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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第三章〜追憶の君へ〜
61/77

⑦「紅い鳥の騎士団 訓練編・後編②Side:マーティカ」


戦闘の火蓋はあっけなく切られた。


― ウォォォォォ! ―


遠くから騎士団員らしき怒声が聞こえてきている。


どうやら、ロッシュとガルーの正面の部隊と貴族側の先頭が衝突し始めたったようだ。


 私達が今戦っている小山は、傾斜はなだらかだが正面意外は急な崖になっており、頂上に進むなら正面の森を進むしか無い構造だ。


守るのに最適だと言えるだろう。


少し時間が過ぎて、山の頂上からのろしが上がった。


(よし、合図だ。)


「よし、皆行くよ。出来るだけ相手の側面を突くように。あと、一撃離脱を意識すること!!」


サンソンの合図とともに私達は騒がしくなった森林を駆け抜ける。


皆、昨日の時より動きがスムーズだ。


森の草木を掻き分けながら進んでいくと、木材がぶつかり合う高い音が聞こえてくる。


少し開けたところで、十数名の相手チームが第一小隊と乱闘しているのが目に入った。


意外と少ない。

 多分、私達の罠に引っかかってその数を減らしたのだろう。


「なっ!?」 「伏兵!?」


敵の先頭部隊が驚いた表情を見せている間に私達はいち早く、接近する。


「第二小隊、突撃!」


サンソンの声に皆が一斉に突撃しだした。

私もジェシアも、サンソンに続いて駆け抜けた。


「うわぁぁぁっ!」


私は目の前にいた驚きに目を見開いている騎士団員に斬り掛かった。


(よしっ!、一人ヤッた。)


チラっと周りを見ると、サンソンが今の一瞬で、二、三人を倒していた。


ジェシアは一人倒している。

一人当たり、一人ずつやったようだ。


「よし、相手が怯んだわよ。第一小隊、突撃!」


リリアさんの指示の声が聞こえる中、私は走る足をのを止めずひらけている道を通り過ぎた。


前線から離脱して、少し経った頃、目的地の丘についた私達は立ち止まって各々息を整えた。


「ハァハァ…ジェシア、大丈夫?」


「ハァハァ…、私は平気。」


私達が膝に手をついて休んでいると、マジックバックを持ったサンソンが近づいてきた。


「ハイ、水分補給は大事だよ。」


そう言って、サンソンは軍用の水筒を2つ渡してきた。


「ありがとうございます。」


「あ、ありがとう。サンソン…」


丁寧な調子でお礼を述べるジェシアと裏腹に私はどもってしまった。


そんな私にサンソンは通り過ぎざまに私の耳元に口を近づけてきて、


「昨日の夜のことは秘密だよ?」


と、つぶやいた。


私は目をクルクル回しながら夢中で頷いた。


そのままサンソンは通り過ぎる。


(私、顔赤くなってないよね!?)


ジェシアがニヤついてきているのは分かりきっているのは分かりきっているので、私はわざと知らんぷりを決めると同時に周りを見渡した。


元の人数の三分の一が減っていた。多分相手チームにやられてしまったのだろう。


 おそらくだが、さっきの奇襲で先頭の十数人は全滅した筈だ。こちらの人数が減っていないのが、論より証拠だ。


 初戦にしては第二小隊の被害は大きいがこれは中々に良い戦果だと思う。


再び空を見上げると、緑色の煙が上がっているのが見えた。


 成功の合図だ。


 私の予測だと、さっきの初戦で相手チームは三十人ほど脱落した筈だ。


罠に掛かったものが十人ほど、さっきの戦闘で十数人。


これはデカい。これで相手チームの人数はこちらの70人と同数近くになったはず。


サンソンが全員に声をかける。


「もう、奇襲は利かない。ここからが本番だ。けど、やることは今でも変わらない。丁寧にやっていこう。」


― オオオオオオ ―


森中の歓声が強くなる。

どうやら本格的に衝突し始めたようだ。


ふと、上空を見ると急に煙が赤くなっていた。


(これは警告の合図!?)


「突撃。」

「わぁぁぁぁ!!!」


急に沢山の伏兵が現れた。

 

貴族出身の訓練兵達だ。


「ぎゃああっ」 「うわぁ!?」

「て、敵襲っ!!」


「皆、防御陣形だ!」


 私達は軍用の水筒を投げだしてお互いの背中を合わせあってサンソンを先頭に円形に固まった。


その間にどんどん敵が湧いてくる。

 逃げ遅れた者達は蹂躙されて、第三部隊の回復係に背負われて消えていった。


 丘の上で休んでいた第二小隊の半分が今の一瞬で、やられてしまった。

 第二小隊で戦える者はもう5人くらいしか残っていない。


(これが、貴族と平民の実力差なの…)


私は正直言ってこの勝負を甘く見ていた。

勝てると思っていた。


けど、今目の前には大きな壁がそびえたっている。


私達を囲っているのは、だいたい20名くらいだろうか?、私達の四倍はいた。


私たちを囲い終わると、そこで集団は動きを止める。   そして、ある一人の少女が一歩集団の前に出て、ひらりと無いスカートを広げて頭を少し下げた。


令嬢が行う挨拶だった。


 髪はひまわりぐらい黄色くて、化粧で綺麗に着飾っている。

 その仕草は、どことなく歳には相応しくない熟練の嗜みが感じられた。


「私は、クリスカ=リーフルエ。今回、のこの小隊隊長を務めさせてもらっているものですわ。

 この小隊の指揮官さん。今すぐここで降参してくだりませんか? 私たちもこれ以上は戦力を消耗したくありません。」


貴族らしい随分上品な口回しだった。


「嫌だね。僕達を倒してから進んでもらおう…か?」


「クリスカ?」


「サンソン様!? 何故ここに!?」


どうやら二人は顔馴染みらしい。


どうしてだろう。何故二人は知り合いなの?


 貴族と冒険者は関わることは貴族が私的に雇うとき以外はほとんど無いのに。


「まあ、いろいろあってね。」


「なるほど…やはり、家出騒動は本当でしたのね…」


「苦労をかけて済まないね。」


二人が会話をする周りでは、予想外の自体に皆ざわついている。


ジェシアに関しては空いた口が塞がっていない。


なんだか、二人の仲は良さそうに見えた。


「ねえ、サンソン?いったいどういうこと?」


私が口を挟むとサンソンは慌てた様子でこちらを振り向いた。


「それは…この合同訓練が終わった後で話そう。」


「こちらも、後でじっくり話すことが沢山ありますからね。特に愚痴と説教ですが…。」


 何かを察したのか、目の前の令嬢は私とサンソンを綺麗な瞳で交互に睨んだ。


「アハハハ…第二小隊、この場から撤退するよ。」


 そう言って、サンソンは急に山の頂上に向けて走り出した。


 急いで私達は敵を倒して道を切り開いているサンソンに続いていった。


「させるものですか。追いなさい、貴方たちっ。」


クリスカが取り巻き達に命令を下す間に、私達は包囲網を突破した。


「このまま罠に誘導してから、頂上の守備係達と合流するよ。」


後ろからさっき私達を蹂躙した取り巻きたちが追ってきている。


状況判断は一方的に不利だ。

今まともにぶつかれば、完全に第二小隊は全滅する。


 そして、第二小隊が全滅すれば、牽制している者ががいなくなった貴族側の訓練兵達は気兼ね無く前線になだれ込めるようになる。


 あの令嬢の指示次第で、いつでも私達の第一小隊になだれ込んむことが出来るだろう。


そして前線は完全に崩壊する。


 そうしたら、グルー大隊長と臨時教官、マイやライとロイ、シークがいる40名で60名以上はいるだろう敵と正午まで戦わなければいけなくなる。


これを考えついた人は中々の策士だ。

完全にこちらは手のひらの上だ。


でも、このままでは追いつかれてしまう。

 このまま食い止めるべきなのは必然だが、さっきまで走っていてまともに休憩を出来ておらず、疲労が溜まっている私たちには酷だ。


 僅かに残っていた第二小隊の2人も、もう体力の限界を迎えている様子だった。

 今、まだ余裕がありそうなのは私とジェシアと、そしてサンソンだけだ。


 クッ、ここで私が一人で食い止めれば残りの皆が合流出来るし、伏兵が潜んでいることを知れば前線が崩壊することもないだろう。


「私が、殿を務める。」


「ダメだ。」


「貴方が殿をするなら私もついていくわよ?」


「今は少しでも戦力が必要でしょ?4人はさっさと合流して。」


私は静かに二人を見た。

 ジェシアは納得していない様子だが、サンソンは分かってくれたようだ。

 流石、私と剣を撃ち合っただけある。


「分かった。」


「サンソンさん!?」


「行くよ。ジェシア。2人も早く合流する。……ご武運を祈るよ。ハニー。」


「私の敵は取ってよね。ダーリン?」


私はそう言って、走る足を止めた。


「気を付けなさい。きっと死兵よ!」


わかってるじゃん。()()()は。


攻めて、二、三人は削ろう。

そうしたら白星だろう。


諦めず、最後まで戦い抜こう。


自分を信じろマーティカ。


「ウオオオオオオオ」


私は力いっぱい前に足を踏み込もうとして、大声を上げる。


その時、私の視界の横に映ったのはガルーとマイ、ロッシュだった。


「助けに来たぜ。」


ガルーが敵のチームを牽制しながら振り向いた。


「大丈夫か?」


マイがガルーの死角をカバーしながら立ち回り、敵を翻弄している。


「よく耐えてくれました。マーティカさん。こっちです。」


ロッシュは私の手に肩を置きながら優しく手を引いた。


「新手かしら?まとめてやっつけてしまいなさい。」


「たかが数人来ても、変わらない。愚か者どもが。」


「馬鹿はてめぇらだ。」「舐めんじゃねえ。」


「ぐあっ!?」「があ!?」


「クッ、この2人、平民のくせに手慣れている。」


「思い出してください。あの2人は私達とよく集団戦で私たちから勝利を得たこともある2人ですよ?、気を抜かないようにしてください。」


「へへっ、貴族様に覚えられるとは俺達有名人なんだな?」


ガルーが自慢気に鼻を鳴らす。


「そうか…遂にお前の悪名もそこまで広がったか…こりゃあ将来がお先真っ暗だ。」


やれやれとでも言うようにマイが言う。


「てめぇ、マイィ゙…?ケンカを売ってるよな?その喧嘩後で、じっくりと買ってやるよ?」


ガルーが剣先をマイに向ける。


「へぇ〜今でも良いよ?千四百七十四回目の勝負に白黒つけようじゃねえか?」


マイも剣を向ける。


「「ああん?やんのかゴラー?」」


「二人とも喧嘩は後にしてよ!?」


私を連れて、2人から遠くの場所でロッシュが非難の声を上げると2人は「フンッ」と言って、近づけていた顔を離し私たちに追いつこうと走り出した。


「ハハハ…。」


ロッシュは決まりが悪そうにこちらを見た。


「な、なんで?…ジェシアやサンソンは!?」


 状況が見えていない私にロンは少し息を切らせながら答えてくれた。


「皆無事だよ。グルー大隊長の部隊が救援に駆けつけてくれてくれたおかげだよ。今は第一小隊の陣地で休憩してる。」


「ありがとう。どうしてこっちに三人が?」


「警戒の赤の煙をみたでしょ?てっきり、僕達に向かってかと思っただけど、いつでも警戒を怠らない前線に向かってやっても仕方がないと思ってね。

 すぐに第二小隊に向けてだと分かったんだ。その後、すぐにシークとマイが伝令として第二小隊の危機を知らせてくれたことを確信したんだ。

 そして僕達はリリアさんに頼んで、いち早く援軍に来たってわけだよ。」


「でも、この人数差は覆せないわ焼け石に水よ!?」


「それについては、すでに考えついてあるから安心して。今、向かってる場所があるからそこで彼らを殲滅出来る策があるんだ。」


「えっ?」


「臨時教官の言葉覚えてる?」


「確か、私達が経験したことを実践しろでしょう?」


「そうなんだ。臨時教官の策は僕達を餌に敵を罠に誘い込むことなんだ。まさか、臨時教官これを想定して僕達に教てくれたとは思わなかったよ。流石、手柄を上げた凄腕の冒険者だけあるね。」


その時のロッシュは凄く嬉しそうだった。


 元々、頭がキレるほうなのは知っていて生粋の軍略家なのは薄々感じていた。

 だが、息切れを気にせずこんなに生き生きとして語るロッシュは、私に将来の有名な軍略家を思い起こさせたのだった。


「ハァハァ、この先に大きな罠があるんだ。僕達が任された罠の設置を任されたエリアに。

 まさか、僕達が追い詰められた時のことまで考えてたなんて…ハァハァ。」


ロッシュが夢中に話している間に、ガルーとマイが追い着いてきた。


「バッチリ突き放したぜ。」


「こっちも所定の位置まで来た。このまま引きつけよう。」


少しすると、谷の入り口が見えてきた。


私達はそこが行き止まりだと知りながら入っていく。


「つくづく愚か者ですわね。わざわざ袋小路に入っていくなど。小隊前進。」


 後ろから、谷の入り口辺りからクリスカの声が聞こえてくる。


「ねぇ、このまま大丈夫なの?」


私は不安になってロッシュに聞く。


「大丈夫だ。うちの大将に任せろって。」


ガルーが口を開く。


「そうだ。うちのロッシュさんを舐めないで貰いたいね。」


マイも誇らしげに語る。


「分かった。三人を信じる。」


「おう、そうしろよ。」


そう言って、ガルーはニコッと私に笑いかけた。


相変わらず、似合って無い笑顔だ。


私も思わず笑顔になった。


「もう、逃げられません。降参するのがおすすめですわ。」


私達を急いで追う必要がなくなったのか、クリスカの小隊はゆっくりと前進してくる。


私たちに緊張感が伝わる。


「まだだよ…もう少し。」


少しずつクリスカの小隊がにじり寄ってくる。


やがて、あるところでロッシュは大声で合図を出した。


「よし、今だっ!」


「「オウッ」」


マイとガルーが木の幹に見せかけたレバーを引くと、後ろからギシギシと音が鳴り始める。


すると、網がクリスカの小隊の上に降りかかった。


「キャアッ!?」「な、なんだ?」


クリスカの小隊たちはそれぞれが絡み合ってまともに動けていない。


「な、何ですのこれ?この色は、染料?」


クリスカが戸惑いの声を上げる。


「そうさ、君はエビでタイを釣られたんだよ。残念だけど、君達はここで脱落だ。」


珍しく、ロッシュが強気に出ていた。


「ひ、卑怯ですわっ!こんなの認めませんわ。」


「早く帰りな負け犬。」


マイが肩に鞘に入れた剣を乗せながら自慢気に語る。


「キィ〜。悔しいですわ。あっ!、まだ私達は…負けていませんわ。ちょっと!?第三部隊のお人?連れてかないで〜!?」


 そういいながら、クリスカ達は漁師に出られた魚のように数人の第三部隊の者たちに網ごと連れてかれていってしまった。


騒がしい退場だった。


「凄えじゃねえか、大将!?、将来は参謀だな!!」


ガルーがロッシュを持ち上げながら嬉しそうにする。


「アハハハッ、ありがとう。臨時教官のおかげだよ。」


持ち上げられているロッシュは照れくさそうにしていた。


「あたしは知ってたぜ。こいつはやる時はやるってな。」


マイも、いつも頼りないロッシュが道筋を得られて嬉しそうだ。


「取り敢えず、もう終わったことからは切り替えないと。早く第一小隊と合流しないと。」


(そ、そうだ。サンソンとジェシアは無事か確認しないと!?)


次回は来週の土曜日0:00です。


お楽しみに!!

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