㉗「違和感」
これほど多勢に無勢の状況は何度あったのだろうか?
どんなに切り崩しても一方にアンデッドの数は減りはしない。
そんな絶望的な状況は俺達傭兵にとって手慣れている。
いや、むしろコレが日常だった。
多くの人々が戦の影響で飢える。何とか食い扶持を繋ぐために傭兵になる者も少なくなかったのだ。
そして、動乱の世は命が軽かった。
多くの名の無い傭兵が生まれては消え、生まれては死んだ。俺の隣りに居た名も知らぬ傭兵達も戦が始まると簡単に死んでいった。
長く背を共にして戦った者はあいつら以外にいなかった。
今思い返すと、あいつらって一人一人がとてつもなく強かったのでは?
どんな苦境が来ても笑って弾き返していたあいつらを見てきた俺からすると、騎士団は、余りにも練度が足りないように見えた。
いくら50年ちょっとときが経ったとしても、戦士としてこんなにも差があるのは可怪しい。
あいつらやっぱり化け物だったんだなとはっきり認識したのだった。
当人がそれをまとめている一番の化け物だということを気づいていない様子で、
そんな考え事をしながら次々と豆腐部のようにアンデッド達を切りながら突き進んで、騎士団員達を驚かさせていた。
副隊長の部下の一人が、一体のゾンビを切りながら困惑してするように口を開いた。
「副隊長!こんな化け物何処で拾ってきたんです?こんな凄腕の冒険者、王都にもいないと思うんですが!?」
「俺も知らん。とにかく援軍として、雇われたらしい……後、彼は冒険者パーティーに入っている傭兵だ。」
部下に話しかけられた副隊長は一体のアンデッドの首を掴んでもう片方の持っている剣で迫ってきた2体のアンデッドを切り倒した。
「はあ!?今頃、傭兵なんてあまり稼げないでしょう?なぜなんですか?」
「そんなの私が知ると思うか?本人に直接聞け!!」
副隊長の言葉にもっともだと思った。
何故傭兵をしてそれに冒険者パーティーに入っているのか聞こうとしたのだが、
その当人が騎士団員の奮戦がまるで無駄と言われるかのように一振りで十数体を真っ二つにしてしまう姿を目撃してしまった。
(うん…また、次の機会にしよう。)
部下は詮索するのを辞めることにしたのだった。
まだ曖昧だが少しずつあいつらとの記憶が戻るようになってきた。
まだ曖昧な部分や全員の顔や見た目の輪郭ははぼやけているが、名前や仕草は少しだけ思い出せるようになった。
俺がいなくなった後、あいつらはちゃんと手柄を立てて、英雄に慣れたのだろうか?
それは後であのドワーフの爺さんに聞くか…。
俺は今、遊撃部隊として副隊長と2、3人の部下と共にアンデッドの大群を踏み潰しながら騎士団を援護している。
エール副団長が、上がり過ぎていた前線を下げさせて、
再編成させた今、紅鳥の騎士団のとっている陣形はフォール砦を背にして半円形の防御陣形だ。
そして、別動隊の少人数で組まれた遊撃隊が群れの勢いを削ぐように防御陣形に向かっている奴らの背後を攻撃をしてすぐに移動する事でアンデッドの注意力を散漫にさせた。
集団としての勢いを減らすことで何とか崩壊しかかっていた前線を立て直すことができたのだ。
僅かに余裕が出来た騎士団は重症で倒れていた騎士団員たちをリーナ隊長の「 とっておき」のポーションによって戦いに復帰させることで、防衛力が格段に上がったのだ。
何故か復活した騎士団員たちはおかしなテンションでアンデッドを切り刻んでいるが…。
俺の配置された位置は遊撃隊の特攻隊長だ。
遊撃隊の一番戦闘に立って、切っては移動し、また切っては移動することで、アンデッド達の騎士団への注意を散漫されるようにエール副団長に言われた。
俺は頭を使うのは苦手だから、この役目はちょうどいい。
背後はバードの魔法に任せて、正面をただただ切りながら馬よりも早いスピードで切り刻む。
俺、馬より早く動けたっけな?
この急な身体の変化の原因は絶対あの神剣のせいだ。
そんな気しかしななった。
むしろ確心に近かった。
まあ、それについて後でバードに問い詰めよう。
それにしても多すぎないか?
まあいつもやっている素振りと対して感覚は変わらないから別にいいか。
バードの興奮した声が聞こてくる。
「このっ!穢らわしいホーデスの手下め!!僕が成敗してくれる!!」
そんなことをほざきながら、魔法陣を生産しまくって、あらゆる属性の魔法を撃ちまくっている。
俺の相棒は頼もしいようだ。今だって、土魔法で騎士の背後に忍び寄っていた数体のグールを串刺しにしていた。
しかし、そんな二人?の奮戦を嘲笑うかのようにアンデッドの大群は一向に減る様子は見られない。
止めどなく現れるこのアンデッドは何処から現れた?
ダンジョンでもこの量は可怪しい。
………。何か、裏がありそうだ。
「一時戦線を離脱する。臨時隊長任せた。サリー。」
「はあ!?テメェが隊長だろうが!!ちょっ!?勝手にどっかいくなー!!」
あと呼び捨てするなー。
そんなサリーの言葉を背景に、アンセムは唯一アンデッドが少ない上部の木と木の間を蹴りながら森の奥に入ってしまった。
「あいつ…化け物かよ……。」
サリーはアンセムの行動に唖然とするしかなかった。
フードを被った男は太陽の光がオーランド山脈から漏れ出している中、ある小屋に向かって真っ直ぐに突き進んでいた。
この男の主君と言えるものに今会合しようとしていたのである。
男が小屋のドアの前でノックをしようとすると、小屋の中から声がした。
「No,4か…入れ。」
私の気配がドア越しに分かることに驚きを隠しながら、ドアノブに手をかける。
「はい。我が主。」
やはり我が主は恐ろしい…
そんなことを考えながら返事をしてドアをゆっくりと押し開けた。
ボロボロの小屋の中に入ると薄暗い小屋にランプが置いてありそのランプの光が我が主であるグレーギルドのマスターを照らしているのが確認出来た。
No.4と呼ばれたフードを被った男は自分の主が目の前にいると即座に前に進んで片膝をついて頭を下げた。
「参上いたしました。我が主。」
「表を上げよ。」
自分の主の許可を受けた男はゆっくりと顔を上げる。
我が主の顔はランプの光の影によって見えない。
我が主はどのような素顔なのでしょうか?
泥溜にいた私を拾ってくださったこの緒方はどのようなお姿をしているのでしょうか?
そして、貴方の流れる血は何でしょう?
ああ、いつか私が尊敬する貴方の血を見てみたい。
そんな男の恐ろしい心の中の独白を遮るかのようにギルドマスターは問いかけてきた。
「首尾はどうだ?」
「霧の森に入った。紅鳥の騎士団60とそこらは上手く罠にハマり、完全な足止めに成功しました。このまま行けば、私の眷属達が奴らを食い殺すでしょう。」
「エディソンは?」
「今手薄になったエディソンをNo.1からNo.3率いる九百名のメンバーと途中で回収した100名程の使い捨ての盗賊がエディソンを守っている国交守備隊に対して襲撃を開始しております。
あの3人が手を組んだのです。余程のことがない限り、簡単にエディソンを手中に収めることができましょう。」
「領主はどうだ?」
「領主かと思われる人物を二十二区のスラム街で暗殺を試みましたが、我々の部下が確認した所、そいつは影武者でした。
つい先程エディソンの中央広場で、防衛の指揮をとっているのを部下が確認したようです。」
「中々エディソンの領主はしぶといようだな…。」
「ええ、今回の襲撃で必ず仕留めて参りますので…。」
「よい。それよりも、まさか私達にまさかあの穏健な夜の魔女が介入してきたのは予想外だ。」
「もしかして、あのとき対峙したフードを被った怪しい三人組の!?」
「我々も夜の魔女とは戦いたくない。彼女は魔法使いの中でトップクラスの力を誇っている。」
魔法を極めた魔法使いの中でも、特に強力な魔法使いはネームドを付けられる事がある。
それは多くの魔術師の憧れでもあり、恐れの象徴であった。
「まあ、本人はそこまで私達に介入するつもりがないが、あの少女を奪われたのは釈然としない。」
「聖女はこの私が奪い返しに行きましょうか?」
「しなくても良い。お前では相手にならん。さて、一番の本題に入ろうか?少女は聖女の力に目覚めたのか?」
「はい。私のアンデッドの眷属から情報がありました。これで貴方様の目的地に一歩近づくでしょう…」
小屋の中には気配が全くなかった筈が、突然ギルドマスターの背後から僅かな気配が現れた。
ほう…影のものですね。
私が近づくまで気配を察知出来ないとは…。
是非、貴方の血を見てみたいですね。
男は、物心ついた頃から血が好きだった。人の体から流れ落ちる血を見るとなぜだか心が満たされた。
「ギルドマスター、国境封鎖をしていた紅鳥の騎士団の団長アードリヒ=レクイエム率いる騎士団員60名がエディソンに現れ、我々の背後を突きました。」
「あの男が?」
ギルドマスターと呼ばれた男は動揺する様子も見せずに冷静に質問をした。
その暗闇からの気配は静かに返事した。
「そうです。そして、そのまま我々を突っ切り、エディソンの城塞の門に入ったようです。」
ほう…面白い男だ。
そうグレーギルドのマスターは内心微笑んだ。
次回は日曜日0:00です。
お楽しみに!!




