①「目覚め」
気を失ったアンセムの行方はいずこに!?
そしてアンセムが見ていた夢とは?
ここから英雄の物語が再び動き出す!!
薄暗い洞窟の中、ただの生き物が生息するのにはあまりにも過酷な世界を「深淵なる洞窟」は独自に築いている。
この世界では、薄暗く、青白い光を放っているものが存在する。この光が本来光の届くはずのない暗い洞窟を照らしてくれている。
これらはライトクリスタルと言われていて、魔力の多い場所にしか生成されない魔石だ。魔石が広く分布しているような場所は必ず魔力が溢れ出ている。
そんな場所はだいたい魔物が多く生息しているものだ。
魔物は魔力だけでも生存出来るのだが、基本魔物は凶暴だ。そして魔物のほとんどは周りの生き物をあたり構わず襲う。勿論人も…。
だから人族にとって魔物ほど厄介な存在はいない。
「深淵なる洞窟」にある魔力は普通のダンジョンの魔力とは比べるまでもなく異常に魔力が多い。魔物は魔力が多い環境ほど力が増すため、自然とこのダンジョンの攻略難易度はバク上がりしてしまうのだ。
そして魔物は魔力の増加に伴い非常にに気質が荒くなる。近くいるものはあまり構わす襲いかかるようなやつが溢れんばかりに存在している。
だから当然弱いヤツは簡単に死に、逆に強いヤツは生き残る。この洞窟は自然界の弱肉強食さのレベルを残酷さを一段階上げたような環境なのである。
そんな厳しい世界の中、あまりにも弱く、生態系の底辺と呼べるような魔物がいた。
その魔物は丸く表面が柔らかそうで、ローションの塊が一人で動いているようにも見える。
少しの衝撃でも一瞬で潰れそうなそんな貧者な存在が薄暗い洞窟の中、自分のねぐらに横たわっている見慣れない生き物に対し警戒していた。
なんだこの生き物は。見たこともない。
それにここらはこんな大きなのがめったに来ない場所のはず。だからここをねぐらに選んだのに…。
いくら待っても一向に消えることもなく勝手にいなくなってもくれないので、仕方なく貧弱な存在はこの生き物を観察してみることにした。
大きさはこの間隠れて見ていた棒?らしき物を持った緑色の二本足の生き物が背伸びしても絶対に届かないくらい大きい。
赤くて体の大きい恐ろしい二本足の生き物ぐらいの大きさだ。
てっきりその線が濃厚だと思ったのだが、どこか色がうすすぎる。
それに頭部には大きな角の代わりに毛だけが生えているから全く別の生き物だろう。そんなことを考えているとき、その生き物が急に動いた。
「!!?」
「う〜ん、ソフィア〜!」
急に動いて声を出したこの生き物に対し驚いた貧者な存在は、飛び退いて急いで近くの岩陰に隠れる。
かなりの時間様子を伺っていたがその生き物はしばらく起き上がる様子はなかった。
ただ寝相を変えていたことだけだとわかって安心したのか、貧者な存在はさらにその生き物に近づいていくのだった………。
俺は小さい頃の記憶を観ていた。
それは俺が産毛の生え変わっていないくらい小さいガキだったときだった。
「アンセム〜どこなのーー?」
元気で優しい少年の母の声が、屋根の下から少年の名前を呼ぶ声がした。
その声が聞こえない訳では無いが、少年はその声が聞こえないフリを決めるのだった。
小さな一軒家の屋根の上で一人考え事をし続ける。
ウォーカー家がいつも住んでいる家は一言で言えば一般的な大きさよりも小さい。所々木の板で補修したあともある。
そう、少年の家は貧乏だ。貧乏な上、背が低く、体も小さい。そんな子は基本いじめにあうだろう。
何故聞こえないフリをしたかって?
勿論、同じ村の年上の少年たちにいじめらて泣いていたのを隠すためである。
一見幸せには見えない姿だが、そんな貧乏な家でも少年は幸せだった。
少年にはもともと二人家族がいた。
少年の父と母だった。
父は傭兵でよく家を空けていてたまにしか会えないが、会える日は必ず遊んでもらっていた。
そんな父に対して少年は憧れていたがその反面、危険な傭兵なんてしないでいつでも母の隣にいてほしいと思っている。
傭兵をやめてもらおうと説得しようとしたときがいくつもあったが傭兵稼業を誇らしげに語る父を観て、いつも言えなかった。
少年がこのモヤモヤを言えないうちにあっと言う間に季節が通り過ぎていった。
少年が物心ついて数年の月日がたった頃、有名な傭兵になってお金に余裕が出来るようになってきた父は少年が12くらいのときに10歳の養子をもらってきた。
その少女が義妹のソフィアだった。
初めてあったときの彼女は控えめな子であまり自分から話そうとしなかったが、このときの少年は新しい家族に喜びしかなく、彼女の意思に関係なくいろんな所に連れ回し、そしてとにかくたくさん話しかけた。
そんな少年に最初はおどおどしていたソフィアだったが段々口数が多くなっていき、最近は俺に説教喰らわせるくらいには口が達者になっていった。
元気に動き回れるくらいになる頃には彼女はいろんな知識を吸収してたくさんの本を読むようになるようになる。
(このときから彼女は魔術師に興味があったのだろう。)
「あぁ!! お兄ちゃん見っけ!!!ゲッ!!何その顔!!またいじめられてたの?」
さっきの母さんの大声に負けないくらい元気な声がハシゴを登るってくる。
「う、うるせぇ!!」
「(ゴツンッ)痛ぁ!!」
「聞こえたらどうするんだよ。母さんがまた心配しちゃうだろ!!」
「いつも無理して母さんをヒヤヒヤさせてるのは誰ですか〜?」
「くっ!!」
この通り、うちの義妹は口が達者だ。
そのうちウォーカー家には俺の母親二号が生まれたりして……。
うぅ…、今考えたら身震いしてきた。
「お兄ちゃん、また変な妄想してるでしょ!?」
「してないって!!」
「ホント〜?」
「ハハハッ。ホントホント(アセアセ)」
「嘘付いてるでしょ。」
ガガーン!!
何故気付いた…。
少なくとも僕は顔には出していないはず。
絶対そのはずだ。
何故か心の中を読まれた僕が驚いていると、
「兄ちゃんの考えてることなんか目を見るだけでわかるもんね。」
ものすごく自慢気に義妹が言う。
なまじ頭が良いだけに、察しが良いだけにこの義妹は簡単に僕の考えを言い当ててしまう。
やはり、この義妹は僕の考えはお見通しだというわけか。
いつかこの少女には頭が上がらなくなるだろうという未来が頭にはっきりと浮かんできて、そんな考えに僕は半分未来に絶望しそうになる。
大丈夫か…、未来の僕……………。
「お兄ちゃんのことなら何でも知ってるもん…。(モゴモゴ)。」
「何か言った?」
「なんでもない!!(カァ〜〜///)」
時々うちの義妹は俺には聞こえない小さな声で喋り、一人で紅くなることがある。
なにを言ってるのかわからんし、いつものことだから、気にしないことにした。
二人は少しの間、金色に輝く麦畑が風に揺られているのを眺める。
きっと今年は豊作なのだろう。
何故か今なら、叶えたい夢を叶えられる気ががする。
よし、絶対に叶えるぞ!!
そう決めた少年は、決意の固めたようなはっきりとした声で口を動かした。
「僕、いつか家族を守れるような大きな男になりたい。家族だけじゃなくてこの村のみんなとか周りの人間もまとめて守れるくらいには強くなりたいんだ。」
いつもこういうときに小馬鹿にしてくる義妹は本当にこの少年の考えてることがわかるのか、少年が本気であるのを察したらしく、今回ばかりは何も言ってこない。
秋らしい、涼しい風が穏やかに吹いて、金色の大地を揺らしている。
しばらく雲一つ無い大空を二人で見上げていたが、やがてソフィアが口を開いた。
「お兄ちゃんならなれるよ!!きっと…。」
「当たり前だ。」
「ぷっ!!」
「アハハハハハ!」
「あははは!」
二人が大声で笑う。
二人の笑い声はこの青空に仲良く響き地平線の向こう側に消えていく…。
この気持ちの良い笑い声には子供特有の力強さがあった。
今の二人なら将来どんな壁が来ても、笑って超えられるのだろう。
二人には血の繋がりはないが、本当に血が繋がった本物の兄弟のように見える。
「いい加減ご飯ですよー。二人とも早く降りて来なさ〜い。」
さすが僕達の母さんだ…、
どこにいるのか察して来た。
この様子だと、場所だけじゃなくて理由も察せられてるな。
本当にこの親子は僕の心を読みすぎなんだよ…。
「タイヘン!?私、母さんの料理の手伝いしてたんだった。今日は父さんが帰ってくる日なのに、失敗しちゃいけないの!!!」
そうだった、すっかり忘れていた。
今日は久しぶりに父さんが帰ってくる日なんだった…。
なんて今日は雲一つ無い、良い天気なんだ。
きっと良いことが起こるに違いない!!
そんなことを考えてている僕の考えとは裏腹になんだか心の奥でなにか冷たい、嫌な予感がしていた…。
「ペシッ」
痛てっ…。なんだ!?
「ペシペシッ」
「ウガッ!」
「ビクッ!!!!!?!」
いきなり起きた男にびっくりしたのか、貧弱な生き物は今まで見たことがないほど素早く移動した。
さっきまで、俺は魔物に微弱な攻撃を食らっていたらしい。
あまりにも貧弱な攻撃はこの男にダメージを食らわせることはできない。
せいぜい、軽いビンタを食らう程度だ。
だが、この男の目を覚ますにはちょうどよい威力だったようだ。
目を開けると、目の前には俺を岩陰から見ているスライムがいた。
次回は明日の日曜日の10時に投稿します。
これからは、アクセル踏みまくって週3投稿目指します!!
楽しみにして、待っててくださいね。
本編は2000〜6000文字を目安に書いていくのでたっぷりと物語を楽しめると思います。読んでくださりありがとうございました!!!