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1話-4

「さっき、咳込んでましたよね? だから、体調が優れないのかと思って」


 ……ああ成程、さっきのやり取りを見ていて声をかけてきたわけか。


「大丈夫、コーヒーでむせただけ。心配ないよ」


「……おい、何でお前が返事をする?」


 俺が何か言うよりも早く、二郎が返事をする。


「そうですか。それなら良かったです」


 委員長はホッとしたような表情を浮かべた後、ニコリと笑いかけてきた。

 ……俺は向けられたその笑顔を、何故だか直視できずにそっぽを向いてから口を開く。


「し、心配してくれるのは有難いけど、何で俺なんかを気に掛けるの? 委員長とは碌に話した事も無い筈だけど」


 同じクラスとはいえ、クラスの中心人物ともいえる委員長。

 意図的とはいえ、あまり目立たないようにしている俺からすれば縁のない存在だ。


「お、おいショウ! お前、折角心配してくれてる委員長になんて事言うんだ!」


 ……そんな事言われても、特に親しくもない人に急に心配されるなんて、何かあると疑ってしまうのも無理はないはずだ。


「そんなの、同じクラスの仲間だからに決まってるじゃないですか。クラスメイトの事を心配するのが、そんなにおかしい事ですか?」


 俺の言葉を聞いた委員長は、笑顔を絶やす事なくさらりとそう言ってのけた。

 ……笑顔が眩しすぎて、相変わらず直視できない。

 何だか悪い事をした気分になってきた。


「……ごめん委員長、俺が間違ってたよ」


「そうだぞ! しっかり反省しろ!」


「うるさい。さっきから何様のつもりだ」


 横から茶々を入れてくる二郎を小突きながら、委員長に向けて頭を下げる。


「謝ってもらわなくても大丈夫ですよ。早く頭を上げてください」


 下げていた頭を上げて委員長の顔色を伺う。

 彼女は怒っている様子は微塵もなく、先程と変わらない笑みを浮かべたままだった。


「ところで一条君、そのスクラップブックの中身って何ですか? どんな事を調べているのか、少し気になっちゃって」


「……あー、こいつの中身は、その――」


「中身はこいつが調べたヒーローについての事だ。こいつ、ヒーローオタクだから」


 何故だか言い淀む二郎に代わり、奴が大事に持っているスクラップブックの中身を説明してやる。

 別に俺が説明してやる義理はないが、委員長が知りたがっていたしな。

 先程心配にしてもらったし、親切にするのは不自然なことでは無いだろう。

 ……さっきからうるさい二郎に少し仕返ししようと思ったとか、そういう気は一切無い。

 おそらく、多分、きっと。


「ヒーローですか! 私も少し興味があるんですよ」


 ……委員長の返事は俺の予想していたものとまったく違っていた。

 嘘だろ?

 好意的な反応が返ってくるなんて、思ってもみなかったぞ。


「……マジ?」


 二郎が呟くが、そうしたいのは俺の方だ。

 精々引かれてしまえばいいと思っていたのに、思惑が外れてしまうなんて。


「マジかー。委員長もヒーローに興味を持っていたのか。……それで? 委員長はどんなヒーローが好きなの? 俺はやっぱり彼かな。最近この辺りで悪党退治を行い、昨晩は超能力者をもやっつけた――」


「水城さん。ちょっと手伝ってもらいたい事があるんだが、構わないかい?」


 二郎が長々と語り始めている途中で、教室の外から委員長へと女子生徒が声をかけてくる。

 ……見ない顔だし、多分他のクラスの人だろう。


「はい! 今行きます! ……ごめんなさい、また今度話を聞かせてくださいね」


 委員長は俺達に会釈した後、教室の外へと向かう。

 ……彼女は俺達と話している間、終始笑顔を絶やす事は無かった。


「……いやぁ、本当にいい子だよな」


 委員長の出て行った扉をぼんやりとした様子で眺めながら、二郎が呟く。


「急にどうした? 変な物でも食ったのか?」


「成績優秀でスポーツ万能、才色兼備という言葉がピッタリ。それでいて男子からだけじゃなく、女子からの人気も絶大ときたもんだから凄いよな」


 ……確かに、委員長の悪口を聞いたことが無い。

 良い子ちゃんぶってて気に入らないとか、嫉妬からくる根も葉もない噂話の一つや二つありそうなもんだけど、そういう話も全く聞いた事が無いのは素直に凄い。

 二郎なんか喧しすぎてうるさいと言われる事などしょっちゅうなのに、人間こうも違うものなのか。


「おまけに俺達みたいな非モテにも分け隔てなく接してくれるんだぜ。ああいう子が彼女に欲しいよ」


「最後の寝言はどうでもいいが、その前の発言は異議ありだ。まさか、俺もお前と同じカテゴリーに含まれているっていうのか?」


 聞き捨てならない言葉に、俺は柄にもなく憤慨してしまう。


「まあまあ、落ち着けよ。……そういえばさっき言ってた駅前のドーナツ屋、今度連れてけよ」


「……ああ、気が向いたらな。俺は疲れてるから寝る。休み時間が終わる前に起こしてくれ」


 二郎と同類扱いされるのは非情に心外だし抗議を続けようかとも思ったが、何かの拍子に二郎がヒーローの話を再開したら面倒だ。

 適当に話を切り上げて、仮眠する事にした。

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