㉝「遥か昔の記憶」
「ウォォォォ!!」
アンセムは黒騎士を切り抜いた。
黒い鎧がにヒビが入る。
黒騎士は大きく後退して、体勢を整えようとしているが、俺は追撃して、反撃の隙を与えない。
コーラスさんの言葉を思い出す。
「アンセム。お前が自分より実力が上の相手と戦わざるをえなくなったら、お前はどうする?」
「え〜と…?分かんね〜…?」
「それはな、気持ちで負けないことだ。」
「ふ〜ん?どういうこと?」
「いいか?アンセム。戦は生きるのを諦めていった奴から死んでいく。だから生きることを諦めるな。死ぬことを許容するな。生きたいと思え。そして、死に物狂いで足掻け。ガサツで不器用なお前はそれがお似合いだ。」
「なるほど……って!それシンプルに馬鹿にしてるだろ!?」
「ハッハッハ。」
「オイ、こっちを見ろ。こっちを。」
ああ、そうだ。俺は不器用だった。
昔から技なんて少ししか使えないし、筋肉とスピードだけで色々解決してきた脳筋野郎だし、料理や作戦を考えることなんて出来やしない。
けどな、そんな俺でしか出来ないことがある。
「お前はそれで全てを駆け抜けろ。」
武器同士が激しく衝突しあい、火花を散らしていく。
「ハァァァ!!!」
「お前のその不屈の精神で心まで相手を支配しろ!」
突然バードの刀身が光だして、周りの景色が変わった。
俺は綺麗な花畑の中ポツンと立っていた。
ある男と一緒に。
ここはどこだ?
みんなはどこだ?
近くには質素で小さいが、立派な教会が佇んでいる。
麓を見ると、きらびやかな町の風景が広がっている。
よく見ると、今の建物とは違ってかなり古典的だ。
よく誰かが見せてくれた書物に載っていたものと様式が似ている。
今気づいたことだが、そんな風景を真っ直ぐと見つめる男はどうやら聖騎士らしい。
腰に聖剣を腰に携帯している。
聖剣を所持できることから聖騎士は相当な実力の持ち主なのだろう。
「おいそこの聖騎士さん。ここはどこだ?というか今は何年だ?」
俺は試しに話しかけてみたが、反応が全くなかい。
何度聖騎士の肩に触れようとしても透けるだけでついに触れることは出来なかった。
(いったい、どういうことなんだ?)
混乱するような状況だが心は妙に落ち着いている。
意味が分からん。
俺の想像?いや、こんな繊細に映し出されるわけがない。
だとしたら、誰かの記憶の中か?
よく見ると、あの黒騎士が持っている聖剣が刺されていた所の草原の花畑の風景とよく似ていた。
そんなことを気にしていると、教会の方向から草をかき分けるかさ、かさと言う音が聞こえてきた。
振り向くと綺麗な長髪ロングの修道女のような女性が穏やかな笑みを浮かべながら静かにこちらに歩いて来ていた。
今の修道女とは違って、黒が多い質素の見た目ではなく、白色のチュニックに近いローブだった。
少しして、その女性が口を開く。
「サム?もうすぐ儀式の準備が始まるわよ。早く町の中央の教会に行きましょう。」
秋らしい少し強い風が吹いて二人の影を揺らす。
透き通るような綺麗な声だった。その声は余りにも弱々しく、そよ風でもかき消されそうだった。
「ああ…、今行くよ。アン。」
アンか…。
アンと言われた女性に対して、振り向かず佇んでいた聖騎士の声はは静かで落ち着いているがその声の奥底にはある主の力強さがあった。
「古代の人々は言葉に魔力を込めていた。」
そんなことを誰かから聞いたことがある。
丁度こんな感じだったのだろう。
そうして二人は岡を下る所で場面が変わる。
気づくと大通りを二人の後ろをついてくように歩いていた。
町の垂れている旗には「魔王!討伐せり!!」と、書いてある。
子供たちが人混みの中、笑いながら走り回っている。
その後を彼、彼女達の母親と見られる女性達が追いかけている。
子供たちを叱りつけるために大声を出しているが、その顔は穏やかだ。
一方、大通りの両脇には屋台が隙間なく乱立して客を呼び込んでいる。
客となる人々は、お祝いムードについ財布の紐が緩んでいるらしい。
次々と店の食べ物が補充されては消えていった。
町全体にお祭りムードが漂っている。
「魔王か…。」
俺がいる時代はもうすでにおとぎ話レベルの話しだ。
信じていないものも多い。
しかし、この非現実的ではない状況から信じるしか無かった。
どうやら数万年前の時代の記憶の中にいるらしい。
「皆、幸せそうね。」
アンがサムの方に顔を向けながら話しかけた。
「ああ、世界に魔王がいるかいないだけでかなり違うだろう?」
話しかけられたサムも穏やかそうに周りを見渡していた。
まるで子供のように、はしゃぐサムをクスリと笑いながら、話しを続ける。
「ええ、そうね。それに魔力や聖力が安定しているもの。各地では魔生地が減っているらしいわね。」
「彼のお陰だ。」
「そうね。」
彼が誰のことを刺しているのかは分からないが、多分勇者のことだろう。
「久しぶりに果物を食べたいわ。魔王軍との戦いに明け暮れて干しパンと干し肉しか口にしてなかったもの。」
サムほおけている顔をしているアンを見て、微笑を漏らした。
「了解致しました、聖女様。エスコート致します。」
わざとらしくかしこまったサムは腕をアンに差し出すとアンは、
「あら、喜んで。聖騎士様。」
と蔓延の笑みを浮かび上がらせながら腕を絡ませた。
そして、また風景が変わる。
今度は中央の大きな教会の中で、アンが光る魔法陣の真ん中に立って儀式をしている最中だった。
その周りでは修道女や神父らしき人々が、聖女を見守っている。
その中にはサムもいた。
サムは何故か、複雑そうな顔をしている。
何故だろうか?
まるで、これが悪いことのようだと言っているかのようだ。
俺はアンに目線を戻した。
多くの目線がアンに集中しているが、アンは気にもとめず、両手を絡ませ黙祷を続けている。
三角形の中に円形の近いエフェクトがアンの周りを浮かんでは消え浮かんでは消えていく。
「綺麗だ。」
俺はその荘厳な雰囲気に圧倒されてただそれを見つめることしか出来なかった。
儀式が終わり、神父が解散の合図をしてから直ぐに、サムは誰よりも早くアンの元に歩みを進めた。
アンは神父と何か話し込んでいる。
神父は近づいて来るサムに気付いたのか、優しげな顔をした。どうやらサムとは仲が良いらしい。
サムと神父は軽い抱擁をした。
「お〜!サリム聖騎士隊長殿!!よくご無事で。長旅でさぞかしお疲れでしょう?一旦休憩室でお茶でも如何でしょうか?」
「ありがとうございます。神父様残念ですが、このあと子供達の世話で忙しくなりますので。」
「相変わらず仕事熱心ですな〜。」
「ええ、夫は、教会の子供に大人気なんです。それはもう引っ張りだこで…。」
「昼時には帰らないと子供たちが拗ねてしまうのです。」
「アッハッハ。魔王討伐を成し遂げたパーティーの聖騎士様も子供達の前では形無しですなぁ〜。」
「いえいえ、子供たちとは儀式後、直ぐに帰ると約束しましたので。いや〜、どれだけ背が大きくなっているか楽しみです。」
「それは、さぞ楽しみですな。子供は数年であっという間に大人になっていきますから。」
「ええ、それではこれで。」
「そうですな。子沢山な夫婦に会えて私もいくつか若返りましたよ。それではお楽しみに。」
そう言って神父はウインクをしてからスタコラサッサと教会の奥に消えてしまった。
残された二人は顔が真っ赤に染まっていた。
どこか恥ずかしそうだ。
「………そろそろ行きましょうか?」
「…そうだな。」
二人はドギマギしながら教会を出た。
二人は暫く黙ったまま手を繋いで歩いている。
お互いの初心な姿は新婚の雰囲気を醸し出していた。
周りを見てみると、通行人や商人がニコニコと穏やかな目で、見つめている。
やがて、アンが口を開いた。
「そういえば、神父様に何か言いたげだったわね。」
「………。」
「どうしたの?」
「……何故だろうか?とても嫌な予感がする。」
普通は、いきなりそんなことを言われても気にもとめないだろうが、アンは違った。
真剣な顔に変わった。
「昔から貴方の感は当たるわ…それで何度ども私たちを救っている。心当たりはないの?」
「分からない。分からないが、こんなに気分が悪くなったのは始めてだ。」
確かに、サムの顔は青ざめている。
それを見たアンは状況の深刻さを理解したのだろう。
アンも彼ほどではないが、顔を青ざめていた。
「こんな時に肝心の彼がいないなんて……、今すぐ教会に戻りましょう!」
「そうだな。」
そう言って今通って来た大通りを逆走し始めた時、急に空の色が変わった。
あんなに明るかった空が赤黒く染まっていく。
そして、滅亡は始まった…。
次回は土曜日の0:00です。お楽しみに!!




