1話-3
自分よりも体格の良い相手だったからどうなるかと思ったけど、何とかなったか。
……いや、まだ一人残っている。
先程、光弾が飛んできた方へと手を翳して炎を放つ。
「そこか」
空中で静止させた炎によってビルの壁が照らされると共に、壁に張り付いて俺の事を見ている男の姿を視認する。
奴は一体どんなトリックを使って壁に張り付いてるんだ?
……ひょっとして、そういう超能力なのかもしれないな。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺に勝てないとみて逃走を選んだのは褒めてやるが、はいそうですかと逃がすわけがない。
地を蹴り駆け出すと、慌てて壁をよじ登ろうとしている男を目掛けて跳躍する。
同時に点火ボタンを押して靴裏から火花を散らし、激しく燃え上がらせて大きく跳びあがる。
「う、嘘だろ!? お、お前は一体何なんだよ!?」
自分のいる高所まで、追い付かるれことは無いと思っていたのだろう。
靴裏からのジェット噴射で、男のいる高さまで一気に跳躍した俺に向け、驚愕の表情を浮かべた男が問いかけてくる。
それにしても、俺が何者か、か。
……そうだな。
「ヒーロー……を、目指す者だ」
男を思い切り殴りつけた後、気絶して地面に落下していく男を抱えながら着地。
……とりあえず、抵抗できないようにさっきの大男共々拘束しておこうか。
スーツのポケットから結束バンドを取りだそうとしたその瞬間、複数人の気配を感じ取る。
「警察だ! 抵抗せずに手を挙げて、その場に膝を着け!」
警察の増援か。
もう少し早く来ていれば俺も苦労せずに済んだゆだけど、まあいい。
「こいつら二人が強盗犯だ。多分どっちも超能力者だから、しっかり拘束してから連行した方がいい」
こちらに向けてピストルを構える警官にそう伝えると、俺は踵を返してその場を立ち去ろうとする。
「待て、お前も参考人として署まで来てもらうぞ」
しかし、警察は俺の事を逃がしてくれるつもりはないらしい。
……まあ、そうなるか。
どうみても怪しいもんな、今の俺。
「そのお誘いは遠慮しておく。それじゃあな!」
こういう時は、逃げるに限るな。
即座に炎の壁を生み出して警官達の視界を塞ぐと、バイクを取り出して元の大きさに戻して跨りバイクを走らせる。
……すっかり遅くなってしまった。
これ以上帰りが遅くなると、叔父さん達を心配させてしまう。
さっさとこの場から離れる為に、バイクのアクセルを全開にして走り出した。
……超能力者による犯罪は近年、増加の一途を辿っている。
そのせいで平穏に過ごしている俺のような超能力者まで対象に含めた、超能力者を排斥する運動が活発になってしまっている始末だ。
もしも超能力者だとバレた時に備えて自分の居場所位は作っておきたいし、ヒーローを目指す為の活動をやめる訳にはいかないだろう。
「おいショウ? ちゃんと話を聞いてるのか?」
午前の授業が終わり、今は昼休み。
授業中の間、これからどう活動していくか考えていたが、結局答えは出ずじまいだ。
「……あぁ、駅前のドーナツ屋の話だろ? プレーンシュガーが美味しいよな。コーヒーにもよく合う」
手元の缶コーヒーを持ち上げながら、二郎に返事をしてやる。
どうせ大した事は言ってないし、適当に対応しておけばいい。
「そんな話してねえ! お前は、どのヒーローが好きなのかっていう話だよ! 自らの肉体を使って戦うヒーローか? テクノロジーの力を駆使して戦うヒーローか? それとも、超能力を正義のために使うヒーローか?」
……今から二十年ほど前に突如として出現し始めた超能力者。
彼らの一部は自らが得た力を悪用し、自分の欲望のままに行動を始めるようになった。
力を持った人間の、悲しい性とでも言うべきなのだろうか?
……おまけに治安の悪化に伴い、超能力者では無い者達まで悪事を働き始めたのだから、本当にどうしようもない。
「どのヒーローが好きかって言われてもな。……ヒーローオタクのお前と違って、俺はヒーローに興味ないし……」
「何を言うんだ? 俺は只のオタクじゃないぞ! 将来ヒーローたちの活躍を皆に伝える、正義のジャーナリストになるのが俺の夢だ! よし、ヒーローの魅力を伝える練習がてら、何人かおすすめのヒーローをお前に紹介してやるよ」
……オタクなのは認めるのか。
聞いてもいないのにベラベラと話し続ける二郎を他所に、俺は思索に耽る。
……世の中にいるのは、昨日俺が戦ったような見下げ果てた奴ばかりではない。
自らの得た能力や装備を生かして人助けを始める者も現れた。
彼等はそれぞれ企業がスポンサーに付いて装備面、金銭面でのバックアップを受けている者もいれば、個人で活動するような者もいる。
目的も人それぞれで金や名声が欲しいといった者がいれば、正義感から何の見返りも無く活動する者もいる。
……探せば俺みたいに自己保身の為に戦う奴だっているだろう。
そんな彼等の事を人はやがて、ヒーローと呼ぶようになったのだ。
「ストームガールなんかは最近人気が高いな。強いし、何より真っ当に正義の味方として戦っているのはポイントが高い。それに、何より可愛い。後はジャスティスマスク。彼は外せない。最初にヒーローとして活動を始めて今でも一線級の――」
「興味無いって言ってるだろ」
二郎の話を遮りつつ、缶コーヒーを啜る。
悪い奴では無いのだが、コイツのこういう所が玉に瑕なんだよな。
「……仕方ない。最後にするから最近の俺の一押しだけでも紹介させてくれよ」
そう言って新聞の切り抜きを張り付けたスクラップブックを開き、俺に見せつけてくる。
「! ゲホッ、ゴホッ」
……開かれたページの中身を見て、思わず咽こんでしまう。
「お、おい、どうしたんだよ? 大丈夫か」
流れるような速さで汚れないようにスクラップブックを手元に引き寄せた二郎が、一応は俺の心配をしてくる。
「だ、大丈夫。ちょっと、むせただけだ」
ある意味お前の所為なんだけどな、という言葉を飲み込みながらハンカチで汚れた机の上を拭きつつ返事をする。
「そう言うなら大丈夫か。それで、彼についてどう思う?」
二郎はもう一度スクラップブックを俺に差し出してくる。
「最近この辺りに現れた謎のヒーロー。夜な夜なバイクに乗り、街を駆け抜け、犯罪者を倒して事件を解決し、去っていくんだ」
そこに写っていたのは、ヒーローになろうと活動している時の俺の姿だった。
「昨晩も、強盗事件を起こした超能力者達を倒したんだぜ。本人は名乗ってないけど、誰かが呼び始めたその名は――」
「火走君、大丈夫ですか?」
二郎の話に割り込むように、一人の女子生徒が俺に話しかけてくる。
「……い、委員長? 大丈夫って、一体何が?」
腰ほどまでの長さの艶やかな黒い髪に、町で見かければ誰もが思わず振り向いてしまうであろう端正な顔立ち。
我がクラスの委員長、水城 雨が心配そうに俺の事を見つめていた。