⑰「潜入」
久しぶりに奮発しました!
楽しんでいってくださいね。
たまに見回りに通りかかる看守を気絶させながら、慎重牢獄の通路に進んでいくと、いくつかのポーションと僕の相棒の双剣が置いてあった。
「おお〜。相棒〜!!会いたかったぞ。」
久しぶりに再会した相棒に思わず頬釣りをしてしまった。
「相変わらず剣士は変わり者ばかりだ。何故物に感情移入する?武器などただの手段の一つだろうに。」
彼女は半分呆れながらナイフや、マントから手に持って、黙々と自分の荷物を回収していく。
僕は頬釣りをしたままむっとした顔で答えた。
「この双剣を、他の武器と一緒にしないで欲しいね。これは僕達が冒険者になるときに兄さんが僕にくれた双剣だから大切にしてるんだよ?」
「大切な者からの贈り物なのだな。」
そうしてなにかを思い出したのか、耳に付けているアクセサリーをなぞりながらニコッと笑った。
今までの彼女はクールといった感じで冷たい表情しか見せてくれなかったが、初めて僕に見せてくれた笑顔は、正直可愛かった。
もっとその笑顔をたくさんすればいいのに…。
「ああ、そうだよ…。」
お互いに見つめ合ったまま暫しの静寂が訪れる。
すこし遠くから、静寂を破る声が響く。
「曲者だ。衛兵、出逢えっ!!」
― ピーーー―
遠くから看守の声と異変を伝えるための笛の音が聞こえた瞬間、女暗殺者はすぐに冷たい顔に戻ってしまった。
「そろそろ潮時だな…。」
どうやら脱獄がバレてしまったらしい。
「さて、武器も手に入った。これで行動を同じにするメリットが無くなった。これからは別行動とさせてもらう。」
そう言って、彼女は黙って暗闇に潜んでしまった。
「責めて自分の名前くらい、教えてくれれば良いのに。」
そんな呑気な言葉が出て来てきて、一瞬ポケ〜としてしまっていた僕は、看守達の声や足跡が近づいたことで、ふと我に返った。
看守達に今僕の素顔を晒すのは不味い。最悪妹を困らしてしまうかも知れない。
「さっさと妹と合流しないとね。」
そう言って、女暗殺者と同じようにようにサンソンは暗闇に潜んでいった。
異常な魔力を含むせいで、深い霧が立ち込める土地に、年季を感じさせる大きな要塞が不気味にそびえ立っていた。
ここはエディソンの周辺の山に佇む砦跡の中で最も大きい砦。フォール砦。
アンセムが活躍していた五十七年前以前から百年続いた聖戦記時代のときにグランオール帝国の侵攻からいち早く気が付くための見張りとして活躍していた。
戦国の世が終わり、暫く経った今ではこの砦を管理する者はおらず、犯罪者組織であるグレーギルドのアジトになっていた。
ここが王国に見つからないのは、昔から流れる血が絶えなかったこの土地は争いに敗れた先兵達の怨念によって土地が荒れて、この土地が抱擁する魔力が多くなったからだ。
噂では昔、力の強い魔人が自分の縄張りとするために魔力を施したとも言われている。
土地が荒れると、その土地に留まる魔力量は多くなる。
それは何故なのかまだ判明していない。
分からないのである。
つい最近判明した、魔力が多い土地ほど住みつく魔物の数は多くなることなどしか分かっていない。
魔力が凶暴な魔物が多く住み着いていったのである。
今ではネフェタリア領で最も危険な地域になっており、危険を顧みずに一攫千金を狙う冒険者達ですら恐ろしがって、ほとんど寄り付かない自然の要塞になっていた。
そのフォール砦の城壁の通路で二人の男が見回りをしていた。
「おい。次の交代はいつだ?」
背が高い30代くらいの男が隣で歩いている背が兄貴分である低い男に聞く。
「次の交代は夜明けだってよ。」
背の低い男は隣に歩いている相棒の質問に答える。
「あ〜あ、面倒くせぇ…。まだ国の警備隊とやり合ってたほうがマシだぜ。退屈しないからな。」
「あぁ同感だ。だがな。この役目はギルドマスターが俺たちにくれた大事な仕事だぜ?あんまりグチグチ言うなよ。」
「俺達を拾ってくれたギルドマスターには感謝してるけどよ。たまには刺激的な仕事がしたいぜ。」
「まあまあ、この仕事が終わったら俺が一杯ジョッキを奢ってやっからよ。もう少し気張れよ。」
さっきまでダルそうにしていた背の高い男は背が低い男の言葉を聞いて、急に背筋を伸ばして態度を急変させた。
「流石っす。兄貴。」
「相変わらずお前は調子が良いやつだ。」
呆れ気味に背の低い男がいった。
その後二人組の男達は黙って仕事を続けた。
少し時が経ち、城塞の一階の見回りを終えたところで、ふと思い出したかのような口調で背の高い方の男が話しかけた。
「そういえば何でネフェタリアのご淑女が攫われてるんだ?あんな健気そうなお嬢さんがよ。」
背の低い方の男が肩をすくみながら答える。
「さあ?俺にも分からん。けどな。ここだけの話、あの少女には聖なる魔力が宿ってるんだってよ。」
「へぇ~。それってその少女が数百年に一度起きる大厄災に立ち向かうために女神様の使徒の聖女かも知れないってことか?」
「ああ。それでうちのギルドマスターはその少女の力でこの砦に結界を張って、湧き出てくるアンデットを根こそぎ排除したいってわけだ。」
「なるほどな。ここらのアンデットには手を焼かされてきたものな。だけどよ?それじゃあ何でギルドマスターは領主から金をぶん取ろうとしてるんだ?軍資金は沢山あるのにな。」
「分からん。きっとあのギルドマスターのことだ。俺達下っ端には考えの及ばない策があるんだろう。」
二人はギルドマスターのお陰で何度も美味い飯にありつけるようになったので、全幅の信頼を寄せていた。
二人組の男達は着々と仕事をこなして、すべての通路を見回りし終えた頃には、もう朝日が登ろうとしていた。
「さて、もう人頑張りするか!」
「次の交代が来たら、ジョッキを、一杯グビッといきたいぜ。」
「ああ、同感だ。」
「残念ながら交代は来ないわ。私たちが眠らしたんだもの。」
「誰だてめ…。ぐっ。」
いきなり後ろから女の声がして、驚きながらショートソードを抜こうとしながら後ろを振り返ろうとした二人の男は、後頭部を殴られて気絶してしまった。
バタンッ。
「女に向かって、てめぇとは失礼しちゃうわ。」
そう呑気に喋っているのはフードを被っているジルだった。
「おいおいジル姉さん。いきなり声をかけるのは勘弁してくださいよ。」
「そうすっよ。ジルの姉御。処理しなきゃいけないの俺達なんですからね。」
ウィルソン兄妹が冷や汗をかきながら気絶した男二人組を縄で拘束していた。
「フフッ。たしか潜入だったけ?楽しくて忘れちゃった。」
その無邪気そうな笑顔は笑顔はウィルソン兄妹を震え上がらせるのには十分だった。
兄の方がつい口ずさんでしまった。
「姉御…、その笑顔だけは姉御のその最近惚れた男ってぇ〜奴には見せちゃいけやせんよ。」
ゴン。
「ッ〜〜〜。痛ぇ〜!」
「あ、兄貴ぃ〜〜!」
ジルがこの二人と初めて出会ったのはジルがエディソンで眠りの風を開いて、お客さんが増えるようになって繁盛し始めたばかりのある夜更け。
ジルがいつものように鼻唄をしながら皿洗いをしていると魔力感知が何か二つの生き物を感知した。
初めての強盗に緊張したジルだったが、少し魔力で肉体強化をしたら意外とあっさり倒してしまったのだった。
その時ジルが倒した二人がウィルソン兄妹だった。
当時のウィルソン兄妹は裏の世界ではかなりの腕前だったらしく、
それを容易くのしてしまったジルはエディソンを裏で牛耳る他の裏の組織に目をつけられるようになってしまったのだ。
襲撃者達は勝手に慕って着いてきたウィルソン兄弟が片付けてくれるが、流石に毎日襲撃が続いて次第にイライラが溜まっていたジルは、
ついに吹っ切れてエディソンの裏組織をウィルソン兄弟といつの間にか増えていた舎弟達(ウィルソン兄弟が勝手に入れた)と共にエディソンに潜む、裏世界を支配していったことは、また別の物語。
「さあ〜て、見張りはほとんど始末したし、私の縄張りで暴れるネズミは退治しないとね?」
「う~ん。すこし困ります。三人方。うちの者に手を出されては。」
「あら?あなたがこの砦で一番強い人?」
「えぇ。何やら嫌な予感が当たったようですね。取り敢えず侵入者は排除しますか。」
そして得体の知れない男は剣を構えた。
ジル達もそれぞれ構える。
当に一触即発の瞬間の時、
「逃げるわよ!」
「うっす。」
「はい、姉御。」
ジル達は一気に後ろに駆け出した。
久しぶりの強者達の戦闘に警戒していた男はポカンとしたまま、少しの間動くことはなかった。
が、すぐに我を取り戻して追いかけようとしたが、タガーが飛んできて男の行く手を阻まれる。
「貴様の相手は私だ。」
現れたのは女暗殺者だった。
「下っ端がここにきて、反逆ですか?それも役割も果たせずに捕まったという。無能の…。」
「元よりこの組織に忠誠を誓った覚えはない。」
あの侵入者達に霧の森に侵入されてしまいましたか、
まあこの裏切り者を殺してから向えばいいでしょう。
「そうですか。では裏切り者は処罰しなければいけませんね。」
男は残虐な笑みを浮かべて真っ黒な刀身の剣を構えた。
「それにしてもなんで姉御がやっちまわないんですか?」
弟のほうが質問する。
「俺も気になるっス。」
兄も頷くように言った。
「それは乙女の秘密よ。後はさっさとやることやってトンズラこいて、ゆっくり傭兵さん達を待ちましょう?」
「本当に姉御って、惚れた男に弱いんですね。」
ゴツンッ。
「ってぇ〜〜!」
フードを被った侵入者は、何事もなかったように月面の明かで出来た森の影の中で消えていったのだった。
次回から戦闘シーンを大量に入れていきます!!
次回は日曜日の0:00です。
お楽しみに!!




