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6話‐3

 翌朝。

 肉体的な疲労も勿論あるが、それ以上に精神的にかなり負荷がかかっていたのだろう。

 朝から非常に身体がだるかったが、学校を休む訳にもいかない。

 教室に辿り着いてヴァッサ……委員長の姿を探すが、彼女の姿は見当たらない。

 そのままホームルームが始まっても姿を見せず、担任の教師から委員長が病欠したという事が告げられる……が、実際の所は何かを企んでいるのだろう。

 ……昨日の今日でまともに対応できる自信がないから、彼女が学校に来ていないのは少しだけありがたい。


「ショウ、昨日はあれから何かあったのか? 連絡が無かったってことは、何も無かったんだろうけどな」


 他人と絡む気力も無く、昼休みに人通りの少ない場所で休んでいると二郎が俺を見つけて声をかけてきた。

 ……そういえば、昨日は連絡して無かったな。

 色々ありすぎて、すっかり忘れていた。


「ああ、例の反超能力者団体を襲撃しているヴァッサと遭遇して、一戦交えたくらいだな」


「……それってかなりヤバくないか!? というか、そんなにあっさりと話す事じゃないだろ!」


「煩いぞ、誰かに聞かれたらどうする」


 大声で騒ぐ二郎に苦言を呈す。

 二郎は慌てて周囲に人がいない事を確認してから、声のトーンを落として再び喋り始める。


「大丈夫だったのか? ……いや、お前がここにいる時点で聞くまでもないか」


「おう、負けたよ。困った事に、勝てるヴィジョンが見えねえ」


「そこまで言うのか……どうしたんだよ?」


 ……二郎に話した所でどうにかなる訳でもないだろうが、一応俺の相方だ。

 それに、誰かに喋れば多少は気が楽になるかもしれない。


「……能力的にはどうにかなる……筈だ。相性は悪いけど、火力を出せば押し切れる」


「それならなんで勝てないんだ? 他に何か理由があるのかよ?」


「……俺の内面を見透かされている気がするんだ。俺は奴と同じく、他人の事を下に見てるんだとよ。……正直、否定できなかった。助けた筈の反超能力者団体は俺の事を拒絶してくるし、敵の筈のヴァッサは自分と同類だって言って仲間に勧誘してくるんだぜ? ヒーローの真似事を続ける意味があるのか、わからなくなってきたんだよ」


 俺の話を聞いた二郎は、暫く何かを考える素振りを見せる……事もなく、即座に口を開く。


「ああ、メンタル的に弱ってるみたいだな……。悩んでいる奴にかける言葉じゃないと思うが、あえて言わせてもらおう。そんな事で悩んでる暇があるなら、もっと自分に正直になれよ。自分に嘘をついてまで、ヒーローやってるんじゃねえよ」


 あっさりと言い切った二郎に虚をつかれてしまい、暫し呆然とするがすぐさま我に返る。


「自分に嘘をついているって、どういう事だよ」


「……お前がヒーローになった理由だ」


 俺がヒーローになった理由?

 そんな事で嘘をついて、何の得があるんだ。


「……マジか。自覚が無いのかよ、コイツ。なんやかんやでお人好しのお前が、自分の居場所を作るなんて理由でヒーローになる訳ないだろ。もっと真っ当な理由だろ」


「……その言い草だと、お前は俺がヒーローになった本当の理由ってやつがわかってるみたいだな」


 正直、二郎の言っている事が本当なのか自分にもわからない。

 それでも、俺の中で何かが変わるかもしれない。

 そう考えてしまうと、聞かずにはいられなかった。


「自分が戦える力をもっていて、普通の人よりは強いという自覚があるから。その力で戦えない人を守りたいからヒーローをやってるんだろ。……まあ、俺の所見だから、間違ってるかもしれないけどな」


 ……ダメ元で聞いてみたが、正直驚いている。

 人を守る為に戦うか。

 結構、しっくりくるじゃあないか。


「……ありがとな、二郎。お蔭で気が楽になったよ」


「そうか、助けになったなら良かった。しかし、素直に礼を言われると何だか気持ち悪くなってくるな。……この際ついでに行っておこうか。お前は自分がヒーローの真似事をしているって言ってたけどな、少なくとも俺からしたらお前は立派なヒーローだぜ。俺だけじゃない、お前に助けられた委員長や鳥野さんだって、そう思っている筈だ」


 ……素直に礼を言ったら気持ち悪いとは、失礼な奴だ。

 それにしても、委員長が俺の事をヒーローだと思っている?

 ヒーローだと思われたうえで仲間に勧誘されているのは、昨日話した時点で分かっている。

 疑問なのはヴァッサの正体である委員長の事が、今の話の流れで何故出てきたのか……ああ、そう言う事か。


「そういえば言うのを忘れてたけど、ヴァッサの正体は委員長だったよ。いやあ、正体知った時は面食らったよ」


「……は? はぁぁぁぁぁぁ!?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、今日一番の叫び声が響く。

 ……近くに人がいないのは、幸運だったな。


「……いや、そんな事ある訳ないだろ!? だってよ、委員長だぜ?」


「俺も信じられなかったけど、実際に目の当たりにしてしまったんだよ。お前にヒーローの事を聞いていたのも、俺の情報が知りたいからだって言ってたぞ。お前から聞いた情報がわかりやすいって褒めてたぞ。良かったな」


 俺の話を聞いた二郎は、すこぶる微妙な表情を浮かべる。


「褒められても嬉しくねえ……。というか、結局お前目当てで近づかれてたのかよ」


「俺を仲間に勧誘する為だから、間違ってはないんだけどな……」


 純粋な好意だったら俺も嬉しかったのだが、自分の目的の為に仲間に引き入れたいだけなのだから俺も二郎もついていない。


「それにしても、まさか委員長が……。一体、何が理由なんだよ」


 ……優秀な自分達が支配者になるなどと言っていたが、そんな世迷い事を態々聞かせる必要もないだろう。


「……さあな。今わかってるのは、委員長を止める必要があるって事だ」


「何か当てはあるのか? 委員長が次に何かやりそうな場所に張り込む? それとも、委員長の家にでも突撃するか?」


 後者は却下だ。

 委員長がヴァッサだという客観的な証拠が無い以上、突撃した俺達が警察のお世話になる。

 少し考え、スマホを弄る。


「当ては、なくはない。これを見ろよ」


「……連日で襲撃されておいて、まだ活動するのかよ」


 二郎に見せたスマホの画面には、半野率いる反超能力者団体が今日行う予定のデモ活動の詳細が表示されていた。

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