⑭「アン①」
「お前ら仲良しだな。」
この騒動はマスターという意外な人物の登場によって幕を閉じた。
「なんで不思議そうな顔をしている?お前らがいつまでたっても来ないからこっちから来てやったんだ。感謝しろ…」
「いやはや、もう少し深掘りしてみたらたくさんの情報が出てきやがった。」
マスターは機嫌が良さそうにジルの用意した朝食を味わいながら昨日の情報を話しだした。
「他の盗賊ギルドは全く関わってなかった。あれは誰かの偽装工作だったようだな。俺が一度で見破れなかったんだ。良い腕してやがるぜ。こんちくしょう。」
ほう?こういう荒事は盗賊ギルドのご法度のはずだが…。
「どういうことかしら?」
何故かこの話に参加しているジルが不思議そうに言う。
「どうしてジルがこの話に参加しているの?」
リリアが不思議そうにジルに話しかける。
「あら?私を巻き込んでおいて、仲間はずれにするつもり?」
まあ実際にジルもこの事件に関わってしまっているので、ジルがこの話に興味を持つのは致し方ない。
「まあこの女は信用できる。話を聞かせてもいいだろう。」
マスターはジルと知り合いなのだろうか。意味深な言葉を吐きながらコーヒーを傾けた。
「ありがとう、マスター。」
そう言ってジルはマスターにウインクをした。
「フンッ、朝飯が情報量代わりだ。タダじゃねーぞ。」
「フフッ、わかってるよ。」
「「フッフッフ。」」
二人は分け入り顔で、正直言って悪い顔をしていた。
「話を戻すが、ネフェタリア家のご令嬢を攫ったのは義賊じゃなくてな、グレーギルドだったらしいぜ。」
「おいおい、盗賊ギルドより危ない組織が関わってるのかよ。」
グレーギルドは各国が警戒する、大規模犯罪組織だ。
盗賊ギルドは盗みに強盗、暗殺など犯罪に手を汚しているので一概に真っ当なギルドとは言えないがグレーギルドはヤバい。国家レベルの大事件には大体この組織が裏にいることが多い。
しかも普通に生きていたら知ることもないような国が隠したいような危ない組織だ。
俺のかすかに残っている記憶が関わるなと警告をしていた。
「そしてよ。一番の爆弾がそのネフェタリア家のご令嬢はよ、実は養子だったようだぜ?
その女の子が実はグレーギルドがマークしていたらしい。何かしら特別な能力があったらしくてな、
当時教会に預けられていたあの子を狙っていた所をたまたまご領主様が養子に召し上げちまったらしい。
それで、グレーギルドがご令嬢となった少女を攫おうと画策しててこの街に長く滞在するようになったんだ。
優秀なご領主様はこの異変にいち早く察しがついたらしくてな、娘であるアンお嬢様の周りを騎士団で固めて警戒してたらしいんだ。」
「それでその子は堅苦しい空気が嫌で、逃げだした訳ね。」
リリアが納得したかのように頷いた。
「そして、お前らお二人さんを襲った暗殺者集団だが、リーダーらしき人物を捕縛したらしい。それ以外は騎士団にやられちまった。」
「じゃあ、そのリーダーらしき人物に会いに行けばいいの?」
リリアが考えるような仕草で聞いてきた。
「いや、それはもう大丈夫だ。」
「どうして?」
「そいつは言えねぇ。けど俺の知ってる人物だから必要ねえんだ。」
アンは小さな真っ暗闇の小屋の中で目覚めた。
ここはどこ?
お兄ちゃんは?
メイドのラズとお父様、そしてエール以外に初めて優しくしてくれた久しぶり友達だった。
そのお兄ちゃんが怖い男の人に倒されて、その後私も眠っちゃったことを思い出して、急に怖くなってしまった。
「グスッ。」
「お兄ちゃん、お父様、ラズ。早くお家に帰りたいよ〜!!」
試しに声を出して呼びかけてみたけど私の声に応えてくれる者は居なくて、静寂が帰ってくるのみだった。
どうして誰も私の呼びかけに応えてくれないの?
寂しくて怖くてひとりぼっちで辛かった。
一人寂しく泣いていたら、小屋の外から扉が開いてお兄ちゃんを倒した怖い男の人の仲間が部屋に入ってきた。
怖い。それに顔も暗くてあまりわからない。
その男の人は優しい声で私に声をかけてきた。
「やぁ、お嬢さん。あの時は痛い思いさせて済まないね。」
その声は心から謝っているように感じられて、優しい人なのかなと、思った。
「お兄ちゃんは?」
「お兄ちゃん?ああ、あの青年だね?」
「うん…。」
「あの青年はね、ちょっと眠って貰っただけだよ。それ以外は何もしてないから大丈夫。」
「ホント?」
「本当さ。」
お兄ちゃんが無事だという言葉を聞いたら、何だかホッとしてしまった。
グゥ〜〜。
急に私のお腹がなった。
「お腹が空いたのかい?」
私は赤くなりながらもコクッと、頷いた。
「アハハハハハハ。攫われたのにお腹が空いたとは!かなり肝が据わっているようだね。こっちに来なさい。ちょうど夕食が出来たんだ。」
匂いを嗅いでみると美味しそうなパンの匂いが漂っていた。
外を出てみると夜だった。
真ん中で焚き火が燃えていて、その周りに丸太が二本分と荷物があるだけだった。
男の人は先にスタスタと焚き火に近づいて、丸太に腰掛けて焼いてあった干し肉とパンを取り出した。
「ほら?いらないのかい?」
まだ信用できないけど、私をこれ以上何かする気はないと、今までの経験でわかった。
むしろ、お父様やラズが私を見る時と同じ、優しい目をしていた。
なんでだろうと思いながら、焚き火に近づいていく。
しばらくご飯を食べていなかったのかな?
小さい頃教会の黒いローブを着た、優しいお姉さんに食べさせて貰った者と似ていてとても美味しく感じられた。
「ほらっ、そんなにがっつかなくていいんだよ?まだこんなにあるんだからな。」
そう言ってすぐに無くなったパンと干し肉を渡してくれた。
その時にチラッと見えてしまった。
灰色のローブで隠されていた男の人の素顔をが焚き火の光に当てられていた。
その男の人の顔は酷い傷痕が幾つもあって、見ていてとても痛々しかった。
けど、怖いとは思わなかった。
なんでだろう?
この前、町中で見かけた野良犬でさえ怖いと感じたのに…。
男の人は私の視線が顔に向いたことに気付いて、慌てて灰色のローブを顔に埋めた。
「済まなかったね。怖かったかい?」
「ううん。傷にビックリしたけどおじちゃんは怖くないよ。」
「こらこら、お兄さんだぞ?」
「わかったおじちゃん。」
「もう、怒ったからな?生意気な小娘はこうだ〜。うりゃうりゃうりゃ!!」
「キャハハハ!!」
おじちゃんは私の脇腹をくすぐってきた。
「おじちゃん、くすぐったい。」
「まだ言うか。コノコノコノ!」
「キャッキャッ!」
その後はご飯を食べながらおじちゃんの冒険譚を面白可笑しく聞きながら過ごした。
「ああ、私はこの時こう言ったのさ…。あんたと結婚するぐらいなら、オークの嫁になったほうがマシだってな。」
「アハハハ!」
「おじちゃんが本当のお父様ならな〜。」
私の言葉におじちゃんは笑顔を向けて、
「どうしてだい?」
と、質問してきた。
「お父様は最近困ってくれないし、構ってくれるのはメイドのラズしかいなかったんだもん。こんなに私を面白がせてくれる人だったらよかったのにな。」
男の人の顔は暗くてわからなかったけど、何故か少し悲しそうにしていた。
けどすぐに明るくなった。
「ああ、私も君のような元気な女の子が欲しかったよ…。昨日はもう遅いから寝なさい。」
「うん!」
「スー…スーー……。」
少女が眠った後さっきまで男にあった、明るい雰囲気は森の夜風にさらわれたかのように消え去り、男の雰囲気が豹変した。
その時の男の雰囲気は、ただただ暗かった。
その時暗闇から声がした。
「ついに騎士団がこちらの尻尾を掴んだようです。」
「そうか。他には?」
「送った暗殺者集団は返り討ちに遭ったようです。騎士団がリーダーの身柄を拘束中です。口止めのために始末しますか?」
「いや、良い。どうせ捨て駒だ。計画に何の支障はない。放っておけ。それで、ちゃんと騎士団に罠を仕掛けているんだろうな?」
「はい。」
「そうか、このまま励め。」
「仰せのままに、我が君。」
そう言って暗闇の中の声の主は消えていった。
男の闇が消える瞬間はこの眠っている赤毛の少女の顔を見ているときだけだった。
謎の男は誰なのか?
次回は日曜日の0:00です。
次回もお楽しみに!!




