5話‐5
……結局、俺のちっぽけな願いが叶う事は無かった。
「ま、また我々の活動を妨害しようというのか! これだから野蛮な超能力者共は!」
街中で例の反超能力者団体の集会を見かけ、嫌な予感がしてその場に止まり暫く様子を監視していたら、一機の機械人形が現れて彼等を襲い始めたのだ。
現れた機械人形には傷がつけられており、先日俺が機械人形に傷をつけた場所と一致している事からして先日取り逃したものと同一機とみて間違いないだろう。
「……あいつらは気にくわないけど、俺のやる事は決まってる」
バイクをポケットに納め、人混みの中で暴れる機械人形目掛けて走り出す。
逃げ惑う人々の間を掻い潜り機械人形へと近づきその懐へ潜り込むと、その勢いのまま殴り飛ばす。
機械人形は地面に倒れるが、コアを破壊されていない以上はすぐにでも起き上がってくるだろう。
「あ、危ないじゃないか! ソイツが倒れた方向に人がいたら、どうするつもりだったんだ!」
……人がいない方向に向けて殴り飛ばしたんだけどな。
声のした方に視線を向けると、昼間、二郎から見せて貰った記事に載っていた男……半野が、腰を抜かしながらも声を荒げて何事かを喚いているのが目に入る。
「誰かと思ったら、最近この地域で活動している超能力者か! どうせこの機械人形とグルなんだろ!」
「おいおい、一応助けにきてやったっていうのに、随分な態度--」
「う、うるさい! 超能力者なんて、どいつもこいつも社会に不要な存在だ!」
……こっちが何を言っても聞かないタイプの人間だな。
あれだけ元気に喋る事が出来れば放っておいてもとりあえずは問題ないだろうと判断し、機械人形へと視線を戻す。
機械人形は既に起き上がっており、腕を変形させ銃口を俺……ではなく、未だにその場で喚き散らす半野へと向ける。
「危ない!」
腰を抜かしている半野を庇うように彼の前に立ち、迫る光弾に炎を放って相殺する。
「おい、大丈夫――」
「ち、近寄るな! この化け物が!」
……助けられておいて、この口振り。
どうやら、俺が思っている以上に超能力者への恨みは根深いらしい。
「……早く逃げな。邪魔だからさ」
「邪魔とはなんだ! お前達みたいなのがいるから――」
「半野さん! 早く逃げましょう!」
こちらに罵声を浴びせ続ける半野だったが、逃げ遅れていた彼の仲間に担がれてこの場から離れていく。
……ヒーロー目指してる以上、あんな奴も助けないといけないのが少しだけやるせない気分になる。
「……さて、これで全力を出せるか」
とにかく半野がいなくなった事で、この場に残っているのは俺と機械人形だけ。
機械人形は以前戦った時と違い、逃げる素振りを見せることなく俺に向かって突進を仕掛けてくる。
「少しだけ苛ついてるんだ。さっさと決めさせてもらう!」
機械人形の突進に合わせ、炎拳を叩きこむ。
吸い込まれるように胸部へ向かう拳は、装甲を焼き、穿ち、機械人形の動力源を破壊してその機能を停止させる。
胸部を貫く拳を引き抜くと共に、倒れる機械人形。
その胸部を踏みつけて完膚なきまでに破壊し、先程の宣言通り速攻でケリをつけさせてもらう。
「……ヴァッサの言う事が正しければ、これで奴の機械人形は全て破壊した事になるんだよな」
『ええ、流石は私の見込んだ超能力者です』
背後から、つい先日聞いたばかりの機械音声が響く。
即座に振り向くとそこには、予想していた通りヴァッサの姿があった。
相も変わらず仮面を付けており、どのような表情を浮かべているかはさっぱりわからない。
「そっちからお出ましとはね。探す暇が省けて助かるぜ」
即座に臨戦態勢へ移り、攻撃を仕掛けるタイミングを伺いながら話しかける。
『貴方とは直接交渉するべきだと思っています。わざわざ出向いたのは、私なりの誠意と考えてもらって構いません』
「……誠意を見せてもらって悪いが、俺の答えはこうだ!」
炎を宿した拳を大きく振りかぶりつつ、ヴァッサに向けて走り出す。
出し惜しみはしない。
さっきの機械人形同様、全力で叩きのめさせてもらう!
『いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて、随分と野蛮ですね。少し見損ないましたよ』
ヴァッサは俺に掌を向け、何かを放って迎撃してくる。
「チッ!」
思わず舌打ちをしながら全力で駆け抜けていた足を止め、炎の壁を噴き上がらせる。
……炎の壁に穴が空き、その穴から見えるヴァッサの姿は十メートルほど後方へ一瞬で移動していた。
『……ここでは落ち着いて話も出来ないですね。場所を変える必要がありますか……』
「させるか! 今日、此処でお前を倒す!」
再びヴァッサの元へ駆け出す為に、炎の壁を掻き消してジェット噴射の用意をする。
『私の言う事を聞く気はないみたいですね。……でしたら、人質なんてどうでしょう』
その言葉と共に、どこからともなく人影がヴァッサの前に現れる。
「人質だと……!?」
目の前に現れた人影に驚き、一瞬動きが止まってしまう。
どんなトリックを使っているのかは知らないが、人が宙に浮いた状態で目の前に現れたんだ、どんな奴だって驚くだろう。
……しかし、俺が驚いたのにはもっと別の理由があった。
「ご、ごめんなさい、ヒーローさん……」
俺に向けて人質に取られてしまったことを怯えるように謝罪しているのは、委員長だった。
「な、何でこんな所に……彼女を離せ!」
『…随分と動揺しているみたいですが、当然ですか。貴方の学友が人質なんですから、驚くに決まっていますよね。……近くで見かけたこの娘には悪いですが、人質になってもらう事にしました』
こいつ!?
なんで俺と委員長が同じ学校に通っていると知っている!?
「お、お前!? 何でそれを!?」
『これ以上私とお喋りしたいというのなら……いえ、彼女を解放してほしければ、私に追いついてみてください』
ヴァッサと委員長が空へ浮かび上がると、そのまま市街地の外に向けて飛んでいく。
……飛行能力まで持ってるのか。
こいつは本当に厄介な相手だ。
「……十中八九罠だろうけど、逃すわけにはいかないよな」
ただでさえ逃がすつもりはなかったが、委員長を助けなければならない以上、ここで無視するという選択肢は俺の中には無い。
すぐさまヴァッサを追いかけるべく、バイクを取り出し跨った。
 




