②「紅い鳥の騎士団・訓練編 前編」
俺は、リリアとサンソンと一緒に総勢百名近くの騎士団員の矢面に立たされていた。
それも、わざわざご丁寧に大きな演説台に乗せられた状態で。
なんでフォール砦で俺に斬り掛かってきたあの陰険メガネがわが物顔で隣に立ってるんだよ!?
台の上に立っている俺達を、ある者は睨みつけて来るし、あるものは興味本位で俺達をを値打ちの目線を上げている。
少なくとも、歓迎ムードではないようだ。
彼らに舐められないように表情を崩さないようにしながら目だけをチラリと動かすと、両サイドにはそれぞれの部隊の小隊長たちだけでなく、
第二部隊の隊長のリーナや第三部隊の隊長サリー=コナー、騎士団会議で隊長達を一括していた第四部隊の隊長老将、グルーら大隊長格の面々が軍隊式の規律の姿勢で立っているのが分かった。
副団長・団長以外の殆どがこの訓練広場に軍隊特有の緊張感の中、佇んでいる。
沈黙を破るように第一部隊の隊長ブルーメル=ジーリスが口を開いた。
「団員諸君、此度の任務誠に見事だった。」
この広場にブルーメルの声が響き渡る。
「非常に厳しい任務だったが各々がよく戦い、励まし合う姿はこのマクロス王国の盾となるこの紅い鳥の騎士団に恥じないよい戦いぶりだった。」
ブルーメルがそう言うと、広場に集まっていた騎士団員達が歓声を上げた。
騎士団員達の反応からブルーメルはその腹黒さにも関わらず人望があるのは意外だった。
俺が驚いていると、ブルーメルが再び手を上げて歓声の声を止めた。
「そんな激戦の中、騎士団に負けず劣らず働いた者達がいた。」
騎士団員達の歓声が打って変わってがシーンと静まり返った。
「こちらの三名の冒険者だ。」
そうブルーメルが俺達の方向に腕を伸ばすと、騎士団員達がザワきだした。
「どういうこと?」
「なぜ冒険者が…。」
「俺見たぞ。特に真ん中の図体のデカい奴がアンデッド達をバッサバッサ切ってたぞ!!」
「あの冒険者が?」
騎士団員の殆どは余りいい反応を示さなかった。
まあ、あんな体たらくではそういう反応を示すのはしょうがないか。
俺は冒険者ギルドに行ったときに見たあの景色を思い出しながら頭の中でため息をついた。
「彼らは此度の騒動のアンデッドの大群の元凶を見つけ出し、私たちのピンチを救った。そのためにたった数人だけであの数のアンデッドに切り込みにいく度量と実力、国を守る我々に恥じない勇猛果敢な姿であった。」
「特に真ん中に立っている者は大隊長クラスの実力を持っている。」
再び騎士団員達がいたザワつきだした。
言いたいことはよく分かる。
「あいつが?そんなわけ無いだろ。」
まあ、そんなところだろう。
「我々紅い鳥の騎士団の規模は現在成長最中だ。そのため、人材不足は必然。そのため、この成績を勝ち取った彼を臨時訓練教官に就任してもらうことになった。」
「はあ!?」
「誰があんなゴロツキ共に教わりたいんだよ?」
「イヤよ。あのケダモノ達からなんて。」
さっきから酷い言われようである。
(おいおい、冒険者さん達よ。あんたらの信頼は地に落ちてるぞ。)
「諸君らの気持ちは良く分かる。動揺や困惑しているものもいるだろう。そこで3日後の騎士団全体で部隊ごとで合同演習を行うことが決まった。」
ザワつきがさらに増した。
「そこで彼には自分で育てた訓練兵を率いて一つの大隊として合同演習に参加してもらうことになった。そこで彼の力を示してもらいたいと思っている。」
騎士団員達のザワつきが絶好調になる。
「細かいルールは順を追って後に説明するが、簡単に言うと、一つの山の頂上を最終時刻まで占拠していた者が勝ちだ。それ以外のものには厳しい罰則が待っていると思え。指揮官は最後の1人になるまでは戦っては行けない。武器は木刀などの練習用の者のみとする。」
(どうしてこうなった!?)
時は遡って、俺が臨時教官として騎士団員の総勢25名訓練兵の力量を測っていた時だった。
「オイッ!!そこの訓練生。手を休めるな。魔物や野盗がお前を待ってくれることなんてこれっぽいもないんだぞ?次俺の許可なく休んだら腕立て伏せ百回追加だ。」
「いいな!?」
「は、ハイッ!!」
気の弱そうな茶色の髪の青年が汗を拭って、剣を相方の方に構えた。
(練度が全くない。技術も全然足りない。)
基礎体力は中々あるが集団としての統率力では正規の騎士団員に数段劣るか…。
リリアやサンソンもこの中にいるが、マシそうな奴は今のところ4人程度しかいない。
サンソンと立ち合っている黒髪のショートヘアーの女、短髪のいかにもガラが悪そうな筋肉質の男、後はクールな表情で相手の訓練兵をめった打ちにしている細身の女と、リリアと撃ち合っているロングショートヘアーの女くらいだ。
そいつら以外は戦場に出すにはまだまだ実力が足りない。
これじゃあDランクの魔物相手ににも数人がかりで戦ったとしても殺られる可能性が高いぞ。
やはり、基礎的な所からやっていくしかないか…。
そう俺が考えていると、ブルーメルが部下二人を連れて俺の担当の訓練所に訪れているのが分かった。
俺は急いで訓練兵達に、整列の合図をして並ばせた。
こういうところで、俺がミスると後々面倒くさくなる。
特に、こいつの前では…
訓練兵達が整列し終わった丁度その時にブルーメル達が整列している訓練兵達の前に着いた。
「全員構え。」
俺が号令を出すと、気を付けの姿勢をしていた訓練兵たちが一斉に両手を後ろの腰に手を組む。
数人、動きがズレていたがまあここは及第点か。
ブルーメルも気にしていないようだ。
「良く訓練に励んでいるようだな。諸君らも既にご存知だろうが。この騎士団員は貴族出身の者も交じっている。基本的には身分差は気にしないことになっているが、最低限程度の礼儀をわきまえるように。」
補足を入れるが、訓練生の間はは大きく2つのグループに分かれる。
貴族だけのグループと平民、所謂貴族以外の者たちだ。
ここは、平民のグループだ。商売人の家の出身の者もいれば、少数だが農民の家出身の者もいる。
さっき俺が注意した気の弱そうな青年も農民出身らしいな。
まあ、生まれはここで問われないので関係ないのだが。
「さて、前置きは此処までにして。訓練生は3日後に合同訓練に参加することになった。貴族グループと平民グループも一緒にだ。詳しいことは午後の集まりに話す。質問があるものは?」
訓練兵達がザワめき出した。
「どういうことだ?」
「何故僕達が合同訓練に?」
「より早く戦力を補給するためだ。」
「ああ、そうだ。そこの臨時教官。こっちに来い。」
ブルーメルが冷たい視線を飛ばしてくる。完全に敵意むき出しである。
いいぜ、ここでやるならやってやるよ。
そう俺は睨み返しながら、一歩、また一歩と近づいていった。
俺が目の前に立つと、急に笑顔になって俺の肩に手を置いた。
「いや〜、貴官の活躍はすごかったぞ。お陰で部下の命が救われた。」
そう言って俺を抱き寄せる。
な、なんだ!?
俺の混乱にお構いなく、ブルーメルはハグをしてきた。
どういう風の吹き回しだ?
俺のその疑問に答えが返ってきた。ブルーメルは俺の耳元でこういった。
「この3日後にお前には大恥を欠かせてやる。せいぜい怯えているといい。」
この野郎。一瞬でも俺が気を抜いたのが馬鹿だった。
頭の中が真っ赤に染まっていくのが分かる。
俺は堪らず言い返した。
「やれるもんなら、やってみやがれモヤシ野郎。」
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と、まあ、こんな感じだ。
売り言葉に買い言葉で、完全に睨み合うことになったが、まあ、なんとかなるだろう。
そんな俺の楽観的な考えとは裏腹に訓練生たちは絶望顔をしていた。
それはリリアやサンソンも例外ではないようだった。
「どうするのよ!?完全に戦力差が生まれてるじゃない。それに指揮官は1人になるまで戦えない?完全にアンセムのこと袋叩きにする気満々じゃない!?」
集まりが終わった後、兵舎に向かっているとリリアとサンソンに詰め寄られて、裏路地に連れてこられていた。
リリアが訓練生の校舎で俺の胸を揺さぶってくる。
「ちょ、待て。一旦落ち着いてくれ。」
俺の静止にも関わらずリリアは揺さぶりを止めない。
「これが落ち着けるもんですか。どうするの!?」
「アンセム、流石に僕たちでもこの戦力差はひっくり返せないよ。」
確かに、訓練生と何度も視線をくぐり向けているその他の騎士団員とは比べ物にならないような差がある。
リリアとサンソンがいたとしても流石に難しい。
リリアとサンソンの実力は俺の見立てだと、せいぜい小隊長クラスより少し上なくらいだ。
流石にきついかもしれない。
しかし、今回の合同訓練には落とし穴が2つある。
「まあ、大丈夫だ。これでも一つの傭兵団を率いていたからな。」
自身満々な俺の顔を見た二人は顔を見合わせて怪訝そうな顔をしていた。
な、何だよ。そんなに俺が頼りなく見えるのか?
アンセムは果たして、勝てるのか?
次回は再来週の土曜日0:00です。次回もお楽しみに!!




