表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/47

美味しくなろうね

「だ、大丈夫……っ?」

 床に伏せったまま、嗚咽していると、慌ただしい足音が駆け寄ってきた。

「ひどい……っ」

 傷口に何かを当てがわれた。押さえつけられ、ピリッと痛みが走る。

「いっ……」

「ごめんっ……痛いよね。でも必要なことだから……少しだけ我慢して」

 顔を上げる。そばにいたのは、童顔な学生だった。この学園は垢抜けた学生が多いが、彼は頬に余計な丸みがあり、髪も跳ねていて野暮ったい。

「きみは佐伯くんの……その、食糧要員って聞いたんだけど、本当?」

 瑞貴のクラスでは、転校前から噂になっていたというし、学年の違う三崎も知っていた。もっとも三崎は生徒会副会長だから、他の学生より情報が早いのかもしれない。

 転校して三週間。瑞貴が瑛太の食糧要員であることは、誰もが認識しているものと思っていた。

「ご、ごめんっ……失礼なこと聞いて……」

「いや……驚いただけ。みんな知ってるものと思ったから」

 瑞貴が答えると、彼は力なく笑った。

「僕……佐伯くんしか友達いないから」

 瑞貴は瞬きする。てっきり瑛太は一匹狼かと思っていた。

 でも考えてみれば、瑛太は三崎と関係を持っていたし、昔から人を惹きつける魅力がある。

「……まあ、そう思ってたのは僕だけだったみたいだけど」

 切ない声で言いながら、彼は瑞貴の剥き出しの尻を撫で回す。

「な、なにっ?」

 びっくりして体を横にひねった。濡れた股間が露わになり、彼の視線が注がれる。

 瑞貴は慌てて足を閉じ、膝を抱えてしゃがんだ。

「ごめんっ……つい……」

「ついってなんだよっ……」

 心臓がバクバクと騒がしい。

「美味しそうって、思って……」

 彼は瑞貴の正面に跪くと、頬を赤くして言った。じっと顔を見つめられ、瑞貴はたまらず俯く。

「そそられたんだ」

 嘘つくな。傷口がジクリと痛んだ。あとは自分でやるから、どっかいけ。

「……お前、ロンドなの?」

 心の中で用意した言葉とは、別の言葉が出た。

「うん。きみからすごくいい匂いがする」

「う、嘘だっ……」

 ぶんぶんと首を横に振った。

「嘘じゃない。すごくいい匂いだ」

 顎先を捕らえられ、顔が上向く。

 童顔な顔が迫った。顔を背けて拒むこともできたが、そうしなかった。唇が重なる。まるで腫らすことを目的とするかのように、ものすごい吸引力で吸い上げられた。

「ふっ……んんっ」

 呼吸ができない。両手で押して拒もうとするが、力が入らない。

 男は完全に理性を失っていた。舌先を喉元まで突き入れられ、えづきが込み上げ、唇を塞がれたまま嗚咽した。苦しい……こんなの、嫌だ。

「はっ……はあっ」

「すごい……こんなに美味しい体、初めてだ」

 熱い吐息と共に、甘ったるい褒め言葉をかけられる。

 嫌悪感が弾け、代わりに悦びが湧き上がった。乱暴なキスも、自分の味に夢中になったのだとしたら、許せた。

「佐伯くんはずるいな……こんなに美味しい体を独り占めできるなんて……」

 瑞貴は力なくかぶりを振った。

「瑛太くんは……俺のこと喰わないから」

「え?」

「俺じゃそそられないんだよ。だから三崎さんを……」

 でもこれからは、自分で我慢してもらわなければならない。それか、学食。……だったらなんのために自分はここにいるんだろう。瑞貴は自嘲した。

「そんな……何で……おかしいよ。だってきみは、こんなに美味しいのに……」

「お前は安上がりなだけさ。俺は不味いよ。最低料金でしか買い取ってもらえない」

 三崎の後に、瑛太に体を喰わせる……考えただけでゾッとした。瑛太が満足するはずがない。嫌だ……まずい体だと知られたくない。

 瑞貴は膝に顔を埋めた。

「……どうしたら美味くなるんだろ」

 ワルツの味は、生活習慣や精神状態によって変わると言われている。その経験がないから、瑞貴にはピンとこない。

 でも美味しくなれる可能性があるなら、すがりたかった。三崎の味には敵わなくても、拒絶されない程度の味になりたい。

「きみは……じゅうぶん美味しいよ……」

 頭をそろそろと撫でられる。

「でも……美味しくなる方法は、あるよ」

 ハッと顔を上げた瑞貴に、男はにっこり微笑んで、「たくさんセックスすること」と言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ