⑬「カオス」
追伸:アンセムの過去編の続きが止まっていたので書きます。(2025年2月2日)
「はあ〜!?何よ偉そうに!こっちが先に座ってたんだから、あんたがテーブルを移りなさいよ!!」
「残念ながら、他に空いてるテーブルは無い。ここの席しかスペースが無い。ヒクッ。」
「グッ。」
この男の返しにソフィアはグゥの音しか出せなかった。
確かにテーブルは埋まり切っていて、座れるテーブル席はここしかない。
必然的にここに座らなければいけないことになる。
酔っ払いのくせに妙に頭が回るな。
「ガキ二人が、四人テーブルを独占するのは十年はえーよ。ヒクッ。」
男はそう言って、酒瓶を口に運んでグビグビと喉に酒をたらし込んだ。
弓使いのエルフはさっきの若い女店員に酒二人分の追加をしていた。
どく気は全く無いらしい。
「もう…、一緒で良いわよ…。」
流石にソフィアもついに諦めたようだ。
「フンッ、聞き分けのいいガキは好きだぜ。なぁ?グルセナ!?」
男に話を振られたエルフは同意するかのように静かな様子で首を縦に振った。
な、なんて図々しい二人組みだ。
「おい、そこの姉ちゃん。エールのおかわりっ!!」
「は〜いっ!!」
「…で、何で山賊がここにいるんだ。それもエルフと二人きりで。」
さっきまで酔っ払っていた様子の男は急に顔を真剣な顔にした。
「チッ、いつから俺が酔っ払ってないと気づいていた?」
ソフィアは目を見開いている。まあ、俺も気付いたのはたまたまだからな。
仕方ない。
俺は肩をすくめる動作をしながら答えた。
「アンタが、俺達のテーブルに座ってから。酔っ払いにしては頭が回りすぎだし、酒の匂いもアンタの酔っ払い具合にしては薄かった。」
「チッ、最初からじゃねえか。まあいい。感の良いガキは俺は好きだぜ。」
「で、俺達に何のようだ?」
「お前ら、この最近、ある商人の護衛の依頼を引き受けてたよな?」
「なんで、俺達の動向を知ってるんだ?」
「そりゃあ、盗賊をけしかけたのは俺だからな。」
男のその言葉を聞いた俺とソフィアは素早い動きでそれぞれの武器を構える。
急に剣を構えだした二人に店中が静まり返る。
ソフィアに至ってはファイアーボールを空中に浮かばしている。
「まあまあ、落ち着け。この話には続きがある。グルセナ。取り敢えず弓から手を離せ。酒が不味くなる。」
男の目線の方を向けると、いつの間にか、エルフが二本の矢を俺とソフィアをそれぞれ狙うように向けていた。
(いつの間にか、俺達の後ろに?)
エルフは黙って山賊の隣に座り直した。
(取り敢えず、これ以上は敵対するつもりはないのか)
俺達もそれぞれの武器を下ろした。
「済まないな、俺の言い方が悪かった。それに、試して悪かったな。お前たちの腕前がどのくらいか知っておきたかったんだ。」
男は真剣な表情で言った。
「それは、俺達に何か依頼したいことがあるのか。」
「ああ、そうだ。」
これが俺の「英雄の送人」の始まりだった…
力の入らない身体を無理矢理起こして、アンセムは眠りの風の宿部屋を見渡した。
すぐにリリアがベットにうつ伏せになって、居眠りしていることに気が付いた。
「もお〜。兄さん〜、こんなに服いらないよ…。ムニャムャ…。」
リリアが眠りごとを言っている。
この少女とは決闘を申し込まれたのが始まりだった。
町中で追いかけ回されたり、馬で競い合ってそれがきっかけでこの少女のパーティーに入ったんだっけな。
(クスッ。)
なんてだらしない顔をしてるんだ。
「この子の寝顔結構良いでしょ?私は好きよ。」
そう言いながら空いていたドアから部屋に入ってきた。
ジルが暖かな眼差しでリリアを一瞥してから寝ているリリアを起こさないようにして、
お盆に乗せたスープとパンをそれぞれ二つずつ俺がいるベットの近くの小さな机に置いて椅子に腰をかける。
「俺はどれくらい気を失っていたんだ?」
「全然。傭兵さんがリリアに運びこまれてから朝日が昇っただけ。」
ジルは何かの布を縫いながらゆったりとした口調で答える。
「俺の体にあった毒はどうしたんだ?」
「リーナっていう若い女の騎士様が見事な回復魔術の腕前で傭兵さんの体中のあった猛毒を解毒してくれたのよ。本当に感心しちゃった。あの技術力、魔力の密度、かなり洗礼されて…」
そう言っているジルは今まで見たことがないくらい興奮し、綺麗な顔がほのかに紅葉していた。
「彼女、やっぱり魔法が好きなんだね。隠しているようだけど、あの調子じゃ、バレバレだね。」
バードが念話で喋りかけてきた。
「まあ、あの魔力量で一発でバレちゃうんだけど。」
「そこが魅力的なんだろうよ。」
「僕もその意見に賛成だよ。」
なんだかんだ言って、お茶目な女店主なのであった。
「ファ〜〜。ん?もう朝ね…。」
ぐっすりと眠っていたリリアは興奮したジルの声で起きてしまったらしい。
眠たそうな顔で目を擦っている。
「あら?おはよう、リリア。アンセムの調子はどう思うかしら?」
「う〜ん?アンセムは起きてる様に見え…、え!アンセムが起きてリュ〜!?」
「おはようリリ…、うお!?」
いきなりリリアが飛びかかってきて俺を押し倒してきた。
「ウゥ。もしこのまま死んだら、ぶっ飛ばすところだったんだからねっ!!」
涙目になりながら俺にのしかかっている姿は彼女を思い起こさせた。
青い長髪が朝日に当たって明るく輝く。
「ほら!お天道様はこんなに登ってるんだぜ。いい加減起きな!!寝坊助。」
よく俺が起きる時間に起こすために寝ている俺にまたがって座り、元気のある声を出していた彼女の声…。
ああ…、たしか、オリビアはこんな声をしていたな…。
これ以上は思い出せなかったが、それでも俺は何か大事な物を取り戻せたかのように、心の中の穴を少しでも埋めることができたという安心感を感じられた。
「へぇ~リリア?最近知り会ったばかりの俺を心配してくれてたんだなぁ〜?」ニヤニヤ。
「はぁ〜!?こ、これは違うから。あんたがいないと兄さんを救出出来ないだけなんだからね。」
「ハイハイそうね、そうね。」ニコニコ。
ジルも悪ふざけに乗ってきた。
「ち、ちが…。」プッシュー
ニヤニヤ、ニコニコ。
「う、うがあああああ。」
ポコポコ。
「痛て!?痛いって!!」
「あら?意地悪しすぎたようね。私は他のお客さんの朝食の用意してくるから、傭兵さん。リリアの相手してあげて。」
「私は子どもじゃな〜い!成人した立派な大人だあー!!」(ポコポコポコポコ。)
だから痛いって。辞めろリリア!!
「あらあら、かわいいじゃない。」
「ジル!そんなこと言ってないで速くこのガキを剥がすのを手伝ってくれ。」
「嫌よ。冒険者さんの腕力は馬鹿にできないんでね。」
「私はガキじゃな〜い!!」
「お前ら仲良しだな。」
その声に全員が振り返る。
そこには荒野の叫びのマスターいつものしかめっ面をして立っていた。
次回は来週の土曜日0:00分です。
次回もお楽しみに!!




