④「紅い鳥の騎士団・訓練編・中編①:Sideマーティカ」
どうしたものか…。
なぜ、私たちはこんな訓練をしているのだろうか。
今、私達が行っているのは魔物用の罠の製作、解除の訓練だ。
もうすでに、半日が立っている。
今日が終われば騎士団の合同訓練まで残り2日しかない。
どうせなら、残りの3日間はとにかく戦闘訓練をして、実力を現役の先輩達に少しでも近づけたい訳だが…。
なのにこんなことに時間を費やしていいのだろうか?
ガルーやマイ、ジェシアにいたっては困惑の色を示している。
不安の詰まるマーティカ達は黙々と罠を作リ方を学んでいく。
一方、他の訓練生達はそこまで不安がありそうではなかった。
まあ、最初から負けは確定しているんだ。今更頑張っても意味がないのは分かる。
けど、時間は本当に待ってはくれないかもしれないのだ。
商人の母から聞いた話だが、最近グランオール帝国の情勢が不安定化してきているらしい。
57年前、大陸各地で和睦を結んでから軍事国家だったグランオール帝国で政権を握っていた軍閥政府が瓦解した。
空いた権力の座にすわったのは当時軍にクーデターを起こされてから力が権威が弱かったグランオール皇帝家だった。
私達の国でいう王族に当てはまる一族だ。
その後はクーデターによって勢いのあった軍事政権はなくなり、伝統ある皇帝による帝国式の中央政権が戻った。
軍事政権を握っていた勢力はただの軍という「国の盾」に戻っていったのだ。
しかし、近年軍事改革を支持する軍事改革派が怪しい動きを見せているという。
実際にいくらかクーデター未遂の事件も起きているらしい。
最悪のことに国民も彼ら軍事改革派を支持し始めている。
いつ内乱やクーデターが起こってもおかしくはないのだ。
そしたら、隣国のマクロス王国が無関係では居られないだろう。
その時、一番に戦場になるのはグランオール帝国の領土に隣接しているエルサレン領なのだ。
もし、戦火が広まればエルサレンの町も多々では済まないだろう。
今回の野盗の襲撃で、私はそれ思い知った。
騎士団の張り紙から得た情報では二、三日前に良からぬ集団がここを襲撃したらしいのだ。
何の組織なのかは聞いても教えてくれなかったが、かなり大規模らしかった。
私達は訓練兵だから補給物資を運ぶ手伝いをしたのみで直接戦争に出向かなかったが、
遠くの城壁から爆音が何度も響いてているのが聞こえた。
聞く限り、かなり激しい戦いだったと、聞く。
この街の衛兵だけでは防御が足りず、他の任務で領土に展開中だった紅い鳥の騎士団が、すぐに駆けつけてきたのだ。
騎士団は大事にならない限り余り大規模に動けない。
騎士団の仕事はあくまで、国を脅かす者を排除するのが仕事だ。
細かい治安維持は街の衛兵達の管轄なのである。
だから、領土に大きな被害が出るようなことや、A級やB級の魔物が現れたときぐらいの事態でないと動かせないのだ。
その騎士団が総動員することになるということは、それほど事態は悪かったということになる。
今回は街に野盗が侵入してきたのを防げたが、もし、門が破られたら、誰が母の住むこの街を守るのだろうか?
無論私達だ。
その時になったときには、既に街の防衛が間に合っていないという状況に十中八九陥っているはすだ。
騎士団員や衛兵も、目の前の侵略者の相手で精一杯になっているので、市民を守ることまでは手が回せない。
その時、街に残っているのは最低限の人数の衛兵と予備兵力で配備されている私達だけだ。
そして、私達が殺されれば、この街は簡単に火の海に変わるだろう。
私の母や宿屋を営むガルーの両親、靴屋のマイの家族まで、全員殺されてしまう。
最悪、死ぬよりも酷い目に遭うかもしれない。
奴隷にして売ることから、言葉にもしたくないことまで、奴らは平気で行う。
そんなことはあってはならない。
そのためには、私達が少しでも早く強くなって街の人達を守れるようになるしかないのだ。
訓練生のみんなだって、そんな理由でこの騎士団に入るために厳しい試験内容を乗り越えてきた筈だ。
なのに、こんな体たらくではダメだ。
私はイライラが溜まっていく一方だった。
私の感情が顔に出ていたのか、ジェシアが心配そうに私をチラチラと見ながら罠を作ってはそれを解除する動作を繰り返していた。
一度冷静になるためにも周りを見渡して見ると、マイがロッシュに一から十まで罠の作り方を教えている。
マイのお陰か、最初私が見かけたものよりも、ロッシュの作った罠は形ができ始めていた。
しかし、不格好すぎる。
まだまだ見本にはほど遠い。
ガルーに至っては、不器用な手で何度も失敗して、それを見かねたサンソンに丁寧に教えられていた。
サンソンには気まずくて、昨日の私の失言に対して、まだ謝ることができていなかった。
本人は全く気にしていない様子だが、自分の職業の悪口を言われたら誰だってムッとすると思う。
私だって、騎士団の悪口を言われたら何か言い返したくなる。
忙しいのを言い訳に、逃げているのは自覚していたが、なかなか言い出せなかった。
このモヤモヤを解消する唯一の方法は手っ取り早くサンソンに謝ることだが、私には機会を待つことしかできなかった。
そうして私がチラチラとサンソンを観ているのをジェシアと打ち合いをしていた青髪の槍使いの少女に見られてしまった。
青髪の少女はニコッと、私に笑いかけた後、罠を持ってきて、私の横の簡易ベンチの隙間に座ってきた。
そして、小声で私に話しかけてきた。
「ヨイショッ、ふう…。ねえ、アナタ。サンソンのこと好きなんてしょう?」
「な、なななっ!?き、急に、何を!?」
な、ななな…!?
「隠さなくても良いのよ?バレバレだからね。きっとあなたの親友も気づいていると思うから…。」
少女の言葉にハッと、した私はすぐに目の前で作業しているジョシアに目を配る。
ジョシアは黙って私の視線に答えていた。
(バ、バレてる…!?)
「ち、違います。そんなことはありません!!」
口では否定したが、言われてみて私はサンソンのことが気になっていたことに気が付いた。
また、その少女はサンソンをチラチラと見ながらで語りかけてきた。
「まあ、分からないこともないわ。兄は、旅のあちこちで村の少女の心を奪っていったもの。それも、無意識に…本当に罪な男よね…。」
「だ、だから、違いますってば〜!!」
私は一生懸命否定するが多分隠せていない。
顔が火照っているのがわかる。
私はこの緊急事態にジョシアにSOSの目線を送る。
ジョシアは私の視線にいち早く気づいてくれたのか、止めに入ってくれた。
「リリアさん。彼女が困ってますよ。程々にしてあげてください。彼女は初心なんですから。」
「ジェ、ジョシアッ!?」
ジョシア〜!!
それはフォローになってないよ?
多分私をトドメに差しに来ていることに気が付いて?
「アラ?、いらない無粋だったかしら〜?」
リリアと呼ばれた少女はニコニコとわざとらしい仕草で合わせた手を顎の下に斜めに置いている。
「ダメですよ?彼女の初恋を邪魔しちゃ。干渉したくなる気持ちは分かりますけど…。」
私はチラリとジョシアの目を疑いの目で見る。
見るとジョシアの目がわずかに笑っていた。
ジョシアァァァァ!!
この裏切り者ぉぉぉ!!!
私は心の断末魔と共に敗北宣下の白旗を上げた。
「ありゃあ?倒れちゃった。」
リリアさんの腑抜けた声が聞こえたのだった―
―「で?彼に何か失礼なことでも言っちゃたの?」
さっきまでおちゃらけていたリリアさんが少し、真面目なムードになって聞いてきた。
私は、頭から出ていた水蒸気をはらって、その質問にモジモジと答えた。
「えぇ、少し…」
私はサンソンに言ってしまったことをビクビクと、しながら説明した。
リリアさんも冒険者だ。
私の失言は、最悪彼女を傷つけてしまうかもしれない。
リリアさん…気分を悪くしないといいけど…。
私の心配とは裏腹にリリアさんは、私の説明に眉一つ変えず、笑顔で聞いてくれた。
私の説明を聞くと、リリアさんは納得するような仕草をした。
「結論で言うと、サンソンはそんなことは気にもとめてないと思う。」
え?
私の驚きの目にクスリと笑った後、リリアさんは真剣な表情になって話を続けた。
「けど、これは本人がどうかとかの問題じゃないと思う。これはアナタが納得できてないから謝ろうとしてるんでしょう?」
言われて、ハッとさせられた。
確かに、自分の罪悪感に押し負けて、申し訳ない気持ちが遠ざかっていた自分に気が付いた。
「それは自分がスッキリしようとして謝っているに過ぎないんじゃない?」
自分では気付かなかった心の核心を突かれて、何も言い返せなかった。
「ハイ、そうかも知れないデスゥ…」
ジェシアは黙って、リリアの言葉を聞いている。
「私が思うには、一度言ってしまった言葉は取り戻せないと思うの。こんな有名な言葉を知ってる?
【言葉には力がある】って?一度発してしまった言葉は二度と自分の心に戻ることはできないの。」
一見、当たり前のことのように見えたが、誰もが見逃していることだった。
言葉には、魔力が宿っていると言われている。
魔術師が魔法を唱えるときに呪文を発する理由がこれらしい。
古代の人々は、誰もがこれを理解していて、皆が簡単に魔法を使えたと、母から教わったことがある。
「けど、この言葉には続きがあってね。私の祖母が言っていたことでだけど…」
私は、その言葉に続きがあるのは知らなかった。
リリアさんは一息してから口を開いた。
「【されど、身体には力は宿っていない。身体は力を宿らせるものである。】」
なんとなくリリアさんの言っていることがなんとなく分かる気がした。
もし、私が剣士を目指していなかったら分からなかっただろう。
「動作は自分が行おうとする途中でやめることが出来る。だが言葉は発するともう取り戻せない。」
これは私が小さい頃、父が言っていたことだ。
今でもよく覚えている。興味深げな言葉だった。
剣士だった父の言葉は当時、剣士でも無かった私には分からなかったが、剣士を目指している今の私には良く分かる。
剣士同士は、剣を打ち合うことで、言葉を言わずに発することが出来る。
剣士だけに分かる格言なのだろう。
ジェシアもその言葉に思い当たる節があったのだろう。彼女は考えながらその言葉をゆっくりとのみ込んでいた。
「まあ、ここだけの話。サンソンは剣士同士の会話が大好きだから、今夜訓練の後誘ってみたら?」
そう言って、リリアさんはそそくさと自分のベンチに戻っていった。
私は彼女の言葉を頭の中で何度も繰り返すことしかできなかった。
一日目の訓練が終わって、臨時教官から解散の命令が下った。
解散していく訓練生の中、私は必死にサンソンを必死に探した。
(いたっ!!)
サンソンはリリアさんとあの臨時教官と一緒に談笑していた。
彼の姿を見て、心臓の音をバクバクと鳴らす自分を押し込めて、近づいていく。
そして、勇気を振り絞って声をかけた。
「あの…サンソン?」
サンソンは私の声に振り返る。
私はサンソンの私を見る目が怖かったが、どうやらサンソンは私を嫌っている様子はない。
そのことにホッとしている自分に嫌になる
「どうしたんだい?」
私は、彼の笑顔に凍りついた。
いつも通りの笑顔だ。
けど、自分には怖く感じた。
大丈夫。彼なら私の誘いに乗ってくれる。
自分を信じろ、マーティカ。
それが私の一番の長所だろ。
「あの、この後。剣の打ち合いをしない?もちろん、夕ご飯の後でイイから。」
「いいよ?」
私は二つ返事で答えたサンソンに動揺して、思わず白黒させた。
「ちょっと待ってくれ?、サンソンとはこの後俺と一緒に酒場に…、痛って!?、リリア?、何すんだ!?」
「ちょっと、アンセム。さっさとここから離れるわよ?」
「えっ?なんで?っておい!!」
そう言って臨時教官はリリアさんに引っ張られながらどっかに引っ張られて消えていった。
「けど、急にどうしたんだい?」
「えっと、貴方と話したいことがあるの…」
彼はこちらの意図を測りかねている様子だが、嫌そうな態度は無かった。
「分かった。じゃあ、夕食後にここの訓練場で待ち合わせでいい?」
「じゃあ、夕飯後に。また。」
「またね。」
―――― ――――
私は夕飯を済ませてから、木刀を持ってすぐにサンソンと別れた訓練場の場所に駆け込んだ。
息を切らせながら周りを見渡す。
まだ、サンソンは来ていないようだ。
―リンリンリン―
秋の鳴き虫の声が月光以外光のない暗闇から聞こえてくる。
少し胸を撫で下ろしながら近くの柵に腰を下ろして乱れている息を整えていく。
―リンリンリン―
私の深呼吸のリズムに合わせるかのようにどこにいるのか分からない鈴虫が羽を鳴らす。
永遠に近い時間のあと、ゆっくりとした足取りで草をかき分けている音が一人の人影とともに近づいてきた。
その草の音は段々と近づいてきて、私の前で止まった。
「やぁ、待った?」
サンソンの声と同時に鈴虫達が声を潜める。
あんなに騒がしかった空間が、僅かにそよ風の音が聞こえるくらいに静かになった。
「いいえ。全然。こっちもさっき待ってたところ。」
実際は結構前に来ていたが、誘ったのは私だ。
何なら早朝まででも待つつもりだった。
「それじゃあ、始めましょう?」
「そうだね。始めよう。」
二人は、月の僅かな光を頼りに訓練上の真中に並んで歩いていく。
―リンリンリン―
私達が歩き始めると警戒していた鈴虫が再び羽を揺らし始めた。
傍から見ると二人は恋人のように見えるが、よく見ると二人の手には剣が握られているのがわかる。
私はゆっくりと彼から少し離れていく。
振り向いて、サンソンを見ると、サンソンはもう構えの姿勢に入っていた。
それも、二刀流で。
立ち姿から彼は二刀流が得意なのが一瞬で分かった。
同時に彼の本気が伝ってきた。
私は落ち着いて剣を構える。
少しして、私は静かに木刀を前に突き出した。
彼はすぐに反応して、私の木刀を受け止める。
そのお返しに彼から高速の太刀が向かってくる。
それにぎりぎり気がついた私は一歩下がって、避けて、体勢を整えた。
集中しろ。私は彼と剣で会話をしに来たんだ。
彼もそれに付き合ってくれている。
焦ることはない。
ただ、剣に感情を乗せて振り回せばいい。
その後私は一生懸命剣を振るった。
最初は謝罪の念を込めて剣を振った。
サンソンはそれを受け止める。
帰ってきたのは疑問だった。
(何のこと?)
(昨日の朝のこと…)
(ああ!?あのことね…)
その後も、剣での会話は続く。
彼は最初は私の謝罪に戸惑っていたが、快く引き受けてくれた。
一通り話し終わった二人は、剣の会話を止めて真剣に打ち合う。
暫くは何とか喰らいついていたが、実力差は大きく、一瞬の隙を突かれた私は気が付けば、剣を落とされていた。
私はその場で大の字に倒れた。
息を切らしながらも、色々吐き出した私はスッキリしていた。
彼も私の隣に並ぶように大の字にして倒れた。
「ハア、マーティカは筋がいいね。」
耳を澄ますと、サンソンの息が僅かに荒いことが気がついた。
手を抜いていることには気が付いていたがそれでも少しだけ彼の実力に近づけたことに心のなかで大きくガッツポーズをした。
二人はお互いに静かに真上に移動していた月をながめる。
「すっかり汗だくになっちゃったね。」
「そうだね。」
「そうだ!近くに小川があるの。そこで汗を流さない?」
「いいね。」
私とサンソンはゆっくり歩き出した。
正直に言って、今の私とサンソンはいい雰囲気を持っていると思う。
お互いに剣で語り合ったお陰かもしれない。
やがて、小さな川の流れる水の音が聞こえてくる。
よく見ると、遠くでニンフ達が(川に住んでいる水の妖精)が戯れているのが見える。
ニンフは私達を見るとイソイソと解散していった。
川岸についた私は勢いよく訓練用の服を脱いで、アンダーシャツの姿になった。
そして、勢いよく川に飛び込む。
サンソンも私と同じ様に服を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。
流石に少し、冷たかったが、暑い体には丁度いい温度だった。
私達はすぐに川岸に上がり込んだ。
「アハハハッ。」
「あはははは。」
そして、お互いの身体を用意してあった汗拭き用のタオルで拭き合う。
その時の二人の顔はどちらも赤くなっていたが、幸い暗い夜なのでお互いに気が付かない。
丁度月がさして来たとき、サンソンが頬を赤くして私の身体から目を時々そらしていることに気がついた。
私は自分の身体を見る。
よく見ると私の体が思いっきり透けていた。
「ご、ごめんなさい!」
私は急いで体の透けては行けない部分を隠した。
「いや、お互い様だよ…」
よく見ると、サンソンの下着も透けて、割れた腹筋をあらわにしていた。
胸が、ドキドキと鼓動を大きくしていくのがわかる。
二人は見つめ合った後、お互いの唇を交わしあった。
次回は来週の土曜日になります。
次回もお楽しみに〜!!




