・後編③Side:マーティカ」
私達が第一小隊に合流すると、第一小隊の皆は私達を大喜びで迎えてくれた。
サンソンは無事だった。
けど、ジェシアは敵の攻撃が当たってしまったらしく、脇の当たりが薄く染料が染み付いていた。
「一人で戦わせることになってごめんなさい。マーティカ。」
ジェシアはひどく落ち込んでいるようだった。
「大丈夫。私、ジェシアの敵を撃てるように頑張るから…。」
「コラッ、勝手に殺すな。」
そう言って、ジェシアは笑顔になる。
私もジェシアに笑いかけた。
そうして、ジェシアはトボトボと歩きながら第三部隊の人に連れてかれた。
正直言って、ここでジェシアがリタイアするのはかなりきつい。
私自身の腕前はそこまで高くない。
この先、生き残ることが出来るだろうか?
私の不安を感じ取ったのかサンソンが、近くに寄ってきた。
「大丈夫だッたかい?」
「ええ。そっちも無事に合流出来て良かった。」
このままでは、待機場で勝利を待っている訓練兵達に顔向けできない。
だから、私はくよくよするのを止めて、頭を切り替えてサンソンに今の状況を聞いた。
「サンソン。今の状況を聞かせて。」
サンソンは覚悟が決まった私を見て、一安心したのか、快く説明してくれた。
サンソンから話を聞くと、第一小隊の数は半分に減っているが、中々善戦していたようだった。
今の戦況は、平民派閥側が45人。そして、貴族側の派閥は半分に減り50名ほど。
明らかな人数不利だったが、よくここまで戦えたものだ。
私達がクリスカの部隊に襲われている間にこちらではブルーメル=ジーリス大隊長率いる第一部隊と、
サリー=コナー大隊長率いる第三部隊の合同部隊が本格的に攻勢を開始していた。
対してこちらは一度前線を引き下げた。
殆どの部隊を合流させて、総力戦を挑んだらしい。
リリアわサンソン、第四部隊の精鋭の活躍もあって奮戦したおかげで、一度は押し返すことができたようだ。
正午まで、後一刻もない。
このまま順調に行けば、こちらの勝利は揺るぎることはないだろう。
しかし、ここで油断は出来ない。
相手も我々の動きを読んできている筈だ。
先程のクリスカの部隊の奇襲だってたまたま居合わせた訳では無い。
必ず、私達第二小隊が動き出した時に、追跡を指示したものが居る筈だ。
そいつが必ず動き出す。
私が一人考え込んでいると、司令室からグルー大隊長が現れた。勿論、臨時教官も一緒だ。
そういえば、彼はどんな名前だろうか。
今、思えば彼の策のおかげでこの勝ち目の無い戦いを五分五分の状況までに持っていけるようになっている。
(本当に、何者なの?)
一回にあの荒くれ者でしか無い冒険者の出来る所業ではなかった。
疑問がいくつも浮かんていたが、グルー大隊長が皆の前で口を開いたことで、私の疑問は消えていった。
「皆よく戦っている。我々の勝利は目前だ。それは相手も同じだ。
ここで相手も死に物狂いで頂上のフラッグを狙ってくるだろう。
ここからは小手先など通じない。真っ向からの勝負となる。
我々エルサレン生まれの意地を貴族のひよっこ共に見せてやろうではないか?」
― ウオオオオオオオ!!! ―
兵士たちの怒号が頂上に響き渡る。
皆さっきまでの疲労を全く見せていない。
こうまでも、自軍の指揮を高める者はそういないだろう。
彼は名将と言っても過言ではない。
上に立つ者の力というものの力を思い知った気分だった。
その時、幕内から見張りが急ぎ足で入ってきた。
「来ました!」
「よし、戦闘の配置に付け!!」
臨時教官の声に皆が動き出す。
やがて、皆が配置について静かになる。
皆に緊張感が漂う。
「指揮官の責がなかったら真正面から叩き切りたいものですな。」
急にグルー大隊長が話しだす。
「それは勘弁したい。部下たちの相手がいなくなってしまうではないですか?」
臨時教官のツッコミに私を含めて皆が苦笑いを零す。
((実際に、この2人ならやりきってしまいそうだ。))
「ハッハッハッ。確かにそれは困る。合同訓練の意味がなくなってしまうな。」
グルー大隊長は豪快に笑った。
多分、私たちの緊張を解すために冗談を言ってくれているのだろう。
相手の軍勢がゆっくりと森から現れた。
ブルーメル大隊長とサリー大隊長の部隊だ。
ちなみにこの小山の頂上は木が全く生えていない。
あるのは臨時的に作った木製のバリケードだけだ。
見晴らしがよく、周りがよく見えやすい。
だから、分かる相手も一筋縄では行かないことがわかる。
(んっ?)
(何で前半分の部隊は青いユニホームを着て、後ろ半分は赤いユニホームを着ているんだろうか?)
何故なのかは知らない。
けど、明らかに何かの策であるのは分かった。
「「突撃。」」
ブルーメル大隊長とサリー大隊長が何故かお互いを睨み、罵倒しながら同時に命令を出した。
あの二人、仲がいいのかな?
「「フラッグを奪え。」」
「「フラッグを守れ。」」
一斉に両グループがぶつかり合い、乱れ合う。
もの凄い乱闘だ。
私達訓練兵達は後方でフラッグの守りについている。僅かに抜けてきた敵も、サンソンやリリアさんが倒してくれるので冷静に状況判断が出来た。
先頭の青のユニホームを着ているの部隊は私達の部隊を道連れに次々とやられていく。
何か違和感があった。
そして、お互いの部隊が半分を回ったところで、後方で控えていたブルーメル大隊長が突然動き出した。
「ま、まさか…!?」
『指揮官は自分の部隊が最後になるまで自らの戦闘行為を行ってはいけない』
確か、そんなルールがあった筈だ。
ブルーメル大隊長はこれのルールを逆手に取ったの?
大隊長格の実力は一つの中隊以上の実力を併せ持つ。
今そんなのに来られたら、拮抗していた戦力が崩壊してしまう。
突然、戦場の真ん中に、閃光が走った。
真ん中に位置していた第四部隊の数名がふっ飛ばされる。
そのまま、凄いスピードで前線を突破したブルーメル大隊長は、数名の赤色のユニホームを着た者たちの小隊長達とともに私達の前に躍り出てきた。
「さて、ショウタイムだ訓練兵諸君。誰一人も逃がさんぞ!」
前線に指揮を取るため出ていたグルー大隊長もこちらを心配そうに見ている。
「させるもんですか。」
「させるか。」
リリアとサンソンがブルーメル大隊長を攻撃しようとするが、容易くいなされてしまう。
「ぐっ!?」
ブルーメル大隊長は冷徹な顔で、小隊長たちに顎で指示をする。
「承りました。」
そう言って、グエン小隊長を中心に、二、三人がリリアとサンソンの前に出てきた。
ブルーメル大隊長はゆっくりとした足取りでフラッグの元に向かう。
「やらせるかぁ」「やらせねぇよ」
ガルーとマイが前に出てブルーメル大隊長を止めようとする。
それに続いて、残っていた訓練兵達がブルーメル大隊長を倒そうとする。
この人数差ならいける!
そう思った。
しかし、現実は厳しかった。
今の一瞬で、半分の訓練兵達がブルーメル大隊長に倒されてしまった。
今、立っているのは私とシーク、ガルーにマイ、ライとロイの六人だけだ。
「な、何ちゅう強さだ?」
皆、圧倒的な実力差にうち塞がれてしまっている。
「貴様らなど、そこらの魔物よりも弱いわ。私に勝てるわけがないだろう?」
「クッ」
シークが悔しそうにしている。
(行かない!、このままでは全員やられる。)
「皆、落ち着いて聞いて。」
私は皆に向かって叫んだ。
「私達だけじゃ、勝てない。現象、勝てる見込みのある戦力のサンソンとリリアさんは足止めを食らってる。
彼らが勝てるまで私達はフラッグと臨時教官を守ることに専念するの。
僅かな希望だけど。皆ついてきてくれる?」
「…しょうがないねえな。」
「ここまで来たんだからついて行ってやるよ。」
マイとガルーが笑顔で答えてくれた。
それを機に、皆が賛成してくれた。
「それに、君は親友の分も頑張るんだろう?」
シークがウィンクした。
「「いくぞ!!」」
ライとロイもやる気を出してくれている。
「茶番は終わりか?なら、かかってくるがいい。」
ブルーメル大隊長が手をこまねく挑発のポーズをしてきた。
私は、まだ慣れない連携を取りながら我武者羅に戦うが、次第に数を減らしていく。
数分後には、私以外は脱落してしまった。
「ハッハッハ。遂にお前だけになったな。マーティカ訓練兵。お前の指示でお仲間全員が脱落した。まるで、お前の臨時教官みたいだはないか。」
今となっては、ブルーメル大隊長に対して憧れはなかった。仲間を倒した敵として見るのみだった。
「そんなことはないです。私達はやれることをやったまでです。」
臨時教官は黙ったまま何もしゃべらない。
「フンッ、貴様もあの仲間と同じ場所行きだ。」
そう言って、ブルーメル大隊長は私に切りつけてきた。
私は必死に食らいつく。
昨日の夜、サンソンとの剣の打ち合いのように。
剣で会話をするように
けど、相手は剣で会話をしようとしない。
会話を拒否しているように感じる。
あるのは憎しみと悲しみを感じるのみだった。
ただ、私達ではなく。
何か打ち所のない何かに対してだった。
「小癪な。」
「キャアッ!?」
私は剣をふっ飛ばされてそのまま体勢を崩されてしまった。
すぐに受け身を取って転がろうとするが、ここが山だということを忘れていた。
私はそこら辺に落ちている石に足を乗っけてしまい、バランスを失った私は足を捻ってしまった。
「貴様はそこで、倒れてろ。」
そう言って、ブルーメル大隊長私に追撃をしようとするが、木製の音がカンッと響き渡るのみだった。
「させないよ?」
サンソンだった。ふと周りを見ると、リリアさんと小隊長達が地面にだべっている光景を見た。
サンソンが来た。
良かった。これで、希望はつながった。
「随分とカッコいい登場の仕方だな。サンソン=ルイジェルド。相変わらず親父に似ているな。」
(なっ!?ルイジェルド!?)
「なんで、知っているだい?」
「フンッ、貴様の親と私は師弟の仲だったぞ?
知らないわけがない。貴様が赤子の時だったときに抱いたこともあった。
私が学生の頃だったがな。」
サンソンが貴族だと言うことは夢にも思わなかった。
しかし、よく考えてみれば、貴族らしいところも多かったし、私との関係を秘密にしたがるのも納得だ。
貴族と平民は基本相容れない存在だ。
私は、いたたまれない気持ちになった。
そして、クリスカと知り合いなのはそういうことだろう。
まさか、大公ルイジェルド家だとは…。
それじゃあ…リリアさんも?
「貴様が、妹と一緒に家出してから行方不明だったが、まさか、冒険者になっているとは…血は争えないな…。」
「まさか…父も?」
「まあいい、今はお前を倒させてもらう。」
「グッ、またか…。」
話に夢中になって、油断していたサンソンは一瞬で切られてしまった。
「さて、貴様だけが残ったな。マーティカ訓練兵。貴様だけは残しておいてやる。
精々お前の指揮官がなぶり殺しにされるのを見ているがいい。」
そう言って、フラッグを取りに行けばいいのに一直線に臨時教官に向かって行った。
最早、彼に取って、勝利などどうでもいいのだろう。
何故かは知らないが、最初からあの男をなぶるためだったら勝利などいらないとでも言っているようだった。
臨時教官はただ冷静になって木剣を振らずに、ブルーメル大隊長の剣を避けている。
破ったら、脱落させられるからだ。
(考えろ。マーティカ。私に出来ることは?)
『指揮官は自分の部隊が最後になるまで自らの戦闘行為を行ってはいけない』
(これだ。)
私は、すぐさま近くに転がっていた相手チームの木剣を拾い上げて私の胴体に染み込ませた。
(ルールにはルールを)
「教官!」
私は痛む足を無視して立ち上がる。
教官は私の身体を見て理解したのか、持っていた木刀でブルーメル大隊長の攻撃をいなぎだした。
急に戦い出した臨時教官に、ブルーメル大隊長は警戒して、一旦距離を取る。
臨時教官は静かに居合の姿勢に入った。
その時の臨時教官からは重い空気が漂い始める。
「フンッ貴様が今ここで剣をとっても仕方がないだう?貴様の武器はその背負っている大剣だ。」
臨時教官は何も答えない。
「いいだろう。私の剣で貴様のその居合ごと、叩きのめしてやる。」
ブルーメル大隊長は中段の構えをとった。
やがて、ブルーメル大隊長から仕掛けていった。
当時に臨時教官も木刀を抜く。
凄いスピードだった。
ブルーメル大隊長も物凄い剣幕を放っていたが、臨時教官は全く見えなかった。
そして、一瞬で勝負は決まった。
立っていたのは臨時教官だった。
「な、何故大剣も無いのに…」
ドサッ
「一流を目指す戦士は、全ての武器を鍛えるからだ。」
私は啞然としてしまった。
あのエリート階級のブルーメル大隊長を倒してしまうなんて…
私は、ある質問以外しか聞けなかった。
「臨時教官、貴方は何者なんですか?」
彼は、ただこう言った。
「アンセム。ただの傭兵だ。」
信じられなかった。彼は、本当に強者に入る者だった。
「アンセムどの、ご無事だったか!?」
声のしたほうを振り向くと、グルー大隊長が向かってきているのが見えた。
「ええ、正直言って危ないところでした。」
「アンセム殿はこの後前に出るおつもりで?」
「そうですね。もう率いる部隊も残っていないので。」
「では、交代いたしましょう。翼を得た貴方がうらやましい。」
そう言って、グルー大隊長は半笑いでアンセムと名乗った男を見据えると、彼は肩を進めながらニヤリと笑い返す。
「暴れ回ってやりますよ。昔ながらの傭兵らしくね。」
「ハッハッハッ。是非、その昔ながらの傭兵という者の実力を拝見させて貰おうかっ!!!」
臨時教官の言っている傭兵の意味はよく分からなかったが、初老の年齢を超えてかけている歴戦の将兵にはどういう意味なのか分かったらしい。大いに上機嫌そうだった。
そのまま凄い勢いで臨時教官は最前線に向かって走っていくのと同時に、私は急に物好きパワーで身体を浮かされていた。
驚いて私を持ち上げている者を見ると、剣も何も持ち歩いていない女性の団員に拾い上げられていた。
「失礼、貴方を待機所にお連れします。」
そう言って、優しい笑顔で話しかけられて、やっと自分の状況を理解した。
(あっ、私、脱落したんだった。)
どうやら第三部隊の団員によって運び込まれるらしい……………。
(ハッ!?せめてもの、彼の戦う姿を見ないと!!ジェシアに教えてあげたい!!彼の実力を!!!)
このままでは彼の実力を見ることが出来ないと思った私は必死の抵抗を見せまいと足掻こうとしたが、ものすごいパワー女性団員に押さえつけられてしまい、脱出することは叶わなかった。
というか、怖い笑顔で言われた。
「駄目ですよ?暴れちゃ。ちゃんと訓練規則にのっとって、怪我人は大人しく運ばれてくださいね?」
「ハイ、スミマセン。」
そのまま森の奥の待機所に向かって運び込まれてしまい、結局彼の戦闘を観ることは叶わなかった。
森の向こうからは、おそらく彼が起こしたと言える爆音と団員達の悲鳴声が聞こえてきて、私は実力不足を味わって、あまりの悔しさに歯ぎしりを鳴らすことしか出来なかった。
今回で、「紅い鳥の騎士団 訓練編」は終わりです。
次回からは、アンセム中心の物語に戻ります。
次回は再来週の土曜日0:00です。
お楽しみに!!




