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メタルにマナは宿らない  作者: 阿野園エト
12/27

メタルにマナは宿らない 12話

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 那智の滝を攻略してから二日後、街に来ていたシルマに誘われて、イアンナと共に椿達三人は、電気街の喫茶店で女子会をしていた。


「それで美食館に行ったんですよ!あんな素敵な所は初めてでした!色んな生き物の血まで取り扱ってるなんて・・・本当にいい場所なので今度は三人で行きましょう!ね?」

「それって人間の肉とか出てこないよね・・・?」

「自分も人間の肉はちょっと・・・」


そう言って遠慮しようとする二人に、イアンナは説明する。


「そういうのは分けて調理してるので大丈夫みたいですよ」

「なら今度いってみようか」

「うむ、楽しみにしておこう」


そう言いながら椿はコーヒーを飲む。妖怪の治癒力は凄まじく、シルマは怪我が完全に治っていた。


「そういえばシルマの羽ってしまえるんだね」

「む?ああ。こういう場所では邪魔になるからな。生まれてから妖力を操れるようになって、真っ先に習うのは羽のしまい方なのだ」

「イアンナは牙むき出しだね。それも妖力で縮めたりできるの?」

「できますよ。・・・ほら!まぁそのままが慣れているので隠したりはしませんね」


そう言った後牙を元に戻し、イアンナは針のついた舌を出して、コップに入っている牛の血を吸う。


「チュパカブラと言ったか。特徴的な舌をしてるのだな」

「そうですね。と言ってもこれは血を飲む時だけで、普段は人間と同じ舌ですよ」


そう言って舌を、んべっとだして見せる。出したそれは普通の舌だった。


「妖力ってすごいんだねぇ。私は魔法も妖術も使えないから未知の世界だよ」

「最初椿さんを見たとき、私は私と同じ海外の幽霊かゾンビかと思いましたよ」

「顔色見て言ってるでしょ・・・私の顔色が悪くて目が青いのは体液が青いせいだよ」

「まぁ!青い血だなんて・・・ちょっと飲ませてもらっても?」

目を輝かせながらそう言うイアンナに、焦りながら椿は返す。

「冗談だよね!?」

「ふふっ。8割冗談です」

「2割本気かい!」

そんなやりとりをして笑いながら話していると、時間はあっという間に過ぎてゆき、夕方になる。三人はまた会う約束をして別れた。




 女子会の帰り道、路地の階段を上り、ゆるやかなカーブの道を歩いていると、急に上から何者かが椿を挟む形で二人、飛び降りてくる。


「なっ・・・!」


その二人はいつか見た南蛮の貴族のような恰好をしており、白目の部分が赤く、瞳も赤色であった。ニヤリと笑う口からは鋭い牙が見えていた。


「・・・なにか用?」

「我々は偉大なる吸血鬼に仕える者・・・お前は見たところゾンビかなにかか?まぁいい。お前の血は不味そうだからな。朱天童子の事を知っているだけ話してもらおう。なに、乱暴な真似はしない。」

「挟んでおいてよく言うよ・・・知ってることと言えば、ここ東京と京都を縄張りにしていることくらいかな」

「他には?奴の兵力や、弱点・・・なんでもいい。教えてくれ」

「うーん。あっ」

「どうした?なにかあるのか?」


ふと閃いた椿はあることを話し始める。


「朱天童子は200年前に封印した大妖怪が復活することを恐れてる。各地に祠を作ってその大妖怪の体のパーツを封印して守護者を配置するくらいにね」

「ほう・・・それは初耳だ。他には?その祠の場所は?」

「わかんない。これくらいかな」

「ふむ・・・まぁいい感謝しようゾンビの女よ。行っていいぞ。時間をとらせて悪かったな」


そうして男たちは上へフッと消える。

椿はそれを見た見送る。


(これであいつらが祠を襲えば、全部あいつらに擦り付けられるかな?)


そんな事を考えながら、椿は帰路へと着いた。




 「ただいま~なぁ、聞いてくれよぉ~!」


帰宅早々椿の部屋に入って来た茨は座布団の上に座り、ちゃぶ台の上で頬杖をつく。


「帰ってくる途中で南蛮の恰好したへんなやつらに絡まれてさぁ!大変だったぜ?血を寄越せって言って襲ってきやがったから殺しておいたけどよぉ」

「もしかして南蛮の貴族みたいで白目が赤いやつら?」

「そうそう!なんだ、椿も絡まれたのか」

「そいつらは吸血鬼って名乗って、なんか知らないけど朱天童子の事を嗅ぎまわってた。・・・なーんか変な連中がこの街に入って来たみたいだね」

「ったく。仕事の行き帰りに襲われてちゃたまらねぇぜ。腹減った!」

「夕飯なら作ってあるよ」


そう言われた茨は、鼻歌を歌いながら椿の部屋を後にした。




 朱天童子の組事務。その中にある朱天童子の部屋の扉がノックされる。


「朱天童子様、急ぎ、お伝えしたい事が」

「入れ」


そう言われると、扉の前で待機していた大柄でスキンヘッドの男が扉を開ける。

先ほどノックした全身が煙で出来たスーツの男は一枚の紙を朱天童子のデスクに置き、話し始める。


「先ほど東京の組事務所から電報が。南蛮から来た吸血鬼達が、東京を占領しようと動いてる様子です」

「・・・現状の被害は?」

「十数名ほどの妖怪が襲われ、怪我をしたのと、就労許可を得ていた人間六名が行方不明になっております」

「チッ・・・」


そう言って今まで書いていた書類をデスクの傍に居た男に渡すと、電報の紙を手に取り、見る。


「南蛮の吸血鬼風情が妾の領地を奪うなどと・・・諜報部隊を東京に送り、奴らの兵力、拠点などを調べあげろ。妾も久方振りに暴れてやろうぞ」


そういって立ち上がる。


「お待ちください朱天童子様。石熊童子のほうはどうなさいますか?朱天童子様がご不在とあらば攻めてきます。」

華染刑部かじむぎょうぶを事務所に配置せよ。朱天守閣のほうは飴色あめいろに守護の全権限を渡せ。」

「了解しました」


そうやりとりを終わらせると部屋に居た男たちを引き連れ、廊下へと出ると、階段を下りながら部下に命令する。


「華染刑部と飴色に火車達を使い、伝えにゆけ。妾の車もまわしておけ」

「はっ」


そう言って体が煙で出来た男は走って下の階へと向かった。


「どこから湧いて出たかは知らぬが、南蛮の蚊なぞ叩き潰してくれる!」


朱天童子のその一言で部下たちも顔付きが一層引き締まった。




 「やあ同胞諸君。情報収集は順調かね?」


アキハバラ電気街の北側の一室に集った吸血鬼達に向かってそう言ったのは、金髪をオールバックで固め、中世の貴族のような恰好をし、襟付きの黒いマントを付けた男、シャミナ・ジンデルであった。


「ジンデル様、現在の状況をお伝えいたします」


そう言って一人の吸血鬼が前へと出る。


「現在捕らえた人間は六名。そちらは地下室に監禁しております。また、数名の吸血鬼が数名の街の者と戦闘、そちらは適当にあしらい離脱を優先いたしましたが、西側に向かった二名が殺されておりました。そして朱天童子の情報ですが、兵力はこちらより上、しかし大阪の石熊童子を警戒しているようで、急げばこちらに来る前に東京を占領できるかと。援軍は五日後に二百人程来る予定となっております。最後になりますが、どうやら街の外れに人間達が暮らす長屋があるようです。」


ワイングラスで血を飲みながら椅子にもたれかかり、シャミナは答える。


「死んだ同胞を殺した者は何者かわかっているのかね?」

「いえ、残念ながら目撃情報はありませんでした」

「ふむ・・・まぁよい。近く、支配するのだ。あまりこの街の者の反感を買うような行動は慎むように。人間の住む長屋には・・・十名ほど選抜して人間達を拉致してこい。それで十分な戦力だろう」

「かしこまりました」

「ククク・・・アジアの領地、まずはそのひとつめを作ろうではないか」




 夜の人間長屋。静かなこの場所では人間や争いを好まない妖怪たちが平和に暮らしている。

そんな場所に十人の吸血鬼達が迫っていた。

門の前を掃除していた岩笠はこちらに歩いてくる吸血鬼達に気付き、箒を門に立てかけ、吸血鬼達の集団に向かって話しかける。


「ここから先は人間長屋。平和を望む者達の住む場所だ。・・・お前たちの居場所は無い」


それを無視して近づいてくる吸血鬼達。夜の闇の中、目がぼんやりと赤く光る。

それを見た岩笠は左の袖から札を一枚出すと、大地を蹴り、手前に居た吸血鬼に掌底で札を貼り付ける。その瞬間爆発が起き、札を貼られた吸血鬼は、上半身を吹き飛ばされていた。また、爆発の後、飛びのいた岩笠も、同じく左腕を吹き飛ばされていたが、瞬時に再生し元の腕へと戻る。

それを見た残りの吸血鬼達は驚きながらも戦闘態勢をとる。


「荒事は嫌いなんだがな」


そう言った瞬間、小屋の屋根を突き破り、錫杖がふわりと岩笠の前に浮かぶ。

それを掴むとクルクルと振り回して岩笠も構える。


「ここの平和の為に死んでもらおうか」




 吸血鬼達の妖術陣から射出される赤い水晶を、錫杖で打ち払い、岩笠は破れた左袖から再び札を三枚取り出し、吸血鬼達に向かって投げる。

投げた札は一人の吸血鬼の足に当たり、爆発する。両足を吹き飛ばされた吸血鬼は地面に這いずり、悶える。

札を避けた二人が岩笠に飛び掛かると、一人を避け、もう一人の顔面に錫杖での突きを喰らわす。

突きを喰らった吸血鬼はそのまま頭部を貫かれる。避けられた吸血鬼がもう一度襲い掛かると、突き刺さっていた吸血鬼を足で蹴り飛ばし、襲い掛かって来た吸血鬼に当てる。

そこから錫杖の先に札を貼ると、もう一度突きを繰り出し突き刺すと、二人まとめて爆殺する。


「さて、次はどいつだ?」


岩笠がそう言って錫杖の先を向けると、吸血鬼達は明らかに怯んでいた。それを見た岩笠は錫杖を左手に持ち替え、右手の袖から三枚の札を取り出し、指の間に挟むと、高く跳躍し吸血鬼達へ飛び込んでいった。

吸血鬼達は空中の岩笠へ赤い水晶を撃ち込むが、体を貫かれても涼しい顔で岩笠は一人を押し倒し、顔面に札を貼る。

そして錫杖で足払いをすると、転んだ三人の内二人にまた、札を貼り、札を貼らなかった吸血鬼に足で組みつく。

すると札と岩笠が爆発し、札を貼られていた者と組み付かれていた者は即死。残りの者にもダメージを与える。

数秒経ってぎゅるりと、ビデオを逆再生したかのように岩笠が一瞬で再生する。


「やれやれ、服が台無しだ」


それを見た残りの四人の内一人が悲鳴にも似た声で叫ぶ。


「もう自爆は出来ないはずだ!やるぞ!」


そういって全裸の岩笠に向かって赤い水晶の剣を構え、走っていく。

全裸の岩笠は錫杖を持ちながら棒立ちのままそれを見る。

吸血鬼の剣が岩笠を捉え、袈裟切りにする。が、岩笠は斬られながら男に抱き着くと、再度爆発した。


「なっ・・・」


残りの三人はそれを驚きの目で見る。またもやぎゅるりと再生する岩笠に恐怖し、残りの三人は悲鳴をあげながら逃げて行った。


「全く。厄日だな今日は。」

「おーい!岩笠さん!大丈夫か~?」


騒ぎを聞きつけた住人達が数名、門の内側から声をかける。


「心配するな。追い払ってやったよ」


そういいながら道の向こうへと、逃げるため這いずる吸血鬼の頭を錫杖で何度も突き刺し、粉砕する。

その言葉に住人たちは安堵し、それぞれの部屋へと帰って行った。


「さて・・・片付けが面倒だな。全く・・・」


そう言いながら門に背を向ける全裸の岩笠の背中には、妖術陣が彫ってあった。




 「護衛?」


翌日の早朝、椿達の家に岩笠が訪ねてきた。

話を聞くと、吸血鬼が人間長屋を襲いに来たという。


「それで寝る必要のないお前の出番と言うわけだ。いつまで雇うかはまだわからんが、どうだ?古巣を守るために手を貸してくれないか?」

「私はいいけど・・・茨は?一応あんたが私の雇い主なんだし」

「いいんじゃねぇか?まだ祠の場所がわかってないからやることないしな。にしても大変だったな、岩笠」

「全くだ。こういうのがあると死体処理に困る」

「どうせ適当に埋めてんだろーが。んじゃ頑張ってこいよ、椿」

「はーい」


そんなこんなで椿は再び人間長屋で暮らす事になった。




 「まさか上級の吸血鬼すら殺せる者が守っているとはな」


シャミナは人間長屋から逃げてきた者の報告を聞き、ロッキングチェアに揺られながら、頭に手を当てていた。


「して、『残り』はどうしますか?」

「殺せ。たかだか一人の門番に怯えて帰ってくる者など要らん」

「かしこまりました」


そう言って下がる吸血鬼と入れ違いで、別の吸血鬼が来る。


「ジンデル様、どうやら朱天童子が直々にこちらへと動くとのことです。いかがなさいますか?」

「ほう・・・ならば京都すらも我が領地にとできるではないか。そのまま動きを調べておけ」

「はっ」


シャミナは内心楽しんでいた。アメリカは国内の領土争いが禁止されてしまい、シャミナは退屈していた。そんな時に別の領主が、インドネシアの闇市で稼いでいると聞いて閃いたのだ。アメリカ以外で領地を増やせばよいと。

そうして配下の吸血鬼達と共に先行して、ここ東京に来てからは何もかもが新鮮だった。

自信の街とは違うネオン輝くコンクリートの塊の街。細い路地を歩けば、まるで自分が蟻にでもなったような気分になる。

そんな素晴らしい街を自分の物に出来たら、自分色に染められたら、どれだけ楽しいだろうか。

そんなことを考えながら、グラスに淹れられた血を飲む。人間の血も元居た領地では貴重だが、ここでは簡単に手に入る。


「ククク・・・精々楽しませてくれ・・・」




 椿が門番をして二日目、特に襲撃などなく、暇をしていた頃、真っ赤なセダンが道の奥からやってくる。


「岩笠~なんか車来たよ~」

「どれ・・・・・・朱天童子の車じゃないか!」

「ゲッ!なんで!?」

「知るか!とにかく、お前は古屋にいろ!顔を出すなよ!?」


そう言われた椿は大慌てで門の傍の小屋へと引っ込む。

しばらくして、門の前にいた岩笠の前に、赤色のセダンが止まり、助手席から大きなスキンヘッドの男が出てきたかと思うと、後部座席のドアを開ける。

そこから出てきたのは、燃えるように赤い腰までの髪の毛が天然パーマでふわふわとしている。額には大きな角が一本生えており、赤いシャツに黒のベストにスーツパンツを着た女、朱天童子だった。


「久方振りだな岩笠。息災か?」

「ああ。ここには何しに来た?」

「ふん・・・歓迎の言葉も無しか、まぁよい。妾は吸血鬼共を追っていてな。二日前、ここが吸血鬼に襲撃されたと噂で聞いたのでここに来たというわけじゃ」


そう言って朱天童子は煙草を咥えると、大男が火をつける。


「その事か。十人で来て七人殺し、三人に逃げられた。それだけだ」

「ほう・・・死体は?」

「その辺に埋めた。欲しいのなら勝手に掘り起こすといい」

「ふん、要らぬわ。他に吸血鬼に関して知ってることは?」

「無い」

「そうか、なにかあれば電気街の組事務所に来い。よいな?」

「いいだろう」


そう言って紫煙を撒きながら朱天童子が車に乗り込むと、車はすぐに発進し、見えなくなった。


「・・・・・・もう出てきていいぞ」


その言葉を聞いて、椿はひょっこり出てくる。


「ふう・・・朱天童子が電気街にいるって、茨がやばくない?」

「あぁ、偶然鉢合わせでもすれば即再封印だろうな」

「知らせないと・・・岩笠、ここは頼んでいい?」

「いいだろう。だがお前も気を付けろ。朱天童子が電気街にいる今、万が一お前の変身体が誰かに見られれば・・・」

「わかってる。変身は控えるよ」

「それでいい。じゃあ行ってこいこの時間だと茨は、大通りの二層にある『おもてなし♡らばーず』に居るはずだ」

「ツッコミたいけどやめておくわ。ありがと!」


そう言って椿はアキハバラ電気街へと走って行った。


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