5話‐2
「……残り一機」
崩れ落ちる二機の胸部を念入りに踏み砕いて破壊しつつ、先程躱した機械人形を睨む。
その瞬間、機械人形は俺に背を向けて走り出した。
……状況的に不利と判断して、逃走を選択したのか?
「待て!」
見逃した後で何をやらかすのかわからない以上、逃がすわけにはいかない。
……待てと言って待ってくれるはずも無く、機械人形は俺に目もくれず逃走を図る。
機械人形を追いかけるべく、地を蹴り駆け出す。
「待てって、言ってるだろ!」
金属の塊の癖に、予想以上に機敏な動きをする機械人形に苛立ち、このままでは埒があかないと判断して、機械人形へと炎を放つ。
俺に背を向けて逃走する機械人形は、なすすべなく炎に包まれ破壊される……筈だった。
機械人形を焼き尽くすはずの炎は、機械人形に届く直前で掻き消えてしまう。
まさかと思い空を見上げると、ヴァッサが俺の事を見下ろしていた。
「……またか! また俺の邪魔をするのか!?」
『それはこちらのセリフです。何故、何度も私達の邪魔をするのでしょうね? 貴方は』
俺と機械人形の間に割って入る様に、ヴァッサが上空から降り立つ。
「この機械人形は、やっぱりお前達が所有していた物なのか。……こんな高価な物、どうやって大量に所持しているのか気になるな」
『貴方が私達の同志になるというのなら、教えてあげても良いですよ。それと、大量に所持していたといった方が正しいですね。どこかのヒーローさんが殆ど破壊してしまいましたから。残ったのはこの一機だけです』
……何度断っても、俺を仲間に勧誘してくるな。
そうまでして俺を仲間にしたい理由があるのか?
……確かに俺の超能力は強力だ。
単純な火力勝負なら、余程の事がない限りは負けない自信がある。
とはいえだ、態々自分達に敵対している奴を勧誘するより、そこらのチンピラを捕まえて、スピネやフレーダーのように戦闘服を与えて頭数を揃えた方が良いと思う。
「俺を仲間にしたいんなら、もっと良い土産を持って来いよ。例えば、お前の仮面の下がどんな顔なのかとかさ!」
とりあえず勧誘を断り、ヴァッサの元へ走り出す。
奴の能力は未だにわからないが、先手を打って倒してしまえば関係ない。
『申し訳ありませんが、その要求は受けかねますね』
「なら、力尽くで剥ぎ取る!」
点火装置を起動し、火花を散らす。
靴裏からのジェット噴射で加速するが、ヴァッサが俺に掌を向ける。
「チィッ!」
作戦変更。
ヴァッサに向け、火炎放射をお見舞いする。
……しかしというべきか、当然と言うべきか、ヴァッサが炎に包まれることは無かった。
放たれた炎は二つに切り裂かれ、霧散してしまう。
「うお!? あ、危ないな!」
炎を切り裂いた何かは、そのままの勢いで俺のスーツの一部を切り裂く。
……咄嗟に回避した事でスーツが傷つくだけで済んだが、まともに喰らったら体に穴が空いていたかもしれない。
『避けましたか……。その実力、やはり捨て置くには惜しいですね』
「まだ勧誘してくるのかよ。人のスーツを台無しにしといて、今更仲間になると思ってんのか?」
『今日のところは無理みたいですね。ですが、貴方はきっと私達の同志になるはずです。……貴方と私は似ていますから』
俺とヴァッサが似ているだって? 一体どこを見てそんな事を――お互い見た目が不審者であるという意味では似てるかもしれない。
いや、そんな事よりももっと聞き捨てならない発言があったぞ。
「おい! 私達ってことは、お前以外にもまだ仲間がいるのか! それに、俺とお前が似ているって……一体、どういう事だ!」
『残念ですが、そろそろ潮時。機械人形も逃げおおせた事ですし、今日はこの辺りにしておいてあげますよ。……また、会いましょう』
「待て! 勝手に話を終わらせようと――」
逃走を図るヴァッサを追いかけようとするが、ヴァッサが再び俺に手を翳すと同時に何かが射出される。
射出されたモノは、透明で視認しにくいものの、辺りの景色を歪ませているお蔭で大体の位置はわかる。
ヴァッサの攻撃を避け、駆け出す……瞬間、背後から衝撃を受け吹き飛ばされ、その場に転倒してしまう。
「このッ……」
背中をさすりながら起き上がり周囲を見渡すが、既にヴァッサの姿は見えなくなっている。
そして、遠くからサイレンの音が響いてきた。
「逃がしたか。……けど、収穫はあったな」
現場から逃走する為にバイクに跨りつつ、スーツに付けられた傷跡と、背中をさすった手を眺める。
……僅かだが、水滴が付着していた。




