⑩「スラムの酒の味」
リリアとの賭けに負けた事で、パーティーメンバーに加わることとなったアンセムは、サンソン救出のために騎士団のアンの行方の捜索に協力することとなった。
騎士団会議が終り、副騎士団長のエールの指示の元スラム街の荒野の叫びに向かい、裏の情報を収集することになった…。
このエディソンで唯一領主の手が行き届いていない二十二区のスラム街にある酒場の一つ、
「荒野の叫び」は夜中になると完全にカタギとは言えない奴らが毎夜集まり、
ギャーギャーと騒ぎながらジョッキ同士をぶつけあっている。
俺が二階のデッキをチラリと見てみると、怪しい男たちが何やら固まり合って話をしていた。
今度は中央の広場を見る。
中央の広場はテーブルに囲まれていて、本来見世物に使われているのはずだが、喧嘩をしている者とそれを野次っているものに占領されていた。
お互いにナイフを持って牽制し合っているのを周りの酔っ払いが囲んで野次や酒瓶を飛ばしている。
どうせこの酔っ払い共は気にしていないが、危ないと思うんだが……。
そしてこの酒場の伝統芸である乱闘騒ぎがついに始まった。
酒に酔った男たちは隣にいた奴を次々に殴りつけるたり、酒瓶を投げつけている。
その乱闘騒ぎが始まると二階のデッキから歓声が飛んできた。
久しぶり?に訪れたが、相変わらず治安の悪い場所だ。
この前いった冒険者ギルドだってここまでは荒れてはいなかった。
リリアは何故かウズウズしている。
これは…、何かの発作か?
「おい?だいじょ…、」
「う〜ん。もう、我慢できない!!」
そう言ってリリアは俺に槍を預けて乱闘の中に潜り込んで行った。
(なんだ!?)
あ〜、喧嘩してストレスでも発散したくなっただけか。
アイツの腕は良いほうだ。
余程のことがなければきっと大丈夫だろうから、今はほっといておくか。
リリアが乱入したことがきっかけで乱闘騒ぎの勢いが更に大きくなる。
幸いアンセムは最大限気配を消してたので拳が飛んでくることが無かったが、バーへと進むまでに何度も投げナイルやビンの流れ弾が飛んできて、避けながら進まければいけなかったので1メートル進むだけでも大変だった。
この酒場の店主の威厳のありすぎる白髪の爺さんはこの光景をものともしないで、バーのカウンターの奥に佇み、ガラスのコップを拭いている。
この惨状はいつも通りの光景なので俺もこの爺さん大して気にしてない。
俺は飛び交うガラス瓶を躱しながらその爺さんに近づいていった。
暴れる大男を躱して爺さんの前のカウンター席に座り、その爺さんに声をかけた。
「よう。60年ぶりだな、マスター。結構老けたな?」
「フン。お前さんか。とっくにあの大戦でくたばってたかと思ってたが…。何かいるか?」
「いくらクールなマスターでも驚くと思ったんだが、中々驚く面が拝めねえな。じゃあ、いつもの奴で。」
俺は一枚10000ジーニの銀貨を3枚差し出す。
マスターは一瞬眉を潜めて黙って受け取ると、バーの下側の引き戸を開けてある酒を酒瓶に入れる。
「俺を驚かそうなんて百年はえーよ。長く生きていると不思議なことにたくさん出会うんでな。ホレ、お前のお気に入りだ。」
そう言って、古くさい見た目の酒瓶の中にウォッカをスライドさせて俺に差し出した。
俺は受け取った酒瓶を開けて懐かしき匂いを味わう。
どこの誰かか分からないがよく一緒に飲みあったな。
一息入れた俺はウォッカを一口分コップに注いでゆっくりと口に入れて、味を楽しむ。
背後からリリアの楽しそうな声が聞こえてくる。
まだまだ〜!さあ、どんどんかかってきなさい!!
「コリャ〜うめぇな…、この酒何年製だ?」
「57年製だ。」
へぇ〜。
あんた俺が死んだと思って、悲しんでくれてたんだな。
俺のニヤニヤに気づいたのか、マスターはほんの少しだけ赤くなりながら答えた。
「コンニャロー、お前の酒仲間がそいつを作ってくれと頼んできやがったんだ。別に俺が作りたくて作ったわけじゃねー!!」
はいはい。ニヤニヤ。
ここらの地域ではウォッカは誰か大切な人が死んだ年にウォッカを製造して、それを何年か熟成させて思い出を語り合うことで死んだ者の魂を死者の国へ送る風習がある。
まさかあのマスターがそう思ってくれたなんてなぁ。
「クッ………、チッ。で今日は何用だ?」
「あるお嬢様を攫った盗賊についてなんだが…。」
「ああ、ちまたで噂の奴のことか?」
「何か知ってることは?」
「色々情報が入ってる。噂じゃあ、俺の島の外の盗賊ギルドが一枚噛んでるっぽいぞ。」
めんどくさそうな連中の名前が聞こえてきたな。
ちなみに、この爺さん実はこのエディソンの盗賊ギルドを取り仕切っているギルドマスターでもある。
皆様は既にお気づきだろうが、マスターの意味は二つあったのだ。
「良い動きね?」
「けど、そのノロマな動きで私に拳は一発も当たらないわよ!!!」
拳はこうやって振りかざすの!こうっ!!わかった?
ありゃ?倒れちゃった!?
「だが、主犯は違うらしいぞ。」
「ほう?」
「なんというか最近有名な義賊が貴族の嬢さんを攫ったと言う情報があってな。おかしいよな?
ここエディソンを治めてる領主は善政をしいてる。
領民が苦しんでるって話聞いたことがないぞ?
それに、俺の情報網では領主の怪しい所が見つからなかった。
この俺の情報網がだぞ!?俺の腕が鈍ってない限りあり得ん!!」
「それが実際そうかも知れないわね。
あら?このウォッカ味が締まってて美味しいわね。これ何年製?」
さっきまで乱闘を満喫していたリリアがいつの間にか
俺の真っ隣りに座って勝手にウォッカをコップに入れて上品に口に注いでいる。
自分の腕にケチをつけられたマスターは少し不機嫌そうに答える。
「57年製だ。」
「へぇー。中々古いものなのね〜。誰かが死んじゃった日なの?」
ギグッ。
俺の反応を見て面白がったのかマスターはしかめっ面から悪魔の笑みをし始める。
「そうそう、そいつはよ丁度57年前に死んじまってな…。ああ、そいつは良いやつだったよ。ちと生意気な野郎だったがな。俺は二度とそいつと会えないと思ってたんだ。だがつい最近なんと会っちまったんだよ。」
リリアは目を開かせて、怯えている。
「それって………幽…霊!?」
「ああ、余程俺を好いてるらしい。俺は昔からモテる男だったからな。」
リリアがガタガタと震えだした。
「もしかしたら、お嬢さんのすぐ近くにいるかもな?」
「ぎゃーー!!アンセムーー。助けて〜!!」
幽霊扱いされた俺は怖がられている本人なのに、リリアに思いっきり抱きつかれてしまった。
「おい、離れろ!クソッ。」
この女無駄に力が強い!!全然引き剥がれないぞ!?
マスターの方を見るとさっきのニヤニヤの仕返しだという顔をしてご機嫌にコップを拭いている。
この野郎…、後で覚えてろよ。
「オバケコワイオバケコワイ」
(ガタガタガタブルブルブル。)
はあ〜。たくっ、しょうがねえな。
仕方なく俺はリリアの頭を撫でてやる。
「幽霊はもういなくなったぞ?」
「ホントに?」(ブルブルブルブル)
「ああ、本当だ。」
(ブルブル………ピタ。)
「ごめん。」
「気にすんな。誰だって嫌いなものはある。」
「うん…。ありがとう。」
落ち着いたリリアはゆっくりと顔を赤らめながら今度は一つ席を間かせてカウンター席に座った。
多分自分の羞恥が恥ずかしかったんだのだろう。
そういえば、オリビアも幽霊苦手だったけな?
こうやってアンデッドや亡霊が出てくる度にビビってすぐ俺の方に抱きついて来てたな〜。
何故かソフィアも続いて抱きついてきたけどな?
ん?オリビア……。
クソッ!まただ。思い出そうとすると頭痛がする。
「クッ。」
「どこか具合がよくないのか?」
「いや…。大丈夫だ。もう治った。」
本当は嘘でまだ痛い。何なんだこの頭痛は?
「そうか。なら良いか…。でぇ嬢さん。俺の腕に問題があるとでも?」
さっきまでビビりまくってたのがどこ吹く風かいつもの余裕たっぷりな微笑をしながら答えた。
「いいえ。でも、相手にかなりの凄腕の裏の人間がいるとしたら?」
するとマスターは剃り残った短い髭のあるほほをさすりながら考え込んでいる。
「ほう…。この俺を欺けるほどの腕前のやつか……。是非会ってみてぇもんだ…。
よし!!もう少し探りを入れてみてみるか。また明日の早朝に来い。とっておきの情報を仕入れてきてやる。」
「荒野の叫び」を出た俺とリリアは.やかましい叫び声を尻目に光のない真っ暗な道を進んでいる。
「眠りの風」で待機しているリーナ隊長とブルーメル隊長と合流するために裏路地を通っていた。
町中では人目があり過ぎるからだ。
「あ〜あー。中々尻尾を掴ませてくれないのね〜。」
真っ暗なので薄く輪郭しか見えないが、リリアは腕を伸ばして猫を思わせる背伸びをしていた。
「まだ取引の日まで1日ある。他に当てはあるからがっくりするな。」
「えぇ、こういうときは焦らずはゆったりするのが一番なのよね〜。」
「お前酔ってないか?」
暗闇を目を凝らして見るとリリアの足元がおぼついていなかった。
「酔ってないよ〜。アヒャヒャヒャヒャ。」
「バリバリに酔ってるじゃねーか。」
「まだぁ〜!全然いけふわよ〜?」
(この女、調査に来ただけなのに酔ってやがる。)
本当にお前の兄って言うやつの現状がわかっているのか?
「サンソンったらまた面倒事に巻き込まれちゃって。いちいち助けるのが億劫だっての。ヒクッ。」
俺の疑問を知ってか知らずか、リリアは口を回し始める。
「ホント、勘弁してほしいわよ。ねぇアンセム〜?」
「そうだな。」
どうやらこの女の兄は何度もこのような状況に立ち入ったことがあるらしい。
それでこの女の肝が座っている訳だ。
口では面倒だと語っているが、毎回救い出しているんだから、なんだかんだ言って自分の兄を大切にしているんだな。
急に暗闇から複数人の気配と共に足音が聞こえた。
「リリア!」
「分かぁ~てる〜。」
こちらがわちゃわちゃしているうちに囲まれてしまっていた。
ただの野盗にしては殺気が研ぎ澄まされすぎてる。
多分暗殺者だな。
あまりにも手慣れていた。
もし、逃げるにしても最低1人は切り崩さないといけない。問題はこの酔っ払いを背負ってできるかどうかだな。
「お前ら誰の指示だ?」
「………。」
どうやら俺の質問に応じるつもりはないようだな。
暗殺者のうちの一人が背後からリリア目掛けてダガーを投げつけてきた。
俺は風の動きだけで反応してダガーを投げて、飛んできたタガーを弾いた。
それが始まりの合図となり、静かな殺し合いの始まりとなったのだった。
暗殺者集団に囲まれたアンセム。酔っ払いのリリアを庇いながら奮戦するも、次第に追い詰められてしまうのだった…
次回は月曜日0:00です。
次回もお楽しみに!!




