メタルにマナは宿らない 11話
いいね等評価してくださると励みになります!
新居に移ってから4日目の昼過ぎ、椿と茨の家には松金と左門が居た。これからの事を相談するためである。
「まずは俺から話させてくれ、天狗の里をひとつにしてくれてありがとう。これで俺も里に帰れる」
そう言って松金が切り出した。
「今の天狗の里だが、現状はいつ襲撃されてもいいように訓練をしつつ、守りも固めている。だが、まだ朱天童子に従っているから、このまま上手くいけば全てバレずに富士山の麓の祠の場所がわかるだろう。こんなところだな」
松金の報告を終えたのを確認して、次は左門が話し始める。
「こっちは時期をみて、陽動として真っ向から反発するつもりっす。そうすれば手配書の青い妖怪も天火無双に居ると思うかもしれません。ただ、現状この事を知っているのは、天火無双の幹部連中だけっすね。すぐには動けないのが現状っす」
それぞれの報告を受け、茨が頭を回転させながら口を開く。
「お互いの状況はよくわかった。長瀞の天狗達はそのまま諜報活動を軸に動いてくれ。天火無双の方は・・・少し待ってほしい。まだこちらの手札を見せたくないからな。天火無双が反抗していると向こうに知らせるタイミングは、やはり富士山の麓の祠の攻略後だな」
「了解っす。幹部達にはそのつもりで話を進めておくっす」
「こちらも了解した。慎重に動くとしよう」
「ふー・・・やっぱ俺、こういう頭使うの性に合わないぜ。こういうのはバッとやってサッと復活!そしてあのクソアマをバコーン!がいい。わかりやすいと思わないか?」
松金と左門が帰った後、茨はそうぼやく。
「そんな事言っても祠の場所がわからないんじゃこうするしかないよ。せいぜい朱天童子には、下手くそな絵の手配書の青い妖怪を追ってて貰わないとね」
「祠の場所でも降ってくればなぁ・・・んで、那智の滝にはいつ行く?明日とか?」
「いつでもいいよ。準備はできてる。あとは左門達が送ってくれるだけだしね」
「よっしゃ!んじゃ明日は那智の滝強攻略作戦だな!」
そう言った茨の腹がぐう、と音を立てて鳴る。
「腹減ったなぁ。久々に正のところで食おうぜ!」
「いいね。行こう」
こうして二人は食いどころ正へと向かった。
二人がアキハバラ電気街の大通りを歩いていると、前の方から明らかにこの街に浮いている者達が三人歩いてくる。
まるで南蛮の中世の貴族のような恰好をし、目は白目の部分が赤く、瞳も赤色であった。
そんな珍しい人物を二人を合わせた街の者達は珍しそうにジロジロと見ていた。
「なんだあいつら?」
「なんだろうね。南蛮の妖怪かな?私も最近南蛮の妖怪を、岩笠に頼まれて案内したよ」
「あぁ~シルマと会ったときの。んじゃそいつらのお仲間かな?」
そんな会話をしながら二人は食いどころ正へと到着する。
久々の来店に、二人を見た正は嬉しそうに話しかける。
「よう!お二人さん。久々だな」
「おう正!俺達がこなくて潰れてるんじゃないかって心配してたぜ~?」
「ぬかしやがれ!どうせいつものだろ?椿は?」
「私は炒飯大盛りと餃子24個ね」
「おう!」
そう伝えて二人は席に着く。
「・・・なーんか引っかかるなぁ、あの南蛮野郎ども」
「なんか知ってるの?」
「いや、ただのカンだよ。まぁどうせ大した事じゃないだろ。久々の正の料理、楽しもうぜ!」
久々の中華を腹いっぱい食べ、翌日。昨日の帰りに大車輪に寄り、襲撃の事を伝えると送迎の者を向かわせると言われ、現在午前10時、待ち合わせ場所の大通りで待っていると、通りを走る黒の軽が目の前に止まる。乗っていたのは鉄二だった。
それを見た椿は思わず鉄二に言う。
「噓でしょ?鉄二って軽が好きなの?なんか意外だね」
「この大通りを通るにはこれが最適だっただけですよ!俺だってもっとかっこいい車で来たかったっす!」
「乗れるならなんでもいいぜ。鉄二、今日はよろしくな!」
「押忍!」
そうして二人は軽に乗り込むと、車は発進した。大通りを抜け、那智の滝へと進んでいった。
那智の滝は三人が思っていたよりも遠く、出発から8時間経った午後6時に目的地の前にある那智神社へと着いた。
流石に火車と言えど、運転に疲れた鉄二をねぎらった後、椿は装甲を纏い、二人は神社へと足を踏み入れる。
静かな境内の奥に一人の巫女がこちらを向いて立っているのが見える。
茨と椿は顔を見合わせた後、覚悟を決めて進む。
境内に入ってきた二人に話しかけるのは、背中の中ほどまである黒髪を額の真ん中で分け、白衣に緋袴と巫女の恰好をしており、錫杖を持っている。よくみると左足が棒になっていて、義足であるのがわかる。
その巫女が声高に二人に話しかける。
「祠を荒らす不届き者よ!ここが那智神社と知って来たのだろう?私は伊小奈!朱天童子様の命により、生きては返さぬ!」
「朱天童子『様』ねぇ・・・ありゃ交渉とか無理だな」
「みたいだね」
茨は腕や指を動かし、大量の妖術陣を展開する。
「集え!狗賓共!」
伊小奈の声に反応して、境内の四方八方から狗賓達が出てくる。
「椿、狗賓共を頼む」
そう言って茨はふわりと浮かぶ。
「了解。暴れてあげるよ」
そう言った瞬間、狗賓達が一斉に椿達目掛けて襲い掛かってくる。
襲い掛かって来た狗賓達は口から火球を吐き出し、茨を狙う。椿はそれを、自身の装甲を蜘蛛の巣のように展開し、火球から茨を守る。
「狗賓共は青いのをやれ!その女は私がやる!」
そう言った伊小奈もまた、ふわりと浮かび空中戦が始まる。
一方地上では、椿が大量の狗賓に襲われていた。彼らの爪や牙、火球は椿には全く効かないので勝負は一方的ではあるが、数が多く、押され気味であった。
「せいっ!やあっ!・・・数多すぎでしょ!」
そう叫ぶ椿は尾の鋏で一人の狗賓を挟むと、それを振り回し、他の狗賓達に当てながら地面に叩きつける。石畳を粉砕し、頭部が潰れた狗賓をポイっと捨てると、ガチガチと鋏を鳴らし、椿は大きく手を広げ、構える。
「さぁ・・・死にたい奴からかかってきな!」
一方空中では茨と伊小奈の一騎討ちが始まっていた。
茨の妖術陣からは緑の眩い光線と光弾が絶えず射出され、弾幕を形成していた。
伊小奈はその弾幕を避けつつ、自身の妖術陣から黄金の槍を飛ばす。
茨はそれを避けながら、拳を突き合わせ前に出すと、両腕が緑の炎に包まれ、その奔流が伊小奈に向かって放射される。
伊小奈はその奔流をかすりながらも避け、新たに黄金の礫を周りに展開すると、それは茨を追尾するように飛んでいく。
それを緑の火球でまとめて破壊すると、茨も追尾する緑の炎の槍を大量に発射する。
それを伊小奈は全て錫杖で打ち払い、妖術陣の多さから、遠距離戦は不利だと気付いた伊小奈は、茨に近接戦をしかける。
錫杖による連撃。茨はそれを巧みに避け、距離を大きくとると、巨大な緑の火球を両手に持ち、伊小奈目掛けて撃つ。
一発目を華麗に避け、二発目も避けたかと思った伊小奈だったが、二発目だけが誘導弾であった。
一発目が椿の近くの狗賓の群れへ当たり、二発目は伊小奈の背後から、背中にに当たる。が、直前で妖術を発動させ、黄金化した伊小奈は服が焦げ、少し火傷しただけで済んだ。
「殺す気かー!!!」
下で喚く椿を見て茨は少し笑うが、すぐに切り替え目の前の伊小奈へと向き直る。下から上に腕を扇ぐと、二つの緑の炎の波が伊小奈目掛けて波打つ。
それをかいくぐり、伊小奈は手指で印を作ると、網目状の黄金の結界を展開する。すると伊小奈自身が黄金になり、同じく黄金になった錫杖を構えて茨に向かって飛んでくる。
それを危険と察した茨は、手を上下でパチンと合わせ、叫ぶ。
「解!」
すると黄金の結界も伊小奈の黄金化も解除され、妖力で浮いていたふたりは地面へと落ちはじめる。
落下しきる前にふたりは再び飛び、お互いを見る。
(こいつ・・・なかなかやるじゃねぇか)
茨はそう思うと、再び攻撃を始める。
背後の巨大な妖術陣から、螺旋状に火球を飛ばし弾幕を張ると、茨の両腕が緑に輝く。
伊小奈は弾幕を時に避け、時に錫杖で打ち払うと加速し、茨に急接近する。
伊小奈が錫杖を振りかざしたその時、がら空きになった胴体を茨は見逃さなかった。
緑の輝きが両拳に溜まると、茨は両腕を突きだし、伊小奈の胸と腹に縦拳をぶつける。すると緑の光が衝撃となって伊小奈の体に伝わる。
その衝撃で伊小奈は十数メートル吹き飛ばされ、木に激突する。
さすがに黄金化では軽減しきれず、伊小奈はよろめきながら膝をつく。が、まだ戦えるのか、妖術陣を展開し、大きな黄金の針を連射する。
それを飛びながら躱した茨は、お返しと言わんばかりに緑の炎の火球を伊小奈目掛けて連射する。
伊小奈は大地を蹴り、再び飛び上がろうとするが、ほんの一瞬、動きが鈍る。その隙に火球を叩きこまれ、奥の神社の方まで吹き飛ばされた。
伊小奈はなんとか立とうとするも、左足の義足が折れ、うまく立てない。
その隙を見逃す茨ではなく、容赦なく攻撃する。
右手を前に出し、指の先に小さな緑の火球が出来たかと思うとそれらは一瞬で伊小奈に到達し、五連続の大爆発を起こす。
茨が爆風が消えるのを待っていると、まさかの勢いで、爆風の中から伊小奈は錫杖を片手に突っ込んできた。
錫杖での突きが茨のみぞおちを捉えると、茨は数メートルほど飛ばされ、思わず胃の中身をぶちまける。
「げぅおぇえぇぇぇぇええ!!」
その隙に伊小奈は妖術陣を展開し、追撃をしかける。
しかしその程度の事で油断や隙を見せる茨ではない。展開していた巨大な妖術陣が光線や光弾で伊小奈を寄せ付けない。
仕方なく伊小奈は、展開した妖術陣で黄金の剣を数本飛ばす。
茨は鈍いながらも最小の動きでそれらを躱す。そして腕や指を動かし、最後に両手を音を立てて合わせると、自身の周りを緑の炎の竜巻でつつんだかと思うと、その中から三人に増えた茨が飛び出す。増えた茨がそれぞれの方向から伊小奈に向かう。
三人に増えた茨の内一体は、緑の炎を剣にし、伊小奈と近接戦をしはじめる。
大振りで、でたらめに剣を振り回す茨の隙を見て、伊小奈は錫杖を頭部へと叩きつける。
すると、叩きつけられた場所から緑の炎が噴き出したかと思うと、大爆発する。
かろうじて一瞬遅れて黄金化し、防御できたものの、また服は焦げ、火傷を負ってしまう。
体勢を立て直し、手指で印を結び、再び黄金の結界を作ると、伊小奈の体と錫杖は黄金と化し、二体の茨に突っ込んで行く。
それを見た左に居た茨は、再び手を上下に合わせようとするも、それよりも先に伊小奈が近づき、蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした後、もう一体の茨に向かって突進する。茨はそれを避け、後ろから羽交い絞めする。
蹴り飛ばされた茨が体勢を立て直し、緑の火球を片手に伊小奈目掛けて勢いよく向かう。
伊小奈はなんとか羽交い絞めを振りほどき、後ろの茨を足場のように両足で蹴り飛ばし、その勢いで火球を持った茨へと突進する。
茨は伊小奈に火球を叩きつけるが、それを完全に防御し、伊小奈は錫杖で茨の胸を貫く。
すると先ほどと同じく傷口から緑の炎が噴き出し、大爆発する。
その爆炎を錫杖で一蹴した瞬間、残っていた本体の茨が、右手に大きな緑の炎の杭を片手に突っ込んできた。
それに反応できなかった伊小奈はそれをまともに喰らう。
杭は黄金化した伊小奈の胸を貫通し、ひときわ緑に光ったかと思うと大爆発を起こす。
すぐさま茨は距離を取り、様子を窺う。
爆風が晴れ、そこにいたのは胸に大きな穴を空けた伊小奈だった。
錫杖を力なく手放し、ほんの少しふらふらと茨の方へ進んだ後、力なく落下していく。
「無念・・・朱天童子様・・・申し訳・・・」
そう言ってどさりと音を立てて伊小奈は地面に落ちた。
一方下では殺戮の限りを尽くしていた椿はかなり疲れていた。
「まだぼちぼち残ってるし・・・どんだけいるんだよ!」
そんな中大爆発の後、伊小奈が境内の奥に落下するのが見えた。
狗賓達もそれに気付くと、おろおろとし始める。
「はぁ・・・はぁ・・・あんた達のボスは死んだぞ!まだやる!?」
そう椿が叫ぶと一人が山の方へ逃げたのを皮切りに、残った狗賓達は散り散りに逃げていく。
それを見届けた椿は思わずしゃがみ込む。そこに、ふわりと茨が降りてくる。
「ごくろうさん。にしてもかなりの狗賓が居たな」
「毎回こんなに増やされてちゃ、二人じゃキツイね」
「だな、そろそろもうひとりくらい仲間を雇うか・・・?」
「はぁ・・・はぁ・・・そこは任せるよ。んじゃ祠の方に行こうか」
「だな!」
二人は那智の滝の前に来ていた。周りを見る限り、それらしい祠は無い。
「あれぇ?おかしいな。ここにあるって松金が言ってたのによ」
「・・・ん。滝の裏側、なにかあるっぽいよ」
「おっまじか!んじゃ行こうぜ!」
滝の裏側には小さな洞窟があり、そこには祠があった。
茨が祠の扉を開けると、いつものように札を貼られて封印された桐箱が置いてあった。
札をはがし、中身を確認すると、右腕が入っていた。
「ここは右腕かぁ。残るは右足、胴、首だけだな!これで半分を取り戻したぞ!」
「やっと半分かぁ。ここまではなんとか順調だね」
「おう!この調子で取り戻していきたいぜ!」
そうして桐箱を担ぎ、二人は鉄二の待つところまで戻った。
「お二人とも!帰りが遅いもんで心配してました。勝ったんすね?」
そう言って駆け寄る鉄二に茨は桐箱をみせて笑顔をみせる。
「おぉ・・・!これで復活にまた一歩近づきましたね!」
「おうよ!あとは祠の場所がわかればいいんだがな」
「そっちは松金達を信じましょう。さ、乗ってください」
そう言って鉄二はSUVに乗るよう促す。
ふたりは後ろのドアを開け、乗り込んだ。しばらくして疲れていたのか、茨はいびきをかいて寝てしまった。
鉄二は二人の家に続く路地の前まで二人を送ると、車を一輪のバイクに変化させて去って行った。
二人は10分ほど路地を歩き、家へと帰宅する。
ふたりは茨の部屋へと入ると、茨は畳まれた布団に飛び込む。
「どわ~・・・疲れたな」
「移動がね。次は富士山だから今日よりは少しはマシだと思う」
「あと見つかってないもうひとつの祠も近場だといいなぁ・・・」
「だね。とりあえず、お疲れ様」
「あぁ!お疲れ。忘れない内に報酬払っておくぜ。少ないけどな!」
そう言って茨はちゃぶ台に乗っていた財布から120円を出すと椿に渡す。
「どーも。明日からはまた松金達の情報待ちかな?」
「そうなるな。まぁゆっくり休むとしようぜ」
「ん。そうだね」
そうして椿は自分の部屋へと戻り、茨は布団を敷いて寝た。
これにて那智の滝攻略作戦は成功に終わった。