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1話-7

「……怪しい格好だっていうのは自分でもわかってはいるけどさ、チンピラに言われたくないな」


 俺は誰に言い聞かせるでもなくボヤきながらスマホを取り出し、SNSに流れてくるニュースを確認する。


 《脳波による遠隔操作の試験成功》

 ……遠隔操作でスーツだけをヒーローとして活動させる事ができれば、便利なんだろう。

 だけど、金が無ければ技術も無いし、勿論そんなコネも無い俺には一切関係の無い話だ。

 《機械人形の警備試験運用 一部施設にて開始される》

 ……実用化されてくれれば、俺や警察も少しは楽になるか?

 だけどこういうのって、大体機械が反乱を起こしたりして酷い事になるのが映画とかだと定番だよな。

 《鶴羽市で行われた反超能力者集団の集会に千人を越える人が集まる 彼らは超能力者の規制法実現に向けて――》

 ……超能力者が出てきてから治安が悪化した以上、こういう輩が出てくるのは仕方ないかもしれないが、何の罪も無い超能力者まで一緒に差別しようとするのは正直やめてほしい。

 俺にできる事は、早いとこ立派なヒーローになって市民権を得るくらいだな。

 《今日のわんこ》

 ……後で確認しよう。


「……今の所、何の事件も発生していないみたいだな」


 ヒーローを目指している者の発言にしてはどうかと思うかもしれないが、仕方ない事だ。

 何事もないっていうのは素晴らしいのだから。

 事件が起きているよりは、平和なのが一番だ。


「今日はもう引き上げるか。偶には早く帰って休も――?」


 事件が無いなら、俺のお勤めも終了だ。

 表通りに出てバイクを取り出し跨ろうとした瞬間、足元に違和感を感じて見下ろす。


「何だ? 糸――!?」


 足首の辺りに糸の様な物が貼り付いているのを認識したその瞬間、糸を強く引っ張られてその場に転倒してしまう。

 そして、急な出来事に混乱する俺をあざ笑うかのように背後から男の声が響く。


「一本釣りだ! このまま引きずり回してやる!」


 ……この声、どこかで聞いた事がある気がする。

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。


「させるかよ!」


 俺は倒れこんだまま靴底用の点火ボタンを押すと、足元から火花を散らす。

 更に超能力で火花を激しく燃える炎へと昇華させ、足首に貼りついていた糸を焼き尽くす。


「誰だお前は!」


 自由を取り戻すと間髪置かずに立ち上がって振り向き、文字通りの意味で足を引っ張ってきた相手を見据えて拳を構える。


「おいおい、俺の顔を忘れたとは言わせねえぜ?」


「……思い出したぞ! 小学校の同級生だった山田中 三太郎君! こんな所で奇遇だな」


「誰だそいつは! 俺は――」


「生憎と犯罪者なんて倒すべき敵程度にしか考えてないんでね。しかも、一度俺に倒された間抜けなんて一々覚えている訳ないだろ。とりあえず、もう一回警察に突き出してやる!」


 冗談は置いといて、コイツは確か先日倒した宝石強盗犯コンビの片割れか。

 警察に捕まって連行されたとニュースで確認したが、何でこんな所にいるのだろう。

 ……まあいい、俺にできる事は一つだけ。

 憤慨する男に向けてジェット噴射で急接近し、ノックアウトするべく拳を振り抜く。


「……外した!?」


 しかし、俺が振り抜いた拳は男を捉える事なく空を切ってしまう。

 目の前から一瞬にして男が消えたのだ。

 俺は慌て周囲を見渡すが、男の姿はどこにも見当たらない。


「興味無いなんて釣れないな。俺はお前に興味津々だぜ? 特に、そのヘルメットの下がどんな生意気な面をしているかとかな」


 振り向いて頭上を見上げると、街灯の上に男が立ってこちらを見下ろしていた。


「俺は刑務所という名の地獄からお前を葬りにきた使者『スピネ』だ! 覚えておけ!」


「……いや、お前の名前は糸川だろ? 逮捕された時のニュースに実名が出てたぞ」


 気取っているというか、妙にカッコつけながら偽名を名乗った糸川に対して突っ込みを入れてやる。


「……俺の名前知ってんじゃねえか! からかってんじゃねえぞ!」


 突っ込みに対して律義に返事を返してくる糸川……いや、スピネ。

 ……それにしても口数の多い奴だ。


「折角逃げ出せたのなら大人しくしてればいいのに。それで、わざわざ俺の前に出てきて何の用だ? もう一度倒されに来たのか?」


「そんなの、お前に復讐する為に決まってる!」


 スピネの腕が此方に向けられたかと思うと、手首の辺りから糸が射出される。

 咄嗟に後方へと飛び退いて糸を躱し、その着弾点に注目する。

 そこに存在していた筈の糸は既に無くなっているが、それよりも地面の状態に思わず冷や汗が流れ落ちる。

 ……マジかよ、糸の着弾点が抉れている。

 避けてなければ、無傷じゃ済まなかっただろう。


「コイツは糸か? どこで調達――いない!?」


 時間稼ぎも兼ねて適当に質問をかけながら街頭を見上げると、そこにいたはずのスピネは先程のように姿を消していた。


「油断したな!」


 背後から声がしたかと思うと、浮遊感を感じる……いや、背中に貼り付いた粘着性のある糸で実際に浮かされている事に気付くのに、時間はかからなかった。


「地面に叩き落としてやる!」


「くっ……」


 背中に貼り付けられた糸を燃やして地面に着地する。

 地面に着地した衝撃で躰が痛むが、高所から落とされるよりはマシだ。


「逃げられたか。流石にやるな」


 地上に降りてきたスピネの姿を観察すると、奴の両腕に以前強盗を行っていた時には着けていなかった機械が目に入る。

 ……あの機械で糸の射出を行っているのか。


「その腕に付いているよくわからない機械。一体誰から提供された?」


「お前が組織の仲間になるっていうんなら教えてやってもいいぜ」


 口が軽くて助かる。

 しかし、組織という事は奴以外にも誰かいるのか?


「組織って何の組織だ。それがわかんないと答えようが無いな」


「それは教えられないな。お前の答えはイエスかノー、どちらか一つだ」


 スピネから視線を外さないように周囲の様子を探るが、この場に俺達以外の気配は無い。

 少なくとも今は奴一人の様だ。


「それじゃあ遠慮しとくよ。お前みたいに変な偽名を名乗らないといけないのは勘弁だ」


「そいつは良かった、遠慮なくお前を殺せるぜ!」


 スピネの腕から再び糸が射出される。

 先程と同じように回避を行う……今度はスピネから視線を外さずに。

 俺が立っていた地面に糸が着弾し、先端に取り付けられた弾丸により地面が抉れる。

 糸を射出し終えたスピネは弾丸の付いた糸を巻き取りつつ、空いている方の手から向かい側の壁へと糸を射出し、そのまま糸の先へと移動する。


「そういえば地獄からの使者とか言ってたけどさ、そういう名乗り口上使うんなら相応の実力が無いとガッカリさせるだけだぞ!」


 スピネの集中を乱す為に煽りながらも、俺は更に思考を深めて奴の戦力を分析していく。

 ……奴が操る糸は二種類。

 地面を抉るほどの威力で射出される、先端に弾丸の付いた糸。

 そして先程、俺を吊り上げるのに使い、移動にも使用できるほどの強度と粘着力のある糸。

 前回は壁に張り付いてこちらを狙撃してきた事から、奴自身の超能力は垂直な壁などに貼り付く事ができる、又はそれに近い能力だろう。

 自身の超能力と装備を合わせて立体的な攻撃を行えるという訳か。

 再び俺を吊り上げる為に射出された糸を回避して、前方に駆け出す。


「実力が無いかどうか、確かめてみろよ! ……と、言いたい所だがそろそろ潮時みたいだな」


 スピネがそう言うと、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

 ……結構大声で騒いでいた上に超能力まで使ったし、警察に通報されたか。


「逃がすかよ!」


 警察が近くにいるのなら好都合。

 俺はスピネを警察に再び突き出すべく、奴のいる高さまで一気に跳躍して殴りかかる。


「おっと、その手は喰わないぜ」


 俺の拳が当たるよりも早く、スピネは更に高所のビルへと糸を使って移動する。

 ……少しは学習能力があるらしい、先日の戦闘経験で俺がどう動くか読んできたか。


「今回は見逃してやるよ。次に会った時が貴様の最期だ、ヒーローさんよ」


 スピネはそう言い放つと、俺が追いかける間も無くビルの屋上まで登って姿を消してしまう。


「……逃げられたか」


 今から追いかけた所で奴の糸を使った立体移動には追い付けないだろう。

 ……これ以上ここに残っていると、警察に捕まってしまうな。

 俺はヒーローを目指して活動しているが、非合法な暴力沙汰に発展する事もしばしばある。

 要するに警察からすればスピネみたいな犯罪者と同じように、俺も逮捕の対象という訳だ。

 サイレン音がこれ以上近くなる前にバイクに跨ると、アクセルを回してこの場から急いで立ち去る事にした。

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