㊱「英雄の旅立ち」
度重なる戦いの余波による土地の振動にうなされて、アンはゆっくりと目を開けて目をこすりながら身体を起こした。
「ン〜?ここは…。」
周りには見慣れない光景がひろがっていた。
赤黒い空に不気味に明るく光る月。
全てが枯れている植物達と目の前に広がる廃墟の街。
まだ10にも満たない幼子には十分恐れる要素があり余っていた。
震える身体を得るためにメイドのラズから教えてもらったおまじないを自分にかけた。
深呼吸をしながら五秒数える。
スーハー、スーハー。
ラズの笑顔を考えると怖くて震えてしまっていた身体が不思議と止まって、冷静になることができた。
ラズ元気にしているかな?
きっと行方不明の私を心配しているのかも?
そんなことを考えながら自分の状態を確認する。
これもラズに教わったことだ。
身体が少しだるい。
見知らぬ魔女のお姉さんに教えてもらった魔法を使ってから何もわからない。
暗い景色の中、暫くじっとしていると目が暗闇に慣れてくると、近くをすぐに隣に誰か横たわっていることに気が付いた。
少女だった。青い槍が近くに置いてある。確か名前は…リリアって言うんだっけ?
口からは血を吐いた痕跡がある。何だか具合が悪そうだ。
「あっ!回復しなきゃっ!!」
そう言って、魔女のお姉さんに教えてもらった呪文を思い出しながら口に出していく。
だんだんと手に魔力が練られていって、呪文をいい終わると黄色い綺麗な光に包まれた手を倒れている少女にかざす。
あれ?なんか左耳も光ってる?
そんなことを考えながらも必死に魔力を練る。
少し時間が立つと少女は綺麗な光に包まれて回復していった。
光が消えるとその少女は目が覚めたようだ。
「う〜ん…。ハッ!?」
少女は周りを見渡して青い槍を見かけると一目散に駆け寄って拾い上げた。
そして、ロングのポニーテールを揺らしながら振り向いて、驚いて目を見開いたまま固まっていた私を見た。
「アンって言うんだっけ?よろしくね。私はリリア。貴方の救出しにきた冒険者よ。」
と、元気な声で手を差し出した。
「よ、よろしく…えっと……お姉ちゃん?」
何故か、急に顔を高調させて喜ぶ仕草を見せる。
「フフフ…お姉ちゃんか〜?いい響きだ〜。」
「お姉ちゃん?」
「ううん、なんでもない。それよりもここはどこ?」
「私もわかんない。」
その時遠くから轟音がなり、土埃が大きく舞った。
「「……。」」
「ここは、お姉ちゃんに任せてここで安全にしててね?ここはアンデッドも寄り付かないから。」
そう言って槍を背中に背負い出して走り出そうとしたリリアの手を私は掴んだ。
「私も連れてって!!」
何故かはわからない。けれど、このまま置いてかれるのは駄目な気がした。
「駄目、アンはまだ子供でしょう?それに令嬢何だからだめに決まって…」
どうしたんだろう?急にお姉ちゃんが固まった。
「お姉ちゃん?」
「………………………。」
空間自体が止まっているかのように見えた。
どういうこと?
(…アン。)
「ひゃいっ!?」
急に後ろから声が聞こえて驚いた私はつい、声を裏返してしまったことに赤面しながら後ろを振り返る。
誰だろう?
何で私の名前を知ってるの?
透き通る声だった。
けど、余りにも繊細でそよ風でも消えていってしまうような声だった
そこには、一人の女性が立っていた。
それも少し身体が透けている。
幽霊?
普通はこの訳の分からない状況に恐怖を抱くのだが、不思議とそんな感情はわかなかった。
寧ろ心地よい、優しい空間だった。
白いチェニックに白いローブを来た女性はニコッと笑いかけてきた。
余りにも美しさについ顔を赤らめる。
(アン。)
「貴方は誰?」
私の質問にその女性は答えずに口を開く。
(どうか、あの人を苦しみから自由にしてあげて…)
「あの人?」
(きっと、出来る。だって私の生まれ変わりだもの。)
そう言って再びその女性は美しい笑顔で再び私に笑いかけながら、消えた。
「うおっ!?」
アンセムは黒騎士が振りかざした剣を急いで受け止める。
さっきのは何だったんだ?
「どうしたんだい?いきなり僕を降ろしてボーと、しだしたからビックリしたよ。すぐに正気に戻ったから良かったけど、僕が自動オートモードに切り替えなかったら君の身体は今頃真っ二つになってたよ?」
「済まねぇ。少しボーと、してた。」
黒騎士の思い一撃を一撃一撃受け流して、そのてきた僅かな隙で反撃をする。
神剣であるバードにも見えていない。
と、言うことはやはり幻覚か?
「全くもうっ!!アンセム。早く決着を着けよう。」
バードが振動し始める。魔力を練っているようだ。
「そうだな。女暗殺者とガキンチョ!!」
「何だ!?」「ガキじゃない、サンソンだ。」
いつの間にか黒騎士によって召喚されていた中位アンデッドと戦っていた二人は顔だけ振り向いて大声を出した。
「俺はこれから切り札を出す。だが、大きなデメリットがある。攻撃するまでに暫く時間がかかるんだ。
だからそれまで足止めしてくれ!!」
「本当にそれでそいつをやれるんだね?」
「ああ。」
俺の返事を聞いて、二人は即座に中位アンデッドを片付けると駆け寄ってきて俺の前に立ってそれぞれの武器を構えた。
割ってきた二人に対して黒騎士は上段の構えに切り替えて聖剣を振るう。
俺は後方に飛び出して、地面を滑るように立ち止まった。
ザザーと靴裏が削れる音がする。
俺はそのまま精神を研ぎ澄まして、居合の構えを取る。
二人はすぐに後退して、構えの姿勢に入る合間に聖剣が二人を襲った。
黒騎士の真っすぐに振り落とされた聖剣が轟音とともに土煙を空高くに飛ばす。
二人はその土ぼこりを煙幕にして展開して様々な攻撃を加えるが、黒騎士は黒い透明なバリアを張って容易に防いだ。
二人とも有効打になる攻撃は与えられていない。
最初よりも黒騎士の戦いの技術が上がってやがる。
「ウッ!」
土煙が晴れて攻撃のチャンスを得た黒騎士は、女暗殺者を腕で振り払って黒騎士はサンソンに狙いを定める。
「クッ、そんなに長くは持たないっ!早くしてくれ、アンセム!!」
「バード!?早く終わらしてくれ!!」
「わかっているとも。もう少しで必要な魔力が練れるから。まだ動かないで!!魔力が分散しちゃう。」
こうしているうちにサンソンはどんどんと追い込まれていく。
今は誰に教わったのか分からないが神がかり的な双剣の技術で黒騎士の攻撃を生かし続けているが、余り耐えれそうにない。
ついに武器をふっとばされてしまった。
そのまま切られそうになる。
「随分と無理難題押し付けられたものだ。」
いつの間にかサンソンの後ろに回っていた女暗殺者はサンソンの首根っこを引っ張ったことでサンソンは紙一枚で避けることが出来た。
「うわっ!?」
女暗殺者が身体を回転した拍子に、たまたま黒騎士の目の前で女暗殺者の右耳についているイヤリングが揺れた。
「アン」
黒騎士はそう一言述べて動きを止めた。
「行けるよ、相棒!!」
バードの声に閉じていた目を開けて足を後ろに押し出して踏み込んだ。
【一閃】
魔力の籠もった剣はどんなに強固なものでも勝る。
コーラスとソルティアの師匠コンビがいつもの言っていたことだ。
黒騎士の鎧がひしゃげて胴体と下半身が分かれた。
生身なら死ぬ状態だが流石アンデッドだ。
まだ身体を動かしていた。ゆっくりと這うように。
その時、リリアがアンを背負いながらサンソンがやってきた道からやってきた。
黒騎士は誰もいないはずのアンの背後を見て、ただ告げた。
「時は満ちたか…。」
自分たちを何度も追い詰めた黒騎士の鬼気迫る姿が、今のその姿からは虚しさしか感じられなかった。
アンは、何故か分からないが目に涙を浮かべながら短い足で地面に着地してトコトコと無力となった黒騎士の元に駆け寄っる。
「アン?」
アンはリリアの制止を振り切って、口を開いた。
【ハイヒール】
泣きながらもアンは静かにそう言った。
幼ない声ではなく、アンが成長したらこうなるだろうという透き通るような声だった。
アンは胴体の下の方からゆっくりと優しい光になって消えていく黒騎士の頭を膝の上にゆっくりと乗せて、涙声で言う。
「ごめんなさい…あなた………。」
アンの目から出てきた塩水が頬を濡らして黒騎士の鎧に当たる。
その時のアンは、子供のようには全く見えなかった。
まるで誰かが乗りうったかのように見えた。
「ウゥ…ごめんなさい。」
だんだんと黒騎士の目の赤い光が弱まっていく。
黒騎士は黙って腕を伸ばして、アンの頬を拭った。
「最後くらい、呪いの言葉くらいは吐いてくれればいいのに…。」
そんなアンの言葉を聞いても黒騎士はただじっと見つめるだけだった。
そのまま、黒騎士は消えていった。
俺の見間違えかは分からないが、消える瞬間に鎧の下の優しそうな顔が笑っているかのように見えた。
アンセムは一つ残った赤いクリスタルを拾い上げた。
「これは、いらないものだね。」
バードが刀身を揺らしながら言った。
「そうだな。」
俺は宙にそのクリスタルを投げて、バードを振ってそのクリスタルを真っ二つに切った。
するとクリスタルは水が一瞬で蒸発した時の音を立てて煙を残して蒸発する。
対象者がいなくなったことと呪いの源がなくなったことで、術式が解けたのかゆっくりと周りの風景が変わり始めた。
空は青く澄み渡り、太陽が暗かった廃墟を明るく照らしだす。
廃墟には草が広がり、霧の森にはびこっていた霧が晴れて、死んでいた大地に命が芽生え始めた。
オーランド山から出てきた眩しい太陽の光が俺目を細めさせる。
一瞬だけ、太陽の光とともに記憶の中に出てきた二人の手をつなぎ合っている姿が見えた気がした。
「ありがとう」
そう言って、消えていった。
「やばいです!もう、隊が持ちません副隊長!!」
「なんとか持たせろ!!」
「コンニャロ〜、これでも喰らえっ。」
アンデッドに向けたバトルアックスが空を切って、隣で呆然としていた部下の騎士に当たりそうになる。
「うわっ!!」
間一髪で部下の頭をの横を通り過ぎた。
「ヒェ〜!」
「なんだ?」
急に起きた変化にサリー=コナーが驚いて、周りを見ると、さっきまで襲いかかってきたアンデッド達が消えていくのに気が付いた。
ケガ人を治療しているリーナが額を伝っている汗を手の甲で拭いながら急に明るくなった青い空を見上げる。
騎士団の先頭に立って剣を構えていたエールはすぐさま全てを察して、
いきなり消えて言ったアンデッドに呆然としている騎士団員の方に向き直って、剣を上に掲げた。
「勝ちどきを上げろ。我々の勝利だ!!」
騎士達が勝ちどきを上げた。
No.4と対峙していたウィルソン兄は、変化を読み取って、攻撃を止めて立ち止まった。
「どうやら、こちら側の勝利だったか…。」
「クソッ、そういうことだったのか!?」
もともと青白ったNo.4の顔が、さらに青白くなった。
「やっと気づいたか、寝坊助め。最初から俺たちが囮で、あっちが本命だったんだよ。」
「貴様、最初から魔王の心臓を知っていたのか?」
「あぁ、ピチャくちゃ喋って、時間稼ぎのお手伝いご苦労さん。」
いきなり、空で光が放たれた。
「貴様ぁぁぁ〜!!!」
「おっと、引き上げの合図のようだ。この勝負は一旦お預けだ。またな。」
そう言って、No.4から掠め取った煙幕弾を取り出して下に投げた。
「いつの間に!?」
煙幕が広がり、黒剣を振るうも宙を切るだけだった。
「チッ、逃げられましたか…。」
オークのボスが勝鬨を上げると、他のオーク達も勝鬨を上げた。
「「「ピギィーーーーー!!!」」」
「さて、この残った聖剣はどうする?」
黒騎士は消えてなくなったが、聖剣だけは地面に残っていた。
「この墓の横に立てかけて置いたほうがいいんじゃない?」
「そうするか…。」
アンセムは手を伸ばした。
「ちょっと〜!!イタイじゃない。握るならもう少し優しく触りなさいよ〜。」
「うおっ!?」
いきなり甲高い声が頭の中を通り過ぎた。
「どうしたのアンセム?」
リリアが、キョトンとした顔で聞いてきた。
「い、いいやなんでもないさ。」
急いで、俺は努めてなんでもないように装う。
まさか…そんなことはないよな?
無いって言ってくれよ!!
不思議そうに顔を傾けるリリアに愛想笑いをしてもう一度剣柄を握ろうとした。
うん、最悪だ。
非常に残念だか夢ではないようだ。
「もう、ごっつい手!!オーガの手だわ。私を犯すオーガの手だわ。汚らわしい!このド変態!この神聖な私の柄を握ろうなんて百年早いわ!」
「ケダモノの手で悪かったな。」
「ひゃっ!?えっ、えっ、えっ?貴方、私と喋れるの?何だ〜早く言って欲しかったわ〜!!(アセアセ)。って言うかなんで私と会話できるのよ!?女神様の直接の寵愛を受けてないとと私と会話なんてできるはずもないのに。なんでこんなオーガが〜!!?」
俺は怒りの余り、声も出なかった…。
次回は年明けの土曜日になります。
良いお年を!!!




