6話‐6
「手間をかけさせやがって。この間の機械人形で最後だって言ってたろ」
「あの時点ではそうだったんですよ。今回の襲撃用に新しく調達したんですけど、まさかこうもあっさりと壊滅させられるなんて……」
宙に浮いたままのヴァッサが俺を見下ろしながら答える。
……機械人形も安くは無い筈だ。
そんな物を簡単に何機も調達してくるなんて、彼女単独で出来るとは思えない。
「高価なおもちゃを壊されたくなかったら、お前一人で襲撃すればよかったじゃないか」
「反超能力者団体だけが相手ならその通りだとは思いますが、貴方や警察を相手するには頭数が多いに越した事はありません」
「……機械人形、どうやってあんな数を調達した? まだ一般に出回ってなくて、一部の施設でしか試験運用していない代物を用意できるなんて。……お前の背後には、一体どんな組織が付いている?」
俺の問いを聞いて、ヴァッサは少し考える素振りを見せてから答える。
「そうですね、貴方が私達の仲間になれば話してあげても――」
「それじゃあ聞かなくてもいいや。後で警察にでも話してくれ!」
宙に浮き続けるヴァッサ目掛けて不意打ち気味に炎を放つが、彼女の前にあらわれた水壁によって阻まれてしまう。
「……どうやって浮いてんだ? 攻撃が届かねえ」
「さて、何故でしょうね? 今度はこちらの番ですよ!」
炎を防いだ水壁が、球状になっている複数の水塊へと変化して彼女の周囲に展開する。
攻撃に備え身構えた俺へとヴァッサが手を翳すと、水塊が猛スピードで動き出す。
対抗するように火球を飛ばして相殺していくが、手数が足りずに幾つかの水球が俺に迫る。
すぐさま拳に炎を宿し、水球一つ一つを殴って掻き消していく。
……水球を殴り飛ばした時、拳が衝撃で結構痺れる。
見た目によらず、直撃したら不味いかもな。
「全部掻き消しましたか。それなら次はこれでどうでしょう?」
ヴァッサはそう言うと、数個の黒い球を取り出して宙に向かって放り投げる。
一度頂点に達した後、重力に従い地面まで落ちるかと思われた黒球は、先程の水球と同じように彼女の周囲で中空にとどまり続ける。
そして、今度はヴァッサの予備動作も無く、黒球が俺に向けて猛スピードで動き始めた!
「何がこようと、やる事は同じだ!」
炎を放ち、幾つかの黒球を溶かす事はできたが、一つだけ逃してしまい接近を許す。
先程と同じように此方に迫る黒球を殴り落とそうとした瞬間、得たいの知れない圧迫感を感じてその場を飛び退き黒球を躱す。
「あら、躱しましたか」
「……マジかよ、避けて正解だったか」
先ほどまで俺が立っていたコンクリートの地面に黒球がすっぽりと埋っている。
……正体は鉄球か?
あんな硬い物を殴っていたら、俺の拳は間違いなく壊れていただろう。
「お前の能力は水を操る能力だろ! こんなもん、どうやって操ってるんだ!」
「さあ? どうやって動かしているんでしょうね」
叫ぶ俺に再び鉄球をけしかけながら、ヴァッサはすっとぼける。
いつまでも回避してる訳にはいかないと、黒球から全力で離れながら炎を放つ。
鉄球が炎に呑まれて溶ける瞬間、鉄球の中身が空洞になっており、そこから蒸気が立ち昇るのが視界に映る。
……成程、手品のタネはそういう事か。
「中身に水を入れて動かしてたのか。色々と応用を利かせることができて、ズルいな! というか、お前が宙に浮けているのも装甲内部に水を仕込んでいるからか!」
「バレちゃいましたか。でも、貴方の超能力だって充分ズルいと思いますよ」
思わず憤慨する俺に対し、ヴァッサは冷静に返事を返してくる。
……こっちのペースに乗って冷静さを失ってくれれば多少はやりやすくなるのだが、中々上手くいかないな。
「仕掛けがバレたっていうのに、随分落ち着いているな」
「バレた所で貴方は私に手を出す事はできませんからね。それに、本命の仕込みは既に完了しています」
「本命の――!!」
喋っている途中で、俺の身体が地に這いつくばる。
すぐさま起き上がるが、明らかに体が重たく身動きがとりづらい。
……いや! 身体が重くなっているんじゃなくて、着ているスーツが重たくなっているんだ!
「貴方のスーツ、随分と濡れてしまったみたいですね。外側も内側も」
「……そういう事か」
今までの戦闘で、俺のスーツは随分と濡れてしまった。
スーツに付着している水や、中に入り込んだ水を地面に向けて動かしているのか。
「だったら、全部蒸発――」
「させませんよ」
新たに炎を生み出すよりも早く、俺の身体が宙に浮く。
そのまま遊園地にある絶叫マシンの様に勢いよく俺を振り回し、最後は地面に叩きつける。
「ぐッ……」
「今日は全国的に晴れらしいですけど、局地的な大雨に注意してくださいね」
痛みに呻き、立ち上がれない俺は自らの上空に浮かぶ巨大な水塊を目にしてしまう。
逃げようとするが水を吸って重たくなったスーツを着ていたは満足に動けず、水流に撃たれる痛みをただ耐える事しかできない。
……降りかかってきた水を被り終えた後、ふらつきながらも何とか立ち上がる。
点火装置の起動ボタンを押しても、火花が散る事は無い。
点火装置自体が壊れたのか、湿気てしまって火花を散らせないのか。
いずれにせよ、このままじゃ身体を乾かす事もままならない。
「まだだ……まだ、終わりじゃない……。くッ……」
ヴァッサに何とか近づこうとするが、一歩歩くだけで痛みにより思わずその場に蹲ってしまう。
「これで終わりですか? 貴方ならまだ立ち上がれると思いましたが」
起き上がらない俺の姿に勝利を確信したのか、ヴァッサが地上に降りてくる。
 




