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6話‐4

「……昨日に比べて警備の警察官が増えてるな。流石に警戒するか」


「そこまでしてデモ活動したいのか? 俺にはさっぱりわからん」


 放課後、反超能力者団体によるデモの様子を二郎と共に少し離れた場所から眺める。


「……ヴァッサが超能力を使えば、あの程度の数の警官は簡単に一掃できる。なるべく早く駆けつけれるようにしないと」


「……そんなに強力なのかよ、委員長の超能力。勝機はあるのか?」


 ヴァッサが一度に操れる水の量はわからないが、昨日戦った時の余裕がある様子からして余力を残していたと考えた方が良いだろう。

 それを踏まえた結論としては、非常に厳しい戦いになるという事だ。


「何とかして見せるさ。……それにしても、何でお前がここにいるんだ? 邪魔だから早く逃げてろ」


 二郎を心配させないように返事を促しながら、逃走を促す。

 正直、二郎を守りながら戦う余裕は無いし、安全な場所にいてもらいたい。


「委員長が犯罪者だなんて自分の目で見るまでは信じたくない。それに、お前がいるんだから大丈夫だろ?」


 ……信頼されているのはありがたいが、そうじゃない。


「あのな、俺はお前が邪魔だから――」


「キャーーー!!」


 二郎に再度逃げるように促そうするが、突然響き渡る女性の悲鳴によって俺の声は掻き消される。

 悲鳴のしたデモ現場に目を向ければ、数機の機械人形がデモの参加者に襲い掛かっている。

 警官も応戦しようとしているのだが、デモの参加者が邪魔になりまともな抵抗もできないまま次々に制圧されていく。

 そしてデモ現場の中心部である半野のいる方向へ、ヴァッサが近づいているのが視界に映る。

 その姿は今までヴァッサを名乗っていた機械人形を髣髴とさせるが、一番の大きな違いである後頭部から生えた長い髪が生身の人間である事を証明していた。


「委員長自らのお出ましって訳か。……絶対に止めてやる」


 ……幸いにも周囲に人はいない。

 鞄から修繕したスーツとヘルメットを取り出し、身に付ける。


「機械人形は全部破壊されたって、委員長が言ってたんだけどな。……もう一度いっておくけど二郎、ここから早く逃げろ」


 俺は最後に忠告だけ済ませると、二郎の返事を聞くことなく広場に駆け出し、一番近くにいる機械人形へと殴り掛かる。

 倒れこんでいる男性に銃口を向けている機械人形を殴り飛ばし、地面に倒れた機械人形の動力源を踏みつけて破壊する。


「あ、あんた……」


 俺に向けて何かを言おうとする男性を無視し、次のターゲット見つけて走る。

 警官の首を掴み、締め付けている機械人形の腕を横から掴んで焼き切り、破壊する。


「大丈夫か! 無事なら逃げ遅れている人の補助を頼む!」


 咳込んでいる警官に指示を出し、腕を無くした機械人形の胸部目掛けて炎の拳を撃ちこんでいく。


「ま、待て! 君は一体――」


 ……あまり悠長に話している暇は無い。

 何かを言おうとする警官を無視し、次の機械人形を破壊するために地面を蹴って駆け出した。




「だ、誰か! 私を助けろ!」


 何機かの機械人形を破壊して警官やデモの参加者を助けながらヴァッサの元へと辿り着いた所で、半野の助けを求める声が響く。

 ヴァッサは半野に向けて掌を翳しながら何かを話しかけているが、半野はそれ所じゃないようで明らかに聞いていない。

 大の大人が情けない……とはいえ、この状況じゃ仕方ないか。


「だ、誰でもいいからこの超能力者を逮捕しろ! 報酬は幾らでも払う!」


 喚き散らす半野のお蔭で、ヴァッサは俺が近くにいる事に気付いていないようだ。

 こちらに気付いていないのなら、好都合。

 背後から組み付く為に、足音を潜めて忍び寄る。


「おい、後ろにいるお前! 何を悠長に歩いてる! 早く私を助けろ!!」


 ……マジかよ。

 半野の言葉に反応して、後ろへ振り向いたヴァッサと目が合った……と、思う。

 お互いに素顔を隠している所為で本当に目が合ったかどうかはわからないが、多分目が合ってる。

 ……バレてしまっては仕方ないとそのまま組み付こうとするが、俺が前に出した腕はヴァッサに容易く受け止められてしまう。


「貴方もようやく来ましたか。どうです? 答えは出ましたか? ……いえ、わざわざここに来た時点で、聞くまでもありませんね」


「……お前の仲間になるっていう話の答えなら、もう決まってる」


 俺がそう言うと、ヴァッサは俺の腕を受けとめていた拳を緩めて解放する。


「き、貴様等! やはり仲間だったか! 卑劣な超能力者め……」


 頓珍漢な事を喚く半野を無視して、ヴァッサは口を開く


「……さあ、貴方の答えを、その行動で示してください。その愚か者に裁きの鉄槌を下すのです!」


 ……俺は、腰を抜かしている半野の元へ一歩踏み出し……クルリと反転し、ヴァッサへと殴り掛かる


「これが俺の答えだ!」


 咄嗟の事に反応できないヴァッサを殴り飛ばした後、半野を助け起こすべく彼の元へと駆け寄る。

 ……大きな怪我は負ってないみたいだな。


「ち、近寄るな、化け物! お前達みたいなのがいるから――」


「……それくらい喚き散らせるなら、大丈夫だろ。アンタが超能力者の事をどれだけ嫌っているかなんて、マスコミにでも話してな。とりあえず邪魔になるから、早く逃げろ」


 本当なら俺が腰を抜かしている半野を運んでやるべきなのだろうけど、生憎今はそこまで余裕がない。

 酷な話だが、自分の力で逃げてもらう他ないだろう。


「恩着せがましい……ヒィッ!」


 俺の言葉を聞いてなお半野は喚き散らそうとするが、拳に宿した炎を見せつけてやると怯えたように悲鳴を発し、情けなく逃げだしていった。


「女の子を殴るなんて、酷い人です。……それにしても、あんな奴を何故助けるのですか? 助ける価値無いですよ」


 ……普通は女の子を殴るなんて言語道断だと思うけど、今更そうも言っていられない。

 俺の拳を受けてなお平気そうに起き上がり、俺に話しかけてくるヴァッサの事を見ながら口には出さずにそう思う。


「……俺は、ヒーローだ。助けを求めている人や戦えない人がいれば、彼らを助けるのがヒーローの役割だ。……それがどんな奴だとしても、助けを求める声があればそれに応えるだけだ!」


「……貴方の事を諦める気はありませんが、今は何を言っても無駄のようですね。それにしても、やはり貴方は甘い。自分に害をなすかもしれない愚か者の事を、助けるんですから」


 ……ヴァッサの言う通り、俺は甘いんだろう。

 だけど、俺は自分が信じ、選んだ道を歩くと決めたんだ!


「……どうせ同じ学校の生徒だってバレているから言うけど、俺は君の事を知っている。少なくとも、こんなことをやるような人じゃないと思ってた。……何で、人を傷つけたりする! こんなことを続けても、余計に超能力者の立場が悪くなるだけだ!」


「例え私が何もしなくても、彼らは超能力者を虐げる事をやめないでしょう。そんな愚か者達を相手に話しあおうなんて、考えるだけ無駄です。……それよりも、力で言う事を聞かせる方が余程早くて簡単で、効果があります」


 ……ワンチャン、話し合いでどうにかなれば良いと思っていたけど、そう簡単にはいかないか。


「……君の言う通り、俺は甘い人間だ。君がどんな人間か知っても、君の事を助けたいと思っているんだからな。……君のやり方じゃ超能力者に対する風当たりが強くなるだけだし、君は無意味に罪を重ねるだけだ。君にこれ以上罪を背負わせない為にも、ヴァッサ! お前を倒す!」


 話しあいでどうにもならない以上、俺にできるのは彼女にこれ以上の罪を重ねさせない為、強引にでも止める事だけ。

 声に出して高らかに自らの意志を宣言すると共に、両拳に炎を宿す。

 その瞬間、俺の中で何かが変わるのを確かに感じ取った。

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