④「行方不明の少女」
アンと言う少女の行方やサンソンを簡単に気絶させてアンを攫った盗賊の男は一体何者なのか?
その頃アンセムは「眠りの風」で目覚めたのだった。
朝になってもサンソンが帰って来なかった。
リリアは朝起きてジルにサンソンが帰って来たのかとジルに聞いても、ジル曰く誰もサンソンをこの宿で見ていないと言う。
「一体何処ほっつき歩いているのよ。」
あの真面目な兄が女を引っ掛けてたとかは絶対に有り得ない。
考えられるのは昨日チラリと見たあの女の子のお世話をしているのを警備隊か騎士団にでも見られて誘拐と勘違いされたのだろう。兄のトラブルを持ってくる才能は一級品だ。
この街に着くまでに何度もトラブルに巻き込まれた。
道端で盗賊が娘を襲っているのを発見してすぐさま助け出し、
感謝の印にその娘の村で歓迎を受けることになったり、
何故かその村にオークの大軍が押し寄せてきたり、
村の住人達と協力してなんとかオークの大軍撃退したら、
今度はその少女がオーク達に攫われてしまったり。
そして村人たちに娘を取り戻すことを頼まれて……
兄と行く王都からの旅路はトラブルと寄り道ばかりであった。
そんな兄のことだきっと間違って独房にでも捕まってるのだろう。
朝食を済ませたらそこら辺から探してみよう。
残念ながら、リリアの予想は当たってしまう。
兄は笑顔で独房に掴まっていた。
「やぁリリア、いい天気だね。と言っても独房の中だから今がどんな天気なのか分からないけどね。ハッハッハッ。」
縄でグルグル巻きに縛られている兄の姿に呆れて思わずため息が出るてしまう。
「今度は一体何をやらかしたのよ。」
「いや〜、迷子の女の子と親が探しに来るのを待ってたんだよ。
中々来なくて退屈してたら空が暗くなる頃に、複数人の怖そうな男達に襲われたんだ。
そのうちの偉そうな男に何が狙いなのかを何処となく聞いてみると、
どうやらその少女が狙いだったらしかったんだ。
その少女を引き渡せの一点張り。
それも組織的っぽい動きがあったんだ。
このままじゃ少女の身が危険だと思ったからとりあえず男達を気絶させて「眠りの風」に連れて行こうかなって考えてたら、
黒刀を持ったフードの男に気絶させられちゃって、
その女の子はその男に連れてかれちゃったんだ。
どうやら看守の人曰く、
その女の子はアン・ネスタリアと言ってネスタリア貴族の令嬢なんだって。
その令嬢がいなくなったものだから血ナマコに探してたら、
ごろつきと僕が一緒に倒れているところを騎士団が発見。
そのごろつきがアンを攫おうとしてたことを暴露して、僕もめでたく貴族の令嬢誘拐犯集団の一員に。
そのままじゃ絞首刑にされちゃうらしい。」
まるで他人事のように話す兄を見て更にため息が出てしまった。
鳥のさえずりでアンセムは久しぶりにすっきりした気分で目覚めた。
バードが話しかけるまでは…。
ちなみにバードとは俺の愛剣のバスターソードの略称だ。
俺の考えた名前をこの愛剣はこの名前を結構気に入っているので今ではすっかりこの名前が定着している。
「おはよう!アンセム!!君の失った記憶を取り戻してもらうためにこの街に来たわけだけど、取り敢えず朝食を食べよう。その後…はペチャクチャ、ペチャクチャ…」
「はいはい、バード。」
バードはとにかくお喋りだ。
俺が寝ている時や何か集中している時は黙ってくれているがその時以外はこの剣のお喋りに付き合わなくちゃ行けない。
無視するとハードは怒っていきなり剣を振動させて大きな音を立てるからだ。
この剣の声は俺以外には聞こえないために、余計質が悪い。
おかげで何度道端で通りすがりの人に変人だと思われたことか…。
一度本当に溶解炉に放り込んでみようかと考えたが、ただのバスターソードだったはずが今ではこの自称神剣の愛剣は、魔剣のような性能を持っている。
一応戦いでは大いに役に立っているのでどうしても捨てきれないのだ。
それに腹が立つことにこの剣に度々命を救われている。
残念ながらこの剣が溶鉱炉に投げ込まれるのはまだ先のようだな。
借りている寝心地の良い部屋から出て階段を降りる。
少し遅く起きたので他の客は出払っていた。
一人で綺麗な鼻歌を歌いながら朝食の皿洗いをしていた気の良さそうな黒髪に青が混じった若い女の店主が、階段を降りてきた俺に気付いて挨拶をしてきた。
「おはよう。傭兵さん。疲れてたのかい?随分ぐっすり寝てたじゃないか。もう他のお客さんは出かけちまったよ。」
確かに日は完全に昇っている。
冒険者なら、朝方には行動し始めている筈だ。
まあ、今日は仕事をするわけでもない。
「おはよう。」
「朝食はいるかい?」
「一つ頼む。」
「じゃあカウンターに腰掛けて待ってて。すぐ準備するから。」
そう言って、女店主はカウンターの奥へと引っ込んでいった。
朝食をのんびりと待っているとバスターソードが話しかけてきた。
「昨日も会ったけど随分と綺麗な女性だね。」
「あぁ。そうだな。」
俺は心の声でバスターソードの感想に答える。
この剣を装備してから少々時が過ぎた頃、
バスターソードがいきなり思い出したかのように教えてくれた。
あぁ、そうだった相棒。
わざわざ声に出さなくても心の声でも十分に聞こえるよ、と。
早く言ってくれよ…。
本気で池の中にこの剣を放り投げようかと思った瞬間だった。
放り投げても、すぐに手元に戻って来るが。
神剣自動追尾機能でも着いているらしいと、バードが教えてくれた。
もう、それは呪いの剣だろ!?
「けど、相棒。手を出すのは控えたほうが良いよ。
彼女かなり強いっぽい。下手に手を出すとこっちが痛い目に合うかもしれないね。」
「ほう、どんな戦い方をすると思う?」
剣の中からため息の音が聞こえる。
「僕のお喋りにはあまり興味ないくせに、戦いとなると途端に目を輝かせてガッツクよね…
まあそんなことは置いといて…彼女、持っている魔力が膨大だよ。こんなに魔力量の多いひとは見たことない。僕の予想だけど魔術系統の戦い方をするんじゃないのかな?」
バードと雑談をしていたらいつの間にか朝食ができていたらしい。
いい匂いが漂ってきた。
「はい、おまたせ!!」
女店主が美味しそうなコンソメスープ、ジューシーに焼けたベーコン、卵焼きにふわふわなサンドイッチをお盆に乗せて、出してきた。
うおッ!?、美味そうだ。
俺の表情を見た女店主は自慢顔で、
「フフンッ、我が家の祖母から伝わる自慢の料理さ。たんとお食べ!!」
最初はゆっくりと食べようとしたが、我慢できなかった。どの料理も完璧に仕上がっており、すぐに腹の中に収まってしまう。
どこか懐かしい味だ。
とても美味しそうに食べている俺を見て、女店主は嬉しそうに眺めている。
朝食を一瞬で食べ終わらしてしまった俺は少し残念そうに腹を擦った。
すると女店主は嬉しそうにカラカラと笑い、
「こんなに美味しそうに食べてくれるお客さんは初めてよ。あんた、おかわりいるかい。」
黙って頷くとすぐに料理が飛んできた。
「はい。本当はおかわり分の料金が必要だけど今回はサービスよ。美味しそうに食べてくれるあんたの顔が今回のおかわり料金ってことにしておくわ。」
「ありがとな。」
「いいって、いいって。」
少しして満足に腹を擦りながら俺は女店主と雑談を繰り広げた。
名前を聞くとジルと言うらしい。
話せば話すほど愛嬌のある皆に好かれるお母さんタイプなことが分かる。
なるほど、この店が繁盛しているわけだ。
俺が宿を探すために色々聞き回っていたら、この辺りに住んでいるおじいさんにここ「眠りの風」をおすすめされたので宿のドアを開けてみると、大繁盛していた。
この店主は商売上手らしい。
その後は最近の情報や街の噂についていろいろ聞いた。
昨日決闘があってお祭り状態になったこと、最近怪しい連中が現れたり、そいつらが夜中に人攫いをしたりして治安が悪化してきていること。
あんたも夜道には気をつけるんだよ、と言われてしまった。
太陽も高くなって来たので俺は宿の料金を払い、街を巡ることにする。バードに助言されたからだ。
この剣は一体何を隠しているんだ?
取り敢えず近くの市場で鎧や道具を買いに行くことにした。
「安いよ!安いよ〜。」
「さあ!買った買ったー!」
市場に行くと商人たちが競い合うかのように声を張り上げている。
流石に交易都市と言われるだけあるな。
市場に並んでいるのは異国の地のフルーツや食べ物や珍しい動物や生活物資、中には珍しい魔法の品などがあった。
市場を行き交う人々の波は少しも途絶えず、よくぶつからないなと感心するほどだ。
今ある金は2000万ジーニ。
一般人が半生を生活するのに困らないくらいの大金だ。
「良かったらその2000万ジーニを使って、立派な鞘を買って欲しいな。裸のままじゃ雨露も凌げなくいんだよ!錆びやすくて、魔力の燃費も悪いんだ。」
待ってましたと言わんばかりの勢いの強い声が頭の中で通り過ぎた。
「お前…、それだけが目的じゃないだろうな?」
「ホントホント、ソウジャジャナイヨ(棒読み)」
こいつ隠す気がさらさら無いな。
「まあ良いか、丁度俺もそれを考えてたところだ。」
武器といえば鍛冶屋か武器屋だな。
そういって二人?は行き交う人々に混じって、武器が売っている店を探し始めたのだった。
次回は日曜日の0:00に投稿します。
お楽しみに!!




