①「憂鬱な季節」
第三章開幕です。
楽しんでいってくださいね〜!!
木の葉の色が茶色に変わり落ちてくる頃、紅長の騎士団の敷地でリリアとサンソンの2人は、全く喋ることもせず、お互いの武器をぶつけ合っていた。
―カンッ―カンッ―
木の枝が風に揺らされて、変色しきった葉を地面に少しずつ積もらしていく。
山になった黄色いイヨウの木の葉は二人の動きに合わせてカサカサと音を鳴らして浮き上がってはヒラヒラと舞って、
そのまま風に乗せられて遠くへ運ばれていった。
―カンッ―カンッ―
太陽も昇りきっていない冷えるような空気の中、二人は白い息を吐きながら、額に汗を滑らせた。
―カンッ―カンッ―
この静かな敷地中で二人が打ち鳴らす木材の高い音は冷たい空気を小刻みに揺らしている。
―カンッ―カンッ―
フォール砦や霧の森の戦いの後帰ってきてから、僕とリリア、アンセムは情報漏洩を防ぐために騎士団の基地内で数日間待機していた。借りることになった騎士団の寮の部屋の前に、気が付いたら置かれていた。
顔も知らない騎士団長から、命令書が部下伝で届いたらしい。
国は、グレーギルドの存在を表沙汰にしていない。
まあ、あんな組織が国内にいるだけでも、反乱組織が騒ぎ出すだけで百害あって一利無だ。
実際、グレーギルドは一般市民に対して大きな被害を出していない。
公表するよりも国民には知らせないでいたほうが、かえって治安を悪化させないで済むのだろう。
国務大臣の父が僕達が子供だった頃に話してくれたのを思い出した。
(暫くこうしてお互いに打ち合うことしかできない生活が数日間続くことを考えると嫌気がさしてくるな。)
完全に自体が収まるまでは関係者は管理化に置かれるだろう。
懐が狭い冒険者として数日間活動出来ないという事態はかなりの痛手だ。
だから、流石に何もしないで腕を鈍らしては行けないと、思った僕とリリアは騎士団の訓練の参加のを申請した。
断れるかもしれないと思っていたが、意外にもサリー隊長の進言で許可を得ることができた。
聞いた話によると、どうやら紅い鳥の騎士団に入るには誰かしらの貴族の家の者の許可が必要らしい。
というか、サリー隊長は貴族だったのか…。
誰か冗談だと言って欲しい。
あの黒刀を持った男の斬撃から守ってくれてから、今日に至るまでなんだかんだ僕達を気に掛けてくれていた。
この数日間の間、子供っぽい言動というか、行動目的は幼稚でガサツだが、根は優しい人なのかもしれない。
リリアに言わせればただの喧嘩番長らしいが、僕はそうとは思えない。
よく、団員からは子供扱いされるが隊長に選ばれるくらい周りに尊敬されている。
人は見かけによらないんだな、と学んだのだった。
今回はアンセムは指導官として訓練に参加することになった。
どうやら勝手に霧の森でサリーに部隊の指揮権を預けて勝手に独断行動に走った罰らしい。
結果的に大手柄を挙げたので、帳消しにしてくれてもいいと思うが、やはりそこは軍隊だ。
一時的に雇ったものに対しても罰を受けさせるとはかなり厳しいところなのだろう。
アンセムはめちゃくちゃ反対したが、隊長たちが全うするべき指揮権を持つものとしての責務を負わせるためだと副団長に言われて渋々受け入れた。
彼は自称傭兵の実質冒険者だが、隊長扱いされているのは突っ込まないでおこう。
アンセムにも何か思うところがあったのだろう。
僕としては是非彼の化け物ぷりの強さの秘密を知りたかったが、本人が了承して決まってしまってしまったことなのでしょうがない。
どうせ、今後パーティーメンバーとして一緒に行動することが多くなるんだ。
後々ゆっくりと聞いていくことにしよう。
ちなみに、この罰を提案したのは大一部隊隊長のブルーメル隊長だ。
聞いた話ではアンセムとブルーメルはフォール砦で一ドンパチやりあったらしい。
絶対にあの腹いせだと、アンセムが裏でうめいていた。
あの冒険者嫌いはクールを気取っているが腹の中ではさぞ腹を抱えて笑っていたのだろうか?
実際、ブルーメル隊長の口角が僅かに上がっていたのを確認した。
あの男かなり腹黒なところがあるな。あまり関わらないようにしておこう。
槍に扮した練習用の棒を力一杯振り回しているリリアの汗に濡れた一つ縛りの青い髪が一瞬だけ光を放つ。
―カンッ、ガンッ―
リリアの放った長い木の棒が閃光を放って僕の持っていた練習用の木刀を吹っ飛ばした。
「兄さん!!さっきから集中してないわよ?忘れたの?私達があの時何も出来なかったこと。」
「済まない。少し考え事をてしていたよ。」
「いくら兄さんが得意じゃない一刀流だからって、気を抜いちゃダメなの。私達まだまだ弱いんだから。」
あんなに強気な妹が珍しく、弱気だ。
しかし、妹の言うことは正しい。
あの戦いで何も出来なかった。活躍できたかも怪しかった。アンセムには「役に立っていた」と言われたが僕もリリアも全くそう思えなかった。
ただただ自分たちは無力感に包まれてアンセムや紅鳥の騎士団の邪魔をしないように立ち回ることしかできなかった。
「分かった。ちゃんと今から集中する。」
僕は遠くに転がった木刀をすぐに拾って、練習を再開した。
―カンッ―カンッ―
黒刀を持った男には圧倒されて、騎士団の隊長に庇われて、挙句の果てにはオークの大群に囲まれただけで恐怖に包まれて何も出来なかった。
―カンッ―カンッ―
そして、あの黒騎士相手には足止めも出来ず、傷一つもつけられないという定始末。
戦いの土台にも立たせてもらえなかった。
―カンッ―カンッ―
この事実は戦いを重んじるルイジェルド家の一員として屈辱的な敗北感を僕達に抱かせた。
そして、僕達はある念しか浮かんでこなかった。
(強くならなければ)
暫く打ち合ってから、騎士団員が動き出す頃、疲れ切った僕達は滝のように汗水を垂らして手に膝を置いて激しく呼吸を繰り返していた。
「はあ、はぁ…。」
「兄さん、少しは腕を上げたんじゃない?」
リリアが白い煙を吸ったり吐いたりしながら額の汗を拭う。
「そっちこそ。」
二人は目を合わせてニッコリとした。
僕が昔から憧れていた、貴族としてでは味わえないだろう、ラフな関係だ。
もし、リリアの「家出」に付き合わなかったらこんなにも毎日が楽しい生活は訪れなかっただろう。
危険がいっぱいだが、自由がある。
小さい頃に亡き母上に呼んでもらった冒険者の本を読み聞かせてもらってからそんな生活に憧れていた。
今の僕を昔の僕が見たらきっと幸せだと言う。
それだけ今の生活は楽しい。
しかし、いつかはこの自由な暮らしも終わりが必ず訪れる。
貴族として生まれてきてしまった以上、避けられない運命だったのだろう。
だからこそ、この瞬間を楽しもうと思う。
「お疲れ様でした。」
基地の屋内の出入り口から声がしたので振り向いてみると、第二部隊隊長のリーナ隊長が汗を拭くための薄手の布と飲み物を持って、こちらに歩いてきたのが分かった。
第二部隊は主に戦力の回復や物資運搬、怪我人の回復を目的とする後方部隊だ。
その他には騎士団の訓練のサポートなども含まれている。
魔力が多いものや回復術に長けているものがここの部隊に所属している。総勢20名程度の小規模な部隊だが、一人一人の戦闘力は高い。
なぜなら戦場での回復術師は危険を極めるからだ。
剣や魔法が混じり合う戦場で、負傷者や重傷者を救い出すのは予想以上に難しい。
57年前、聖戦期時代の百年戦争に活躍した有名な参謀
ヘパイスト=シークが言った言葉がある。
―手っ取り早く相手に負担を書ける戦い方は、戦死者を出すよりも負傷者を出すことだ―
家庭教師のおじいさんが言っていたことには戦闘で負傷人を助けるにはその負傷人数の二倍以上の戦力が必要なのだと。
そこで解決策を見いだしたのはこの回復や支援、補給を主に任務とする専門部隊の第二部隊だ。
ここでの話、この部隊がマクロス王国、初の回復専門部隊らしい。
戦乱の世では、魔術師は不足してしまう。
まあ、一人でもいたら戦場の風の吹き回しが変わる貴重な戦力の魔力をを回復に回すより、攻撃に回したほうが効果的なのは事実だ。
しかし、戦乱が収まってからはや五十と七年。
すっかり平和が広がったことで、魔術師を戦力に投入する必要性が薄まったので、死傷者を減らす方向にシフトした方が何かと都合がいい。
彼女はその第二部隊の部隊長を務めているのだ。
この2、3日の間、騎士団員には内緒で彼女に訓練のサポートを手伝ってもらっている。
なぜなら、騎士団の中には彼女のファンが多いからだ。
彼らが言うには彼女に日常的に回復を施してもらうのは女神に寵愛を受けることに等しいとのこと。
そんな彼女から個人的に関わっているのを見られたら彼らに目の敵にされる。そしたら、こちらはタダでは済まない筈だ。
この二、三日の間過ごしてきた僕達にも彼らのその気持ちは分かるような気がした。
彼女はかなり気の使い方が上手い。
「この後、騎士団の訓練もあるんですから無理をしないでくださいね。」
そう笑いかけながら回復魔法をかけてくれるのだ。
ジルとはまた違ったタイプの年上のお姉さんだ。
貴族出身の騎士団が多い紅鳥の騎士団だが、彼女は平民出身だった。
にも関わらず、他の騎士団員に慕われていることから彼女の人望は物凄いのだろう。
「ありがとう。リーナ。」
「あと、これ。あげます。」
片目を閉じてシーと、人さし指をに口を当てるジェスチャーをしながら2人分の丸いチョコレートを渡してきた。
甘いお菓子は高級品だ。
なぜなら砂糖が入っているからだ。
砂糖は貴重な輸入品だ。マクロス王国では滅多に作られないので、南西に位置するラパス諸国からしか手に入らないのだ。
気軽に余り口に入れるものは貴族だけだろう。
実際冒険者になってから僕とリリアは2人とも一度も食べていなかった。
素早く包みを外してチョコレートを口に入れる。自然と笑みが出た。久しぶりの甘味に本当にリラックス出来た。
リーナはそんな二人の微笑む姿を見て、微笑んだ。
「疲労回復効果があります。頑張り屋さんの二人にご褒美です。騎士団員には内緒ですよ?」
こんなとこが騎士団員に慕われる理由なのだろう。
これで貴族ではないのが女神セルビアの作ったも不思議だ。
もう少し、この落ち着きや配慮を妹も持ってほしいものだ。
このままジャジャ馬娘でいたら貰い手が見つからないかもしれないのだ。
少しだけだけど、妹の将来が心配になってきたぞ、兄ちゃんは…。
花のような笑顔を向けてから、リーナ隊長は他の部隊員に呼ばれて騎士団員の基地内に入っていった。
なるほど、これが彼女が慕われている主な理由か…。
彼女に元気を貰った僕達は一息突いて休んだ後、再び動き出した。
―彼に追いつくために――
その頃アンセムは一人でバスターソードでただ無心に振っていた。
彼がその人よりも大きい大剣を振るたびに、風が吹き荒れて土埃が舞う。
昔の俺はどのくらい強かったんだ?
―君は今、本当の実力を出していない―
―今は五分の一以下しかないね―
霧の森でバードに言われたことだ。
記憶が曖昧な俺にとって、昔の俺の強さなんてわかるはずもなく、バードに聞こうにも今だに音信不通である。
いつまで、あの"聖剣ちゃん?"を慰めているんだ?
いい加減戻って欲しいものだ。
なんとか連絡したいが残念なことに、こちらからの伝達する手段がない。
うるさかったあのおしゃべりな剣も静かだと意外と寂しさを感じるものだ。
慣れって怖いんだな。
おっと、脱線していたな。
話を戻そう。
俺は先日の戦いが終わってから暇を見つけては昔の勘を取り戻そうとしたが、いかんせん記憶も無いので、お手上げ状態だ。
なんとか身体は覚えているらしいが、それもほんの少しだけだ。
現状、記憶が戻って来るまで解決策が見つかっていない。
(訓練が終わったら、昔の俺を知っているらしいあのドワーフの爺さんに聞いてみるか。)
そう一度考えをまとめて、一度止めていたまた手を動かした。
―ブンッブンッ―
「ケホッケホッ、アンセムさん。砂埃、飛ばしすぎです。」
ヒューズが朝ごはんのパンやスープの入った小鍋が入ったカゴを腕に吊るして涙ながらに近づいてきた。
「す、済まねえ。」
ヒューズは俺がフォール砦で保護した町娘だ。
グレーギルドに攫われてから酷い扱いを受けていたにも関わらず、今の彼女は気にも止めていなかったようだ。
そんな彼女も関係者なので騎士団の基地に缶詰状態だった。
最初はボーとしていたが、いてもいられなくなって今は騎士団の給仕の手伝いをしている。
給仕をしている厨房の料理人たちは人手が増えて嬉しがっていた。
親が料理を出す店を手伝っていたおかげか、軽い作業ならスラスラとこなしていくので、終いには正式にここで働かないか?と誘われていた。
彼女は父の店があるからと断っていたが、顔にははっきりと写っている。
働きたいと。
ここの料理人は貴族でも雇うような一流の料理人ばかりだ。(貴族出身が多い騎士団だからだろう。)
そんな彼らにスカウトされたら料理人なら嬉しいに決まっている。
彼女の将来だ。俺が進んで介入することはない。
今は、彼女の心構えが決まるまでのんびりと待とう。
「もうすぐ朝食の時間です。」
「ああ?もうそんな時間か。」
「アンセムさん、ここで食べた方がいいですよね?」
「どうしてだ?」
「アンセムさん。人は食事中は訓練後の汗臭い匂いを発している人が近くにいたら誰だって嫌なんですよ?」
「グッ、ヒューは俺に厳しいな?」
「貴方がだらしない人だからです!!ほら、ここの丸太に座って一緒に食べましょう。」
「お、おう。」
彼女の強引さに押し負けた俺はバスターソードを丸太に寄りかかっていた聖剣の横に置いて座った。
彼女はパンを俺に渡すと鍋からスープをお椀によそう。
そして、黙ってスープを木製のスプーンですくい、口でフーフーと軽く冷ましてから俺に近づけた。
「はい。」
「……………。」
「…えっと、俺一人で食べれます?」
「アーン?」
分かったよ。食べれば良いんだろ。
そう心のなかで悪態をついて、俺は口を開けてスプーンをすすった。
うん、上手い。彼女が作ったスープは堅実に上手い。
ジルの作ったスープは格別に上手いが、ヒューズの作った料理は味が安定している。
いわゆる母の味だ。
「どうですか?」
「ああ、今日もヒューの作った飯は美味しいぞ。きっとヒューはいい嫁さんなるよ。」
「そ、そうですかっ!?」
そう言って、ヒューは顔を赤くして上半身をくねらせた。
いや、そんなに嬉しいことなのか?
「はい、アーン。」
ヒューズはもう一度スープをすくったスプーンを俺に近づけてきた。
「いや、あの…。」
「アーン。」
「はい。」
まるで子供みたいだから止めてほしいんだけど。
スープを唆ろうとスプーンに近づけた瞬間、一瞬だけ、見慣れた女性の顔とヒューズの顔が重なった。
「ほら、兄さん。口を開けて。」
一瞬見間違えかと思って、瞬きをしてからもう一度見ると、怪訝そうな顔をしたヒューズの顔に戻っていた。
「どうしたんですか?ニヤけていますが。」
「いや、なんでもない。」
そうか、過去の俺も同じ体験を味わったんだな。
なら、いいか。
また一つ思い出を思い出すことが出来た。
ヒューズに感謝しなきゃな。
秋らしい晴天の元で、鍛え上げられた体つきをした団員が額に汗を流していた。
その中にはリリアやサンソンも交じっていた。
「グズグズするなっ!!集中しろ。そこっ、動きが鈍くなっているぞ!?そんな体たらくじゃ、すぐに殺られるぞ?」
俺は、大声で訓練生達を怒鳴りつけた。
(ちゃ、ちゃんと訓練の臨時教官として仕事はこなせているのか?)
これからコーラスさんの教え通りに訓練生達に教えるが、軽すぎるといちゃもんをつけられないか不安だった。
今日から俺が教えることになっているがいくらなんでも余所者の俺が教えることはないだろう。
二組に分かれて剣を打ち合っている訓練生が俺を睨みつけているのを見て不安が積もる俺なのであった。
そんな心配は要らなかったことを露にも知らずに……。
次回は再来週の土日当たりになります。
お楽しみに〜!!




