㉟「数万年後の君へ」
日曜の午後には出します。
しばらく、五人は抱きしめ合っていた。
互いの鎧がぶつかりあって音を鳴らす。
「3人とも無事で良かった。」
「怖かったよ〜。」
五人のそれぞれの目には大粒の涙が溜まっている。
「痛いよ。」
年少のカイルは背が低いからか、鎧が顔に当たってしかめっ面をした。
しかし、そんなカイルも頼もしい二人に久しぶりに会えて嬉しそうだ。
泣く子供たちをなだめながら、サムは今の状況を思い出したサムは子供たちに今までの経緯を説明していった。
「そんな…。シスターのお姉ちゃん達が…?」
レアは顔を蒼白にしている。カイルに至っては、せっかく止まった涙がまたポロポロと零れて胸のまな板に当たってポツッポツッと僅かに音を立てている。
孤児である3人はよく教会のシスター達と仲が良かったのだろう。
彼らからしてみれば、物心ついた頃からずっと一緒にいたようなものだ。
家族と言っても過言ではない。
しかし、ロンだけは下唇を噛むだけで無表情を貫いていた。
さっきまでは泣いてしまったが、この中で一番年長だからか、しっかりしている。
彼はまだ子供の分類から外れていない筈なのに年下の二人を気遣ってか、強がらなければ行けなかったのだろう。
ロンの下唇から血がにじんでいた。
強い子だ。
アンセムはそう思った。
最近思い出したことだが、俺は小さい頃は泣き虫だったらしい。
それも苛められっ子だ。
だからこそ、ロンの強さが分かった。
さっき泣いてしまったのも、子供3人だけで教会にいた時に不安そうにしていたレアとカイルを励ますためにずっと強がっていた反動だったのだろう。
やっと落ち着いた子供たちの様子を確認したアンは、子供たちに告げた。
「ここも次期に奴らに襲われる。早くここを移動しましょう。」
「そうだな、ロン、レア、カイル。行こう!!」
そう言って、子供たちの手を取ろうとするが、子供たちが自分の胸を見ていることに気がついた。
「兄ちゃん?その光ってるのは何?」
カイルが不思議そうにサムの胸を指さす。
サムの胸を見てみると、胸の内ポケットから赤い光が差し込んでいた。
ポケットから取り出すと、その光の源は明るさを増して教会内を不気味に照らし出した。
皆不思議そうな顔をしていたが、アンだけは違った。
青白くなっている。
「サム、いったいどこでそれを拾ってきたの!?」
いつも落ち着いているアンが、自分の両方を揺らしながら冷静さに欠けていることに驚きながらサムは答えた。
「アンを庇ったとだった。」
「いい?聞いて。その赤いクリスタルからは魔王の膨大な魔力を感じるの。明らかに持ってちゃいけないシロモノよ!!早く破壊しないと最悪の事態になりかねない!!!早くこっちに………」
「贄は成った……」
急に全員の頭に見覚えのない声が通り過ぎた。
「数多の血を捧げ、ここに我ら三大悪魔の飢えは満たされた……」
まるでこの世の者とは思えない得体のしれない声が響き渡る。
「魔の者達を束ねる魔の王の心臓を持つ者よ。ソナタに魔の王の力を授けよう。」
「え……?」
急にサムの周りに邪悪な魔力が満たされていく。
「走って!!」
アンが咄嗟に魔法障壁を作りながら子供たちに呼びかけた。
アンの言葉に驚きながら三人は教会の外にめがけて一
直線に走った。
教会の目の前の花畑に差し掛かった所で赤黒い光は放たれた。
余りにも強い魔力に流石の聖女もふっ飛ばされてしまう。
アンは子供たちの前で転がった。
「お姉ちゃん!!」
「よせっ、レア!!」
アンの元に駆け寄ろうとするレアを必死に止めるロン。その傍らでロンの服の裾を掴みながら唖然としているカイル。
どうやらカイルは情報を読み込めていないようだ。
教会からは邪悪な黒い魔力が溢れていく。そこからゆっくりとした足取りの足音が聞こえてくる。
コツッコツッ。
教会から現れたのは俺がこの記憶?に飛ばされるまで戦っていた黒騎士の姿がいた。
コツッ…コツッ…。
くちから血を垂らしながらアンは立ち上がりながらサムらしき者に話しかける。
「サム、しっかりして!!」
しかしその黒騎士は静かなままで、何も言葉を返してこない。
いつの間にか燃え盛っていた街の火が全て消えて、赤黒い空がより一層暗くなった。
今明るく光っているものは月の光と、アンがつけているイヤリングの残光だけだった。
だんだんと俺が知っている景色に近づいていることに気が付いた。
唯一無いのは墓だけだ。
まさか!?
「早く行って!!」
子供たちが走り出すのを見た黒騎士は白い聖剣を構えて地面にヒビを入れて迫る。
しかし、その聖剣が貫いたのはアンの身体だった。
アンの口から血反吐が噴き出す。
枯れた花畑に血が流れ込んで、一瞬だけいつも通りの綺麗な花畑に戻ってアンを中心に波紋のように枯れていく。
「お姉ちゃん!?」
「三人とも言って。」
「ロン?なんで私の手を離してくれないの?早くお姉ちゃんを助けにいこうよ!?なんで何も言わないの!?」
泣き叫ぶレアは黙って手を引くロンの手を振りほどこうとしたが、一番年長で成人も近いロンの力は10歳を過ぎたばかりの少女の敵う相手ではなかった。
ごめんなさい。
ロン…貴方には辛い決断をさせてしまった。
きっと正義感の強いレアのことでしょう、恨み言も言われるでしょう。
こんな選択を選んばせてしまった私を許さないで。
でも、これだけは言わせて…。
「ロン、レア、カイル。愛してる。」
そう言って、手に魔力を練り込む。
「あ…なた……。ごめ…な…さい。」
そう言って、アンは最後の魔力を振り絞って聖なる光を解き放った。
「お姉ちゃ…」
その光は結界となって、この街を囲んでいる丘や岩山の周りを取り囲んだ。
「あ…なた…と。しあ…わせになりた…かった。」
さっきの光で正気に戻ったのか、サムの周りにあった黒い魔力がなくなっていた。
「数百…年か、数万年…後…かもしれ…ない。いつ…か、あな…たを、解放、して…くれ…る人…がいるわ。」
「それ…ま…で…は、あな…たを…閉じ…籠める…こ…とに…なる。ごめ…んな…さい。」
「アナタ…愛し…て…る。」
涙を一粒垂らしながら微笑んだ彼女は頭を前に傾ける。
彼女の目をゆっくりと閉じて、身体は力が抜けるかのようにぐったりとなった。
「アン?」
アン!?
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
サムは涙を流して泣いた。
「アンセム!ボーとしてるの場合じゃないよ!?」
バード言葉で気が付くと、元の風景に戻っていた。




