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5話‐3

「成程な、それが昨日の出来事って訳か。……よく無事だったな」


「怪我が無かったのは不幸中の幸いだよ。……スーツが傷付いたのは痛いけど、あれくらいなら修復できる」


 翌日、昼休み中の騒がしい教室内で二郎と昨日の事について話し合う。

 周囲に人がいる状態でこんな話をして大丈夫なのかと思うかもしれないが、堂々としていれば案外気付かれないものである。


「そういえば、お前が助けたの奴等って反超能力者団体だろ? 自分に害を及ぼすような連中をよく助けられるな」


 ……ああ、そういえばそうだったな。


「機械人形の襲撃がいきなり発生したからな。正直、そんな事を考えてる暇も無かったよ。まあ、超能力者に助けられたんだし、彼等も少しは考え方を変えるかもな」


「……残念だけど、向こうはそう思っていないらしいぜ」


 そう言うと二郎は何処からか新聞を取り出し、俺に手渡してくる。

 紙面に目を通すと、昨日の事件についての記事と、スーツ姿の男性の写真が掲載されている。

 男性の名は、半野(はんの) 長六(ちょうろく)……この記事がどうしたというのだろうか?


「こいつはお前が昨日助けた団体のリーダーだよ。インタビュー記事も載ってから、目を通して見ろよ」


「何々? ……『機械人形による襲撃は、私達の活動の妨害を目論む超能力者による陰謀である』……証拠も無いのに、どうしてそう言い切れるかなあ」


 機械人形が反超能力者団体を襲撃したのは事実だが、その目的も誰がけしかけたのかもまだ判明してはいない。

 まあ、ヴァッサが裏で糸を引いている事を知ったのは俺だけだから仕方ないと言われればそれまでなんだが。


「その後はもっと酷いぜ。……新聞を丸めて投げ捨てたくなった位にはな」


 記事の続きに目を通すと、襲撃してきた機械人形達を撃退した超能力者……つまりは、俺についての事が書かれていた。


「……『襲撃現場に姿を表した炎を操る超能力者。彼こそが機械人形を我々に差し向けた者達の一人だと考えています。自作自演で私達を助ける事で、超能力者に対する世間からの評価を上げようとでも考えているのでしょう』……これは酷いな。それで? お前は何を考えて――」


「全くです。本当に酷い人達だと思います」


 背後から聞こえた声に思わず驚きつつ振り返ると、委員長が俺の見ている新聞記事をのぞき込んでいた。

 ……いつものような笑顔を浮かべてはいるが、どこか怒りを滲ませているような雰囲気を感じ取れる。


「い、委員長? いつからそこに?」


「火走君達が新聞を取り出した辺りからですね。何を読んでいるのか気になってしまって、つい覗き見してしまいました」


 どうやら、最初の方の話は聞かれてないみたいだ。

 それにしても、ここ最近はよく委員長と話すな。

 ……別に少し嬉しいとか、そんなやましい気持ちは一切ない。


「俺の方からはわかってたか、ショウがいつ気付くか楽しませてもらったぜ。それにしても、委員長でも他人を悪く言う事があるんだ」


「一条君、私は聖人じゃありません。私にも、怒る時位ありますよ。……このインタビューを受けている半野さんという方、助けてもらったのにとても酷い事を言っているので……つい、感情的になってしまいました」


 二郎や委員長の言う通り、この半野という男が酷い奴なのは間違いないとは俺も思う。

 ……だけど。


「こいつの考え方は間違っているとは思うけど、少しは理解できる。多分、怖いんだろう」


「……怖い、ですか?」


「自分の持ってない力を持つ人が怖いんだよ。それに、超能力者が出現するようになってから治安が悪化したのも確かだし、仕方ない面もあると思う。……だからといって、こいつみたいに超能力者全員を敵視するのはどうかと思うけどな」


 人間なんてそんなもの……そう思ってないと、正義の味方の真似事なんてやっていられない。

 俺の言葉を聞いた委員長は一瞬呆気にとられたような顔したが、すぐにいつもの笑顔を浮かべる。


「火走君って、優しいんですね」


「……お、俺が優しい? 一体何を言ってるんだよ」


 あまりに突拍子も無い事を言われ、思わず聞き返してしまう。


「自分と違う考えを持っている人の事を理解するのって、中々できる事じゃないと思います。それに、見ず知らずの子供を助けに飛び出したり、私を助ける為に自分より多い人数の男性相手に声をかけるなんて、優しくないとできませんよ」


 ……自分の取った行動が、まさかここまで良いように捉えられていたとは。

 反超能力者団体のリーダーより、委員長の事が理解できない。

 しかし、ここまでストレートに褒められるのは何だか照れ臭い。


「……いや、俺は別に優しくなんて――」


「おーい、水城さん。少し手伝ってほしい事があるんけど、大丈夫かい?」


 照れ隠しに俺が優しいという事を否定しようとした時、教室の外から他のクラスの女子が委員長に声をかける。


「はい、大丈夫ですよ。それじゃあ、用事ができたので失礼させてもらいますね」


 そう言って教室の外へと歩いていく委員長の後ろ姿を、二郎と共に見送る。


「それらしい事を言って好感度稼ぎとは、やるじゃないか」


「……俺は思ったままの事を言っただけだ。それよりも何で、この記事を俺に見せたんだよ?」


 馬鹿な事を言う二郎に、先程聞きそびれていた事を問いかける。


「只のお節介だよ。こんな奴等を無理して助ける必要があるのか聞こうと思ってたんだけど、さっきの様子だと余計な事をしたみたいだな」


「……本当に余計なお世話だよ」

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