メタルにマナは宿らない 8話
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「俺を踏み台にしたァ!?」
「シルマ!言ってもわからないみたいだし、ここらでわからせてあげるよ!」
そう言って椿は空中で変身する。眉骨がそのまま横に伸びたような角。棘のある体に鋭い指先、踵には斧が伸びたようなブレードが付いており、細長い百足のような尾の先には大きな鋏が付いている。
「なっ・・・!」
驚くシルマを無視して椿は尾をシルマの胴を叩きつけたあと、茨の傍へと着地する。
「がはっ・・・!」
傍に着地した椿に、茨は声をかける。
「椿!来たか!」
「状況は!?」
「めちゃくちゃだ!とりあえずシルマをやれ!あいつさえやれば他の奴らもとりあえずは黙るだろう!」
「了解・・・!」
宙に浮くシルマに対し、椿は両腕を大砲に変化させ、青い礫の散弾を撃ち出す。
それに対しシルマは、黒い羽で自分を守る。発射された礫はバチンと音を立てて弾かれる。
「うそぉ!?」
弾かれ、落ちた礫は引き寄せられるように椿の足元に集まり、再び椿の装甲となる。
「烏天狗の黒き翼、なめてもらっては困るな!」
そうして風神団扇を構えたシルマは四連続で風の刃を放つ。
その速さに椿は若干ついていけず、最後の一発を喰らってしまう。
装甲には大きな傷が付き、大きく後ろに吹き飛ばされる。その後ろでは反朱天童子派の天狗が戦っていた。
「耐えるのか・・・!ではこれなら!」
そう言ったシルマは男の腕程の太さの風の弾を作ると、椿目掛けて撃ち出す。
(避ければ後ろの天狗に当たる!)
脊髄反射でそう考えた椿は、その風の弾を受け止める。
「ぐっ・・・おおおおおお!!!」
凄まじい威力の風の弾に椿は地面に突き立てた尾を支えにしてなんとか耐える。しかし、みぞおちの辺りの装甲を貫通して、小指程の深さを抉られる。
「これも耐えるのか・・・!」
「対戦車砲を思い出したよ・・・ゲフッ」
そう言って椿は足に力をこめると、シルマに向かって大きく跳躍する。
シルマはそれを右に避けるが、椿は尾を伸ばし、鋏でシルマを掴もうとする。
「見え見えだ!」
そう言って避けたシルマは、勢いを無くし落ちていく椿に風の刃を放とうとすると、椿は体の装甲を解除する。
「なっ・・・」
シルマがためらったその一瞬、視界の下から勢いよく、百足の如き尾が鋏でシルマの左羽をがっしりと捉えてくる。
「こうすれば伸ばせるんでね!」
椿は自身の装甲分の体液を尾に回し、伸ばしていた。
ギチチ・・・と嫌な音が鳴ったかと思うと、シルマの左羽はバチンと切られてしまう。それをきっかけに、シルマは地面へと落下する。
先に地面に降りていた椿は装甲を元の姿に戻し大きく手を広げ、構える。
対するシルマもよろよろと地面に降り立ち、風神団扇を構えると、団扇を構えたまま横に一回転する。すると、シルマの周りを竜巻のような風を纏う。
椿はそれを見て警戒するも、ジリジリと距離を詰める。
先に動いたのは、シルマだった。
纏っている風から、小さな風の刃を飛ばしながら、自身も風神団扇で大きな刃を飛ばす。
椿は小さな刃を無視して突っ込む、小さな刃をいくつか喰らうが、椿の装甲には傷ひとつ付かなかった。
大きな刃のほうも尾で弾くと右手で貫手を繰り出す。が、纏っている風に左に逸らされ、当たることは無かった。
椿は諦めずにそのまま貫手のラッシュを繰り出すも、その全てを左に逸らされる。そこにシルマの回し蹴りが入り、椿は後ろへとずり下がる。
下がりながらも尾を使い纏っている風ごと鋏でシルマを挟もうとするも、風圧で鋏が閉じなかった。
「無駄だ。自分は風神団扇の使い手。例え翼を切り落とされようと、この神風がある限り自分は負けない」
「凄い自信じゃーん・・・絶対勝って見せるよ」
そう言って椿は尾の分の装甲を両腕に回すと、両腕は大剣へと変化する。
そうして椿は横に二回転して、両腕の大剣を水平に叩きつける。すると浅いが、シルマの胸と腹を確かに切ることが出来た。
「ッ!?」
驚き、距離を取るシルマに思考の暇を与えず、椿は再び横回転をし水平に大剣を叩きつける。
シルマはとっさに左腕で守るが、ドッと鈍い音がした後、鈍痛が脳に伝わる。
「何故だ・・・?何故神風を貫通する!?」
「その神風が右回転だからだよ」
その一言でシルマは理解した。椿は風の回転に合わせて攻撃をしている事を。そしてその言葉がシルマの逆鱗に触れる。
「神風が・・・我らが天狗の誇りが!破られてたまるか!!!」
茨の眩い緑の光線や光弾がバラまかれる中、左門も一輪のバイクになり駆け回り、火縄銃に似た銃を撃って天狗達と戦っていた。
「茨さん!なんかあっちヤバそうっす!」
「凄まじい妖力・・・!風神団扇が増幅させてるのか!」
風がシルマと椿のほうへ吹き始める中、茨は大声で左門に話しかける。
「左門!避難しようぜ!こりゃヤバそうだ!」
「押忍!」
「神風が・・・我らが天狗の誇りが!破られてたまるか!!!」
その一言でシルマを中心に上下左右と凄まじい風が吹き荒れ、椿に向かって風の刃が何本も発射される。
椿はそれを避けるも、次から次へと来る風の刃を完全には避けきれず、何本か喰らってしまう。
「ぐっ・・・」
「我らは・・・負けるわけにはいかない!ここで負ければ・・・朱天童子に滅ぼされるだけだ!」
シルマがそう言うとシルマの周りに風の弾丸が数発、形成され、発射される。
椿はそれに気づくことが出来ず、まともに喰らってしまう。風の砲弾は肩や脇腹、頬を抉り、胸の中央に当たる。傷口からは一瞬青い血が流れ、また装甲を形作る。
(このままじゃマズい)
そう思った椿は装甲を右腕に集めるとそれは大きなバイポット付きの巨大な大砲になる。常に放たれている小さな風の刃が、椿の体を傷つけるが椿はものともしない。
周りの天狗達や茨達はもはや争いどころではなくなっており、皆退散していた。
「これで終わりだあああああああ!!!!!」
椿が放つ渾身の一撃が右腕の大砲から放たれる。弾頭は螺旋状に尖っており、吹き荒れる風を切り裂き、シルマへと飛んでいく。
「負けてたまるかあああああああ!!!!!」
シルマも自身の力をすべて使い、風神団扇を扇ぎ巨大な風の刃を放つ。
ふたつはぶつかり合い、一瞬動きを止める。
勝ったのは椿の放った弾丸だった。
それは風の刃と風の鎧をも貫通しシルマへと到達する。
シルマのみぞおちを中心に拳ひとつ分の穴が空くと、辺りを荒らしていた暴風は止み、静寂が辺りを包む。
羽を切られ、みぞおちに穴が空いたシルマは膝から崩れ落ちる。
「我らの里が・・・天狗の誇りが・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・あのさ」
風に切られ、弾丸を喰らったところは抉れてボロボロの椿は、ゆっくりとシルマに近づく。
「誇りがどうとかは正直わかんないんだけどさ・・・ここが朱天童子に攻められたら、私たちを呼んでよ。友達でしょ?」
力を振り絞り、シルマは仰向けになる。そこには心配そうな顔で、椿が顔を覗き込んでいた。
「朱天童子は強い・・・それでも勝てるのか・・・?」
「シルマも十分強いじゃん。きっと勝てるよ」
「ハッ・・・そう・・・だな。風神団扇を持った自分は、強いぞ。・・・ここまでやられたがまだそう言える。自分には・・・誇りがあるからな」
「案外大丈夫そうだね。印が言ってた天狗の誇りってやつ、取り戻せたみたいじゃん」
「・・・・・・そうだな。私達は誇り高き長瀞の天狗!もう二度と!何者にも屈しない!」
「シルマ・・・」
風が止み、集まって来ていた天狗達の中にいた印は思わずそう呟く。
「ほら、シルマ」
そう言ってボロボロの椿はシルマに向かって手を差し伸べる。その手をしっかりと掴み、シルマはよろけながらも立ち上がる。
「ここにいる皆、よく聞け!今日この日この瞬間をもって、今まで我々を支配してきた朱天童子に長瀞の天狗の里は反抗する!異論がある者は前に出てそれを示せ!」
その言葉にその場に居た天狗達は歓声を上げる。前に出る者は誰一人として居なかった。みな、内心では朱天童子を良くは思っていなかったのだろう。
歓声が落ち着いた頃、大天狗達がシルマの元へ集まりなにやら話し始める。
それを横目に椿は茨と左門の元へ行く。
「よっ!ボロボロだな!お疲れさん」
「大丈夫っすか姐さん!」
「これくらい慣れてるからへーきへーき」
そう言ったものの少しよろけてしまい、左門に肩を掴まれる。
「おっと・・・ありがと。んじゃほら、祠に行こうよ」
「おっ、すっかり忘れてたぜ。今回のパーツはどれかな~♪」
ご機嫌な茨を先頭に三人は祠へと向かう。
さっきの戦闘で屋根の部分が壊れ、扉がゆがんだ祠を無理やり開けると、そこには前と同じ札の貼られた大きな桐箱が入っていた。
開けてみるとそれは左足だった。
「おっしゃ!左のパーツが揃ったぜ」
「あとは首、胴、右手右足だね」
「こんな風に封印されてるんすねぇ~」
そんな呑気な会話をする三人に、シルマが話しかけてきた。
「茨殿、あなたは200年前に封印された大妖怪・・・なのですか?」
「ん~?俺は自分の事を大妖怪なんて言わねぇが封印されてるのはそうだぜ。なんかあるか?」
「・・・もし、もし復活したあなたが再び東京を縄張りにすれば朱天童子は身を引きますか?」
「ぜってぇ引かねぇだろうな。むしろ今度こそ殺しにくるだろ。だがそうはさせねぇ。200年の不満をぶつけてやるぜ!」
「勝て・・・ますか?」
「勝ってみせるさ!」
「そうですか・・・」
そう言ってシルマは天を仰ぎ、再び話し始める。
「先ほど組合員で簡単に話し合い決めたことをお伝えします。まず、京都にいる長瀞の出の天狗に事情を話し、間者とします。そして未発見の祠の場所を見つける班を作り、一刻も早く茨殿に復活してもらいたいのです。ここまででなにかありますか?」
そう聞かれた三人に茨が答える。
「まずは富士山の麓にある祠の場所を調べてほしい。麓のどこかがわからないんだ」
「承知しました。最後に、この里を守る大結界を張りたいのですが、どうか茨殿のお力を借りれないかと」
「おうよ!任せてくれ!ああ、それとこっちからもひとつ。札あるか?何も書いてないの。二枚くれ」
そう言う茨にいつの間にか近くに来ていた印が札を差し出す。
「ほら、これを使うといい。」
「おっ、さんきゅー。どれどれ~・・・椿!その中指ので俺の親指チクッと刺してくれや」
そう言って茨は右手の親指を出す。言われた通りに椿はチクリと親指を刺すと、茨の指からは血が滲む。
「んっん~・・・よし!これでいいな次は椿のを書きたいんだけど・・・お前の血ってどうなってるんだ?」
そう言って血で書いた札を持ちながら椿の方を見る。
「どうなってるんだろう・・・そういう風にしたいならできるよ・・・はいどうぞ」
そう言って椿は同じように親指から青い血を滲ます。
「どれどれ、・・・・・・よし!多分これで大丈夫だろ!ナハハ!」
そう言って椿の親指を筆のように使った後、茨はふたつの札をシルマに差し出す。
「もし朱天童子の奴らが攻めて来たらそ札に妖力を流せ。そうしたら召喚術式が展開されて俺たちはここに来れる」
「おお・・・!かたじけない。ありがたく頂戴しよう」
そう言ってシルマは札を受け取った。それに続き、印も礼を言う。
「茨、椿、左門。改めて礼を言わせてくれ。この里をひとつにしてくれてありがとう。これで松金も戻ってこれるだろう」
「ん。結果オーライだね」
「俺達が来たんだ!当然の結果だな!」
「俺はあまりなにもできてないっすけど、松金が戻ってこれるのは嬉しいっすね」
「何言ってんのさ、ジャンプ台になってくれたじゃん」
「あ~!姐さん!ありゃないっすよぉ~!」
戦いを終え、改めてシルマの家に招待され、疲れもあって眠る茨と左門をよそに椿はひとりで空に浮かぶ星々を見ながら音楽を聴いてると、シルマが外に出てきて、心配そうに聞いてきた。
「どうかしたのか?怪我をしているんだ。寝て少しでも直さないと・・・」
イヤホンを外し、椿は答える。
「私、寝れないんだ。人造人間兵器って言ってね、簡単に言うと食欲しかないわけ。だから寝れないの」
「・・・そうだったんだな通りで不思議な力を持っている訳だ」
「シルマの方こそ寝ないと。腹に穴空いてるじゃん」
「ふふ、もう少しは塞がってきている。心配しないでくれ」
「妖怪って回復力凄いんだね」
「ああ。寝れないのならどうかゆっくり休んでくれ」
シルマは優しい笑みを浮かべてそう言うと、家の中へと戻っていく。
「ん。そっちもね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言って家の中へ戻っていくシルマを見送ると、椿は落花生のドッグタグを握りしめ、夜空を見上げ、再びイヤホンをつける。
(新しい友達、せいちゃんに紹介したかったな)
「よし、こんなもんかな」
激戦から二日たった今日、茨達は、里の各所に設置した楔石に妖術をかけ、里を守る大結界を構築し終えたところだった。
「さすがは大妖怪茨殿だな。これで守りの事はやれるだけやれた。感謝する」
シルマがそう言って礼を言うと茨は照れながら返す。
「その大妖怪ってのやめてくれや。俺はそんな大層なもんじゃねぇし」
「そうか、それはすまない」
「さて・・・俺らもそろそろ帰るかね。もうここでやれることはやったしな」
そう言って椿と左門の方を見ると、二人も頷く。
「帰られるのか。ならばせめて見送らせてくれ」
シルマにそう言われた一行は、里の入り口へと進んだ。
「んじゃ、またねシルマ」
椿がそう言うとシルマは少しにこりと笑いながら返す。
「あぁ、またな椿殿。二人もいつでも遊びに来てくれ。歓迎しよう」
「おう!また来るぜ!」
「俺も火車の仲間たちとお邪魔しに来るかもっす!あ、それと松金に里に戻れるって事伝えときますね」
「おお、かたじけない。松金にここ数日で起こった事を伝えておいてくれ」
そうして三人は左門の車に乗り込むとタイヤが燃えだし、マフラーからは炎が噴き出す。
「じゃあね~!」
そう言って手を振る椿にシルマも手を振り返す。
あっと言う間にシルマと天狗の里は小さくなっていき、ついには見えなくなった。
「いやあ中々楽しかったな!」
「ふふっ、そうだね」
茨がそういうと椿も笑いながら返す。
こうして天狗の里の祠の攻略は幕を閉じた。