あたらしい夜の友だち
風呂も上がった夜、いつものルーティーン。思春期の今までも同じように繰り返してきたのだ。今更憂鬱ということもない。あえて言うならば下手に嫌がってしない方が朝に悲惨なことになって怒られるわテンション下がるわでいいことがない。ある意味、これがベストなのだ。生まれてからずっと。そしてこれからもすぐに変わるような気配はない。
ゆっくりとタンスの一つの引き出しを引き出す。そこには白い地にピンク色などで花などが描かれている子供用のおむつがあった。タンスにしまう意味はないがパッケージをそのまま置いておきたくないというのと来客対策だ。それにまだタンスの中にしまっておいた方が使用頻度が低いように感じる。実際は全く変化はないのだが。
「はぁ」
ため息をつきながら風呂上りに穿いていたショーツをゆっくりと下ろし、代わりにタンスに入っていた子供用の紙おむつを手に取り、一旦手で広げてから足に通す。このひと手間のせいでおむつを穿くという感覚になって嫌なのだが、もちろん理由はある。
中学生までは何の違和感もなく穿けていたスーパービッグのおむつも高校に入ってしばらくすると窮屈になるようになってきた。中学のように運動もせず、放課後に友達とスナ―バックスに通っているせいだろう。分かっているがやめられない。最近特にぎりぎりだと感じることが多くなり、手でわずかに広げてからだと穿きやすいことが分かった。
当然無理をせずに大人用に手を出すというのも手だが、介護されている感じがするのと、どうしても真っ白なあのデザインが好きではなかった。遠くない日には――手を出さないといけない日が来るとは思いながらもその日までは何とかするつもりでいる。
腰をひねりながらゆっくりとぱつぱつになったおむつを引き上げていく。ここで慌てると破けてしまうためゆっくりと一分ほどかけて引き上げる。吸収体の部分が体に接するようになれば大丈夫だ。
(それにしてもほんとにぎりぎりだなぁ)
もうおむつ特有の柔らかさは底面の吸収体からしか感じることはできない。サイドはもう限界まで伸びきり、余裕はない。
見ているのも恥ずかしいので早めにパジャマのズボンを穿く。この時も足が動かしづらいので穿きづらいがもうかなり慣れてきた。最後に穿いていたショーツを片付け、夜の作業は終了になる。
そのまま机へと向かい、まだ終わっていない高校の課題を終わらせなければならない。深く椅子に座ると破けてしまうので座っているのかわからない程度に腰掛け、課題を始めようとしたとき、事件が起こった。
下半身からビリッという嫌な音が聞こえてきた。破けてしまうとしたら一つしかない。ぱつぱつの子供用おむつだ。まだ今回のパッケージくらいはいけると思っていたのだが・・・・・・考えが甘かったかもしれない。
「・・・」
過去に破けてしまったのはあと一回。あの時は新しいおむつに履き替えて慎重に寝て事なきを得たのだが――それでも破けて無駄になってしまった場合、きちんと報告するのがルールになっていた。幸い今父親は風呂、他に兄弟姉妹はいないので母以外に聞かれることはない。時間がないので(外からもわからないし)そのままそれ以上破けないようにサイドを支えて母親の元へと向かう。母親はリビング机で家計簿を書いていた。
「・・・・・・何?どうしたの?」
母は家計簿を書く手を止め、自分の方を向く。その目は優しく、今からする告白に対する緊張が和らぐ。
「あのさ・・・・・・おむつ破けちゃって・・・・・・頑張って穿こうとしてたけどそろそろ限界かも」
以前に一回破けてしまったことを知っている母は特に驚きもしなかった。そして家計簿を再び眺める。
「まあ、別にそんな値段も変わんないし、そろそろ大人用のSサイズにしなきゃだめかもね」
前回は何とか誤魔化していたが、今回ばかりは厳しいような気がする。今までは普通に座る動作もできていたのだ。寝相は悪い方ではないが寝ている途中に破けてしまう可能性もあり、これ以上無理をするのも怖かった。
「私もそんな気がする。今のはまた穿けそうなときに残しておくのにして新しいの買ってきてくれない?」
「そうね。明日お母さん買ってくる。今日は何とかなりそう?」
「ん・・・・・・わかんないけど何とかする。布団思いっきり濡らすわけにいかないし」
「じゃあ今日は何とかお願いね。明日にはちゃんと買ってくるから。あと、気にしなくてもいいわよ。子供は成長するのが当たり前なんだから」
「ありがと」
そのあと「おやすみ」と伝え、再び自分の部屋へと向かいズボンを抜いておむつの惨状を確認する。右側の下半分が避けていて残りが裂けるのも時間の問題な気がした。子のおむつを穿くのは諦め、破けた右側をすべて破く。左は無傷なので意味もなく残し、何となくそのおむつをタンスの引き出しに戻し、あたらしいおむつを出す。あとはもう慣れた手順だが先ほど座った時に破けてしまったことを思い出し、いったんショーツを穿きなおす。ほんとうに寝る直前に穿きなおそうと思い、机へと向かう。相変わらず高校の課題の多さに嫌になるが、軽く両頬を同時に軽くたたき、気合を入れて取り組み始める。
その後は順調に課題も進み、新しいおむつも何とか穿くことができ、眠りにつくことができた。体を伸ばしている状態であれば問題はない、そういうことだろう。
朝の結果はいつものようにぐっしょりだった。ぎりぎりだったおむつも何とか耐え、破けることもあふれることも漏れることもなかった。そのまま直行で風呂場へと向かい、いつも通りに綺麗にしてから制服に着替え、朝ご飯を食べて学校へと向かう。これがおむつのいつものルーティーンだった。
高校から帰るとリビングに新しいおむつのパッケージが置かれていた。紺色のパッケージで軽く見ただけだが吸収力がかなりいいらしい。そこまでたぷたぷになることはそんなに多くないのだが吸収するに越したことはないだろう。
パッケージを遠めに眺めているのを見て夕飯の準備をしていた母親が水を止め、エプロンで手を拭きながら近づいてきた。
「あ、それ今日から使ってみてね。色々種類が多くてよくわかんなかったからとりあえず一番吸収力が高いの買ってみた。Sサイズで問題はないと思うけどまた使いにくかったり、漏れちゃったりしたら言ってね」
「はーい」
父親はまだ帰ってきておらず、今のタイミングで部屋に片づけておけば見られることはないだろう。カバンとともに部屋へと運び、パッケージを開封する。すぐにタンスに移してしまうので点線から上を大きく開ける。
試しに一枚引き出してみるがまず驚いたのは厚みだった。子供用とは比べ物にならないほど分厚く、パッケージに書かれていた七回吸収を実現してくれるのだろう。サイズも当然大きく、今までのものとは全く別物だということがわかる。試しに穿いてみるほどおむつのことは好きではないのでしないがこれでもうサイドとの不安とはお別れだろう。残念なのは完全におむつが真っ白になり、可愛い絵などが無くなってしまったところだ。仕方がないと分かっていても、それだけのために今まで頑張っていたので寂しくなってしまう。
今まで穿いていたおむつを横に寄せ、空いたスペースにおむつを詰めていく。
風呂上り、昨日は破けてしまったが今日からサイズを大きくしたので座っても破けはしないだろう。慣れたようにタンスのおむつが入っている引き出しを引き、新しい真っ白のお持を取り出す。色がついているとすれば腰回りのゴムだけだ。だがこれは可愛いとは言えないだろう。
ズボンとショーツを下ろし、今日からの新しいおむつに足を通す。サイズが大きくなったおかげで変なことをしなくてもするっと穿くことができる。思った通り、今までよりも吸収体が分厚く、もこもこしている。
今まで忘れてしまっていたがサイドもかなり柔らかい。今までのおむつもこんなに柔らかかったのだと思う。最大まで伸ばしてしまっていたので気づけていなかったようだった。腰回りも今まではショーツのように丈が短くなっていたが今回のものはへその近くまでおむつが伸び、しっかりとおむつに包まれているかのような感覚になる。
(うぅっ・・・・・・恥ずかしい・・・・・・)
眺めているのも恥ずかしくなってパジャマのズボンを慌てて穿きなおす。おむつがゆったりなおかげでズボンも穿きやすい。ただもこもこなせいで(おかげで?)パジャマの上からもおむつを穿いているのが一目瞭然だった。まあ寝る前と起きた直後までだけなので誰にも見られることはないのでいいのだが。
ゆったりだとなぜだか少しうれしかった。そのまま机に向かい、勉強を再開する。今回の課題は少し多く、時間がかかってしまうだろう。
一時間半ほど経過する。普段であれば風呂に入るまでにも課題を進めているのでここまで遅くなることはない。今日も同じように進めていたのだが課題が多すぎた。
さすがにこれだけ寝るのが遅くなるとどうしてもトイレに行きたくなってしまう。だが今は夜。怖いというわけではないがあまり下には下りたくない。課題も終わり、あとは寝るだけなのに。
ここで思い出す。そしてゴミ箱の中からおむつのパッケージを取り出す。正面には大きく「七回吸収、千CC吸収と書かれている」普段のおむつもある程度は吸ってくれるだろうが、これほどではないだろう。
(おしっこしても大丈夫だよね・・・・・・?)
せっかくおむつを穿いているのだ。それも今日から新しいものを。試さないわけにはいかない。物音でバレてしまわないように静かに立ち上がり、椅子を戻して尿意を我慢しながら机の上を片付ける。明日の準備も済ませ、今日残っている作業がない状態にする。
おむつに意図的に漏らすという行為は今までにしたことがない。おむつのことが好きではないというのもあるが漏れる不安もあったからだ。だが今回のものは大丈夫だろう。なぜか胸がどきどきして呼吸が荒くなる。
ゆっくりと尿道を緩めていく。勢いよく放出されるおしっこ。静かな部屋で鼓膜に届くかぎりぎりで広がる音。普段は冷え切ってしまっている吸収体も今日は暖かい。
そこまで我慢していたつもりはなかったが結構溜め込んでいたようだった。おむつは重く、温かくなっている。だが今までのおむつと比べてまだまだ余裕があるように感じてしまう。
(このまま寝ても大丈夫そう)
おむつが温かいまま眠りにつく。意図的に漏らしたことはおねしょと一緒になってしまうのでバレる理由がない。仮にないと思うが溢れてしまってもおむつな合わなかったことにしてしまえばいいだけだ。
布団の中に入っても胸のどきどきは止まらなかった。おむつが温かく、ふわふわで優しく包んでくれている。
(なんだか大人用のおむつもいいかも・・・・・・)
彼女がおむつの沼に足を踏み入れてしまった瞬間だった――