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英雄の送人  作者: SOGEKIKUN
第二章「英雄の旅立ち」
32/77

⑮「アン②」

たくさんの人々の中心にいるアンという少女。

彼女は一体何者なのだろうか…。


楽しんでいってくださいね!!


薄暗い独房が蔓延る地下では犯罪を起こした者が収監されていた。


その監獄の中のある一つの牢屋で…。


「お前を雇ったのはどこのどいつだ?さっさと情報を吐け!!」


― ザバー ―


「プハッ、ゴホゴホッ…。」


鎖で繋がれている暗殺者が三人の看守達にバケツの水に頭を突っ込まれながら尋問を受けていた。


「なかなか口の固い女だ。」


若い看守の一人が言う。


「いつまでもつかな?」


若い看守の隣に立っていた看守が興味本位の様に若い看守に聞いた。


「さあ?賭けるか?」


(このゲス共が…。)


「お前らに教えでやる情報なんてない。ぺッ。」


吐かれた唾が当たった一番歳をとっていそうな看守は顔を赤くして怒りをあらわにした。


「貴様〜!」


ドスッ。バコッ。


「グッ。ガハッ。」


「もうやめましょうって…。これ以上やったら死じゃいますよ!?」


「情報を吐かせとけってブルーメル殿が申されていましたよ。」


怒りを吐き捨てるかのように女の暗殺者を蹴っていた看守は仲間の看守の静止でやっと怒りを鎮めることが出来た。


「命拾いしたな…ペッ。」


「今日はぱぱっと飲みましょう?ね?」


「次の当番がやってくれるんで大丈夫ですよ〜。」


鎖で吊るされていて、気を失いそうになっても立つことしか出来ない女暗殺者を放置して、看守たちは牢屋から立ち去っていった。


― ギーガシャン ―


「ゴホッゴホッ…。」


一人取り残された私はこの屈辱を味わうことしかできなかった。


クソッ…。あの冒険者、何故一人の人間を庇いながら


我々の攻撃を防ぎきれるのだ!?


何故少女の冒険者を置いて逃げようともしなかった?


彼ほどの実力ならば、少女を置いて突破に専念すれば簡単に包囲網を抜けられただろう。


だが、そうはしなかった。


あの女の護衛だったのか?


ただの冒険者が、専門の暗殺者の集団相手に、たった一人で、更に酔っている少女という枷がある筈だが、騎士団が来るまでの間、あの冒険者に扮した護衛の男は自分を犠牲にしながら少女にかすり傷つけさせないまま、耐えて見せたのだ。


家出中の令嬢だと聞いていたが、流石ネフェルタリア家だ。


見事な精鋭を護衛につけていやがった。


クソッ!!


あと少しで、アンを取り戻すことができたんだ…。


○○○はグレーギルドに雇われた暗殺者のうちの一人だった。


組織に依頼されたのは女の暗殺。


報酬はアン。


だが任務に失敗した今はあの青髪少女を殺す必要はない。


力ずくで奪い返すまでだ。

とりあえず隙を見て脱出する。


それまでは様子見だな…。


疲れているのだろうか?

記憶が頭の中から溢れてきては元の場所におさまっていく。


クソッ、今は……気を失っては………、く………。



私は元々、グランオール帝国の孤児だった。


たまたま見つけた伝手のおかげもあり、食い扶持を見つけるために暗殺者になったが、任務に失敗して仲間は全員殺されてしまい、口止めのために派遣された祖国の追手に追われていた。


その時、たまたま見つけた教会に駆け込んだことで修道女になった。


修道女になって暫く経っても、私は仲間を失ったことと、祖国に裏切られたことで出来た傷口が癒えていなかった。


何故なら自立のための資金集めの為にマスターの依頼で暗殺者として暗い夜を徘徊するしていたからだ。


多分これが原因なのだろう。

誰かを依頼で殺す度に仲間の死に顔を思い出してしまう。


マスターというのは酒場を営んでいるのジジイのことだが裏では情報屋をやっている。


そのマスターが信頼性のある仕事を依頼してくれているお陰で、資金は少しずつだが貯まってきている。


家族もも信頼できるような仲間もいない私にとって、マスターとの出会いは重要なことだった。


勿論マスターには感謝している。

が、今の私にとっては辛いものでしかなかった。


資金が集まったら裏の仕事から何処かの街で細々と暮らそうとしていたが、生きるためではない殺しに罪悪感が心の奥底から込み上げてきて毎日が心苦しかった。


私は何で生きようとしているんだろうか…。


ただただ毎日が辛かった。


そんな私は他の修道女とも馴染めずに一日中孤独な毎日を送っていた。


そんな辛い毎日を過ごしていた私に手を差し伸べてくれたのが、アンという孤児の少女だった。


それは、私が一人中庭のリンゴが成る木の下で休憩をしていた時だった…。




「お姉ちゃんはどうしていつも悲しそうなの?」


私に話しかけたのはオレンジ色の髪に薄い黄色のワンピースを着た少女だった。


リンゴの木の影が風で揺れる。


影に隙間が出来て、時折差す光が少女の綺麗な目や鼻を照らしていた。


普段から孤児達から話しかけられることがなかった私は急に声をかけられて驚いたが、暗殺者持ち前の精神力で笑顔を作って返した。


「別に悲しくないさ。どうしてそう思ったんだい?」


「だって、物を失くしちゃった子達と同じ雰囲気があったんだもん。」


私は笑顔を崩さなかったが、図星を突かれて焦っていた。


私の演技が通じてない?


子どもの観察力は、時に大人を凌駕するらしい…。


「きっと大切な物を失くしちゃったんでしょ?大丈夫だよ。いつかきっと見つかるかも知れないんだから。」


もう…、私の大切なかつての仲間達はいないんだ。


皆死んじまったんだ。


もう取り返しのつかないことなんだよ。


私は出そうになった言葉を喉の手前で止めて、身体の中に押し返した。


彼女の純粋な笑顔は裏の、泥にまみれた世界を知っている自分にはまぶし過ぎる…。


「気遣ってくれてありがとうね。お陰で元気が出たよ。え〜と?」


「アンって言うの。よろしくね。お姉ちゃん!」


「ああ、よろしく…ん?」


アンはポケットから何かを取り出した。


「はい、お姉ちゃん。幸福のお守りだよ。」


そう言って、渡された者は片方だけの綺麗なピアスだった。


「お姉ちゃん似合うかな…、て…。」


顔を赤らめてもじもじと目をそらしている少女に少しドキッとしてしまった。


私は動揺を隠すように顔を横に向ける。


「フンッ、付けてやることもない。」


私の答えと私が横を向いたのを了承のサインと捉えたのかアンはパァと、顔を笑顔をこぼして嬉しそうにすした。


「私が付けて上げる〜!」


「好きにすると良い。」


そう言って、アンは丁寧に私の耳にピアスをつけた。


何故だろうか。

他人に近づかれたら思わず身構えてしまうが、この少女にはそんな気も起こらない。


安心?


私にとってこの気持ちは不思議だった。


なんなのだ。この気持ちは?


「はい。出来た!!これでお揃いだね。」


そう言って、左耳に付けた耳を見せながら少女は笑顔で私を微笑んできた。



この少女と出会ってから、最初は嫌嫌付き合っていたが、段々とこの少女と過ごしていくうちに心が安らかになるようになって、


数ヶ月を過ごしていくうちに給仕や祈祷以外のほとんどの時間はアンと一緒に過ごす様になった。


不思議と暗殺業の回数も減って最近は全くマスターの依頼を受けなくなって、

代わりに暗殺業よりは金は集まらないが近くのパン屋で、お手伝いとして給仕をするようになった。


「私が大人になったらお姉ちゃんの妹になるの!!」


この言葉が彼女の口癖だった。


「えぇ、良いわよ。」


彼女がもう少し大きくなって、それまでにこの子の貰い手が見つからなかったら、私の貯金が溜まったらこの子も一緒に連れて行こう。


このときの私は初めて生きてて良かったと、心から思えた。


マスターにも顔色が良くなったと、言われるまで体調が改善した。



だが、そんな幸せは逃げていってしまう。


この少女と出会ってから一年が過ぎた頃、彼女が5歳の誕生日を迎えた日…。


アンは領主に跡継ぎの養子として召し抱えられてしまった…。


太陽が沈みかかった空を背景に領主とアンが笑顔で手を繋って話し合っている姿を見て、私は悲しむべきなのか、喜ぶべきなのかわからなくなった。


なんせ養父はこのエディソンの有能で善政を敷くあの領主だ。


あの領主に育てられるならば、アンも困ることは無くなるだろう。


むしろ孤児から暗殺者として育ってきた私と比べたらもの凄い幸運だ。


こんな手が汚れてきっている女といるより断然幸せだろうと諦めて夕日に背を向けようとしてきたとき、後ろから足音が近づいてきて、ギュッと、私を抱きしめてきた。


「お姉ちゃん……。私、養子になるの。」


「ええ……そうなのね。それは素晴らしいことだわ。」


私は振り返らなかった。


振り返ったら、このままこのまま大人になれば将来立派な領主となるこの少女を連れ去ってこの少女の未来をぐちゃぐちゃにしてしまう。


だから振り返らない。


いやっ、むしろ今ここで振り返ってはいけないのだろう。


「うん。こうしたほうがお姉ちゃんも嬉しがるよって御父さんが言ってたんだ…。」


修道服の後ろの腰の部分がが微かに濡れているのが分かる。


「ええ…。お陰で私、今とても嬉しいのよ。」


少女の抱きしめている腕の力が強くなる。


「私、本当はお姉ちゃんと一緒に居たいよ〜。」


腰の濡れている面積が広くなっていく。


「こらこら。私の腰が洪水になっちゃうじゃないか…。御父さんが待ってるよ。さあ、行きな。」


「うん…。じゃあね……。」


そう言ってアンという少女は領主の馬車に乗せられて、教会を去っていった。


沈みゆく夕日が、馬車と重なって見えなくなる中、私は誓った。


私は何があってもあの子を危険から必ず守り抜く。


女神セスティアに誓って…。


しかし、現実は甘くなかった。


アンは攫われ、私は牢獄の中。


アンを取り戻す取引も結局は使い捨てで、騙されただけ。


私一人で、どうすればよいのか?

(起きて!)


ん?何だ?

(起きて、って!)


誰かが私を呼んでいるようだ。


「ねぇ、起きてってば!」


私は青年の声に起こされていたようだ。


私が目を開けると目を疑うしかなかった。


なんと、情報では捕まっていた筈のあのルイジェルド家の娘の兄が、目の前で手場も無しで、私の目の前で立っていたのだった…。


次回は月曜日の0:00です。

次回もお楽しみに!!

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