性悪な兄は腐りかけ
部活終わり、雪也は特別棟へ行った。真記は部活には入らず、放課後は進学コースの生徒のみが使える特別教室で自習をしている。
この日も教室の半分ほどがガリ勉学生で埋まっていた。真記は廊下側の一番後ろの席にいて、雪也に気づくと赤い顔をぬらりと上げた。くっきりとした目鼻立ち。半分同じ血が入った弟は、まあそれなりに美形だった。頬のラインや顎先は、雪也よりずっと男らしい。雪也がふんわりとウェーブのかかった髪なのに対し、真記は直毛で、さっぱりとした短髪がよく似合う。
「……ユキ」
息が荒い。
「真記、行こう」
雪也が言うと、真記は机の上の教科書をスクールバッグに詰め、席を立った。静まり返った教室に、教科書のガサガサという音、ガタンと立ち上がる音が響き、学生が鬱陶しそうにこちらを見た。雪也は気まずげな表情を作る。女子生徒が困り笑顔を向けてきた。気にしないでください、あるいは、大変ですね、みたいな、媚びるような表情。
住吉の話が本当なら、ここにいる学生は皆、雪也がワルツで、真記に喰われていることを知っている。そう思うとゾクゾクした。
「真記、遅くなってごめん。腹、減ってるよね」
声は決して大きくなかったが、何人かがハッと息をのむのがわかった。
「早く」
待ちきれないという風に、真記が雪也の背中を押して廊下を進んだ。
側から見れば、雪也を追い立てているように見えるかもしれない。けれど実際は、雪也の体を支えにしなければ歩けないのだ。
階段を上がり、四階の男子トイレに行く。特別棟の四階は使われていない。ドアの前には使用禁止の札が立ててある。雪也が置いたものだ。
中へ入り、さらに奥の個室へ向かう。雪也は蓋を閉めた便座に座った。足を開く。
真記はタイルに膝をつき、雪也のズボンのファスナーに手を伸ばした。
「制服汚れるし、先に脱ぎなよ」
真記はふらりと立ち上がった。脱ごうとしたのでこちらに背を向けるよう命じる。
真記はドアを向いてズボンを下ろした。ピッタリと肌に張り付いたボクサーパンツには、こんもりと丸い膨らみがある。朝、雪也が挿入したディルドーだ。
雪也は指で押し込んだ。
「ふっ……んぅっ」
「きつそうだね。授業、大丈夫だった?」
ぐっ、ぐっ、と奥へと押し込めていく。筋肉質な尻がキュッと引き締まった。
「もっ……はやく……早く取りたいっ……」
「じゃあ勃たせて」
雪也は手を離した。真記が振り返り、タイルに膝をつく。こんな汚いところによく膝をつけるなと思う。
顔中に汗を浮かべながら、真記が雪也のそれを口に含む。
今日の真記はかなりキツそうだ。ディルドーを入れさせておけばすぐに突っ込めて楽かと思ったが、こんなに露骨に見た目に出るんじゃやめた方が賢明か。
「んっ……」
やっぱり真記は奉仕がうまい。頑張れば好物が溢れてくるんだから、当然と言えば当然だが。
真記以外の何人かにもしてもらったことはあったが、真記よりうまい奴はいなかった。ロンドじゃない女に「おいひい」と言われた時は激しく萎えた。んなわけないだろ。だったら真記みたいにもっとうまそうにしゃぶれ。そう喉元まで出かかった。
(あ、やばい……、気持ちい……)
達しそうになって、慌てて真記の頭を掴んで引き剥がした。男らしい美貌が顔を上げ、目が合う。
捕食者の目に射止められ、雪也はゴクリと唾をのんだ。真記はこちらを見たまま舌舐めずりをする。その仕草に興奮してしまう自分が憎かった。真記の食欲を感じると、喰われることを望むように、体がジリジリと熱くなる。
「いいよ、取って」
興奮を悟られないよう、冷めた声で言い放つ。
真記は後ろに入れたものを取り出そうと手を動かすが、手こずっている。
焦ったい。手を貸したくなったが、それでは自分も乗り気みたいだから、堪えた。
あくまで自分は付き合ってやってる側。真記に喰われるのも、セックスも望んでいない。
本当はどちらも好きだけど、絶対に悟られるものかと意地を張っている。
真記に喰われるのは気持ちがいい。傷の回復を待たずに新しい傷をつけ、真記に「喰ってもいいよ」とチラつかせるのだ。その時の真記の表情ほど、雪也の承認欲求を満たすものはない。
「はっ……ぁっ」
カラン。タイルにディルドーが落下した。真記の肩ががくりと落ちる。疲れているのか、なかなか上に乗ろうとしない。雪也は辛抱強く真記がくるのを待った。
「真記、腹が減ってるんだろ」
甘い声で言い、短い髪をよしよしと撫でた。
この関係は一年になる。父が自殺した年、力関係をはっきりさせたくて雪也から誘った。
奪った、と言った方が正しいかもしれない。唾液も汗も与えず、二ヶ月禁欲させて、「喰いたいなら僕を気持ちよくして?」と命令したのだ。
「真記……上手くできたら、たくさん喰わせてあげるからね」
真記は立ち上がった。便器を跨ぎ、ゆっくりと腰を沈めていく。初めの頃は歯を食いしばって、色気など微塵もなかったが、今はそこそこいい顔をする。
真記の濡れた唇が吐息をついた。
「動いて」
真記が動くと、短い黒髪から水滴が散った。




